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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第70話 ギルドでの日々

# 第70話 ギルドでの日々


## ギルドの日常


 朝の光がギルドの入り口から差し込んでいる。


 セラは冒険者ギルドの重い木製の扉を押し開けた。カッ、と乾いた音がして、扉が内側へと開く。ギルド特有の匂い――古い木とインク、そして冒険者たちの汗と酒の混ざった匂いが鼻をくすぐる。


「おはよう、セラ」


 アリアが隣に立って笑顔で挨拶する。彼女の銀髪が朝の光を受けて輝いている。エルフ特有の尖った耳が微かに動くのが見える。その耳の動きだけで、彼女の今の感情――楽しさと少しの緊張――が読み取れた。


「おう、おはよう。アリア」


 ふと、自分の耳の感覚を意識する。転生してからまだ日が浅い頃は、耳の感覚過敏に戸惑っていた。人の話し声が一斉に流れ込んでくる感覚に耐えられず、耳を塞ぎたくなることも少なくなかった。


 でも今は、すっかり慣れた。人々の話し声、足音、皿が触れ合う音。それらが立体音響のように耳に入ってくるが、フィルタリングして必要な情報だけを拾えるようになっている。


「セラの耳、だいぶ慣れてきたね」


 アリアがセラの耳を見て微笑む。


「うん。最初は辛かったけど、今はむしろ役に立つと思ってる」


「ふふ、よかった。エルフとしての成長だね」


「エルフとしての成長、か」


 自分の耳に触れる。確かに、この三ヶ月で、エルフの体に馴染んでいくのを感じている。


 ギルドのホールはすでに賑わっていた。


 様々な種族の冒険者が行き交っている。人間の戦士たちが円卓で作戦会議をしている。甲高い声で議論している二人の戦士の横では、地図を広げている別の戦士たちがいた。


 ドワーフが酒場カウンターで何かを怒鳴っている。「この酒は薄すぎる!」と叫ぶドワーフの隣では、獣人の冒険者が肩を抱いて笑っている。


 猫耳の獣人が身振りを交えながら「昨日のウルフ、すげぇ速さだったんだよ!」と話している。エルフの冒険者も数人見える。ホールの隅で静かに会話中だ。自分たちと同じエルフがギルドにいるのは、少し安心感がある。


「あ、あそこの席、空いてる」


 アリアが指差す。ホールの隅にある小さなテーブル。いつも二人が使っている席だ。喧騒から少し離れた、落ち着ける場所。


「うん、行こう」


 テーブルへ向かうと、すれ違う冒険者たちから挨拶や軽い声が飛んでくる。


「お、セラ! 昨日のクエスト、お疲れ!」

「次のクエストも一緒に行かないか?」

「アリアちゃん、今日も可愛いねぇ」


「あはは、ありがとうございます!」


 アリアが軽く手を振って返す。その笑顔に、声をかけた冒険者たちも思わず笑み返した。


 セラも頷いて挨拶を返す。最初は、こういった挨拶にどう返せばいいのか戸惑っていた。でも今は、自然に返せるようになっている。


 こういった日常が、少しずつ自分のものになっている感覚だ。


 テーブルに座り、ホールを見渡す。


(三ヶ月前なら、こんな光景は想像もできなかった。エルフの森から外の世界へ出て、冒険者として登録して、王都で生活するなんて)


 異世界転生という言葉が、まるで夢物語のように感じられていた頃がある。でも今は、このギルドのホールで朝の時間を過ごすことが、当たり前の日常になりつつある。


「セラ、何考えてるの?」


 アリアが向かいの席に座り、首を傾げて聞いてくる。その大きな瞳が真っ直ぐにセラを見つめている。


「んー、ちょっと感慨に浸ってたかな」


「感慨?」


「うん。ここが、少しずつ自分の居場所になってきたかな、って」


 セラの言葉に、アリアの顔がぱっと明るくなる。まるで、太陽が雲から顔を出したように。


「わぁ、嬉しい! 私もそう思ってた!」


「うん? どういうこと?」


「だって、セラが最初はずっと緊張してたもんね。でも最近は、すっかりここに馴染んでるよ」


「まあ、そうかもな」


 苦笑する。確かに、最初は緊張していた。エルフの体になって、冒険者になって。すべてが非日常的で、戸惑いの連続だった。エルフの森から出たばかりの頃は、外の世界のすべてが新鮮で、同時に怖かった。見知らぬ人々、見知らぬ場所、見知らぬルール。


 でも今は、ギルドのホールで朝の時間を過ごすことが、当たり前の日常になりつつある。


「ねえ、セラ。今日はどんなクエストにするかな?」


 アリアがクエスト掲示板の方を見る。その視線の先には、多くの依頼書が貼られた掲示板がある。


「うーん、ちょっと難易度を上げてみようかなと思って」


「えっ、本当に?」


 アリアの目が丸くなる。驚きと少しの心配が混ざった表情だ。


「前のクエスト、順調にこなせたし。そろそろ次のステップかな、って」


 自分の手を見る。掌に光を宿す魔法、ウィンド・エッジ、防御魔法。転生してから得た能力が、確実に自分のものになっている感覚がある。


 掌を開くと、魔力が手のひらに集まってくるのがわかる。以前は、この魔力の流れを制御するのに苦労した。でも今は、無意識に魔力を操れるようになっている。


「セラが強くなってるのは嬉しいけど、無理はしないでね」


 アリアが心配そうに言う。


「大丈夫、アリアがそばにいてくれるなら」


 セラの言葉に、アリアが顔を少し赤らめる。


「うん……私、ずっとそばにいるもん」


 二人の間に、穏やかな空気が流れた。


 ギルドのホールでは、冒険者たちの日常が続いている。誰かが大笑いして、誰かが怒鳴って、誰かがコップを合わせている。その音が、BGMのように二人の周りを流れていく。


(これが、冒険者の日常だ。毎日が冒険ではなく、日常の中に冒険がある。クエストに出て、魔物と戦って、帰ってきて、また明日のクエストを探す)


「ねえ、セラ。あそこ見て」


 アリアが小声で言う。酒場エリアのことだ。


「うん?」


「あのおじさん、すごい風貌してない?」


## 経験豊富な冒険者との交流


 酒場エリアのカウンターに、一人の老人が座っている。


 銀色の髪は、月明かりのように輝いていた。顔中には、無数の傷跡。小さな傷もあれば、長い傷もある。それらの傷が、老人が数え切れないほどの戦いを経験してきたことを物語っていた。


 分厚い鎧は、何度も修理された跡がある。その一つ一つの傷が、老人の冒険の歴史を語っているようだ。


 そして背中には、巨大な両手剣。セラの背丈ほどもある。鞘から覗く剣身が、薄い光を反射している。


 一目見て、歴戦の冒険者だとわかる風貌だ。


「うわ、すげぇな」


 セラが呟く。


「行ってみない?」


 アリアが提案する。


「ええっ、いいの?」


「まあ、挨拶くらいなら」


 二人は立ち上がり、酒場エリアへ向かう。


 酒場エリアはホールよりも少し奥にあり、照明が暗めになっている。カウンターには様々な冒険者が並び、バーテンダーが酒を注いでいる。


 老人はそのカウンターの端に座り、何も言わずに酒を飲んでいる。その背中は、誰も近づけないような雰囲気を放っていた。


 二人が近づくと、老人が顔を上げる。鋭い目が二人を捉えた。その目には、長い年月を生き抜いてきた者の知性と威圧感が宿っている。


「ん? 若いの、じゃねぇか」


 老人の声は低く、響きがある。まるで、深い洞窟から響いてくるような声だ。


「あ、す、すみません。隣の席、空いてますか?」


 セラが聞く。


「フッ、好きにすれば」


 老人は鼻を鳴らし、視線を酒のグラスに戻す。拒絶ではなく、むしろ歓迎のようにも感じられる言い方だった。


 二人は老人の隣の席に座る。


「おっさん、いい剣だね」


 セラが老人の背中の両手剣に話題を振る。


「ふん、見る目があるな。これは『ドラゴンスレイヤー』だ。俺がまだ若かった頃、ドラゴンを一刀両断した際の名刀だ」


「ドラゴン!?」


 アリアが思わず声を上げる。


「驚かせるなよ、若い女の子。今はもうドラゴン狩りは勘弁だ。腰が痛くなる」


「へへ、すみません。でもすごいです! あなた、どんな冒険をしてきたんですか?」


 アリアが身を乗り出して聞く。その瞳は、好奇心で輝いていた。


 老人はふふんと笑い、酒を一口飲んでから語り始める。


「いいか若いの、まずは聞け。俺が冒険者になって四十年。最初はGランクからスタートしたんだ。当時は今みたいにギルドの制度もしっかりしてなくて、な。生き残るだけで精一杯だった」


「四十年……」


 セラが感嘆する。四十年間、毎日が冒険だったなんて、想像を超えている。


「最初の数年は、死にかけたこと何度だかわからねぇ。洞窟でゴブリンに囲まれたこと、森でウルフの群れに追われたこと、ダンジョンで罠にかかって三日間閉じ込められたこと……」


 老人の目が遠くを見つめる。過去の記憶が浮かんでいるようだ。


「洞窟でのゴブリン戦は、今でも忘れられねぇ。仲間が二人死んだ。俺もあと少しで死ぬところだった。でも、その経験があったから、今の俺がある」


「すごい……」


 セラが呟く。死にかけた経験、仲間を失った経験。それらを乗り越えてきた老人の強さに、敬意を抱く。


「若いの、お前らも同じだ。まずは簡単なクエストから始めて、徐々に難易度を上げていく。それが冒険者の道だな」


 老人はセラの目を見る。その目には、若い冒険者への期待が込められていた。


「お前ら、まだ初心者みたいだな。どのくらい前から冒険者してる?」


「三ヶ月くらいです」


 セラが答える。


「へぇ、三ヶ月か。まだまだひよっこだな。でも、ギルドに馴染んでる様子を見ると、才能はありそうだな」


「いやあ、褒められると恥ずかしいです」


 セラは照れくさそうに頭をかく。


「ふん、謙遜するのもいいが、自分の実力は知るべきだ。自信を持つんだよ、若いの」


 老人は自分の両手剣を撫でる。その指は、剣を愛おしむように動いていた。


「この剣も、俺が若かった頃の冒険で得たもんだ。ドラゴンとの戦いは三日三晩続いた。最後は俺の一刀でドラゴンの首を落とした。その時の達成感は、今でも忘れねぇ」


「ドラゴンとの戦い、三日三晩……」


 アリアが目を輝かせて聞いている。


「若いの、お前らにもアドバイスを教えてやるよ。いいか、冒険者にとって大事なのは三つだ」


 老人は指を三本立てる。その指は、太くて、傷だらけだ。


「まず一つ。仲間を大事にしろ。一人で何でもできると思うな。命を預け合える仲間がいれば、どんな困難も乗り越えられる」


「はい!」


 二人が頷く。


「俺もかつて、仲間に救われたことがある。洞窟で罠にかかって、三日間閉じ込められた時は、仲間が助けに来てくれたんだ。あの時、仲間の大切さを痛感したよ」


「二つ目。準備を怠るな。装備、情報、体力。これらが整っていないと、命を落とすことになる」


「準備、大事ですよね」


 セラが頷く。準備は重要だ。前回のクエストでも、しっかり準備したおかげで成功できた。


「そして三つ目。自分の限界を知れ。無茶をすれば死ぬ。でも、挑戦もしろ。そのバランスが難しいが、そこが腕の見せ所だ」


 老人は酒を飲み干す。


「限界を知ることと、挑戦すること——そのバランス、ですね」


 セラが復唱する。


「そうだ。若いの、お前らにはまだ長い道のりがある。俺のように四十年も生き残れるとは限らねぇが、それでも一歩一歩進んでいけば、いつかは俺みたいなベテランになれるさ」


 老人はカウンターから降り、両手剣を背負い直す。その動作は、何十年も繰り返してきたかのようにスムーズだ。


「じゃあな、若いの。また会おう」


「あ、はい! ありがとうございました!」


 二人は老人の背中を見送った。


「すごい人だったね」


 アリアが呟く。


「うん。四十年も冒険者を続けるなんて。俺もああなりたいな」


「えへへ、セラなら絶対になれるよ!」


「いやあ、褒められると嬉しいけど、プレッシャーもあるな」


「だって、セラの魔力は平均の五倍以上もあったもん。あのおじさんも驚くと思うよ」


「まあ、それはあるかも。でも魔力だけじゃないだろ。経験も積まないとな」


「ふふ、セラ、謙虚すぎだよ」


 二人は酒場エリアから出て、再びホールに戻る。


 老人の言葉が心に残っている。


「仲間を大事にしろ。準備を怠るな。自分の限界を知れ」


 どれも大切な言葉だ。特に、仲間を大事にする、というのは深く響く。アリアがそばにいてくれるだけで、自分は安心できる。エルフの森を出てからずっと変わらない感覚だ。


「セラ、どうする? クエスト掲示板見る?」


 アリアが聞く。


「うん、見に行こう」


 二人はクエスト掲示板へ向かった。


## 少し難しいクエスト


 掲示板には多くの依頼書が貼られている。


 ・薬草採取クエスト(報酬:銀貨五枚)

 ・スライム討伐クエスト(報酬:銀貨七枚)

 ・ゴブリン討伐クエスト(報酬:銀貨十枚)

 ・ナイトバット討伐クエスト(報酬:銀貨十二枚)

 ・地下迷路探索クエスト(報酬:銀貨二十枚)


「うーん、どれにするかな」


 セラが掲示板を見る。


「少し難しいクエスト、って言ってたよね」


 アリアが横から覗き込む。


「うん。あの地下迷路探索クエスト、どうかな」


「えっ、地下迷路? 難易度は……」


 アリアが依頼書の詳細を読む。


「難易度D、報酬銀貨二十枚……。確かに、今までよりは難しそう」


「Dランクのクエストか。今はFランクだけど、少しずつ上げていけば挑戦できるかな」


 セラは掲示板の他の依頼書も見る。


 ・ウルフ討伐クエスト(報酬:銀貨十五枚)

 ・鉱山での魔石採取(報酬:銀貨十八枚)

 ・古代遺跡の調査(報酬:銀貨二十五枚)


「古代遺跡の調査、これも面白そうだな」


 セラが指差す。


「依頼内容は『王都北部の古代遺跡で、奇妙な現象が報告されている。調査をお願いしたい』……」


 アリアが読み上げる。


「報酬が二十五枚もある。難易度はDだが、調査クエストだから戦闘は少ない。それに——」


 少し考えてから、続ける。


「遺跡の調査って、魔物討伐より情報収集が主だ。今の自分たちなら、十分に対応できる」


「でも、王都北部って、結構遠いよね?」


「まあ。でも、少し挑戦してみる価値はある」


 セラは前のクエストのことを思い出す。スライム討伐、ナイトバット討伐、そしてダンジョン攻略。どれも順調にこなせた。自分の実力が上がっている実感がある。


「ねえ、セラ」


 アリアがセラの腕を掴む。その手の温もりが伝わってくる。


「無理はしないでね。もし準備不足なら、もっと簡単なクエストからでもいいよ」


 アリアの瞳には、心配の色がある。でも同時に、信頼の色もある。


「大丈夫。アリアがいてくれれば、どんなクエストでも大丈夫」


「セラ……」


 アリアの顔が赤らむ。恥ずかしさと喜びが混ざった表情だ。


「じゃあ、この古代遺跡調査クエストを受けてみようか」


「うん! 私、セラについていくもん!」


 二人は掲示板の前で決意を固める。


 少し難易度の高いクエスト。新たな挑戦。でも、二人でならできる。そんな確信が心にある。


「よし、じゃあ受付に行こう」


「はい!」


 二人は受付カウンターへ向かった。


## 受付嬢との会話


 受付カウンターには三人の受付嬢がいる。そのうちの一人、ミサキが二人に気づく。


「あ、セラさん、アリアさん! おはようございます!」


 ミサキが明るく笑顔で挨拶する。彼女の笑顔は、いつもギルドのホールを明るくしていた。栗色の髪が揺れ、大きな瞳が輝いている。


「おはよう、ミサキさん」


 セラが挨拶を返す。


「今日はどのクエストにされますか?」


 ミサキがメモを取り出す。器用にペンを動かす指。


「古代遺跡調査クエストを受託したいんだ」


 セラが言う。


「えっ、古代遺跡調査ですか? 確かに、王都北部のあれですね」


 ミサキが引き出しから依頼書を取り出す。


「このクエストは難易度Dですが、セラさんなら大丈夫ですね。最近の評判、すごいですよ!」


「評判?」


 セラが首を傾げる。


「はい! セラさんのこと、ギルド内で評判になってるんですよ。『新人なのに、すごい実力者だ』って」


「え、そうなの?」


 アリアが目を丸くする。


「はい! 前回のダンジョン攻略クエストで、第二層まで到達した話、有名ですよ。しかも、影の魔物を撃退したとか」


「あ、それはちょっとした偶然だよ」


 セラは照れくさそうに頭をかく。


「いやあ、謙遜しないでくださいよ。ギルドマスターもセラさんに期待しているんですよ」


 ミサキがクエストカードに必要事項を記入する。慣れた手つきだ。


「では、古代遺跡調査クエストのカードをお渡しします。王都北部の廃墟へ行き、奇妙な現象の調査をお願いします。期限は三日間です」


「はい、了解しました」


 セラはクエストカードを受け取る。カードは、少し重みがあるような手触りだ。


「あ、そうそう。最近、セラさんのところに他の冒険者から声がかかってるんですよ」


 ミサキがニッと笑う。


「声、って?」


「はい。『一緒にクエストに行かないか』って。セラさんの実力を知って、みんなが組みたいって言ってるんです」


「え、そんな……」


 セラが驚く。


「ふふ、人気者ですね、セラさん」


 アリアが少し苦笑いしている。誇らしさと少しの嫉妬が混じったような表情だ。


「いやあ、そんなつもりはないんだけどな」


「でも、セラはすごいもん。魔力が平均の五倍以上だし、無詠唱で魔法が使えるし。私も驚いてるよ」


「アリアまで……」


 セラは少し照れくさい。


「まあまあ。ギルド内での評判も良いことだと思いますよ。それだけ、セラさんの実力が認められているってことですし」


 ミサキがクエストカードを渡す。


「では、気をつけて行ってらっしゃい! 期待しています!」


「はい、ありがとうございます!」


 二人はカウンターを離れた。


「セラ、人気者だねぇ」


 アリアがからかうように言う。


「いやあ、全然そんなつもりはないんだけどな」


「ふふ、でも凄いことだよ。三ヶ月でここまで評判になるなんて」


「まあ、確かに少しずつ実力はついてきたかな。魔力の制御も良くなったし、連携もスムーズになった」


「そうだね。私もセラと一緒にいて、魔力が安定するのがわかるよ」


「アリアがいてくれるから、安心できるんだ」


 二人はギルドの入り口へ向かう。


 午後の日差しが入り口から差し込んでいた。温かく、二人を包み込むような光だ。


「ねえ、セラ。明日、準備しに行こう? 装備とか、補給品とか」


「うん、そうだな。しっかり準備してから臨みたい」


「ふふ、あのおじさんのアドバイス、実践してるね」


「準備を怠るな、って。本当に大切なことだと思う」


 二人はギルドを出て、王都の通りへ出た。


 夕方の空がオレンジ色に染まっている。王都の街が夕日を浴びて輝いている。家々の屋根が、夕日を反射して金色に光っていた。


「今日はゆっくり休もう。明日からまた頑張る」


「うん! セラと一緒なら、どんなクエストでも大丈夫!」


 アリアがセラの腕を抱き寄せる。その温もりが、セラの心に響く。


 二人は『森の恵み亭』へ向かって歩き出した。


## 実力の向上


 夜、宿屋『森の恵み亭』の一室。


 セラとアリアは夕食を摂りながら、今日の出来事を振り返っていた。


 夕食は、シンプルだが美味しい料理だ。野菜スープ、パン、そして焼いた肉。腹を満たすと、心も満たされていくような感覚がある。


「今日はいろいろあったね」


 セラが言う。


「うん! あのおじさんの話、面白かったね。四十年も冒険者を続けてるなんて」


「あの人のアドバイス、参考になるな。仲間を大事にする、準備を怠らない、自分の限界を知る。どれも大切なことだ」


「セラは私を仲間だと思ってくれてる?」


 アリアが真っ直ぐにセラを見る。その瞳には、不安と期待が混じっている。


「ああ、もちろんだ。アリアがいないと、俺は何もできないよ」


「セラ……」


 アリアの表情が柔らかくなる。


「魔力の制御も、アリアが近くにいると安定する。戦闘でも、アリアがそばにいると安心できる。本当に、ありがとう」


「いえだよ。私もセラがいるから、頑張れるの」


 二人は手を握り合う。その手の温もりが、二人の心を繋いだ。


「最近、自分が強くなってるのを感じるんだ」


 セラが言う。


「強く、なった?」


「うん。魔力の制御が良くなった。魔法の威力も上がった。そして何より、迷いが減った」


「迷い?」


「最初は、自分が何のために冒険者をしているのか、わからなかった。でも今は、アリアを守るために、自分の力を磨いている。その目的が明確になっただけで、強くなれた気がする」


「セラ……」


 アリアの瞳が潤む。


「エルフとしての才能もあるし、この世界での経験も積んできた。それを活かして、少しずつ成長している実感がある」


「私もセラの成長を感じてるよ。最初は不安だったけど、今は自信を持ってクエストに挑める」


「うん、これからもっと強くなる。古代遺跡の調査クエストも、必ず成功させる」


「ふふ、セラのそばにいるから、私も強くなれそうだよ」


 二人は笑顔で食事を続けた。


 夕食の後、二人はベッドに並んで座る。部屋の灯りが、二人の顔を優しく照らしていた。


「ねえ、セラ。私、最近魔力の感覚が変わってきた」


「変わってきた?」


「うん。以前は、魔力を感じるのが難しかった。でも最近は、セラの魔力も感じられるようになったの」


「俺の魔力を?」


 セラが驚く。


「はい。セラの魔力が、温かい感じがするの。まるで、太陽の光みたいに」


「太陽の光、か」


「うん。だから、セラと一緒にいると、私の魔力も温かくなる。そして、安心できる」


 アリアの瞳は、真っ直ぐにセラを見つめている。その瞳には、深い信頼が宿っていた。


 セラはアリアの手を握る。小さくて、温かい手だ。


「俺も、アリアの魔力を感じるんだ。アリアの魔力は、優しくて、穏やかで。一緒にいると、落ち着く」


「ふふ、セラの魔力は、強くて、温かくて、頼もしいよ」


 二人は顔を見合わせた。


「エルフとしての能力とこの世界での経験。それらが混ざり合って、今の俺たちがあるんだな」


「うん。セラとの出会いが、私の人生を変えた」


「俺も、アリアに出会えてよかった。エルフの体になって、アリアと再会して。すべてが必然だった気がする」


「必然、ね。ふふ、素敵な言葉だね」


 二人は静かに微笑み合う。


 窓の外には、夜空が広がっていた。王都の街灯が星の下で輝いている。遠くで、誰かの笑い声が聞こえてくる。


「明日は装備の買い出しに行こう。しっかり準備して、クエストに挑むんだ」


「はい! 私も手伝うよ!」


 二人はベッドに横になる。


「おやすみ、アリア」


「おやすみ、セラ」


 目を閉じる。


 今日は、ギルドで様々なことを学んだ日だった。


 老兵冒険者からのアドバイス、少し難しいクエストへの挑戦、受付嬢からの評価。それらすべてが、自分の成長を後押ししてくれている。


 魔力の制御が良くなった。自信がついた。そして何より、アリアという大切な仲間がいる。


 セラは、明日のクエストへの期待を胸に、眠りへと落ちていった。


 夢の中で、彼は広大なフィールドを走っている。アリアが隣を走っている。二人の手が繋がっている。そして遠くに——未知の遺跡が見えていた。


 明日の挑戦への予告の夢だった。


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