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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第8話 エルフの村の集まり

# 第8話 エルフの村の集まり


## 集まりの知らせ


 朝食を食べていると、アリアがやってきた。


「セラ! 今日ね、村の集まりがあるよ!」


 明るい声だった。


 セラはスプーンを止めた。


「集まり?」


「そう! エルフの村では毎月一回、全員集まる集会をするの。今日がその日だよ」


(全員。つまり俺も行くのか。俺みたいな転生者が、エルフたちに混じって。緊張するな)


「俺も行かなきゃいけないの?」


「もちろん! 村の一員だから、全員参加が基本だよ」


「……そうか」


 朝食の残りを口に入れる。なんか急に食欲が落ちた気がする。


「集まりって、どんな内容なの?」


「村の報告事項を共有したり、困りごとを話し合ったり。あとはみんなで食事する時間があって、子どもたちが遊んだりもする。前回は——」


「ちょっと待って」


 セラは手を上げた。


「俺、何か発言しなきゃいけないの?」


「ん〜……特に何もなければしなくてもいいよ」


「本当に?」


「本当に! ただ参加するだけでいいの。でも挨拶くらいはした方がいいかな。セラ、最近ずっと家か練習場所にしかいなかったから、みんな気にしてると思う」


(気にしてる……それは良い方向に気にしてるのか、「あいつ最近変じゃないか」という方向なのか)


「俺、転生してから様子が変だって気づかれてないよな?」


「え、変かな?」


「変だと思うよ。記憶と言動が不一致な部分、色々あるだろ」


「まあ……少し変かなって思ってる人もいるかも。でも、セラって昔から少し変わってたから」


「昔から?」


「うん。良い意味でね。変わってるって言ったら失礼だけど、独特な考え方する子、って感じ。だから多少変なこと言っても、みんな「またセラか」って感じで流してくれると思う」


(昔から変な奴として認識されてた。逆に助かる。転生者の不自然さが「元からの個性」として処理されるなら、バレにくい)


 アリアがにっこりした。


「大丈夫! みんな優しいよ。セラは村の人たち、あんまり話したことないでしょ? いい機会だよ」


(話したことがない、というかこの体で目覚めてまだ数日だ。セラ・ウィスパーウィンドとしての記憶はある。でもカズヤとしては、この村の人たちと挨拶をしたことがほぼない。どう接すればいいのか)


「……緊張するな」


「えっ! セラが緊張するの? 珍しい!」


「珍しくないよ。たまには緊張する」


「じゃあ私が隣にいるから!」


 アリアが元気よく宣言した。


(ありがたいのか過保護なのかよく分からないが、まあ心強いのは確かだ)


「わかった。準備する」


「うん! 正装で行こうね。集まりは少し改まった服装が普通だから」


## 集会所へ


 正装に着替えた。


 エルフの正装は、セラの記憶の中にちゃんとあった。白い上着に、銀の刺繍が入ったもの。普段着より少し丁寧な生地で、着心地がいい。


 鏡を見た。


 金髪のエルフが映っている。転生してから何度か見ているが、慣れない。毎回「これ俺か?」と思う。


「セラ! 準備できた?」


 アリアが玄関から顔を出した。彼女も正装に着替えていた。金色の刺繍が入ったドレス。普段の白いワンピースより少し華やかだ。


「すごい綺麗だな」


「え?」


 アリアが少し顔を赤らめた。


「……正装のこと?」


「そう。よく似合ってる」


「えへへ。セラも、正装は綺麗だよ。いつもより大人っぽい」


(大人っぽい。この体は十五歳のエルフだが、精神年齢は二十九歳だ。大人っぽく見えるのは当然な気もする。いや、そういう話じゃないな)


「行こう」


 集会所に向かう道は、普段より人が多かった。


 エルフの村の通り道。石畳の細い道が、木々の間を縫うように伸びている。その道を、色とりどりの服を着たエルフたちが歩いていく。全員が、どこか改まった表情をしている。


「みんな、きれいだな」


 セラはつぶやいた。


 エルフとはそういうものだ、と頭では分かっていたが、村人全員が揃うとさすがに圧倒される。銀髪や金髪や茶色の髪が、朝の光に輝いている。耳が長い。目が大きい。まさにそのままのエルフが、全員歩いている。


(すごい。しかも俺もその一員なんだよな)


「セラ、あそこにリーネとカルシュウスがいるよ」


 アリアが指差した。


「えっと……知り合い?」


「幼馴染グループの子たち。昔よく一緒に遊んでたよ。セラも覚えてるでしょ」


(セラの記憶としては…………あった。幼い頃に一緒に走り回っていた記憶。でも顔が一致するかどうか)


「……覚えてる」


「声かけてみよ!」


 アリアが手を振った。


「リーネー! カルシュウス!」


 振り返った二人——金髪の少女と、黒髪の少年。少女の方が笑顔で手を振り返した。


「アリア! セラも来てるんだ!」


「おはよう」


 セラが会釈すると、二人とも嬉しそうな顔をした。


(思ったより普通の反応だ。もっと緊張したやりとりになると思ったのに、肩の力が抜ける。エルフ社会の人間関係は、何というか距離感が近い。温かい)


「セラ、最近どう? 魔法の練習してるって聞いたけど」


 リーネが話しかけてきた。


「してる。昨日は失敗したけど」


「失敗って?」


「色々と……盛大に」


(暴走して森を破壊しかけた、とは言えない。仕事でミスった、くらいのぼかし方でいいだろう)


「セラって面白い言い方するよね、たまに」


 カルシュウスが笑った。


「面白い、か」


(それが「個性」として受け取られるなら悪くない)


 道を歩きながら、自然に四人での会話になった。リーネはよく話す子で、カルシュウスは聞き役タイプ。アリアは時々フォローを入れる。セラは……なんとか相槌を打っていた。


 集会所が見えてきた。


## 集まりの中で


 集会所は、村の中央にある大きな建物だった。


 木造りだが、村の家屋より遥かに大きい。天井が高くて、大きな窓から光が差し込んでいる。中央に円形の広場があって、周りに椅子が並んでいる。すでに多くのエルフたちが集まっていた。


「あ、セラ!」


 声がして振り返ると、見知らぬ中年のエルフの女性が笑顔で近づいてきた。


「久しぶり! 元気だった?」


(……セラの記憶には……ある。これは……ミアカさん? 隣に住んでるエルフのおばさん……いや、失礼。おねえさん、だな。エルフは実年齢と見た目が一致しない)


「あ、ミアカさん。お久しぶりです」


「あら、ずいぶん丁寧な言い方ね。まあいいけど。今日は魔法の練習でもしてたの?」


「いえ、ちょっとアリアに教えてもらってました」


「そう! アリアはお上手だもんね。セラも、最近ちょっと様子が変わった気がしない?」


 ミアカが言った。


「変わった、って?」


「なんかこう……目が、前と違う。昔は何か遠いところを見てるみたいな目だったけど、最近は地に足ついた感じがする」


(……ああ。転生前のセラは、たぶん魂が戻ってきていない感じがあったんだろう。俺が入ってきてから、ちゃんとした目になったってことか)


「そうかもしれないですね」


「うん! 良い変化だと思うよ。アリアも嬉しそうだしね」


 横を見ると、アリアが少し赤い顔をして「もう!」と言っていた。


(二人とも、いいコンビだ)


 他にも何人かが声をかけてきた。


 長く話した老エルフ、セラのことを「子供の頃から変な目をしてた」と言った人、アリアの料理の話をしてきた人。


 ——でも全員が、そうじゃなかった。


 一人だけ、視線が違うエルフがいた。


 集会所の入口近く、壁に寄り掛かるようにして立っている、四十代くらいの男エルフ。名前は分からない。セラの記憶を探ったが、特に関係がなかった。


 そのエルフが——明らかにセラを見ていた。


 話しかけてはいない。笑顔でも、敵意でもない。ただ、見ていた。何かを量るような目で。


(……俺の暴走のことが、この人の耳にも入ってるのかもしれない。昨日の魔力の乱れ。森の方向から来た大きな揺れ。村人全員が気づいてるわけじゃないが、敏感な人には分かっている可能性がある)


 そのエルフと目が合った。


 セラはとっさに視線を逸らした。


(気まずい。「転生者は魔力が暴走する」なんて知られたら。……でも知られても、どう説明する?「前の体の主が弱くて、俺が強すぎてオーバーフローした」なんて話、信じてもらえるはずがない)


 アリアがそっと隣に来た。


「どうしたの?」


「……なんでもない。少し疲れた」


「無理しなくていいよ。人がいっぱいだと、セラは疲れるタイプだから」


(そうじゃないんだが。でも今は、その解釈でいい)


(みんな人間関係が素直だ。こんなに自然に話しかけてもらえるとは思わなかった。でも——全員が歓迎してるわけじゃない。一人くらいは、こちらを警戒してる。それが普通だ)


 集会所の中央で、何人かが集まって料理の話をしていた。アリアが目を輝かせて、その輪に入っていく。


「セラの家の近くで、新しいキノコが採れたんだよ! 昨日の夕食に使ったの」


「えっ、どこで採れたの?」


「大きな岩の裏側。あそこ、いつもはあんまりキノコが生えないのに、急に生えてた」


(急にキノコが生えた。森の変化……? 魔物の痕跡と、何か関係があるかもしれない。生態系が変わると、植物の生え方も変わることがある。魔力が漂うようになった土壌に、魔力を吸って育つキノコが生える。森が変化している証拠だ)


「美味しかった?」


「おいしかったよ! 少し魔力が混じってる感じがして、変わった味だったけど」


「魔力が混じったキノコ……」


 アリアがセラにそっと耳打ちした。


「あそこ、昨日の調査で魔物の痕跡があった場所の近く」


「……関係あるかもしれないな」


「うん。長老に話す時、キノコのことも一緒に言おう」


「セラ」


 アリアがそっと袖を引いた。


「ん?」


「長老が来た」


## 長老の目


 集会の本番が始まった。


 全員が円形の広場を囲んで座る。中央に、村の代表者らしき中年のエルフが立った。


「今月の報告を始めます」


 全員が、真剣な顔で聞いている。子供もいるのに、静かだ。この場の重みを全員が共有している。


 報告の内容は、村の農作業の進捗、近くの川の水位、隣の村との交易の話などだった。


 そして——


「森の東側で、魔物の痕跡が確認されました」


 会場の空気が、わずかに変わった。ざわ、という声が広がる。


「ゴブリンリザードの爪痕が三か所。大型の個体のものと思われます」


(昨日確認した爪痕と同じか。あるいは別の場所にも?)


 セラはアリアに小声で聞いた。


「昨日俺たちが見た場所と、同じかな?」


「たぶん違う。私たちが行ったのは北東側。報告は東側だから」


「複数か所で確認されてる、ってことか」


「うん……」


 報告が続く。


「これまでは単発的な侵入でしたが、今月は頻度が上がっています。長老に対処法をご相談したいと思います」


 長老が立ち上がった。


「うむ。結界の状態を確認しておる。少し弱まっている部分があることは把握しておる。近日中に補強を行う予定じゃ」


 その一言で、セラの背筋が伸びた。


 集会所の奥から、一人のエルフが歩いてきた。年老いた——というよりも、長い時間を積み重ねた、という表現が合う。銀白色の髪。深い緑の瞳。体は細いが、その歩き方には重みがある。


(会長か相談役みたいな人だな。実権はなくとも、誰もが一目置く存在。そういう空気だ)


 長老がゆっくりと歩いてくる。他のエルフたちが自然と道を開ける。


 そして——長老の視線が、セラに向いた。


 ぞく、とした。


(見られてる。それだけじゃない。見抜かれてる。俺の何かを、見抜いてる。体の表面じゃなくて、もっと内側。魂の部分を覗かれてる感覚。心拍数が上がってくる)


「セラ」


 長老が近づいてきた。


「は、はい」


「久しぶりじゃね。最近、様子が違うようじゃが」


(やっぱり来た。「様子が違う」という言葉。ミアカさんも言ってた。転生してから誰もが気づいてる。でも長老の言い方は……何か深い意味がある気がする)


「少し、変わったかもしれません」


「変わった、か」


 長老が静かに笑った。


「お前の魔力が、最近乱れておる。昨日、特に大きく揺れた」


(……見てたのか。感じてたのか。昨日の暴走を、この人は知っている)


「ご迷惑を……」


「迷惑じゃない。ただ、心配しておる」


 長老の瞳が、まっすぐセラを見た。


「お前の魔力は、異常じゃ。エルフの歴史でも稀な量。そのような力を持った者は——使い方を誤ると、大変なことになる」


「……はい」


「だが、同時に。そのような力を持った者は、大きな役割を担うことがある。良い方に使えれば、大きな守り手になれる」


 長老が少し間を置いた。何かを言うか言うまいか、計っているような間だ。


「一つだけ……」


 声が微かに変わった。さっきより低く、遠くを見るような目。


 長老が口を開いた。


「お前の血筋のことじゃが——」


 セラの心臓が、一瞬、跳ねた。


(血筋?)


 長老が止まった。


 一秒。二秒。


 普通の「言葉を選んでいる」間ではなかった。何かを決断している間、だった。何を話すか、ではなく——今話すべきか。それを判断している間、だった。


 長老の深い緑の瞳が、セラをじっと見た。そのまま、長老は一歩引いた。


「……いや。今は言う時ではない」


 長老が口を閉じた。まるで何事もなかったように、表情が戻る。でも目だけは、まだどこか遠いところを見ていた。


(言いかけて、やめた。何を言おうとしたんだ)


 問いたかった。


 「血筋のこと」——その言葉が、頭の中に残った。血筋。エルフの血筋。セラ・ウィスパーウィンドの血筋。転生したカズヤには関係ない、はずなのに——長老はそれを「言う時ではない」と言った。


(何かある。「言う時ではない」ということは、いつか言う時が来る、ということだ。今じゃないだけで。それが何なのか、俺にはまだ分からない)


 問いたかった。でも、長老の背中が「今は聞くな」と言っているような気がして、言葉が出てこなかった。


(守り手。アリアも「守る力」と言ってた。長老も同じことを言う。これは偶然じゃないかもしれない。「お前には守る役割がある」と言われ続けている。誰かが俺にそれを望んでいる。あるいは——俺自身が、そうなりたいと思い始めている)


「一つ聞いてもよいか、セラ」


「はい」


「お前は今、なぜここにいる?」


 セラは少し、固まった。


 なぜここにいる。それは——答えようのない質問だった。「転生してきたからです」とは言えない。でも「ただ生きているから」というのも違う気がする。


「……まだ、分かりません」


 正直に答えた。


 長老が、ゆっくりうなずいた。


「分からないままでよい。ただ、焦るな。大きな力は、使う理由を見つけてから使え。分かったか」


「分かりました」


「よし」


 長老が歩き去った。


 セラはしばらく動けなかった。隣でアリアが「大丈夫だった?」と小声で聞いた。


「……大丈夫だった、と思う」


(かなり心臓に悪かったが)


## ◆帰り道の決意


 家に帰る道。


 夕方の光が、木々の間に差し込んでいる。


「長老に話しかけられたの、怖かった?」


 アリアが聞いた。


「怖かったというか……見抜かれた感じがした」


「そうだよね。長老はすごいから。昔から、人の魔力を読む力があるって言われてる」


(やっぱりそういう力があるのか)


「長老って、あとどのくらい生きるの?」


「え? 急に」


「エルフは長命なんだよな。長老はどのくらいの年齢なの」


「……あの方は、確か三百歳を超えてるって聞いたことがある」


「三百歳!!」


(三百歳。前世でいうなら、創業から三百年の会社の創業者本人に面談されたようなものじゃないか。入社三日目の新人が。怖いって)


「俺みたいなガキが何かを隠そうとしたって、三百年の積み重ねを前にしたら一瞬でバレるな」


「そうかもしれない。でも長老は、見抜いても黙ってることが多い。分かった上で、相手が自分で気づくのを待つ人だから」


(分かった上で待つ。そういう人は——珍しい。すぐに言う人か、何も言わない人かのどちらかが多い。問いかける形で待つ人は貴重だ。前世でも、高校の先生が一人そういうタイプだった。あの先生は好きだったな)


「俺の魔力の異常さ、長老にはバレてるな」


「バレてる……というより、ずっと前から気づいてたと思う。長老はセラが小さい頃から見てるから」


「そっか」


 セラは歩きながら考えた。


 長老の言葉。「使う理由を見つけてから使え」。焦るな。


(仕事をする理由を考えずにただこなしてきた時間があった。「何のために?」なんて聞かれたら困っていた。でも今は違う。この力を持つ理由が——多分ある。まだ見えていないだけで。長老の「焦るな」という言葉は、そういう意味なんだろう。答えを探す過程そのものに、意味がある)


「アリア」


「ん?」


「俺、もっと慎重にならなきゃいけないな」


「うん」


「昨日の暴走も、今日の長老の話も——俺はまだ自分の力のことを、全然分かってない」


「分かってないのは、最初からだよ。でも分かろうとしてるじゃん」


「それで十分なの?」


「十分じゃないけど——方向は合ってる」


 アリアが少し笑った。


(方向は合ってる。それで十分じゃないけど方向は合ってる。妙に刺さる言葉だ。なんで幼馴染エルフにそれを言ってもらってるのか謎だが、まあいい)


「これからはもっと、自分の力と向き合う」


「うん。私も協力する」


「ありがとう」


「当たり前でしょ」


 家が近づいてきた。


 セラは、夕方の空を見上げた。


 橙色に染まった空に、星が一つ、光り始めていた。


(俺はここにいる理由が、まだ分からない。でも——長老は「焦るな」と言った。分からないままでよい、とも。ならまず、目の前のことを一つずつやっていくだけだ)


「また明日も、練習しよう」


「もちろん! 今度は私が隣にいるよ」


「それが一番安心できる」


「えへへ」


 二人並んで、家に帰った。


「アリア、一つ聞いていい?」


「なに?」


「長老が「使う理由を見つけてから使え」と言ってた。俺はまだ自分の魔力を使う「理由」が、はっきりしてない」


「うん」


「でも——少しずつ、分かってきてる気がする。今日の集まりで、みんなと話して」


「どんな感じで?」


「俺は、この村に属してるんだって感じた。ミアカさんもリーネも、特に何もなく話しかけてくれた。俺が「変わった奴」でも、仲間として受け入れてくれてる」


「そうだよ」


「だから——この場所を守りたい、と思った。もっと具体的に」


 アリアが少し目を細めた。


「それが、セラの「理由」じゃない?」


「そうかもしれない。でもまだ言葉にできないんだよな」


「言葉にできなくても、感じてれば十分だと思う。行動の動機なんて、最初はそんなものだよ」


(行動の動機——続けていくうちに「誰かの役に立ちたい」という実感が生まれる。今のセラと同じ過程を、きっと誰もが通る)


「ありがとう、アリア」


「なんで?」


「いつも、的確なことを言ってくれる」


「えへへ。私、セラのこと、よく分かってると思うから」


 エルフの村の集まり。長老の警告。そして、自分の特殊性の自覚。


 セラは家に入る前に、もう一度だけ夜空を見上げた。


 星が多い。月が明るい。村のどこかから、子どもたちの笑い声がまだ聞こえている。集まりの余韻だ。


 この村の人たちは、セラを受け入れてくれている。ミアカさんも、リーネも、カルシュウスも——「変わってるセラ」として、でも確かに仲間として。


(俺、この場所で生きているんだな)


 その差はなんだろう。


 規模の違い? 文化の違い? いや——たぶん、人と人の距離の違いだ。


 エルフの村は小さい。全員が顔を知っている。全員が関係している。だから「変わってる」が個性として溶け込める。


(俺はここに来て良かったかもしれない)


 そう思った瞬間、少し驚いた。


「転生して良かった」と積極的に思ったのは、初めてだったかもしれない。


 この世界で生きるということが、また少し、重みを帯びてきた夜だった。


(第8話 おわり)


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