第65話 冒険者登録テスト
# 第65話 冒険者登録テスト
## テスト当日
今日は特別な日だ。
朝の光が窓から差し込み、部屋を白く染め上げていく。目覚まし時計のベルが鳴る前に、俺は目を開けていた。
(「今日で人生が変わる」的な気分だ。冒険者ギルドの登録テスト。就職活動の最終面接に似た緊張感があるが、こちらは魔法と剣が出る分、重みが違う)
「セラ、起きてる?」
隣のベッドからアリアが身を起こし、眠気眼のままで俺を見てくる。金色の髪が枕に乱れ、少しだけ前髪が顔にかかっている。
「ああ、起きてるよ。今日は早く行かないと」
「うん……そうだね。緊張する?」
「緊張? まあ、少し。でも大丈夫だと思う。アリアがいてくれるし」
俺の言葉に、アリアが顔を赤らめて小さく笑う。
「セラって、そんな風に言うんだね。私、ずっと応援してるから」
「ありがとう。俺も、アリアのおかげでここまで来られたと思ってる」
宿の食堂では、すでに多くの冒険者が朝食をとっていた。
「おはようございます、セラさん、アリアさん。今日はテストの日だよね? 頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
焼きたてのパン、温かいスープ、新鮮なサラダ、ハムエッグ。しっかりとした朝食だった。
「美味しい……」
アリアがパンを一口食べて、目を輝かせる。
「セラ、大丈夫だよ。魔法学園の試験も乗り越えたんだから」
「うん。でも、今回は魔法だけじゃないらしい。身体能力もテストされるんだ」
「身体能力も、セラなら大丈夫。エルフだし、古代エルフの呼吸法もできるし」
「そうだね」
(アリアの「大丈夫」は根拠がある。信頼というのは、そういうものだ)
朝食を終えて、俺たちは宿を出てギルドへ向かった。王都の朝はすでに賑わいを見せていた。パン屋からは焼きたてのパンの香りが漂い、道具屋では店主がシャッターを開ける音が響いている。
「王都はいつ行っても賑やかだね」
「うん。でも今日は少し違って見えるかな。ギルドに向かう人が多い。テストの日だから」
「あ、確かに。剣や魔法の道具を持った人が多い」
ギルドに近づくと、すでに多くの人々が集まっていた。若い冒険者志望の人たち、熟練の冒険者たち。その雰囲気は期待と不安が入り混じったものになっていた。
「すごい人だね……」
「うん、でも大丈夫。私たちは準備してきた」
ギルドの石造りの建物は、朝の光の中で堂々とした姿を見せていた。剣と魔法の杖が描かれた紋章が、入り口の上に輝いている。
「行こう、アリア」
「うん!」
ギルドのホールに入ると、受付の前に長い列ができていた。
「受付票を受け取り、広間へお集まりください」
受付嬢が案内してくれる。
「セラ・ウィスパーウィンド、エルフ」
名前を告げ、受付票を受け取る。広間はすでに多くの人々で賑わっていた。木の椅子が並べられ、受験者たちは緊張した面持ちで話していた。
「俺、魔法使えるけど、身体能力が不安だな」
「俺は剣は得意だけど、魔力が皆無だ」
さまざまな声が聞こえてくる。誰もがそれぞれの不安を抱えている。
「セラ、大丈夫?」
アリアが俺の膝に手を置く。
「うん、大丈夫だよ。ちょっと緊張してるけど」
「緊張するってことは、それだけ大事なことだってことだよ」
「そうだね。アリアの言う通りだ」
俺は深呼吸をした。吸って、吐いて。緊張が少しだけ和らぐのを感じる。
広間の時計が十時を指した瞬間、ドアが開き、一人の男が入ってきた。がっしりとした体つき、戦士のような風格。試験官のガトーだ。
「おはよう、諸君。本日は冒険者登録テストを受けるため、ここに集まってくれた」
ガトーの声は低く、力強い。広間が一瞬にして静まり返る。
「まず自己紹介をさせてもらう。俺はガトー、このギルドの試験官を務めている。二十年間、冒険者として活動してきた。ランクはA」
「すごい……」
誰かが小声で呟く。Aランク——冒険者の中でも上位だ。
「今日のテストは二つある。魔力測定と実技テストだ。だが、忘れてはならないことがある。冒険者にとって最も重要なのは、仲間を守る力、困難に立ち向かう力、そして自分を信じる力だ。そういう力を、俺は見たい」
(「自分を信じる力」か。この世界に来て、少しずつ変わっていった。セラとして生きることで、変わっていった)
## 魔力測定
「セラ・ウィスパーウィンド」
やがて、俺の名前が呼ばれた。
「行ってきます、アリア」
「頑張ってね、セラ。私、ずっと待ってるから」
アリアが笑顔で送り出してくれる。その笑顔が、俺の背中を押してくれた。
測定室はギルドの奥にあった。重厚な木の扉、魔法で光る照明、部屋の中央には台座が置かれている。その上には、拳大の魔水晶が鎮座していた。透明な水晶が、わずかに青白い光を放っている。
「入れ。お前がセラ・ウィスパーウィンドか」
ガトーが台座の横に立っている。
「はい、そうです」
「まずは簡単な説明からさせてもらう。この魔水晶に手を置き、魔力を流す。それだけだ。わかるか?」
「はい、わかりました」
「じゃあ、やってみろ」
俺は台座に近づき、魔水晶の前に立った。深呼吸をし、心を落ち着ける。緊張で心臓が早鐘を打っているが、それを抑え込む。
(ここが大事だ。焦りは敵だ。落ち着け。体の中にある魔力を感じろ。それだけでいい)
俺は水晶に手を置いた。ひんやりとした感触が手のひらに伝わってくる。目を閉じ、体の中に流れる魔力を意識する。
「よし、やれ」
ガトーの合図で、俺は魔力を流し始めた。
最初は少しだけ。指先から水晶へ、小川のような細い流れ。水晶が反応し、わずかに明るさを増す。ガトーがそれを見て、驚いたような表情をした。
「おっと、早速反応したな。もっとやれ。限界まで魔力を流してみろ」
川のように、幅広い流れ。水晶が青白い光を放ち始め、部屋全体を淡い光で包み込んでいく。ガトーの目が見開かれ、思わず一歩後ずさる。
「ま、まあ……これは……」
さらに、魔力を増幅させた。古代エルフの魔力。エルフの森で身につけた制御術。それらを総動員して、水晶にすべてを注ぎ込む。光はますます強くなり、部屋の隅々まで照らし出す。今や水晶は太陽のように輝き、ガトーが手で顔を覆うほどの明るさだ。
「うわっ、すげぇ……!」
ガトーの驚愕の声が響く。水晶が振動し始め、部屋中が共鳴する。光は白色から淡い金色へと変わり、天井まで届きそうなほどの光の柱が立ち上る。
「そこまでだ! もっとやると水晶が割れる!」
ガトーの叫び声で、俺は慌てて魔力の流れを止めた。
(……水晶が割れるのか。それは困る。弁償できる気がしない)
部屋が静まり返り、ガトーが呆然と水晶を見つめていた。
「……信じられん」
「こんなの見たことない。お前、本当に新人か?」
「はい、転生してからまだ間もないです」
「転生……? まあいい。とにかく、これは異常だ。普通の冒険者の十倍以上の魔力量がある。いや、もっとか……」
(「転生してから間もない」という言葉をほぼ無意識に言ってしまった。ガトーさんの「まあいい」という反応は、転生者自体はそれほど珍しくないからかもしれない)
「とりあえず、魔力測定は合格だ。いや、合格というより特別合格だ。次は実技テスト。演習場へ来てくれ」
## 実技テスト
演習場はギルドの裏手にあった。
四方を高い壁で囲まれた広場で、地面は整地され、さまざまな設備が設置されている。的が設置されたエリア、障害物が置かれたコース、そして実戦を想定した戦闘エリア。
(見るからに本格的だ。軍の訓練場みたいな雰囲気だ。「力を抑えてください」というガトーさんの言葉を思い出す。心して臨もう)
「ここで実技テストを行う」
ガトーが演習場の中央に立ち、俺に向き直る。
「まずは魔法の演示からだ。あそこにある的を魔法で破壊してくれ。どんな魔法でもいい。自分の一番得意な魔法でいい」
ガトーが指さす先には、藁で作られた的人形が立っていた。距離は約二十メートル。
「わかりました」
俺は的の方を向き、魔力を集中させた。光魔法——それが俺の最も使い慣れた魔法だ。掌にマナを集め、光を凝縮させる。指先から光の矢が形成されていく感覚。
「光よ、矢となれ。敵を射貫け——ライト・アロー!」
放った光の矢は、一直線に的へと向かった。速さは速く、軌道は真っ直ぐ。光の矢が的に命中し、爆発と共に人形が粉々に吹き飛んだ。
「おっと、なかなか速いな」
「詠唱は?」
「短縮詠唱で発動しました。無詠唱にすることもできます」
「短縮詠唱……新人にして魔力が高く、制御も利いているか……」
(ガトーさん、「詠唱形式」にかなり反応している。それが珍しいことは俺にもわかる。でも俺にとっては普通なんだよな)
「次は風魔法だ。そこの別の的を」
空気中の風を感じ、刃状に凝縮させる。透明な刃が形成される。
「風よ、刃となれ。敵を裂け——ウィンド・エッジ!」
風の刃が的に向かって飛んでいく。的が真っ二つに裂け、二つに分かれたパーツが地面に落ちた。
「精度も高いな。制御が利いている」
「次は防御魔法だ。俺が攻撃するから、それを防いでくれ」
「はい?」
「驚かせるな。実際に戦うことになる。敵の攻撃を防げなければ死ぬ。だから防御も試すんだ」
ガトーが剣を抜き、構えを取った。
「いくぞ!」
速い。見えない速さで剣が迫ってくる。俺は慌てて防御魔法を発動させる。掌にマナを広げ、氷の盾が形成される。
「氷よ、我を守れ。盾となりて敵の攻撃を阻め——アイス・シールド!」
剣が氷の盾に当たり、火花が散る。衝撃が腕に伝わってくるが、盾は崩れなかった。
(防げた! ——でも腕がじんじんと痺れている。ガトーさん、本気で斬ってきてる。「安全な環境」とはどういう定義だったか確認したい気分だ)
「おっと、なかなか堅実だ。防御魔法の発動も速い。氷属性の盾とは珍しい」
「次は身体能力だ。あのコースを走ってくれ」
コースのスタート地点に立つ。さまざまな障害物が配置されている。
「よーい、スタート!」
エルフの身体能力。古代エルフの呼吸法。それらが自然に体を動かす。最初の壁を軽く跳び越し、バーをくぐり抜ける。体が軽い。風を切る感覚が心地いい。
ゴールラインを超えた瞬間、ガトーがストップウォッチを止めた。
「一分二十秒。新人にしては悪くない。いや、優秀だ」
「次は実戦形式だ。あそこにいる魔物を倒してくれ」
演習場の反対側に、魔物的人形がいくつか置かれていた。五体。
「わかりました」
五体の人形が俺を睨んでいる。それぞれに武器を持ち、実戦さながらの配置だ。
(「力を抑えて」とガトーさんが言っていた。なるべく派手にならない範囲で……でも全部倒さないといけない。難しい指定だな)
「スタート!」
俺が動き出すと同時に、人形たちも動き出した。最初の人形が剣を振り上げ、俺に向かって走ってくる。横にステップを踏んで回避し、同時に光の矢を放つ。
「光よ、矢となれ——ライト・アロー!」
光の矢が人形の胸に命中し、それを倒す。
次の人形が槍を構えて近づいてくる。
「風よ、刃となれ——ウィンド・エッジ!」
風刃で槍を弾き飛ばし、体術で懐に潜り込む。掌底突きで人形の胸を打ち、戦闘不能にする。
三体目、四体目と、次々と人形を倒していく。魔法と体術を組み合わせ、効率的に戦う。
最後の五体目は、大きな盾を持った人形だった。正面からの攻撃では倒しにくい。俺は距離を取り、風と火の融合魔法を構築する。
「炎と風よ、融けて吹き荒れよ。敵を焼き砕け——フレイム・ウィンド!」
炎の風が人形に向かって突進する。盾を持って防御しようとする人形だが、融合魔法の威力には抗えない。盾ごと人形が吹き飛び、地面に倒れた。
「全員、倒しました」
ガトーに向き直る。息が少し上がっているが、体はまだ動く。
「……ほう」
ガトーが腕を組み、俺を見つめた。
「魔法、体術、融合魔法。すべてに精通している。しかも戦い方に無駄がない。正規の詠唱を使いこなして、なおかつ速い。本当に新人か?」
「はい、転生してから間もないです」
「転生者か……まあいい。とにかく、実技テストも合格だ。むしろ上位ランクに匹敵する実力だ」
(転生者、またスルーされた。この世界、転生者への耐性がある程度ある気がする)
「結果は後で発表する。まずは待機室で待っていてくれ。アリアさんもそこで待っていいぞ」
「ありがとうございます」
## 結果発表
待機室には、アリアがすでに待っていた。
「どうだった?」と彼女が立ち上がる。
「魔力測定がちょっとすごかったらしい。実技も合格」
「やったね、セラ!」
アリアが俺に抱きついてくる。その温もりを感じながら、俺は少し安堵の息を吐いた。
(少し恥ずかしい。待機室に他の受験者もいるのに……と思ったが、「合格して仲間に抱きつかれる」という状況は、全員が羨む場面だった気がする)
しばらくして、ガトーが部屋に入ってきた。手には結果が書かれた羊皮紙を持っている。
「結果発表を行う。名前を呼ばれた人は前に出てきてくれ」
「アレン・バートン。魔力測定普通。実技テスト合格。初期ランクG。登録を認める」
「はい!」
周囲から拍手が起こる。
「ジョン・スミス。魔力測定低い。実技テスト不合格。再受験を希望する場合は一ヶ月後」
受験者が肩を落とす。冒険者の世界は甘くない。
名前が一つ一つ読み上げられ、合格者もいれば不合格者もいる。
「セラ・ウィスパーウィンド」
ついに、俺の番が来た。俺は立ち上がり、ガトーの前に出た。
「魔力測定、異常に高い。実技テスト、優秀。総合評価、S」
部屋中がざわついた。S評価——新人にはまずあり得ない評価だ。
「初期ランク……Fとする。ただし、早期のランクアップが見込まれる」
「Fランク、ですか?」
「通常なら新人はGランクからのスタートだが、お前の場合は例外的だ。Gランクを飛び越えてFランクからのスタートを認める」
「ありがとうございます」
(Fランクから始まるのか。まあ、段階を踏む方が自分には合ってる気がする。いきなりSランクは荷が重い)
「ギルドマスターも興味を持っている。お前の今後の活躍に期待している」
「ありがとうございます、ガトーさん」
俺はアリアの方を振り返る。彼女は涙ぐんで笑っていて、その笑顔は太陽のように明るかった。
「セラ、おめでとう!」
アリアが駆け寄ってきて、俺に抱きつく。二人は抱き合い、喜びを分かち合った。周囲からは拍手が起こり、祝福の声が聞こえる。
「冒険者だよ、セラ!」
「うん、冒険者だ。アリア、ありがとう」
(「冒険者」という言葉が、今は自分のものだ。格好いいかどうかは主観だけど、少なくとも今の方が充実している気がする)
## ギルドカード受領
夕暮れ時、ギルドの受付にはまだ人がいた。
「セラ・ウィスパーウィンドさん、お疲れ様でした」
受付嬢のミサキが微笑んでくれる。
「ギルドカードの準備ができています」
ミサキが手渡してくれたのは、小さな金属製のカードだった。表面にはギルドの紋章が刻まれ、裏面には魔法文字で俺の情報が記されている。
「セラ・ウィスパーウィンド、Fランク。初期登録日、今日」
(このカードが、俺が冒険者になった証だ。これは絶対に失くさない)
「このカードは冒険者の身分証です。クエストを受ける時、報酬を受け取る時、ギルドの施設を利用する時、常に提示が必要です。なくさないように注意してください」
「はい、大切にします」
「名前とランク、あと特殊スキルも記載されています」
「特殊スキル?」
「はい。魔力測定で高い数値が出たので、『高魔力』というスキルが追加されました」
「なるほど……」
カードを見つめる。セラ・ウィスパーウィンド、Fランク、特殊スキル:高魔力。
シンプルだが、重みのある情報だ。
「それでは、これから最初のクエストを選ばれますか?」
「ええ、是非」
「Fランクが受けられるクエストは左側のセクションになります」
クエスト掲示板へ向かった。
「Fランクのクエストはここだね」
アリアが左側のセクションを指さす。初心者向けの簡単なクエストが多数掲示されていた。
「採取クエスト:薬草を十個集める(報酬:銀貨五枚)」
「配達クエスト:商店街へ荷物を届ける(報酬:銀貨三枚)」
「討伐クエスト:スライムを五体討伐(報酬:銀貨十枚)」
「討伐クエスト:ゴブリンを三体討伐(報酬:銀貨十五枚)」
「どれにする?」
アリアが俺に尋ねる。
「そうだね……。薬草採取、これにしよう。初クエストには、戦闘が少ない方が確認事項も多いし」
「私も手伝う。薬草のこと、ある程度知ってるから」
「アリアが詳しいなら心強い。決めよう」
俺は依頼書を剥がし、受付へ向かった。
「ミサキさん、この薬草採取クエストを受けたいです」
「はい、薬草採取クエストですね。場所はギルドの北にある清流の森です。採取完了後、薬舗『緑の葉』に届けていただければ報酬を受け取れます」
「わかりました」
「それから、念のため言っておきますが、森でもスライムや小型の魔物には注意してください。十分に備えてから行かれることをお勧めします」
「はい、気をつけます」
(初クエストで薬草採取。戦闘リスクが低い代わりに、採取の技術が問われる。それはそれで、また別の挑戦だ)
ギルドを出ると、夕暮れの王都が黄金色に染まっていた。街灯が点き始め、人々が家路に向かっている。
「冒険者だね、セラ」
アリアが俺の腕にしがみつく。
「うん、冒険者だ。これからもっと大きな冒険が待ってる」
宿に戻ると、リリナとカトレアが待っていた。
「お帰りなさい、セラさん! テストはどうだった?」
リリナが心配そうに尋ねる。
「合格したよ。Fランクからのスタート」
「やったね! おめでとう、セラ!」
カトレアが俺の背中をバシンと叩く。
「これで冒険者デビューだな! 報酬、楽しみだねぇ! ギャハハ!」
「カトレアさん、金の話ばかり……」
リリナが呆れたように言う。
「何言ってんだよ! 商人にとって金は命だぞ! ドワーフとして当然の関心です!」
「はいはい、わかりましたよ」
(カトレアのこのブレなさ、ある意味すがすがしい。お金の話を堂々とする人間は、少なくとも正直だ)
「明日は薬草採取クエストに行くよ。誰か手伝ってくれる?」
「もちろん! 私が行くよ!」とリリナ。
「私も! 報酬の一部もらえるならな!」とカトレア。
「アリアは?」
「私も行くよ。セラのサポート、任せて」
アリアが微笑んで頷く。
「四人で行こう。最初のクエストだし」
「冒険者セラ、頑張ろう!」
「うん!」
「よっしゃ!」
「応援してるよ!」
四人の声が重なり合い、部屋に響き渡る。
夜、ベッドに横たわりながら、俺は今日の出来事を振り返った。緊張した朝、魔力測定での驚き、実技テストでの集中、結果発表での喜び、そして、ギルドカードを受け取った瞬間の達成感。
「セラ、起きてる?」
隣のベッドからアリアの声が聞こえた。
「起きてるよ。考え事してた」
「何考えてたの?」
「今日のこと、これからのこと」
「ふふ、私もよかったと思ってる。セラに出会えて、私の人生も変わった」
アリアが俺の手を握る。
「私、セラの冒険をずっと見守りたい。ずっと一緒にいたい」
「俺も、アリアとずっと一緒にいたい」
(この世界で、アリアたちに出会って、やっと言えた。それでよかったと思う)
「明日、薬草採取頑張ろう」
「うん! セラ、応援してる!」
二人は笑い合い、再び眠りについた。
冒険者セラ・ウィスパーウィンドの物語は、まだ始まったばかりだ。




