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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第77話 魔法学園入学試験

# 第77話 魔法学園入学試験


## 試験当日


 九月五日、入学試験当日。


 朝の空気は冷たく、頬を撫でた。まだ薄暗い宿屋の天井を見上げながら、俺は思った。


(緊張している。これは間違いない。久しぶりの感覚だ)


「起きた?」


 アリアの声だった。すでに身支度を済ませている。清潔な白いシャツに黒いズボン。表情には、緊張と期待が入り混じっていた。


「うん。起きたよ」


「緊張してる……」


 アリアが率直に言う。その手が少し震えている。


「俺もだよ。でも、一ヶ月勉強したから大丈夫だ」


「うん。私たちなら、できるよね」


「できる。絶対に」


「……でも、やっぱり緊張するんだけど」


「俺もしてる。でも緊張するってことは、本気でやってる証拠だよ」


「え、そうかな?」


「そうだよ。本気の時ほど、体が正直に出る。ガタガタするのは、それだけ大事だって思ってるからだ」


 アリアが少し考えてから、「そっか」とつぶやいた。


 朝食を済ませ、宿屋を出た。


 食堂で出てきたパンとスープを、二人で黙って食べた。シンプルだが、体に入れると少し落ち着いた。


「緊張してる?」


 アリアが俺の顔を見ながら聞く。


「してる。でも落ち着いてもきた」


「私も。ご飯食べたら少し楽になった」


「腹が減ってる状態で試験を受けるのは最悪だよ。脳に糖分がいかない」


「……なんかそれ、エルフの知識?」


「まあ……そういうもんだよ。戦う前には食えって話だ」


(嘘ではない。エルフとしての記憶の中にも、「戦う前には食べろ」という教えがある。と同時に、これは俺自身が長年で体感してきた経験でもある)


 学術区へ向かう道すがら、他の受験者たちの姿が見える。様々な年齢、様々な種族。若い学生風の男、貴族風の服装の女性、エルフやドワーフの冒険者たち。みんな同じ方向へ歩いている。


「受験者、多いね……」


 俺は呟いた。予想以上の数だった。


「みんな、魔法を学びたいんだね」


「うん。それはみんな同じだ」


(同じ夢を持つ人間が集まっている光景は、圧倒的で、少し怖い。でも俺も、その一人だ)


 魔法学園の正門に近づくと、さらに多くの受験者が広場に集まっていた。数百人。緊張感漂う空気、話し声、引き締まった表情。


「受験者たちから何かが漂ってくる……」


「みんなの魔力が微かに感じられるよ。緊張すると、魔力が少し揺らぐ」


「へえ。俺には感じ取れないけど……」


「エルフならもう少し敏感になれるよ。練習すれば」


(エルフとして転生しておきながら、魔力感知が鈍いのは課題だ。剣を持っているのに鞘から抜けていない、みたいな話だ)


「ねえ、見てあの人。貴族の出身だって」


「あいつ、魔力が高いって噂よ」


「合格率は三割って聞いた。厳しいな」


 受験者たちの間で、噂話が飛び交っている。


「緊張してきた……」


 アリアが小声で呟く。


 その手を、そっと握った。アリアが少し驚いた顔をした後、握り返してきた。


「大丈夫。私たちの魔力なら実技試験は免除される。筆記試験も一ヶ月勉強したし。それに二人一緒だから」


「うん。セラが一緒だから、大丈夫」


 アリアが微笑む。


(アリアが一緒だから大丈夫、という言葉を、俺も同じように思っている。俺も、アリアがいるから大丈夫だ)


 その時、広場の中央で職員が声を上げた。試験の説明が始まる。


「まずは午前九時から筆記試験を行います。場所は教室棟一階の大教室です。試験時間は三時間です。その後、午後一時から実技試験。ただし、事前の魔力測定で平均の三倍以上の魔力量が確認された受験者は、実技試験が免除されます。午後三時からは特別な魔力測定を行います。異常な魔力量を持つ受験者のための特別測定です」


 セラとアリアが見合わせる。特別測定、確実に対象になる。


「それでは、筆記試験会場へ移動してください」


 試験官の声に合わせて、受験者たちが一斉に動き出した。数百人が同時に歩き出す光景は圧倒的だ。波のように動く人の群れ。一つの目的に向かって同じ方向へ進む光景。


「急がなくていいの?」


「大丈夫だよ。席番号があるから、場所取りじゃない」


「そっか。じゃあ落ち着いて行こう」


 アリアが一歩引いて、俺の横に並んだ。人の流れに乗りながら、教室棟へ向かう。朝の光が石畳に降りている。木々の葉が風に揺れている。深呼吸。


「魔法陣の複雑な図式が出たら、少し不安だな」


「あの問題、一緒に解きまくったじゃない。全部パターンを覚えたはずだよ」


「覚えたつもりが、本番で消えてることがあるから」


「……うん。それはあるかも」


(アリアも同じ不安を持っている。俺もある。お互いに、同じ不安を持ちながら、それでも「大丈夫」と言い合っている。これが、一緒に試験に挑む、ということだ)


「でも、俺たち一ヶ月ちゃんとやったから」


「うん。それは本当だね」


「本当のことは、本番でも本当だよ」


「……そうだね。そうだね」


 アリアが少し笑った。笑えたということは、少し落ち着いたということだ。


## 筆記試験


 教室棟の一階、大教室。


 数百名の受験者が収容できる広い教室だった。黒板が前壁にあり、数十列の机と椅子が並んでいる。窓からは朝の光が差し込んでいる。


「席番号を確認してください」


 セラの席番号は「C-42」、アリアは「C-43」。隣同士だ。


(ラッキー。隣が知らない人で貧乏ゆすりをされたりするよりは、ずっといい)


「緊張する……」


 アリアが小声で呟く。


「大丈夫。解けるはずだ。俺たち、一ヶ月ちゃんとやったじゃないか」


「そうだけど……本番ってなると、別に不安になるんだよ」


「それはみんなそうだよ。俺も同じ。でも書き始めれば集中できる」


(準備はしているのに直前は不安になる。でも始まれば意外と大丈夫なものだ。……たぶん)


 問題用紙が配られた。


 パラパラとめくる。魔法理論、魔法陣基礎、魔法史、一般教養の四科目。三時間で四科目。一科目あたり四十五分弱。


 最初の設問。「魔法の基本原理を説明せよ」。


(来た。基礎中の基礎だ)


 俺はペンを走らせた。一気に書く。手が動く。


 魔法の定義、属性の相性、感情と魔力の関係、詠唱の役割、魔法陣の基本。全部、アリアに教わったことが手から出てくる。


(アリアの教え方は、具体例が多かった。「火の魔法はね、焚き火を起こす感覚で。熱いイメージを持って」とか「水の魔法は雨の感触を思い出して」とか。理論より感覚で説明してくれたから、俺にも入ってきやすかった。今、その説明がそのまま答えになっている。本物の理解だ)


 隣ではアリアが真剣にペンを走らせている。集中しているのがわかる。普段のあの笑顔が消えて、引き締まった表情になっている。


(本気の時のアリアは、また別の顔がある。静かで、真剣で、少し怖いくらいに集中している。こういう顔を見ると……隣にいて良かったと思う)


 第二科目、魔法陣基礎。問題用紙をめくった。魔法陣の図式を見て、用途と効果を答える問題。


(魔法陣は記号の組み合わせで、一定のルールがある。この記号が「増幅」、あの記号が「方向制御」、右下の枠は「発動条件」——一つひとつに意味がある。ロジカルに解けば答えが出る。三問詰まりかけたが、パターンが頭の中に浮かんできた。アリアが繰り返し例題を出してくれたおかげで、手が覚えている。感謝しかない)


「開始してください」


 試験官の合図で、教室中がペンを走らせる音に満ちた。


 第三科目、魔法史。古代エルフの魔法から始まり、中世の魔法の発展、近現代の魔法革新まで。これは面白い内容だった。問題を読みながら、設問の先にある世界の歴史が見えてくる感覚があった。


 古代エルフが感情を触媒として使う魔法体系を構築したこと。それが中世に失われ、現代の制御型魔法へと移行したこと。なぜ失われたのか——試験には出なかったが、それが一番気になった。


(この問いは、試験が終わっても持ち続ける)


 第四科目、一般教養。王国の政治体制、主要種族の文化、経済の仕組み。この問題は、行商として王都を歩いてきた経験が直接役に立った。市場の仕組み、商業税の体系、各種族の居住区分。カトレアから聞いた話、宿屋の宿主が語った王都の事情。すべてが答えの根拠になった。


(生きた知識が、こういう形で使えるとは思っていなかった)


「残り三十分です」


 試験官が声を上げる。


 一般教養の最後の問題を書き終えた。


 深呼吸。全部書けた。合格ラインには届いているはずだ。


「やめてください」


 試験官の声。


 ペンを置く。


「セラ、どうだった?」


 教室の外でアリアが待っていた。


「……たぶん、大丈夫だと思う。全部書けた。アリアは?」


「魔法陣が少し難しかった。でも、魔法理論は全部解けたよ」


「それなら合格ラインは超えてる。午後の実技まで休もう」


「うん。お腹すいた」


「飯食おう」


## 実技試験


 昼休憩を挟んで、午後一時。演習場へ移動した。


(昼食は短かった。緊張しているのか、あまり食べられなかった。朝に「腹が減ってる状態で試験を受けるのは最悪」と言ったのに、自分がそれをやっている。人というものは、頭でわかっていても体が言うことを聞かないものだ)


「セラ、お昼あんまり食べてなかったね」


「緊張してた」


「午後も試験あるのに、大丈夫?」


「大丈夫。実技試験は筆記より不安じゃないから」


「魔力なら任せなさいよ、って感じで来てるの?」


「まあ……そうかな」


(正直に言えば、実技試験は完全にノーマークだ。魔力量で免除になるはずで、なったとしても、魔法の実演は日常的にやっていることだ。本番で急に下手になるわけがない……たぶん)


 広い演習場は、受験者たちで埋め尽くされていた。的が複数設置されており、監督の試験官が数名待機している。石床に、いくつかの焦げ跡が残っている。昨日か一昨日の受験者が残したものだろう。天井が高く、光が広く差し込んでいる。


 後方では、実技試験が始まっていた。受験者が順番に的の前に立ち、魔法を放つ。


 炎の魔法が弾ける。風の刃が石に食い込む。水球が弾けて石床に広がる。それぞれの魔法に、個性がある。詠唱が長い人、短い人。発動が強い人、弱い人。それぞれが、自分の持てるものをぶつけていた。


(俺も、あそこで魔法を使う番が来るのかもしれない。無詠唱でやったら目立つかもしれないが……まあ、目立っていいか。ここまで来たんだから)


「それでは、最初に魔力測定から始めます」


 試験官が説明する。


 全員が魔水晶の測定装置に手を触れる。平均の三倍以上が計測されると、実技試験は免除だ。


 受験者たちが順番に測定する。装置の針がゆっくり上がり、「三倍未満」「二倍」「二・五倍」……。ほとんどの受験者が三倍に届かない。実技免除になる受験者はほとんどいなかった。


 俺の番が来た。


 魔水晶に手を置く。


 魔力を流す。


 ドン、と衝撃が走った。測定装置の針が最大値を超え、魔水晶が白熱した光を放った。


「……っ」


 試験官が目を見張る。


「こ、これは……」


 周囲の受験者たちが振り返った。


(やばい。また目立ってしまった。目立つな目立つな目立ちたくない、と思っていたのに)


「ウィスパーウィンド・セラさん、特例クラス対象です。別室にご案内します」


「えっ、今すぐ?」


「はい。測定装置の安全上の問題もありますので」


(安全上の問題……俺の魔力が強すぎて、装置が壊れかけてるということか。こんな形で足切りになるとは思わなかった)


 アリアの測定では、装置の針が振り切れたが、白熱するほどではなかった。それでも、試験官が青い顔をしていた。


「エルフ・アリアさんも、特例クラス対象です」


「え? 私も?」


「はい。二名一緒に別室へご案内します」


「セラ!」


「大丈夫。怖くない。たぶん」


「「たぶん」って何よ!」


(よし、漫才できてる。緊張がほぐれた)


## 魔力測定


 案内された部屋は、こぢんまりした測定室だった。


 部屋の中央に、通常より大型の魔水晶が設置されている。黄金色の光を放ち、ぼんやりと輝いている。傍らには、白衣を着た測定専門の教師が立っていた。五十代ほどの男性で、眼鏡の奥に鋭い眼光がある。


「特例クラスへようこそ。私は測定専門のヴァイン教授です」


「よろしくお願いします」


「まずは手順を説明します。この大型魔水晶に手を触れ、段階的に魔力を流してください。最初は三割、次に六割、最後に全力で。安全のため、私の指示に従ってください」


「わかりました」


 俺は魔水晶の前に立った。


 深呼吸。


「では、三割でお願いします」


 魔水晶に手を触れた。


 ゆっくりと、魔力を流す。三割のつもりだ。


 魔水晶がじわりと光り始めた。


「……」


 ヴァイン教授が測定器を見ながら黙っている。数字を確認している。


「六割にしてください」


 魔力を増やす。魔水晶が輝きを増す。室内が少し明るくなった。


「……少し待ってください」


 ヴァイン教授が測定器を確認している。何かの数字に眉を上げている。


「全力でお願いします」


 俺は深呼吸した。


 全力。


 魔力を開放する。


 ゴ、という低い音がした。魔水晶が真白に光った。測定室の壁に、淡い魔法光の模様が浮かび上がった。


「止めてください」


 ヴァイン教授が静かに言った。


 俺は魔力を引いた。


 静寂。


 ヴァイン教授は測定器を二度、三度と確認した。


「……なるほど」


「何がわかりましたか?」


「君の魔力量は、この学園の測定記録で、二番目に高い数値です」


「二番目……」


「一番目は、百年前の古代エルフの転生者と言われる伝説の生徒です。その記録には若干及ばなかった」


(百年前の古代エルフの転生者。「転生者」という言葉が、この世界にも存在するのか。それとも比喩的な言い方なのか。どちらにしても、気になる。そして——百年前と今の俺の魔力記録が、どちらも異常な高さを示しているという事実が、偶然とは思えない)


「次はアリアさん、お願いします」


 アリアが魔水晶の前に立った。同じ手順で測定する。


 全力で流した時、魔水晶は白く輝いたが、俺の時より少し控えめだった。


「アリアさんは……平均の四倍強。これも非常に高い数値です」


「ありがとうございます」


「二人ともに特別奨学金の対象となります。入学後の詳細は事務局でご確認ください」


 測定室を出ると、アリアが俺に囁いた。


「百年前の古代エルフの転生者って……」


「気になったよな」


「セラ、もしかして……」


「わからない。まだ、わからない。でも入学したら、調べられる」


「うん。絶対調べよう」


## 合格通知


 夕方、事務局の前に受験者たちが集まっていた。


 待機時間が長かった。測定室を出た後、事務局で待つように言われた。他の受験者たちも、実技試験を終えて帰ってくる。


「結果、どうだった?」


「実技は通ったと思うんだけど、筆記が不安で……」


「俺、魔法陣の問題、全部解けなかった」


「でも、実技で挽回できるかも」


 受験者たちが情報交換をしている。落ち込む声、楽観的な声、様々だ。来た道が違う。持っているものが違う。それでも全員が、同じ結果を待っている。


(俺は少し離れた場所で待つことにした。できることは全部やった。あとは結果だけだ。この感覚は——意外と落ち着いている)


「セラ、緊張してる?」


「してるよ。でも、落ち着いてもいる」


「どっちだよ」


「両方。緊張してるけど、やり切った感もある。だから落ち着いてる」


「……それ、大人っぽい考え方だね」


「そうか? まあ、待つしかない時は待つしかないから」


(そう、待つしかない。やれることはやった。だから待つ。これ以上できることはない——その確認ができると、意外と穏やかになれる)


「セラ、大丈夫?」


「うん。待つのが少し辛い」


「わかる。結果が出るまでが一番しんどいんだよ」


「でも、もうやることは全部やった。あとは結果を待つだけだ」


「それができれば苦労しないんだよ」


(そうだな。言うのは簡単だ。でも待つことにも、慣れてきた気がする。これも成長か)


 掲示板に、白い紙が貼られていく。合格者の名前だ。


 ざわめきが広がる。


「受かった!」


「俺も!」


「……だめだった」


 喜びと落胆が入り混じる。


「セラ、見てよ」


 アリアが俺の袖を引いた。


 掲示板の一番上。特別な枠で書かれている。


 特例クラス合格:セラ・ウィスパーウィンド エルフ・アリア


「……受かった」


「受かったー!!」


 アリアが、抱きついてきた。思い切り。


 周囲の視線が一斉に集まる。


(いや待って、アリア。ここ人がいるんだけど。みんな見てるんだけど。……まあ、いいか。受かったんだし)


「よかった……本当によかった……」


 アリアが小声で繰り返している。本当に緊張していたんだな。


(俺も、実は相当緊張してた。でも……受かった。一ヶ月間、一生懸命勉強した甲斐があった)


 事務局の窓口で、合格通知書と入学手続きの書類を受け取った。


「入学は一週間後です。制服は明日以降に受け取れます。特例クラスの二名には、特別奨学金の申請書も同封しています」


「ありがとうございます」


「筆記の結果も出ています」


 書類を見ると、魔法理論九十二点、魔法陣基礎七十八点、魔法史八十五点、一般教養八十八点。


(合格ラインを全科目上回った。一ヶ月間、頑張れた)


「アリアの結果は?」


「私は……魔法理論九十五点! でも、一般教養が……七十二点」


「合格ラインは超えてるから大丈夫だよ」


「ギリギリだった……。人間の文化、難しい」


「でも受かったんだから、それでいいじゃないか」


「そうだね。受かった。私たち、受かった!」


 アリアが改めて喜びを爆発させた。


 事務局を出ると、夕日が王都を照らしていた。橙色の光が建物に反射している。


「魔法学園の学生になったね」


 アリアが言う。


「なったね」


 俺も頷く。


(一週間後、新しい生活が始まる。魔法学園。古代エルフの資料。百年前の転生者の謎。自分の魔力の秘密。全部、そこにある。意味のある毎日が待っている)


「セラ、ありがとう」


「俺は何もしてないよ」


「一緒に勉強してくれたじゃない。私が一般教養でつまずいた時、ちゃんと教えてくれた」


「お互いさまだよ。俺、魔法理論はアリアに教わりっぱなしだった」


「えへへ」


 アリアが笑う。


 俺も笑った。


(夕日の中のアリアは、なんというか……いや、やめよう。今は試験合格を素直に喜ぶ時だ)


「帰ったら、カトレアに報告しないとな」


「そうだね! カトレア、心配してたよ絶対」


「連絡するか。「合格した」って」


「一緒に帰ろう。直接言いたい」


「そうしよう」


## カトレアへの報告


 宿屋に戻ると、カトレアが扉の前で腕を組んで待っていた。


「おかえり。……顔色を見ればわかる。受かったね」


「受かった」


「受かったー!」


 アリアが再びテンションを上げる。今日何回目かわからない。カトレアが苦笑しながら頭を撫でた。


「よかった。本当によかった。ちゃんとやれた子たちだってわかってたけど、待ってる間は心配だったよ」


「カトレア、心配してたんだ」


「当たり前でしょ。一ヶ月付き合って、見届けたくない親がどこにいるのよ」


(カトレアが「親」という言い方をした。俺が気にしすぎかもしれないが、その言葉に胸がちくっとした。嫌ではなく、むしろ……ありがたかった)


「特例クラスにも入れました」


「知ってた。絶対そうなると思ってた」


「なんで知ってるんですか」


「あなたたちの魔力が普通じゃないのは、一ヶ月一緒にいてわかったから。特例扱いにならなかったら、むしろ学園の測定が間違ってると思うところだった」


 カトレアが部屋の中に入るよう促した。


「今夜はご馳走にしよう。合格祝いだ。おめでとう、二人とも」


「ありがとうございます」


「ありがとう、カトレア!」


 食卓にいつもより豪勢な料理が並んだ。肉の煮込み、野菜のソテー、焼きたてのパン。特別感がある。


「制服はいつ受け取るの?」


「明日から受け取れるそうです」


「じゃあ明日行こう。入学式まで一週間あるから、学園の周辺も見ておくといいよ」


「はい」


「特奨学金の書類も忘れずに。経済的なことは、きちんと整理しておかないと後で困る」


 カトレアが実務的な話をしながら、食事を勧める。こういうところが、カトレアらしい。感情的な祝福の次は、具体的な段取り。感情と実務を切り替えるスピードが速い。


(この人に出会えて、俺たちは本当に助かった。入学試験を受けられたのも、勉強できたのも、ここにいられたのも——全部カトレアがいたからだ)


「セラ、考え込んでないで食べなさい」


「……食べてます」


「顔が遠い目になってた」


「感謝してたんですよ」


「言葉じゃなくて、ちゃんと食べることで示しなさい。作った方が喜ぶから」


「はい」


 煮込み肉が柔らかかった。パンが温かかった。アリアがおかわりを頼んだ。カトレアが呆れたように笑った。


 来週から、魔法学園の生活が始まる。


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