第69話 初クエスト完了
# 第69話 初クエスト完了
## 採取完了
「あ〜っ、やっと終わった……」
セラが深いため息を吐きながら、地面に腰を下ろす。森の木漏れ日はもう夕暮れ色に変わっていた。一日中薬草を探し回って歩き回った足には、鈍い痛みが走っている。
隣でアリアも同様にへたり込むように座り込んだ。
「ふぅ……本当に大変だったね。これだけ歩くなんて」
アリアの額にはうっすらと汗が滲んでいる。普段は清楚に整えられた銀髪も、少しだけ無造作に乱れている。
「でも、全部採れた」
セラは足元に置いた魔法袋を手に取る。中には、クエストで指定された三種類の薬草――月草、太陽草、そして水蓮の根――がそれぞれ指定された分量だけ、丁寧に保管されていた。
「うん、セラのおかげだよ。アリアだけじゃ、きっと半分も採れなかった」
アリアがそう言って、少し照れたように微笑む。
「そんなことないよ。アリアが水蓮の根を見つけてくれたから、こっちは水中で手こずらずに済んだ。それに、太陽草が高いところに咲いてたのをアリアが魔力で落としてくれたし」
「えへへ、それは魔法の練習にもなったから」
アリアが楽しそうに笑う。
今日の作業は、二人にとって予想以上にハードなものだった。清流の森は美しいが、薬草の生育地は様々だった。月草は日陰の湿った場所、太陽草は逆に日当たりの良い高い場所、水蓮の根は当然のように川の中だ。
特に水蓮の根の採取は一苦労だった。冷たい川の中に入り、泥の中に埋まった根を慎重に掘り出す作業。エルフの服は水に強いとはいえ、濡れた不快感は避けられなかった。
「でも、楽しかったね」
アリアが静かに言う。
「え?」
「だって、セラと二人で、協力して一つのことをやり遂げたから。これまでエルフの森で過ごしてきた時とは、ちょっと違う冒険の感じがした」
セラはアリアの言葉を反芻した。
確かに、今までの体験とは違っていた。エルフの森での魔物討伐も、村を守るための重要な仕事だった。でも、今回は「冒険者」として、ギルドから依頼されたクエストを完遂したのだ。その事実に、胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じた。
「……うん、そうだね。楽しかったよ」
セラが魔法袋をもう一度確認する。
(月草十束、太陽草八本、水蓮の根十二個。指定された分量、全部揃ってる。森狼に突撃されながらも、ちゃんと完遂した。我ながら、悪くない)
「全部で、月草十束、太陽草八本、水蓮の根十二個。指定された分量、全部揃ってる」
「よかったぁ。これでちゃんと報告できるね」
アリアの顔がパッと明るくなる。
「そうだよ。これで俺たち、初めてのクエストをクリアしたんだ」
セラは自分の言葉を噛みしめるように繰り返した。
初クエスト、完了。
その事実は、単なる作業の完了以上の意味を持っていた。かつては佐藤カズヤという平凡なサラリーマンだった自分が、異世界で美形エルフに転生し、そして今、冒険者として最初の仕事をやり遂げたのだ。
(美形エルフに転生して、幼馴染は美少女で、魔法は使えて、初クエストは完了。……なろう系かよ、と思ってたけど、ちゃんと足が痛い。ちゃんと怖かった。これがリアルだ)
「セラ?」
アリアが心配そうに覗き込んでくる。
「なんか、急に真剣な顔してるよ」
「あ、ごめん。ちょっと感慨に入ってて」
「感慨?」
「うん。俺たちがここにいるってことの、リアリティってやつ? 急に実感されたよ」
アリアは少し考えてから、柔らかく微笑んだ。
「私にもわかるよ。セラと出会ってから、いろんなことがあったもんね。エルフの森での生活も、外の世界への旅立ちも、そして今回の冒険者デビューも……全部、セラがいたからできたことだと思う」
アリアがそう言って、セラの手に自分の手を重ねる。
ふとした瞬間に、セラの魔力がアリアの接触によって安定するのを感じた。いつもの感覚。アリアが近くにいるだけで、暴走しがちな自分の魔力が穏やかに収まっていく。
「アリア……」
「私、セラのそばにいてよかった。それがずっと思ってること」
「俺も、アリアに出会えて本当によかった。アリアがいてくれたから、ここまでこれたんだ」
二人はしばらくの間、手を繋いだまま沈黙を楽しんだ。森の鳥たちが巣に帰る声が聞こえ、夕闇がゆっくりと周囲を包み込んでいく。
「ねえ、そろそろ帰ろうか。暗くなると、森も危ないし」
アリアが提案する。
「そうだね。ギルドの受付も、もうすぐ閉まる時間だしね」
セラが立ち上がると、アリアも自然と手を引き離して立ち上がった。その動作の一つ一つが、長年連れ添った相棒のような自然さを持っていた。
「でも、その前に一つ確認」
セラが魔法袋をもう一度確認する。
「ん、何か忘れ物?」
「忘れ物はないけど、これがちゃんと保存されてるか。保存用の魔法袋だよね? 薬草は鮮度が重要だから」
「あ、そうだった! アリア、専用の保存魔法袋用意してきたよ」
アリアが懐から別の小さな袋を取り出す。
「これに移し替えないと。鮮度が落ちちゃう」
二人は慌てて薬草を保存魔法袋に移し替える作業を始めた。月草は乾燥しないように湿度を保つ魔法、太陽草は逆に日光のエネルギーを封じ込める魔法、水蓮の根は水中の状態を再現する魔法。それぞれに適した処理が必要だ。
「あ〜っ、間違えないでね。月草はこっちの青い袋、太陽草は黄色い袋、水蓮の根は水色の袋だよ」
「わかってるって。エルフの森でも薬草の採取、何回もやったことあるし」
「そうだけど、今回は冒険者としての仕事だから。ちゃんとプロらしく、完璧にやりたいじゃん」
アリアの言葉に、セラは苦笑いしながらも頷いた。
「確かに。プロの冒険者として、クライアント――今回は薬局のリサ先生だっけ?――に満足してもらわないとね」
「うん! セラは私の相棒として、最高の仕事をしてくれると信じてるよ」
アリアがパシッとセラの背中を叩く。その力強さに、セラは少しやり返したくなる衝動を抑えた。
「相棒、か。いい響きだな」
「でしょ? これからもずっと、私の相棒だよ」
アリアが悪戯っぽく笑う。
数分後、すべての薬草がそれぞれの保存袋に無事収められた。
「よし、完璧だ」
セラが満足げに頷く。
「リサ先生もきっと喜んでくれるよ」
「うん、期待してる」
「じゃあ、行こうか。王都までの帰り道、まだ少し遠いし」
「うん! がんばろう、セラ!」
アリアが元気よく答え、二人は並んで歩き出した。
森の入り口までは、来る時よりも少し速く歩けた。達成感が足取りを軽くしてくれる。セラはそれを体感しながら、アリアと共に夕暮れの森を進んでいった。
## 帰還の道
森を抜けると、街道が夕闇の中に伸びていた。
空には最初の星が輝き始め、西の空にはまだ薄らと日没の残照が残っている。冷たい夜風が頬を撫でるが、疲れと達成感が混ざった不思議な感覚が、寒さをそれほど苦痛に感じさせなかった。
「ふぅ……。やっぱり、歩いたね」
アリアが伸びをする。
「それにしても、王都の灯りがきれいだね」
アリアが指差す先、街道の向こうに王都のシルエットが浮かび上がっていた。城壁の明かり、街の灯り、そして遠くに見える白い塔――王都魔法学園の象徴とも言えるあの塔――が、夜空に向かって聳え立っている。
「うん、本当にきれいだ」
セラも足を止めて、遠くの王都を眺めた。
「あの中に、俺たちが今から帰る場所があるんだなって、なんか不思議な感じ」
「そうだね。エルフの森を出てから、いろいろあったもんね」
アリアも隣に立ち、同じ方向を見上げる。
「最初の街での冒険者登録……。王都への道中での盗賊との遭遇……。そして、入学試験と学園生活……。あっという間だったけど、振り返ると濃密だったよね」
「濃密だね。毎日が何か新しいことの連続だった」
セラは苦笑する。
「でも、悪くなかった。むしろ最高と言っておこう」
「ふふ、セラらしい言い方ね」
アリアが楽しそうに笑う。
「ねえ、セラ。今日のクエスト、どうだった? 初めての正式な仕事として」
セラは少し考えてから答えた。
「……正直に言うと、予想より大変だった。でも、終わってみれば達成感がすごかった。それに、アリアと二人で協力できたことが何より良かった」
「うん、私も! セラと一緒なら、どんな仕事も楽しくできる気がする」
「大げさだよ、アリア。もっと大変なクエストもあるよ」
「大丈夫。セラがいるから」
アリアの言葉には、迷いがない。
「アリア……」
セラはアリアの横顔を見る。夜風が彼女の銀髪をそっと揺らしている。その佇まいは、いつ見ても美しいと思った。
「それにしても、夜の街道は雰囲気あるね」
アリアが話題を変える。
「うん、昼間とは違う顔を持ってる感じ。こうやって静かに歩けるのも悪くない」
「うん、そうだね。でも、少し寂しいかも」
「寂しい?」
「だって、もし四人で来てたら、もっと賑やかだったのにって」
セラは少し驚いてアリアを見た。
「アリアって、みんなでいるのが好きなタイプ?」
「えっ、そ、そうじゃなくて! 私だってセラと二人っきりの時間、大事にしてるつもりだけど……」
アリアが慌てて手を振る。
「ただ、みんなでいると、なんか安心するのよね。いろんな人が集まって、それぞれの強みが出て、全体がまとまる感じ? そういうのが、私には落ち着くの」
「ふっ、まとまる感じか。俺、リーダー向いてるのかもな」
「えへへ、セラはリーダーだよ。無自覚だけど」
アリアが素直に言う。
「まあ、四人で次のクエストを受ける時は、またみんなで相談だね」
「うん! そだね! 期待してるよ、次のクエスト!」
二人の足取りは、王都に近づくにつれて少しずつ軽くなっていった。達成感と疲労感が入り混じった独特の感覚が、心地よい疲労として体に残っている。
「あ、そうだ。ギルドの受付、何時に閉まるっけ?」
セラが思い出したように聞く。
「たしか、夜の八時だったよね。今は……」
アリアが空を見上げる。
「星の位置からすると、七時半くらいかな。間に合いそう」
「よかった。報告が明日になると、薬草の鮮度が落ちちゃうしね」
「うん、リサ先生にもちゃんと届けたいし」
「それに、初報酬ももらうしね」
セラは口元が少しだけ緩むのがわかった。報酬――冒険者として初めて稼ぐお金。単なる金銭以上の意味がある。自分の手で稼いだ対価。ある種の自立の証だ。
(初報酬。自分の手で稼いだ対価。毎月の給料日に銀行口座に振り込まれる数字を確認するのが当たり前だった。ここでは実際に銀貨を受け取る。「稼いだ」という感覚の強さが、全然違う)
「セラ、なんか楽しそうな顔」
アリアがからかうように言う。
「えっ、う、ううん、楽しみじゃないけど……いや、楽しみと言えば楽しみだけど」
「ふふ、素直でいいじゃん。初めての報酬だもんね。私も楽しみにしてるよ」
「アリアも?」
「うん。だって、これからセラと一緒に冒険者として活動していくんだから。ちゃんと報酬ももらって、ちゃんと生活していかないとね」
「生活、か。まあ、確かに宿代とか食費とか、かかるしね」
「それに、貯金もしないと。将来のことだってあるし」
「将来、ね」
セラはアリアの言葉を反芻した。将来。この世界で、アリアと一緒に生きていく将来。その言葉には、重みと温かさが同時に込められているように感じた。
「ねえ、セラ。将来の夢とかってある?」
突然の問いに、セラは少し考えた。
「夢か。ただ、強く願っていることはある。アリアとみんなを守れるくらい強くなりたいってことと、この世界で幸せに暮らしたいってこと」
「幸せに暮らしたい……。セラらしい夢だね」
「アリアは?」
「私?」
アリアは少し考えてから、遠くの空を見上げた。
「私の夢は、セラのそばにいること。それから、みんなで幸せに暮らす家を持つこと。小さくても、暖かい家がいいな」
「暖かい家、か。いいね」
「うん。いつか、ね」
二人は少しだけ黙り込み、王都の灯りに向かって歩き続けた。
街道の脇には、時折宿場の灯りが見える。旅人たちが休む場所、商人たちが語らう場所。その光景を見ながら、セラは自分たちもその一部になっていく感覚を抱いた。
「あ、もう見えてきた! 王都の門だ!」
アリアが指差す。
確かに、遠くに王都の巨大な門が見えていた。門には松明が灯り、夜の中に鮮明な輪郭を描いている。
「よし、あと少し。がんばろう」
「うん! ギリギリ間に合いそうだ!」
二人は少しだけ歩調を速めた。足の痛みや疲労感は、ゴールが見えたことで少しだけ軽く感じられた。
王都の門に近づくと、衛兵たちが勤務についていた。
「おっと、夕暮れに出かけていったエルフの二人さんだな」
一人の衛兵が気づいて声をかけてきた。
「あ、こんばんは。クエストから帰ってきたところです」
セラが答える。
「クエスト、ですか。初めての仕事だったのか?」
衛兵が興味深そうに二人を見る。
「はい、薬草採取のクエストを完了してきました」
「ほう、薬草採取。新人向けの仕事だな。だが、初仕事を終えて帰ってくる冒険者ってのは、いつ見ても悪くないもんだ」
衛兵が満足そうに頷く。
「気をつけて行ってきな。王都の中も、夜は少し荒れるかもしれんから」
「はい、ありがとうございます」
二人は衛兵に挨拶をして、門をくぐった。
(見知らぬ衛兵のおじさんに言われた一言が、なぜかじんと来る。胸の内側に、ぽっと何かが灯ったような。環境が人の感覚を変えるのか、それとも俺が変わったのか)
王都の夜の空気は、昼間とは違っていた。昼間の活気は少し薄れ、代わりに大人の雰囲気が漂っている。酒場からは笑い声が漏れ、宿屋の灯りは温かい光を放っている。
「ふぅ、やっと王都だ」
セラが安堵の息を吐く。
「ねえ、ギルドはこの先だよね」
「うん、覚えてる。商業区の広場の角にある大きな建物だったはず」
「じゃあ、急ごう。八時まであと十五分くらい」
「うん!」
二人は並んで、王都の石畳の道を歩いていく。夜風に乗って、どこからか料理の匂いが漂ってくる。胃袋が少し抗議を起こしたが、ギルドでの報告を優先しなければならない。
「あ、あそこだ!」
セラが指差す。
確かに、巨大な剣と杖の紋章を掲げた石造りの建物が見えた。冒険者ギルド。まだ明かりがついている。
「間に合った!」
アリアが小さく声を上げる。
「よし、行こう。俺たちの、初クエスト完了報告だ」
セラが一歩前に進む。
その背中を、アリアがいつでもついてこられる距離でついていく。二人の影は、松明の光によって長く伸び、王都の石畳の上に揺れながら重なっていった。
## ギルド報告
冒険者ギルドの重い木の扉を押し開けると、活気ある雰囲気が溢れ出してきた。
夜という時間帯にもかかわらず、ギルドのホールはまだ賑わっていた。クエストから帰ってきた冒険者たち、明日の仕事を探している冒険者たち、情報を交換している冒険者たち。多種多様な種族が入り混じり、それぞれのテーブルで話をしている。
「わぁ……。賑やかだね」
アリアが少しだけ目を丸くする。
「うん、夜のギルドも捨てたもんじゃないね。でも、まずは受付だ」
セラはアリアの手を引いて、受付カウンターへと向かった。
カウンターには数人の受付嬢が勤務していたが、その中に見覚えのある顔を見つけた。ミサキだ。自分たちの冒険者登録を手伝ってくれた、笑顔の素敵な受付嬢。
「あ、セラさんとアリアさん!」
ミサキが二人に気づいて、顔を輝かせた。
「こんばんは、ミサキさん」
セラが挨拶する。
「こんばんは! お疲れ様です。今日は初クエスト、でしたっけ?」
「はい、薬草採取のクエストを完了してきました」
「お疲れ様でした! それで、うまくいきましたか?」
ミサキが心配そうな表情で聞く。
「はい、おかげさまで。指定された分量の薬草をすべて採取できました」
セラが魔法袋をカウンターに置く。
「こちらが、採取した月草、太陽草、そして水蓮の根です。保存用の魔法袋に入れてあります」
ミサキが魔法袋を丁寧に受け取る。
「保存用の魔法袋をちゃんと使っているんですね。新人にしては、かなり丁寧な仕事ですわ」
ミサキが袋を少し開けて中身を確認する。
「わぁ、きれいに採取できてますね。鮮度も完璧です。リサ先生、きっと喜びますよ」
「リサ先生、お元気ですか?」
アリアが聞く。
「ええ、おかげさまで。今日も『新しい新人が来るのを楽しみにしてるわよ』って仰ってましたよ」
「ちゃんと採取できてよかった」
アリアが小さく息を吐いた。肩の力が抜けたのがわかった。
「それでは、完了手続きを進めますね」
ミサキが帳簿を取り出す。
「クエストカードとギルドカード、お願いします」
セラが懐から二枚のカードを取り出し、カウンターに置く。一枚は昨日受け取ったクエストカード、もう一枚は登録テストの合格後に発行されたギルドカード。
「はい、確認しましたね。セラさん、クエストNo.067、薬草採取(月草・太陽草・水蓮の根)。依頼主:薬舗『緑の葉』リサ・グリーン先生。目標達成、完了確認」
ミサキが事務的に確認し、クエストカードに赤い印を押す。
「はい、これで完了手続きが完了しました。おめでとうございます、セラさん、アリアさん。初クエスト、ご苦労様でした」
「ありがとうございます」
セラとアリアが同時に頭を下げる。
(ギルドカードに赤い印が押された。これが冒険者としての最初の実績だ。今日は感傷に浸っていい。初クエストだし)
「それにしても、素晴らしい早さでの完了ですわ。初日で全部採り終わる新人なんて、そういませんよ」
ミサキが二人を称賛する。
「……それ、褒め言葉ですよね?」
セラが少し不安げに聞く。
「ええ、もちろん。新人は通常、二日から三日かかることが多いです。それを一日で、しかも鮮度を保ったまま届けるなんて、かなり優秀ですわ」
ミサキが満足げに微笑む。
「はあ、安心した。失敗したらどうしようかと思ってたんで」
セラが額を撫でる。
「失敗? セラはそんな心配してたの?」
アリアが驚いて顔を上げる。
「してるよ。アリアには見せないようにしてたけど」
「ふふ、セラらしいね」
「あらあら、二人とも仲がいいですね。まるで長年連れ添った夫婦みたい」
ミサキの言葉に、二人は少し照れた顔を見せ合わせた。
「で、でございます! 夫婦じゃありませんけど!」
セラが慌てて否定する。
「ふふっ、冗談ですわ。でも、二人の連携は素晴らしいですね。これからの活躍を期待していますわ」
ミサキが楽しそうに笑う。
「ところで、ミサキさん。これでポイントとか付くんですか?」
セラが気になったことを聞く。
「おっと、仕事熱心ですねえ。はい、もちろん。クエスト完了でギルドポイントが加算されます。今回の初クエスト完了で、5ポイント付与されますよ」
「5ポイント、ですか。それで何かできるんでしょうか」
「はい。ポイントが貯まると、ギルドのランクアップが有利になったり、特別なクエストに応募できるようになったりします。詳しくはギルドのルールブックで説明しますけど」
「なるほど。ポイント制度もあるんですね。よくできたシステムだ」
セラが感心する。
「ええ、冒険者のモチベーション維持にもなりますし。それに、ポイントの上位者にはギルドから表彰もありますよ」
「表彰、ですか。いつか目指してみますね」
セラが少し気合を入れた声で言うと、ミサキはさらに楽しそうに微笑んだ。
「期待していますわ。それでは、リサ先生への引渡しをしましょうか。今日中の方がよろしいですか?」
「はい、今日中にお願いします。鮮度のうちに届けたいので」
「はい、わかりました。リサ先生の店はギルドの裏手にあるので、これから案内しますわ」
「あ、案内していただけるんですか? ありがとうございます」
「ええ、新人の皆さんには初回のみご案内することになってますので。それに、リサ先生もお二人にお会いしたいと仰ってましたし」
ミサキがカウンターから出てくるように合図すると、別の受付嬢が交代で入ってきた。
「ちょっとお邪魔しますね」
ミサキが二人を案内し始める。
ギルドのホールを通り抜け、裏口へと向かう。裏口から出ると、少し静かな路地になっていた。石畳の道が続くその路地には、いくつかの専門店が軒を連ねていた。
「薬舗『緑の葉』はこの先の右側ですわ。看板がひまわりのマークのお店です」
ミサキが教えてくれる。
しばらく歩くと、確かにひまわりのマークの看板が見えてきた。温かみのある木造の建物で、窓からは柔らかな灯りが漏れている。
「ここですわ。リサ先生、今はお店を開けていらっしゃるはずです」
ミサキがドアをノックする。
「リサ先生、お客様ですわよ。クエストを完了されたセラさんとアリアさんです」
「ああ、どうも! 入っておくれ!」
奥から元気な女性の声が返ってきた。
ドアを開けると、薬草の香りが満ちる店内だった。壁一面には様々な薬草が干され、棚には色とりどりの瓶が並んでいる。カウンターの奥には、小柄な女性が立っていた。年齢は四十代前半だろうか。目は優しく、手際よく動いている様子が職人気だ。
「はじめまして、セラです」
セラが挨拶する。
「こちら、アリアです」
アリアも続けて挨拶する。
「はじめまして、リサ・グリーンです。クエストを受けてくれてありがとうね」
リサが笑顔で迎える。
「採取、うまくいったかな?」
「はい、これです」
セラが保存魔法袋をカウンターに置く。
「おおっ!」
リサが袋を開けて中身を確認すると、目を輝かせた。
「すごいなこれ! 保存状態が完璧だ! まるで採ったばかりみたいだ!」
リサがそれぞれの薬草を丁寧に取り出し、確認していく。
「月草、十束……完璧。太陽草、八本……こちらも素晴らしい。水蓮の根、十二個……泥の処理も丁寧で、傷一つない!」
リサは感心しながら頷き続けた。
「新人にしては、かなりの出来栄えだ。保存魔法の使い方も熟練者のようだし」
「エルフの森で、薬草の採取は何度か経験したことがあります」
セラが説明する。
「なるほど、エルフの森出身か。土地も土地だ。エルフの森の薬草は品質が高いって評判だけど、技術も高いようだね」
リサが満足そうに微笑む。
「まあ、感心したよ。これなら最高品質の薬剤が作れる。来てくれて本当によかった」
「お役に立てて光栄です」
アリアが礼儀正しく頭を下げる。
「いやいや、こちらこそ。次もまた頼みたいね。他の薬草の採取も、お前に頼みたいくらいだ」
リサがセラの肩をポンと叩く。
「次回もあれば、ぜひお願いします」
「ああ、もちろん。新人の使える冒険者はいつでも歓迎だよ」
リサが薬草を棚に整理し始める。
「それじゃあ、今日はこれで。報酬はギルド経由で受け取ってね。また来てくれたら、特別に高いクエストも用意できるかもよ」
「高い、ですか? それは魅力的ですね」
セラの目が少し輝く。
「ふふ、金に執着するのも悪くないよ。冒険者稼業だもの」
リサがニカッと笑う。
「それじゃあ、また。ミサキちゃん、送ってくれてありがとう」
「いえいえ、お仕事お疲れ様でした」
ミサキが挨拶し、三人は店を出る。
「リサ先生、いい人だね」
店を出てから、アリアが言う。
「うん、技術を認めてくれるのは嬉しい」
セラも頷く。
「それに、次の仕事も期待されているみたいだし。また声がかかりそうだね」
「うん、楽しみだね」
「それでは、ギルドに戻って報酬の受領手続きをしましょうか」
ミサキが提案する。
「はい、お願いします」
二人はミサキに従って、ギルドへと戻っていった。
## 報酬受領
ギルドに戻ると、まだホールは賑わっていた。
受付カウンターに戻ったミサキは、再び手続きを始めた。
「それでは、報酬の受領手続きを進めますね」
ミサキが帳簿を開く。
「クエストNo.067、薬草採取(月草・太陽草・水蓮の根)。依頼主より完遂の報告を受けましたので、報酬をお支払いします」
ミサキが計算を始める。
「基本報酬:銀貨五枚。鮮度ボーナス:銀貨一枚。初回ボーナス:銀貨二枚。新人ボーナス:銀貨一枚。合計……銀貨九枚となります」
「銀貨九枚、ですか!」
セラが少し驚いた声を上げる。
「はい、クエストによっては様々なボーナスが付くことがあります。今回は特に多くのボーナスが付きましたわよ」
ミサキが嬉しそうに説明する。
「鮮度ボーナスは保存状態が良かったから、初回ボーナスは初クエストだから、新人ボーナスは登録から一週間以内の完了だから。それぞれ設定されています」
「それは……驚きました。もっと安いのかと思ってたんで」
セラが正直に言うと、ミサキはクスクスと笑った。
「ふふ、セラさんは少し謙遜しすぎですわ。この仕事はしっかり値打ちがあるんですよ」
「値打ち、か」
セラはその言葉を反芻した。自分の仕事が正当に評価される。その感覚は、前世のサラリーマン生活ではあまり味わえなかったものだった。
「はい、これが報酬ですわ」
ミサキが小さな革袋をカウンターに置く。
「銀貨九枚、封印済みです。受け取りのサインをお願いしますね」
セラが革袋を手に取る。ずっしりとした重みがある。小さな袋の中に、自分たちの労働の対価が詰まっている。
「サイン、ですか」
セラがミサキから渡されたペンを手に取る。
「はい、帳面のこちらにお願いします。受取人として、セラさんのサインが必要です」
セラは帳面の指定された場所に、少し緊張しながらサインをした。佐藤カズヤとしてのサインではなく、セラ・ウィスパーウィンドとしてのサイン。新しい世界での、新しい名前での署名。その行為が、何か大きな節目のように感じられた。
「ありがとうございます。これで受領手続きが完了しました」
ミサキが帳面を確認し、ハンコを押す。
「おめでとうございます、セラさん。これがあなたの冒険者として初報酬ですわ」
セラは革袋を手の中で転がす。チャリッ、という硬貨の触れ合う音が、心地よく響いた。
「……これが、初報酬」
「うん、おめでとう、セラ!」
アリアが隣から祝福してくれる。
「ありがとう、アリア。これもアリアがいたからできたことだよ」
「そんなことないよ。セラが頑張ったからだよ」
アリアが否定する。
「二人で協力してやり遂げた成果ですわ」
ミサキが二人を見て微笑む。
「夫婦漫才みたいだねぇ」
「あ、また言ってますか!」
セラが慌てる。
「冗談冗談。でも、二人の連携は本当に素敵ですわ。これからも仲良くやっていってくださいね」
ミサキが優しく言う。
「はい、ありがとうございます」
セラが革袋を懐にしまう。
「それにしても、銀貨九枚ってどれくらいの価値なんですか? まだこの世界の金価値がよくわからなくて」
セラが素朴な疑問を口にする。
「ええ、少し説明しますわね」
ミサキが親切に教えてくれる。
「銀貨一枚で、一般的な家庭の夕食が四人分くらい。銀貨三枚で宿屋一泊分、銀貨五枚で安めの武器が買える。銀貨十枚あれば、一人で一週間は余裕で生活できます」
「一週間、ですか」
セラが革袋の重みを再確認する。
「つまり、今回の報酬で一週間強は生活できるわけですね」
「はい、そうですわ。新人にしては、まずまずのスタートですわ」
「まずまず、か。悪くないですね」
セラが少し笑う。
「それに、これはギルド非公認の話ですが……」
ミサキが少し声を潜める。
「新人で最初のクエストで銀貨九枚稼ぐのは、珍しいですわ。普通は銀貨五枚か六枚が相場ですから」
「へっ、そうなんですか?」
「はい。セラさんたち、優秀ですわ。将来が楽しみですわね」
ミサキの言葉に、セラは少し照れくさくなった。
「過誉です、ミサキさん。まだ何もわかってない初心者です」
「謙遜もいいところですわよ。でも、自分の実力を認めることも、冒険者には必要です」
ミサキが諭すように言う。
「はい、精進します」
セラが頭を下げる。
「それでは、今日はこれで。また、次のクエストも頼みますわね」
「はい、またよろしくお願いします」
セラとアリアが挨拶して、受付カウンターを離れた。
ギルドから出ると、夜風が少し冷たく感じた。でも、懐の革袋の重みが、その冷たさを埋め合わせてくれているようだった。
「銀貨九枚だね」
セラが呟く。
「うん、すごい金額だね。これでちょっと安心できる」
アリアも頷く。
「でも、全部使っちゃダメだよ。貯金もしないと」
「えへへ、セラは意外と堅実ね」
「だって、将来のこと考えるとね。いつかみんなと住む家も作りたいし」
「ふふ、それだ!」
アリアが目を輝かせる。
「それに、みんなにも連絡しないとね。私たち、無事にクエストを完了したって」
「そうだね。宿舎に戻ってから、連絡しよう」
「うん! 明日、みんなで祝いできたらいいね」
「祝い、か。悪くないアイデアだ」
セラが少し考えてから、頷いた。
「銀貨九枚もあれば、少し贅沢できるかもね」
「贅沢、ってどんな贅沢?」
「例えば、美味しい夕食を食べるとか。ちょっとしたことでいいんだよ」
「ふふ、セラは幸せを見つけるのが上手だね」
「そうかな。でも、小さな幸せの積み重ねが、幸せな人生だと思うんだ」
「うん、私もそう思う」
アリアがセラの腕に自然と手を絡める。
その感触に、セラは胸が温かくなるのを感じた。報酬の金額も嬉しいが、アリアと一緒に喜びを分かち合えることの方が、何倍も価値があるように思えた。
「さあ、帰ろうか。もう遅いし」
「うん、帰ろう。あ、そうだ! 明日はギルドで合流して、次のクエストを探す予定だよね?」
「そうだった。四人でのクエスト」
「楽しみだね。どんなクエストがあるのかな」
「さあね。スライム討伐とか、薬草採取の別バージョンとか、簡単なものから始めるのが無難かも」
「ふふ、セラは慎重だね。でも、それはそれでいいと思うよ」
「うん、無理は禁物だ。でも、ちょっとずつ難易度を上げていきたいとも思う」
「うん、少しずつ成長していこう。四人で」
「四人で、なら何でもできそうな気がする」
二人は手を繋いだまま、王都の夜の通りを歩いていく。街の灯りが二人の影を長く伸ばし、その影が時折重なるたびに、セラは幸せを感じていた。
## 祝いの言葉
「森の恵み亭」に戻ると、ロビーはすでに静まり返っていた。
宿の主人はすでに寝ていたようで、代わりに夜番の従業員が鍵を開けてくれた。
「お疲れ様でした。無事に戻られてよかったです」
従業員が礼儀正しく挨拶する。
「はい、おかげさまで。クエストも無事に完了できました」
セラが答える。
「それはおめでとうございます。夕食はもう終わっていますが、もし必要でしたら用意できますよ」
「いえ、大丈夫です。もう寝ますので」
「かしこまりました。おやすみなさいませ」
二人が自分の部屋に戻ると、そこは静寂に包まれていた。窓の外には王都の夜の景色が広がり、遠くからは微かな喧騒が聞こえてくる程度だ。
「ふぅ、やっと自分の部屋」
セラがベッドに腰を下ろす。
「うん、疲れたね」
アリアも隣のベッドに座り込む。
「でも、いい疲れだね」
「そうだね。達成感がある」
セラは懐から革袋を取り出し、テーブルに置いた。チャリッ、という音が静かな部屋に響く。
「銀貨九枚。俺たち初報酬」
アリアも革袋を見て微笑む。
「セラ、おめでとう」
「ありがとう。アリアにもおめでとう」
「えっ、私にも?」
「もちろん。アリアがいたからこそ、ここまでできたんだ。一人じゃ絶対に無理だったよ」
「セラ……」
アリアが少し赤らんだ顔でセラを見る。
「私も、セラに出会えてよかった。セラがいなかったら、ここまで冒険者として頑張れなかったと思う」
「お互い様だね。俺もアリアに出会えて、本当によかった」
二人はしばらくの間、静かに微笑み合っていた。
「ねえ、セラ。今日のこと、振り返ってみてどうだった?」
アリアが静かに聞く。
「どうだった、か。一言で言うと『大変だったけど、やりがいがあった』って感じかな」
セラが少し考えてから答える。
「森の中を歩き回って探すのは大変だったし、水蓮の根の採取は寒かった。でも、全部見つけた時の達成感は格別だった」
「うん、私もそう思う。特に最後の一本の水蓮の根を採った時、目の奥が熱くなった」
「あの瞬間は確かに特別だったね。二人で「やった!」って声を上げ合った時の高揚感は忘れないと思う」
「ふふ、私も。セラと『できた!』って言い合えたのが、何より良かった」
アリアが楽しそうに振り返る。
「それに、ギルドでの報告も緊張したけど、ちゃんと終わってよかったね」
「うん、リサ先生にも褒められたし。意外とやれるじゃん、って感じだった」
「セラは謙遜しすぎだよ。ちゃんと実力を認められてるの」
「そうかな。まあ、今回はアリアのおかげだと思ってるけど」
「ふふ、また言ってる。セラは他人の功績を謙虚に認めるのが上手だね」
「えっ、褒め言葉?」
「もちろん。でも、セラも自分の実力をもっと認めていいと思うよ」
アリアが真剣な表情で言う。
「セラは強いよ。魔法も優秀だし、判断も速いし、何より仲間を思いやれる優しさがある。それが、セラの強さだと思う」
「アリア……」
「私、セラのそういうところが大好き。だから、これからもずっと一緒に頑張りたい」
アリアがセラの手を両手で包み込む。
「俺も、アリアと一緒に頑張りたい。これからも、ずっと」
セラがアリアの手を握り返す。
二人の手のひらから伝わる体温が、静かな部屋の中で暖かさを増していく。
「あ、そうだ! 今日は初クエスト達成のお祝いしようよ!」
アリアがパッと顔を輝かせて言う。
「お祝い? どうやって?」
「えっとね、お祈りするとか、お互いに頑張ったねって言い合うとか……」
「ふふ、地味なお祝いだね。でも、悪くない」
「地味でいいよ。セラと一緒にお祝いできるだけで、私にとっては特別なんだから」
アリアが純粋な笑顔を咲かせる。
「それじゃあ、お祈りしようか」
セラが提案する。
「うん、目を閉じて祈ろう。明日以降も無事でありますようにって」
「うん」
二人はベッドの上で膝を折り、手を合わせた。
「……神様、あるいはこの世界を守る存在へ。今日私たちが初クエストを無事に完了できたことに感謝します。そして、明日以降も私たちが無事に冒険者として活動できますように。仲間のみんなと一緒に、多くのクエストをこなせますように。どうか、私たちをお守りください」
セラが心の中で祈りを捧げる。隣でアリアも静かに目を閉じて、同じように祈っているのがわかった。
静寂の中で、二人の祈りは天に届くように捧げられた。
「……おわり」
セラが目を開けると、アリアも目を開けていた。
「ふふ、なんか神聖な気分になったね」
「うん、そうだね。でも、悪くない気分だ」
「セラ、お疲れ様。初クエスト、よく頑張りました」
「うん、お疲れ様、アリア。これからもよろしくね」
「はい、これからもよろしくお願いします。私の相棒さん」
「相棒、か。またその言葉か」
アリアがクスクスと笑う。
「気に入ったんだもん。相棒って響き、私のことだって」
「わかったよ。俺も気に入ってる。アリアは俺の相棒だ」
「えへへ、聞けた」
アリアが満足げに微笑む。
「さあ、そろそろ寝よう。明日は早いし」
「うん、おやすみなさい、セラ」
「おやすみなさい、アリア」
二人はそれぞれのベッドに横たわった。静かな部屋の中で、互いの呼吸音が聞こえる程度の距離感。
「ところで、セラ」
「ん?」
「衛兵のおじさんに言われた時、なんかグッときてたよね」
「見てたの?」
「当たり前じゃん、隣にいたんだもん」
(完全に見られていた。あの瞬間、胸の内側に何かが灯ったのは確かだ。見知らぬ人に「初仕事お疲れ」と言われただけなのに、なぜか効いた)
「昔さ、人に認められることが少なかったんだ」
「そうなの?」
「よほどの成果を出さないと誰も褒めてくれない環境だった。だから、見知らぬ人に一言もらうだけで、こんなに——」
口が止まった。なんか恥ずかしい。
「こんなに、何?」
「……グッとくる、って話だ」
「セラって、褒められ慣れてないんだね」
「まあな。アリアはよく褒めてくれるけど」
「だって、いつも頑張ってるんだから、褒めて当然じゃない」
アリアが当然のように言った。
(「当然じゃない」か。アリアは全部見えている。それが、またグッとくる。本当に困る)
「ありがとう、アリア」
「ふふ、お礼なんていらないよ。私もセラに見てもらえてるから」
「見てるよ。毎日、ちゃんと」
「えへへ……そうか」
アリアが照れたように笑った。月明かりが窓から差し込んで、その笑顔を柔らかく照らしている。
セラはベッドの天井を見上げながら、今日一日を振り返った。
薬草採取、森の中での探索、アリアとの協力、ギルドでの報告、そして初報酬。どれもが初めての体験で、どれもが貴重な思い出になった。
「……これからも、こうやって冒険者としてやっていけるといいな」
独り言のように呟くと、隣のベッドからアリアの声が返ってきた。
「……うん、きっと大丈夫。セラならできるから」
「聞こえてたのか」
「ふふ、エルフの耳は鋭いよって言ったでしょ?」
「ああ、そうだったね」
セラが苦笑する。
「おやすみ、セラ。いい夢を」
「うん、おやすみ、アリア。いい夢を」
やがて、二人の呼吸音が規則正しいものに変わっていく。王都の夜も静けさを増し、遠くから聞こえる微かな喧騒だけが、ここがまだ眠っていないことを示していた。
セラは意識が薄れていく中で、最後に一つのことを思った。
明日は、四人でのクエスト。新しい冒険の始まりだ。
その予感が、心地よい期待感となって、セラを安らかな眠りへと誘っていった。
初クエスト完了の日が、穏やかに、そして静かに終わっていった。




