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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第75話 ダンジョンクエスト完了

# 第75話 ダンジョンクエスト完了


## 帰還の道


 朝の街道は、静かだった。


 ダンジョンの入り口から歩き出して最初に気づいたのは——鳥の声だ。どこかの木から、小さな鳥が歌っている。


(鳥がいる。草がある。空が青い。……当たり前のことが、ありがたい)


 地下で一泊して、ようやく戻ってきた地上世界。ダンジョンの冷気と湿気と暗闇と比べると、朝の街道は別世界だ。生きて戻ってきた。それだけで、空気が違う気がした。


「疲れたね……」


 アリアが少し肩を落として歩いている。彼女は昨夜、入り口のテントで一人で待っていたのだ。


「うん。でも、達成感がある。悪くない疲れだよ」


「そうだよ! ホブゴブリンも倒したし、マッピングも完成した! 借金返済が近づいた気がする!」


 カトレアが元気よく言った。


(カトレアの回復力は異常だ。一晩起きて警戒してたはずなのに、今この元気はどこから来るのか。ドワーフの体力、本物だ)


「次はオーガ・ロードを倒しに行くんだよね?」


「うん。でも今日は帰って、休んで、報告して。まずはそれが先だ」


「銀貨二十枚の報酬! 楽しみ!」


「カトレアは常に銀貨が先にある」


「いいじゃない。目標が明確なのは美徳だよ!」


(カトレアにとって、借金返済は単なる数字じゃない。仲間への義理を果たすことだ。それを堂々と言える強さが、ドワーフらしい)


 街道の向こうに、王都の城壁が見えてきた。


 朝の光を受けて、白い石造りの城壁が輝いている。その光景に、俺は思わず足を止めた。


「王都が見えてきた」


「帰ってきたねぇ」


 アリアの声が、少し温かくなった。


「うん。生きて帰ってきた」


「生きて帰ってきた! ギャハハ! 当然だよ、私たちが死ぬわけないじゃん!」


(カトレア、その自信、いつも持ち続けてくれ)


 道の脇に咲いている野の花が、朝の光の中で揺れていた。


「ねえ、カトレア。ダンジョン内で先祖の痕跡を見て、どうだった?」


 アリアが聞いた。


「感動した。それに、少し悲しかった」


「悲しかった?」


「うん。昔はあんなに立派な場所を作れたのに、今のドワーフはそれができない。技術が失われてしまった。でも——今回の探索で、少し記録できた。あの石の組み方、壁の補強の仕方——古代ドワーフ文字で書かれた設計メモも写してきた。集落を再建する時に、参考にできると思う」


「カトレア、頭いいね。ちゃんと記録してたんだ」


「ドワーフはメモを取る民なんだよ。職人は記録を残すものだから」


(失われた技術を記録で取り戻す。カトレアにとって、ダンジョン探索は冒険だけじゃなく、ルーツを取り戻す旅でもあったんだ)


「集落が再建されたら、あのスープ、絶対飲みたい」


「ギャハハ! 絶対に作ってあげる! 祖母の秘伝のスパイス入りだよ! 借金さえ返せれば……!」


「最後が借金だったね」


「だって大事だもん!」


 三人で笑いながら、王都の城壁が近づいてきた。


 城門をくぐる時、衛兵のおじさんが俺たちを見て目を丸くした。


「おお、ダンジョン帰りか。無事で良かったな!」


「ありがとうございます」


「鎧に傷がついてるぞ。相当やり合ったんじゃないか?」


「少し。でも全員無事です」


「それが一番だ。入ってよし!」


(「無事で良かった」と言ってくれる人がいる。たったそれだけのことが、すごく温かい)


 城門の周囲には、朝市の余韻が漂っていた。パンを売る露店、果物を並べた台、鍋を磨く商人。行き交う人々が俺たちのすれ違いざまに目を向ける。傷のついた鎧と汚れた装備——ダンジョン帰りだとすぐにわかるようだ。


「見られてる」


 アリアが少し恥ずかしそうに言った。


「仕方ない。ダンジョン帰りは目立つ」


「でも悪い目つきじゃないよ」


 カトレアが言った。確かに、周囲の目には興味と敬意が混じっている。戦って帰ってきた、ということへの素直な感情だ。


「生きて帰ったってことが、一番大事なんだよ。冒険者はそれが全てだ」


 カトレアが続けた。


(カトレアが言うと、説得力がある。ドワーフにとって、生きて帰ることが仕事の前提条件なんだろう。どんな結果でも、生還が最初の成果)


 城内に入ると、昼前の王都は活気に満ちていた。市場の商人が声を張り上げ、子供たちが石畳を走り回り、馬車が通りを行き来している。ダンジョンの静寂と冷気と比べると、その賑やかさが余計に心地よく感じられる。


「あ、お腹空いた」


 アリアがぽつりと言った。


「そりゃそうだ。朝から何も食べてないもんな」


「ダンジョン携帯食は食べたけど……やっぱり温かいものが食べたい」


「ギルドに報告してから、昼ごはんにしよう」


「うん!」


 アリアの目が輝いた。食欲が回復している。それが何より、彼女が元気な証拠だ。


(楽しみがあると、体は動く。食欲の戻り方を見ると、アリアも本当に安堵してるのがわかる)


## ギルド報告


 冒険者ギルドのホールは、昼でも賑わっていた。


 受付カウンターにミサキを見つけると、彼女は俺たちに気づいて破顔した。


「おかえりなさい! ダンジョン調査クエスト、無事に帰ってきたんですね!」


「ただいま。報告があって」


 俺はカウンターに近づいた。自分の格好を確認すると、鎧に汚れがついている。ダンジョンでの戦闘の痕跡だ。これが証明書のようなものか。


「どのくらい進めましたか?」


「第一層と第二層の調査を完了。マッピングも作成しました」


 俺は羊皮紙の地図を取り出した。


「すごい……! 第一層と第二層の完全マッピング!」


 ミサキの目が輝いた。


「第一層は全域。第二層は前半まで。それぞれの部屋の配置、通路の方向、罠の位置まで記録しました」


「これなら、ギルドの資料が大幅に更新できます。他の冒険者への情報提供にも使えます」


「古代エルフの遺跡も発見しました。壁画や古代の文字が残っていて、学術的な価値もあると思います」


「古代エルフの遺跡!?」


「あと、古代ドワーフの作業エリアも一部確認しました。そこの記録も地図に含めてあります」


「これはすごい……」


 ミサキが地図を丁寧に受け取った。


「戦利品の提出もあります」


 俺は袋をカウンターに置いた。ミサキが中を確認する。


「ゴブリンの牙と耳……ホブゴブリンの牙と皮膚……銀貨十枚……ルビー二個……それから金の首飾り!」


「ホブゴブリンが持っていました」


「評価額は銀貨三十五枚程度になります。これにダンジョン調査の報酬銀貨二十枚を合わせると……」


「銀貨五十五枚!」


 カトレアが即座に計算した。


「ギャハハ! 借金がまた減る!」


 周囲の冒険者たちが、俺たちの話に耳を傾け始めていた。


「おい聞いたか? 第一層と第二層を完全攻略したらしいぞ」


「Fランクで?」


「しかも三人で! エルフとドワーフと……」


「あのセラだろ。テストでS評価取った奴」


 ざわざわとした声が広がっていく。


(周囲に注目されている。成果が他の人の目に見える形で現れる。それが冒険者という仕事なんだ)


 ふと、ギルドの端のテーブルに目が向いた。旅商人らしき二人が、声を落として話し込んでいる。


「東の大陸がえらいことになってるらしい」


「また戦か?」


「いや、戦がない。それがおかしい。気づいたら8ヶ国が一つの勢力にまとまってた。誰も傷ついていないのに」


「……誰がやったんだ」


「わからない。でも地元の奴らが言うには、見たことない言葉で書かれた書類が出回って、一晩で国の仕組みが変わったって」


(戦のない国家統合。そんなことが可能なのか。……今は関係ないか)


 セラは聞き流した。


「ギルドマスター代理がお呼びです」


 ミサキが静かに言った。


## 報酬と評価


 ギルドマスター代理の部屋は、受付の奥にある静かな部屋だった。


 壁には冒険者の依頼書が整理されて貼られ、机の上には書類が几帳面に積まれている。部屋の主は、五十代と思われる痩せた男性で、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の人物だった。


「セラさん、アリアさん、カトレアさん。お疲れ様です。ギルドマスター代理のエーデルと申します」


「はじめまして」


「今回のダンジョン調査、実は期待以上の成果を持ち帰っていただきました」


 エーデルが地図を手に取り、丁寧に確認していく。


「マッピングの精度が高い。罠の位置まで正確に記録されている。それに古代エルフの遺跡情報、これは学術機関に報告する価値があります」


「ありがとうございます」


「ホブゴブリンを討伐した記録もありますね。第二層の魔物を三人で討伐とは——失礼ですが、FランクのFという評価が正直、信じがたいですね」


「テスト時の魔力評価がSだったんですよ」


 ミサキが補足した。


「そうでしたか。それを聞いて納得しました」


 エーデルが書類を取り出した。


「今回の報酬ですが、マッピング報酬の追加として銀貨十枚、そして討伐報酬として銀貨十五枚の追加をお出しします。合計で銀貨八十枚になります」


「銀貨八十枚!?」


 カトレアが震えた。


「ギャハ……ギャハハハ! 借金が! 借金が大幅に……!」


(カトレアが計算しながら泣きそうになっている。感動の種類が独特だが、目標に向かって着実に近づいている喜びは、誰でも同じだ)


「ありがとうございます」


「こちらこそ、良い情報をありがとうございました」


 ミサキが端から補足した。


「実は、マッピング完成チームというのは今年初めてなんですよ。第一層と第二層で、しかもFランクで。ギルドの記録には残すことになります」


「記録に残る、ですか」


「後から入ってくる新人冒険者たちへの、情報として。このマッピングがあれば、次の冒険者が罠で死なずに済むかもしれない」


(知識が未来に繋がる。後から来る人たちの命を守る。それだけで意味がある)


「次の人たちの役に立てるなら、それは嬉しいです」


 エーデルが銀貨を数えて差し出した。ずっしりとした重さが、現実感を与えてくれる。


 銀貨八十枚。これだけの金が手の中にある。ダンジョンの中で感じた恐怖も、疲労も、全部が結果として形になった。


「カトレアの借金は?」


 俺は小声で聞いた。


「百四十枚もらうから……あと七百七十五枚」


 カトレアが低い声で計算した。


(七百七十五枚。まだ遠い。でも、確実に減っている。一歩ずつ近づいている)


「そこに、ランクアップ後の高報酬クエストが加わる。毎回このくらいの成果を出せれば、現実的な目標だ」


「……うん。そうだよね。できる。できるよ」


 カトレアが自分に言い聞かせるように呟いた。


「それと、もう一つご相談が」


## ランクアップの話


「ランクアップのお話をさせていただけますか」


 エーデルが静かに言った。


「ランクアップ?」


「はい。現在のFランクは、正直言って、今回の成果とは釣り合っていません。今回の調査内容と、テスト時の評価を合わせると——Eランクへの昇格を正式に検討すべき案件です」


 俺は横のアリアを見た。アリアも少し驚いた顔をしている。


(ランクアップ。実力と成果が認められた結果だ。それが嬉しい)


「ランクアップの条件は?」


「Eランクへの昇格試験は三項目あります。一、ギルド規定のランク試験の受験と合格。二、冒険者としての実績の書面審査。三、試験官による実技確認」


「実技確認、ですか」


「はい。魔法使いとしての能力、チームワーク、状況判断——それらを試験官が直接確認します。セラさんの場合、今回のダンジョン攻略の記録が実績として使えます」


「試験はいつ?」


「来週の水曜日を予定しています。どうされますか?」


 俺はアリアとカトレアを見た。二人が頷いた。


「受けます」


「承りました。試験の詳細は追ってご連絡します」


 エーデルが書類を丁寧に片付けながら、俺たちを見た。


「一つ、個人的な感想を言ってもいいですか?」


「はい、どうぞ」


「Fランクでダンジョンの第二層まで到達して、ホブゴブリンを倒して、オーガ・ロードを見て撤退を判断した。これは、経験豊富な上位ランクの冒険者でもなかなかできないことです」


「撤退したんですが……」


「それが正しいんです。強さとは、無謀に突撃することではなく、状況を正確に判断して最善を選ぶことです。今回の撤退判断は、冒険者として非常に成熟した行動です」


(撤退できる判断力こそが、長く生き残る冒険者の条件だ。「撤退は恥」という考え方が、どれだけの冒険者を殺してきたか)


「ランクアップ試験に向けて、しっかり準備してきてください。期待しています」


「ありがとうございます」


 三人は部屋を出た。


 廊下に出ると、カトレアが「ギャハハ!」と笑い出した。


「Eランク試験! セラが合格したら、もっと高報酬のクエストが受けられる! 借金返済が一気に——!」


「カトレアの反応は、毎回借金ところに着地するね」


「だって大事なんだもん!」


「まあ……俺も、早く借金なくしてあげたいと思ってるよ」


「え?」


「カトレアが集落を再建できるように。それには金が必要で、金には高ランクのクエストが必要で——だから俺はランクアップしたい」


 カトレアが少し黙った。


「……セラ、ずるいよ」


「なんで?」


「そういうこと言うから、泣きたくなる」


「ドワーフは泣かないんだろ」


「泣かない! 絶対泣かない! でも……ありがとう、セラ」


 カトレアが俺の手をぎゅっと握った。


(カトレアのために、アリアのために、強くなりたいと思える。仲間のために力を使いたいと思えるようになった。それが今の自分の一番の変化かもしれない)


「ギャハハ! Eランクになったら、もっと高難度のクエストが受けられる! 報酬も上がる! 借金返済が——!」


「カトレア、声が大きい」


「すみません!」


(Eランクへの昇格は嬉しい。もっと強くなれる。もっと多くのことができる。それが一番の意味だ)


## 祝う夜


 宿屋「森の恵み亭」の食堂は、温かい光に包まれていた。


 俺たちは角のテーブルに座り、いつもより少し豪華な夕食を注文した。焼いた肉、野菜の炒め物、温かいスープ、そして翌日の出発を祝うための発泡葡萄酒。


「乾杯!」


 三つのグラスがぶつかった。


「お疲れ様。二人とも」


「お疲れ様! ギャハハ! 良い仕事したよ!」


「お疲れ様、セラ」


 アリアが俺のグラスに自分のグラスを軽くぶつけた。その表情が、柔らかい。


(こういう時間がある。今日の成果を語り合って、笑う——そういう時間が、今ここにある)


「今日の成果、整理すると——」


 俺は指を折り始めた。


「ホブゴブリンを討伐。マッピングを完成。古代エルフの遺跡を発見。金の首飾りを回収。そして——Eランクへの昇格試験の権利を獲得」


「全部まとめると、すごいね」


 アリアが感心した。


「最初は怖かったけどね」


「怖かったよ。すごく怖かった。ゴブリンと初めて遭遇した時も、オーガ・ロードを見た時も。でも、恐怖より先に体が動いた」


「セラのおかげだよ。あの撤退の判断がなかったら——」


「カトレアがいなかったら、罠で死んでた。アリアが待っていてくれるから、帰ってきたいと思えた」


 三人が少し黙った。


 食堂の奥から、楽器の音が聞こえてくる。誰かが弾き語りをしているようだ。穏やかな旋律が、温かい空気の中に溶けていく。


「ねえ、セラ」


 アリアが少し真剣な目で言った。


「来週の試験、合格できそう?」


「わからない。でも、やってみないとわからないでしょ」


「そうだけど……怖いんだもん」


「怖いよ。俺も怖い。でも——」


 俺はアリアを見た。


「アリアと一緒なら、どんな試験も乗り越えられる気がする」


「……!」


 アリアの顔が赤くなった。


「そ、そういうこと急に言わないでよ……」


「なんで? 本当のことだけど」


「心臓に! 悪いから!」


「ギャハハ! 二人のイチャイチャ、今日もすごいね! でも私も乗り越えられるよ! 私もいるんだから!」


「そうだな。三人で乗り越える」


「ギャハハ! その言い方はちょっと違う! カトレアはイチャイチャしてないから!」


 笑い声が食堂に響いた。


(ここに仲間がいる。ここに帰る場所がある。それが俺を動かす一番の力だ)


「来週、Eランクになろう」


「うん!」


「絶対!」


 グラスが再び合わさった。


 カトレアがスープを飲みながら、ふと言った。


「ダンジョンの中、一番怖かった瞬間どこ?」


「え?」


「あたしはホブゴブリンが廊下に現れた時。本当に、心臓止まるかと思った」


「俺はオーガ・ロードを見た時かな。あの威圧感は別格だった」


「わかる。あれは違うんだよ。強さの種類が違う。ゴブリンとは比べ物にならない」


「アリアは?」


 アリアがじっと考えた。


「セラが最初に剣を抜いた時」


「え、俺?」


「うん。セラがあんな顔をするの、見たことなかったから。怖がってなくて、でも無謀でもなくて、ただ前を見てて……なんか、それが一番ドキドキした」


(ドキドキの種類が違う気がするが、まあいい)


「それはまあ……頑張ってたから」


「うん。頑張ってたの、見てた。だからあたしも怖くなかった。セラが前にいると、なんか大丈夫な気がして」


 カトレアがニヤリとした。


「ギャハハ! アリア、いいこと言った! あたしもそれ、同じ気持ちだよ!」


「カトレアは怖くなさそうだったけどな」


「怖かったよ! 心の中では! でも、二人がいたから平気だった!」


(三人でいるから平気だった。一人でなんとかするより、三人で力を合わせる方がずっと強い。それが今の俺たちだ)


 夜はまだ続く。


 でも今夜は、これでいい。今日の成果を噛みしめながら、明日に向かうために。


 俺たちのダンジョンクエストは、こうして完了した。


 そして——次の挑戦は、もう始まっている。


 窓の外では、王都の夜が続いていた。


 遠くで鐘が鳴っている。九時の鐘だ。低くて重い、落ち着いた音色だ。この街の時を刻む音が、今は不思議と心地よく聞こえる。


 カトレアがスープをもう一杯頼んだ。料理人に元気よく注文する様子が、いつものカトレアだ。


「ねえセラ、試験の実技って何するんだろ」


「戦闘かな。状況判断も見るって言ってたから、何か特殊な課題が出るかも」


「魔法を全部出すの?」


「全部じゃなくていいと思う。適切な状況で適切な判断をすることが大事だと思う。ガトーさんが言ってたこと——強さとは最善を選ぶことだから」


「うまいこと言う」


 アリアが少し笑った。


「俺なりの解釈だけど」


「でもそれが正しいと思う。怖くても判断できた今日のセラを見て、そう思った」


(アリアがこんなことを言うようになった。ダンジョンで何かが変わったのかもしれない。俺だけじゃなく、アリアも変わっている)


「アリアも今日、一人で待ち続けてくれた。それがどれだけ支えになったか」


「そんな、待ってただけだよ」


「待っていてくれる人がいることが、帰ってくる理由になるんだ」


 アリアが少し沈黙した。それから、静かに笑った。


「……セラ、ずるい」


「なんで?」


「そういうこと言うから、もっと強くなりたくなる」


(アリアの言葉がまた、心に刺さる。いい方向に)


「セラ、眠い?」


 アリアが聞いた。


「いや、まだ眠くない。今日のことを色々考えてた」


「何を?」


「ランクアップの試験のこと。あと、オーガ・ロードのこと。それから——ミサトのこと」


「ミサトってあの女騎士?」


「うん。あの人、強い。けど、俺はいつか超えたい」


「え、なんで?」


「あの人に、俺たちのやり方が間違ってないって証明したい気持ちがある。Fランクでも、やれるってことを」


「……セラ、熱いね」


 アリアが少し嬉しそうに笑った。


「カッコいい。そういうセラ、大好き」


「……ありがとう」


(また心臓に悪いことを言ってくる。この幼馴染は武器を持ちすぎだ)


「ランクアップの試験、絶対合格しようね」


「うん」


「私も頑張るから」


「アリア、もう十分頑張ってるよ」


「もっと頑張る。セラのそばにいられるくらい、強くなる」


 アリアの声が、少し真剣になった。


「セラが強くなるなら、私も同じくらい強くなりたい。置いていかれたくないから」


(この子は、全力で俺のそばにいようとしている。その気持ちが、こんなにも真っ直ぐ届く)


「置いていかない。一緒に行く。どこへでも」


「……うん!」


 アリアが嬉しそうに笑った。


 その笑顔が、灯りの光の中でキラキラと輝いた。


 俺たちのダンジョンクエストは、終わった。


 でも、本当の冒険は、まだ続く。


 Eランクへ。オーガ・ロードへ。そして——まだ見ぬ、もっと大きな何かへ。


 食堂の弾き語りが、穏やかな曲から少し軽快なものに変わった。他のテーブルの冒険者たちが、拍子に合わせて手を叩いている。


 アリアが体を少し揺らした。


「楽しいね、ここ」


「うん。俺も好きだ、この店」


「私も! スープが本当に美味しい!」


 カトレアが三杯目のスープを手に、力強く言った。


 笑い声が、また三人の間に広がった。


 今夜は、この温かさを全部受け取っていい。明日からまた前を向くために。


 前を向いて、歩いていこう。三人で、一歩ずつ。


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