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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第7話 魔力暴走の危機

# 第7話 魔力暴走の危機


## 調子に乗って


 一人で練習するのは初めてだった。


 森の開けた場所。昨日、アリアと一緒に練習した場所。今日は誰もいない。風が草を揺らして、遠くで鳥が鳴いている。日差しが心地よい。空気がうまい。


 昨日、魔法を発動した。初日で。一週間かかるはずのところを。


(つまり俺は才能があると。天才の可能性があると。いや待て落ち着け)


 ふふん、と内心でほくそ笑む。前世の俺を知る人間がいたら「カズヤくんが?天才?」と目を丸くするに違いない。そうだ、俺は転生してエルフになり、魔法の才能を開花させた。これがいわゆる「転生チート」というやつか。


 掌を開く。魔力を集める。詠唱する。


「光よ、矢となれ——ライト・アロー!」


 光弾。発射。


 木に当たる。パン、という音。


「よし」


 もう一回。


「ライト・アロー!」


 発射。木に当たる。


(余裕じゃないか。昨日あんなに苦労したのに、今日は一発で出る。昨日のあの悪戦苦闘は何だったんだ。すごいぞ俺。エルフの才能が開花してきてる?)


 もう一回。


「ライト・アロー!」


 さらにもう一回。


「ライト・アロー!」


 連続で四発。全部命中。


(これが天才か……! いや待て、調子に乗るな。でも乗りたい。乗らせてくれ一回くらい)


 サラリーマン時代のカズヤに「優秀」と言われたことは一度もなかった。「普通だね」「まあ可もなく不可もなく」「もう少し積極性があれば」——そういう評価ばかりだった。転職してもそれは変わらなかった。前世でいうなら、ずっと補欠でレギュラーの気持ちが分からないまま社会人を終えた感じだ。


 だから、「才能あり」と感じるこの感覚が、新鮮すぎる。


 体の中の魔力が、うずうずしている。もっと出せる気がする。もっと強く。もっと速く。連続発射なんて余裕だ。


「行けるか? 行くか? 行っちゃうか?」


 一人でつぶやく。誰もいない森で一人でつぶやいている。客観的に見たら完全に怪しい人だ。でもいい。今は俺の練習タイムだ。


 掌を向ける。五本の指それぞれに魔力を集める。五連射してやろう。フルバーストだ。前世のゲームで一番好きだった攻撃スタイルがまさかリアルで使えるとは——なんて考えてる場合じゃないな。集中だ。


「ライト・アロー! ライト・アロー! ライト・アロー!」


 光が散らばった。三発同時に! 木々に当たって、葉が一斉に舞い散る。空が一瞬明るくなった。


 爽快感、MAX。


(やったぞ! 魔法最高! 転生最高! ありがとう転生! ありがとうエルフの体! 俺はもう退職しない!)


 テンションが上がりすぎている自覚はあった。でも止まらなかった。


 ちょっと待て。


 掌が、熱い。かなり熱い。さっきより、ずっと熱い。


 魔力の残滓が、うまく収まっていない気がする。手のひらから、ぼんやりと光が漏れ続けている。詠唱が終わったのに。発射が終わったのに。まだ出てる。


(まあ大丈夫だろ。少し使いすぎただけだ。クールダウンすれば戻る。それよりもう一発行けるか)


 もう一回行くか。今度は四発。いや五発。限界を試してみよう。


 問題は「もう一回」という思考を持った時点でもう止まらなかったことだ。


## 魔力の嵐


 さらに行くか。


 セラは体の奥を探った。魔力はまだある。まだまだある。むしろ、放出するほど出てくる感じがする。まるで汲めども尽きぬ井戸のようだ。


(これが俺の才能か。魔力が尽きない。そんな感覚。いくらでも出せる——でも「いくらでも出せる」と「いくらでも出していい」は別の話だって、今の俺には分かってない)


 七発目。八発目。九発目。


 木が一本、少し傾いた。威力が上がっている。それが嬉しくて、さらに続ける。


 十発目。十一発目。十二発目——


「ライト・アロー! ライト・アロー! ライト・アロー! ライト・アロ——」


 詠唱が乱れた。


 同時に、掌の光が——爆発した。


「うわっ!?」


 吹き飛ばされる。地面に叩きつけられ、背中を強打する。肺から空気が一気に抜ける。口の中に土の味。目の前がチカチカする。脊柱に沿って、鋭い痺れが走った。


 膝が震えている。立ち上がろうとして——掌を見た。


 光が消えていない。


 消えていない。


 魔力が、まだ溢れ出している。形を失って、制御されないまま、掌から噴き出している。光というより、もっと荒々しい何か——嵐のような、白い霧のような、体の内側を灼く灼熱。しかも強くなっている。どんどん強くなっている。


 指先が白く透き通って見えるほど。皮膚の下を、光が脈打つように走っている。まるで体が容れ物として崩れかけているみたいだ。自分の体が自分のものじゃない——そんな感覚が、じわじわと恐怖として忍び込んでくる。


「止まれ。止まれ!」


 頭で命令する。でも止まらない。暴走してるのだ。俺の魔力が。制御を完全に失って。


 周囲の草が揺れ始めた。揺れるだけじゃない、なぎ倒されていく。木々がざわめく。風圧が生まれている。自分の体から。


 轟音に近い低周波が、足の裏から這い上がってくる。地面そのものが震えているのか、体から伝わっているのかすら判断できない。空気が圧縮されて、耳の奥で痛みとも音ともつかない何かが鳴り続ける。魔力が際限なく出続けて、周囲を圧迫している。


(やばい。これは本格的にやばい)


「止まれっ!」


 掌を握り締める。ギリギリと。でも魔力は隙間から溢れ続ける。まるで壊れた蛇口だ。いや蛇口よりずっとひどい。元栓ごと壊れた感じ。もう止め方が分からない。


 体が熱い。全身が。心臓が過負荷みたいに高鳴っている。息が荒い。喉の奥が焦げるような感覚があった——煙の匂いでもするかと思ったが、これは外じゃなく体の内側から来ている。自分の魔力が、自分の体を炙っている。


 手のひらの下、地面の土が黒く変色し始めていた。草の根元が焦げている。熱が、自分の中から地面に伝わっている。


 木が一本、風圧で傾いた。根元から少し浮き上がって——また戻る。でも次に吹いたら戻らないかもしれない。


(森が壊れる。このままじゃ森が壊れる。エルフの森が。来たばかりのエルフがいきなりエルフの森を破壊するって何の罰ゲームだ。転生のバランス調整がおかしいだろ)


「誰か!」


 叫んだ。反射で。でも一人だ。森の中で一人で練習してたんだ。誰もいない。鳥の声すら消えた。沈黙。風圧と光だけがある。


(最悪だ。一人で来るんじゃなかった)


 地面に膝をつく。両手を地面に押しつける。魔力を地面に逃がせないか。イメージする。大地に吸い込まれるイメージ。流れて、流れて、消えて——水が地面に染み込むように——


 少し、弱まった気がした。


 気がした、だけだ。


 でもまだ続いている。押し込めようとするほど、圧力が高まる。まるで栓をした風船に空気を吹き続けるようなものだ。もっとひどい。栓を押さえる手の方が先に力尽きる。


 光が、周囲を白く染め始めていた。目を開けているのがつらい。視界が白い。耳の奥でキーンという高音が鳴り続けている。地面の草が、根元から黒く焦げていく。土が熱を帯びて、手のひらの下で大地が悲鳴を上げているみたいだ。


(詰んだ。詰んだぞ。これは完全に詰んでる。クールタイムも回復薬もない。セーブポイントもない——というかそもそも、セーブポイントって概念がない世界だった)


 その時。


## アリアの到着


 足音が聞こえた。


「セラ!!」


 アリアだ。


 金髪が乱れている。ドレスの裾を捲り上げながら走ってくる。彼女の顔は——青ざめていた。


「セラ、だめ! 離れてて!」


「来るな、アリア! 近づくな! 巻き込まれる!」


「分かってる! でも——」


 彼女が足を止めた。十歩ほど先で。セラの周囲を包む白い嵐を、見ている。目が真剣だ。状況を分析している。この娘は今、怖さよりも「どうすればいいか」を考えている。


(正直に言う。アリアの顔を見た瞬間、少し安心した。これが最悪だ。こっちが危険なのに「助けが来た」と思ってしまった。いや正確には「頼れる人が来た」と思った。どんだけ依存してるんだ俺は)


「セラ、聞いてて! 大丈夫、対処できる!」


「どうするんだ!」


「私が近づく! 私の魔力でセラの魔力を安定させる! でも今すぐ全力で抵抗するのを止めて! 体の力を抜いて!」


「え? 抵抗するのを止めたら——」


「暴走は続く。でも抵抗してると私が近づけない! 少しだけ、ゆるめて!」


(そんな無茶な……でもアリアはそれを分かってて言っている。根拠がある。俺の幼馴染は、俺より遥かに魔法に詳しい)


(そもそも、さっき全力で抵抗してダメだったんだ。逆張りしてみる価値はある。うん、論理的に考えても、アリアの言う通りにした方がいい。感情じゃなくて判断として)


「……分かった。やってみる」


「行くよ!」


 アリアが走り出した。


 セラは、抵抗するのを——少し、ゆるめた。


 魔力が、一瞬、大きく暴れた。風圧が強まる。光が増す。


 でもアリアは止まらなかった。腕で顔を庇いながら、一歩一歩、確実に近づいてくる。


(来るな。来るなと言ってるのに。なんでそんな無茶を——)


 彼女の手が、セラの肩に触れた。


## 安定の接触


 その瞬間。


 嵐が、静まった。


 文字通り、一瞬で。波のように暴れていた魔力が——アリアの手が触れた場所から、静かになっていく。まるで水面に石を落としたら逆に波が消えるような、不思議な現象。


「落ち着いて。大丈夫。落ち着いて」


 アリアの声が、近くで聞こえる。


 彼女は今、セラの背後に回って、両腕で抱えるようにして肩に手を添えていた。体温が伝わってくる。魔力が伝わってくる。穏やかな、安定した、整然とした魔力。


 セラの体の中で暴れていた嵐が、少しずつ、少しずつ、収まっていく。


(アリアの魔力は……鎮静剤みたいだ。前世でいうなら、徹夜明けに緑茶を飲んだ時のあの感覚に近い。コーヒーじゃなくて緑茶。血が引いていって、熱が下がっていく。灼熱が冷めていく。高鳴っていた鼓動が、一拍一拍ゆっくり落ち着いていく。落ち着く。落ち着いてくる)


「ん……落ちついてきた」


「うん。そのまま、ゆっくり深呼吸して」


 セラは深呼吸した。一回。また一回。鼻から吸って、口から吐く。


 森の空気。土の匂い。風の音。全部が、正常に戻ってくる。木々は静かに立っている。草が、ふつうに揺れている。鳥が、また鳴き始めた。


 光が、消えた。


 嵐が、終わった。


 二人は同時に、地面に座り込んだ。


「……ありがとう」


「うん」


 しばらく無言だった。アリアが、隣でゆっくり呼吸している。彼女も消耗しているのが分かる。セラの暴走を鎮めるために、相当な魔力を使ったはずだ。肩が少し震えている。


「怪我は?」


「ない。大丈夫」


「そっか」


 また沈黙。


(俺、何て言えばいいんだろう。「ごめん」は当然として。でもそれだけじゃ足りない気がする。今日のことに「ごめん」一言で済ませるのは——違う)


「本当に、ありがとう。死ぬかと思った」


「死なないよ。魔力が切れたら自然に止まる。でも……周りの木とかは、かなりやられてた」


 アリアが、周囲を見回した。


 確かに。草がなぎ倒されて、一本の木が大きく傾いている。地面に、焼け焦げたような跡がある。


「俺が、これを?」


「うん」


 重い言葉が、胸に落ちた。


 自分の魔力が、これをやった。制御できなくなった魔力が、周囲の森を傷つけた。もし村の人が近くにいたら——もしアリアの到着がもう少し遅かったら——


(笑えない。全然笑えない。才能があるとかないとか、そういう話じゃなくなってきた。前世のカズヤの平凡な日常がむしろ懐かしくなってきた。サラリーマンの仕事は魔力が暴走して森を燃やすことはないから。どんなに追い込まれても、翌朝会社に行けば同じ机がある)


 アリアが周囲を歩き回って、被害状況を確認していた。倒れた木。なぎ倒された草。焦げた地面。その全部が、セラの魔力が引き起こしたものだ。


「アリア、この木、元に戻せる?」


「回復魔法で少し早く回復はさせられる。でも今すぐは無理。時間をかけて回復させるのが普通」


「回復魔法、ってあるの?」


「うん。私が得意な魔法の一つ。植物や人を回復させる魔法。攻撃魔法じゃなくて、支援系の魔法ね」


(サポーター系か。戦闘力もあるけど、主に「守る」側のタイプ)


「俺も回復魔法は使える?」


「使えるよ。でもセラの魔力の性質は攻撃系に偏ってる感じがする。回復魔法は使えても、私ほど上手くはないかも」


「得意不得意があるんだな」


「そう。魔法使いはそれぞれ得意属性がある。セラは光属性が強い、ってことは分かってる。他の属性はこれから調べていこう」


(適性診断、ってことだな。この世界ではどうか)


「セラ」


「うん」


「また一人で練習してたの?」


「……してた」


「私が『一人でやっちゃだめ』って言ったの、覚えてる?」


「言ってなかったよ」


「言ってなかった……」


 アリアが少し考えた。


「じゃあ次から言う。一人でやっちゃだめ」


「……了解」


 ——で、なんで今草の上に二人でぺたんと座り込んでるんですかね。魔力暴走の危機からの、これはなんという展開か。


## 警告と反省


 夕方、家に帰る道。


 二人並んで歩いていた。アリアはまだ少し顔色が悪い。魔力を使いすぎたのだろう。でも文句一つ言わない。


(俺が悪い。完全に俺が悪い。調子に乗りすぎて失敗するパターン——今日だけじゃなくてこれまでもそうだった気がする。でも今回はスケールが違いすぎた。「まだいける」という油断が、制御不能という最悪の結果を引き起こした)


(つまり、俺は転生してもバカだった。異世界でも自分の本質は変わらない。それが今日の一番の教訓かもしれない)


「ごめん、アリア」


「いいよ」


「良くない。俺のせいでアリアが危ない目にあった。森が傷ついた。全部俺の責任だ」


「……そうだね」


 アリアが頷いた。珍しく、優しいフォローをしなかった。


「セラ、自分の魔力の量、分かってる?」


「多いとは聞いた」


「多い、じゃなくて——異常なの。普通のエルフの数倍から十倍以上。その量の魔力が暴走したら、どうなるか分かる?」


「……分かった。今日みたいな、あれ以上のことが起きる」


「そう。もし村のそばでやってたら、村ごとやばかった」


 静かな言葉だった。でもその重みは、ずんと響いた。


(村ごと……か。ただの不注意で大規模事故を引き起こす感じ。そういう力を、俺は持っている。「才能あり」の裏側がこれだ)


(エルフの天才、か。今の俺は——これが怖い。制御できなければ、誰かを傷つける。その怖さの方が、才能の嬉しさより、ずっと大きい)


「慎重にしなきゃ、いけないな」


「うん。一人での練習は禁止。私か信頼できる人が側にいる時だけ。暴走しそうになったら、すぐに止める。これを絶対に守って」


「守る。守ることを誓う」


「……セラ、私は怒ってないよ?」


「怒ってるように見えない方が怖いんだよ」


「え?」


「アリアが怒るよりも、静かに忠告してくる方が——俺、ちゃんと反省できるから」


 アリアが少し目を丸くして、それから笑った。


「なんか変なこと言う」


「正直なことを言った」


「えへへ」


 そのにこにこに、少し毒気が抜ける。


(怒鳴ったり泣いたりせずに、ちゃんと言うべきことを言ってくれる。アリアは、ちゃんと「人間」として話してくれる。……人間じゃないけど、エルフだけど)


「約束する。一人でやらない。慎重にやる。アリアが近くにいる時だけ練習する」


「うん、いいよ。それで大丈夫」


 家が近づいてきた。夕日が、木々の間から差し込んでいる。


「ねえ、セラ」


「ん?」


「今日の暴走、怖かった?」


「すごく怖かった。自分の体が自分のものじゃなくなるみたいで」


「そう。魔力暴走の恐怖は誰もが経験すること。でも……セラの場合は規模が違うから、特に気をつけなきゃいけない」


「分かった。ちゃんと気をつける」


「あと、もう一つ」


「まだあるの」


「うん。魔力は感情と連動する。興奮したり、調子に乗ったりすると、制御が甘くなる。さっきもそうだったと思う」


(……そうだ。「天才かも」とか「もっと行ける」とか考えてた。調子に乗ってた。感情が先走ってた)


「感情の管理も、修行の一部だ」


「そう。セラは強い。だからこそ、冷静でいなきゃいけない」


「……分かった」


「あと、もう一つだけ」


「まだあるの!」


「最後だから聞いて」


 アリアが少し笑いながら言った。


「暴走した時、私を呼んだよね。叫んだよね」


「うん」


「それは正しかった。絶対に一人で抱え込まないで。限界を感じたら必ず助けを呼んで。それだけ守って」


(……正直、叫んだのは反射だった。「助けを呼ぼう」と思ってそうしたわけじゃない。でもアリアにとっては、それが重要らしい)


「一人で抱え込むな、か」


「そう。セラって、たまに何でも一人でやろうとする感じがある。今日も一人で練習して、一人でやろうとして、限界まで行った」


(……鋭い。一人で抱え込んで大ごとになる。パターンとして同じだ)


「気をつける」


「うん。私は側にいるから。遠慮なく呼んで」


「……遠慮なく呼ぶ」


「よし!」


 アリアが足を止めた。セラも止まる。


 夕日が、アリアの金髪を照らしていた。彼女の瞳が、真剣に見ている。


「セラ。あなたの力はすごい力だよ。だからこそ——責任がある。大きな力には、大きな責任が伴う。それを、忘れないで」


(大きな力には大きな責任。アメコミのヒーローが言ってたやつだ。でも今、この世界で、幼馴染のアリアに言われると——なんか、違う重みがある)


「忘れない。今日のことを忘れない」


「うん。セラなら、ちゃんとできるよ。私が信じてるから」


 家の前に着いた。


「ありがとう、アリア。今日も助けてくれて」


「当たり前でしょ。私の幼馴染だもん」


 屈託のない笑顔。


 セラは掌を見た。まだ少し痺れが残っている。この力は危険だ。使い方を誤れば、大切なものを傷つける。


(でも、この力がある。アリアがいてくれる。ちゃんとやれる——やらなきゃいけない)


「また明日から、ちゃんとやる」


「うん。明日はちゃんと一緒に練習しようね」


「絶対そうする」


 アリアが手を振って、帰っていく。


 アリアは、セラが自分を「幼馴染」として見ていることを知っていた。それでいい、と思っていた。「使命として傍にいる」と「好きで傍にいる」の境界線が、自分でも分からなくなりそうで——だから、考えないようにしていた。


 セラは家に入ると、すぐにはベッドに行かなかった。


 リビングの椅子に座って、一人で考えた。


 今日起きたこと。魔力の暴走。アリアの救出。森への被害。反省。


 あの連射の感覚。快感だった。認めたくないが、快感だった。魔力が際限なく出てくる感覚。全力で放出できる感覚。前世では決して得られなかった「本当の全力」の感触。


 でも同時に、それが暴走した。


(「力」というのは、そういうものか。全力を出せる快感と、制御を失う恐怖は、セットになっている。前世の俺はそんな力を持ったことがなかったから、分からなかった)


 掌を見る。


 今はもう暴走していない。でもまだ魔力は流れている。いつでも出せる。いつでも溢れ出せる。それが怖い。


「制御、か」


 声に出した。


 長老が言っていた。「使う理由を見つけてから使え」。アリアが言っていた。「感情が高ぶると制御が甘くなる」。


 両方が正しい。


 使う理由があれば、感情も制御しやすい。感情が先走らなければ、制御が甘くならない。


 この世界で魔法を使う理由は——まだ、はっきりしていない。


 でも、今日一つだけはっきりしたことがある。


「アリアを危険にさらしたくない」


 それだけは確かだ。


 あの瞬間、アリアが飛び込んできた。風圧に逆らいながら、一歩一歩近づいてきた。それが、セラの心の何かに刺さった。


(彼女は俺のために危険を犯した。それを「当たり前」としてはいけない。その価値に、ちゃんと応えなければいけない)


 掌を閉じる。


 次は暴走しない。制御する。感情を冷静に保つ。一人でやらない。


 誓い。今日の夜の、一人きりの誓い。


 夕闇が、ゆっくりと森に降りてきた。


 魔力暴走の危機。反省の夜。


 でも同時に、アリアへの信頼が、また一つ深くなった。



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