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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第64話 冒険者ギルドへ

# 第64話 冒険者ギルドへ


## ギルドへの道


 朝の光が窓から差し込み、部屋を明るく照らしていた。


 今日は冒険者ギルドへ行く日だ。


(「今日で人生が変わる」的な緊張感がある。ギルド登録テストって、就職活動の面接と似た雰囲気があるな。……ただしこっちは魔法と剣が出てくるが)


「セラ、起きた?」


 アリアが隣のベッドから身を起こし、眠そうに目を擦っている。金色の髪が朝の光の中で輝いていた。


「ああ、起きたよ。おはよう、アリア」


「おはよう、セラ。今日は冒険者ギルドに行く日だね」


「そうだね。まず朝ごはんを食べに行こう」


 二人は部屋を出て、宿の食堂へと向かった。食堂には、すでに数人の宿泊客が座っていた。温かい香りが漂ってくる。


「おはようさん。朝食はここのテーブルでどうぞ」


 宿のおばさんが親切に案内してくれた。テーブルに座ると、エルフの伝統的な朝食が運ばれてきた。温かい野菜スープ、焼きたてのパン、新鮮な果物、それにハーブティー。


「わあ、美味しそう」


 アリアが目を輝かせた。


「いただきます」


 二人は手を合わせてから朝食を始めた。スープは優しい味で、体を温めてくれる。パンは外はパリッと、中はふわふわだ。


「美味しいね。森の家の朝食に似てる」


「懐かしい味だね。でも王都の食材で作ってるから、少し違う風味がするわ。これはこれで美味しい」


「ほんとだ。微妙に違うけど、それがいい」


(転生してよかったと思う瞬間、ベスト三に入る。一位は「アリアに出会えたこと」で、二位は「魔法が使えること」で、三位がこの「朝食がうまいこと」だ。われながら現金な順位だが、まあ正直でよい)


「ねえ、セラ」


「ん?」


「今日のテスト、どんなことをするかな」


「魔力の測定と、模擬戦闘だって受付で聞いたな。昨日のミサキさんが——あれ、ミサキさんはギルドじゃなくて学園の話だった。ごめん、頭が混乱してる」


「ふふっ、緊張してるんだね」


「してる。昔から試験が苦手で」


「大丈夫だよ。セラの魔力はずば抜けてるんだから」


(それがまた問題なんだよな。「ずば抜けて」いることで目立つのは一番避けたいことのひとつだ。でも隠し続けるのにも限界がある。今日は「少し上手い新人」くらいに見せるのが目標だ)


 食べ終わると、おばさんが満足そうに笑ってくれた。


「たくさん食べてくれて嬉しいよ。冒険者ギルドへ行くんだってね? 頑張ってください」


「ありがとうございます。行ってまいります」


 部屋に戻って荷物を整え、宿を出た。宿のおばさんが笑顔で見送ってくれる。


「冒険者ギルドはこの通りをまっすぐ行って、二つ目の角を右に曲がると、大きな石造りの建物が見えるよ」


「ありがとうございます」


 朝の王都の通りへと歩き出した。朝の空気は冷たく、澄んでいる。通りの両側には様々な店舗が軒を連ねている。パン屋からは焼きたてのパンの香りが漂ってきて、元気が湧いてくる。


「わあ、賑やかだね」


 アリアがキラキラした目で周囲を見渡す。通りには、様々な種族の人々が行き交っている。人間、エルフ、ドワーフ、獣人……。


「うん、本当に。エルフの森とは全然違う」


(みんな上を向いて、周囲を見て、声をかけ合っている。それがなんだか嬉しい。あ、別に前世が悪かったとかそういう話ではなく。ただ、今が良いという話だ)


「ねえ、セラ。冒険者ギルドってどっちだろう」


「確か、二つ目の角を右に曲がって——あ、あのおじさんに聞いてみようか」


 俺が通りすがりの老人に声をかけた。


「はい、何でしょうか?」


 老人が優しそうな笑顔で立ち止まった。


「冒険者ギルドへは、どう行けばいいでしょうか?」


「冒険者ギルドか。この通りをまっすぐ行って、二つ目の角を右に曲がって、少し行くと大きな石造りの建物が見えますよ。冒険者ギルドの紋章が付いているから、すぐわかります」


「ありがとうございます」


「初めてですか?」


「はい、初めてです」


「そうですか。頑張ってくださいね」


 老人は手を振って去っていった。


「冒険者ギルド、楽しみだね」


「うん、でも少し緊張するかも」


「大丈夫だよ。セラとなら、何でもできるよ」


 アリアがセラの手を握った。彼女の手は温かく、少しだけ震えている。


「アリアも緊張してる?」


「うん……。でも、セラとなら大丈夫」


「そうだね。二人ならできるよ」


(「二人なら大丈夫」って言葉、この世界に来てから何度口にしたか数えていない。でも不思議と、言うたびに本当に大丈夫な気がしてくる。かつて「大丈夫じゃないけど大丈夫です」という意味で使っていた頃とは、だいぶ違う)


「ねえ、アリア」


「なに?」


「ありがとう。ずっと一緒にいてくれて」


 アリアが少し驚いた顔をした。それから、照れたように笑う。


「なんで急に?」


「いや、歩いてたら思って。アリアがいるから、緊張しながらでも前に進める」


「……えへへ」


 何か言おうとして、言葉が出ないみたいだった。ちょっと目が潤んでいる。


「泣いてる?」


「泣いてないよ! 風が当たっただけ!」


(無風だけどな。……気遣いとは、黙っていることでもある)


「あ、見て! あれが冒険者ギルドかも」


 アリアが指差した先に、大きな石造りの建物が見えてきた。建物の入り口には、剣と魔法の杖を組み合わせた紋章が掲げられている。


「すごい建物だね」


 セラも思わず足を止めた。建物は威圧感があり、同時に歴史を感じさせる。何百年もの間、冒険者たちの拠点として機能してきたのだろう。


「いよいよだね」


 セラが深呼吸をすると、アリアも頷いて深呼吸をした。二人は手を握りしめ、ギルドへと歩き出した。


## ギルドの外観


 冒険者ギルドの建物が近づくにつれて、その威容がよりはっきりと見えてきた。


 石造りの壁は太陽の光を反射して淡く輝き、入り口の大きな木製の扉は、多くの冒険者たちが行き来してきたことを物語っている。


「わあ、すごい……」


 アリアが目を丸くして見上げた。建物は三階建てで、屋根には尖った塔が立っている。


「本当に大きいね。エルフの森の建物とは全然違う」


(石の建物には「重量」がある。木の建物とは別の種類の堂々さだ。何百年とかいう単位で建っているものには、やはりずっしりとした重みがある。それは数字じゃなくて、空気で感じるものだ)


「ねえ、見て。あそこに冒険者たちがいるよ」


 アリアが指差した先には、ギルドの入り口を行き来する冒険者たちの姿があった。鎧を着た騎士、ローブを纏った魔法使い、革の防具を着た戦士……。様々な装備を身に纏った冒険者たちが、ギルドへ出入りしている。


「本物の冒険者たちだ……」


 セラの心が高鳴った。転生してから、ずっとこういう世界を想像してきた。いよいよその一員になる。


「セラ、緊張してる?」


「うん、少しだけね。でも、アリアと一緒なら大丈夫」


「うん! 私もセラと一緒なら、何でもできる!」


 入り口の前には、数人の冒険者がたむろしていた。一人の戦士がセラたちに気づき、ニカっと笑って手を振った。


「おい、初めてか? ようこそ、冒険者ギルドへ」


「はい、初めてです」


「緊張するなよ。最初は誰だって緊張する。だが、ここは腕一本で稼ぐ男たちの集まりだ。実力があれば認められる」


「ありがとうございます」


「だが、油断するなよ。甘い世界じゃないからな」


 戦士の言葉に、セラの背筋が伸びた。甘い世界じゃない。それは知っている。だからこそ、覚悟を決めてここに来た。


「よし! その意気だ! じゃあ、中に入ってみな。受付嬢が教えてくれるはずだ」


 戦士が親しげにセラの背中をポンと叩いた。


「いよいよだね」


「うん、行こう、アリア」


## ギルド内部


 大きな木製の扉を押し開けると、中から活気ある喧騒が溢れ出してきた。


 冒険者たちの話し声、笑い声、装備が触れ合う音……。それらが混ざり合い、ギルド独特の雰囲気を醸し出している。


「わあ、すごい……」


 アリアが感嘆の声を漏らした。広いホールには、多くの冒険者たちが集まっていた。円形のテーブルがいくつも並べられ、それぞれのテーブルで冒険者たちが話をしている。


(賑やかな場所は苦手じゃなかったが、みんな本物の武器を持っているというのは独特だな。喧嘩になったら命に関わる。おとなしくしていよう)


「本当に広いね。エルフの集落の広場より広いかも」


「あそこが受付かな」


 アリアが指差す先には、大きなカウンターが設けられている。カウンターの後ろには制服を着た受付嬢たちが働いていた。


「ねえ、見て。あそこにクエスト掲示板があるよ」


 アリアが壁の方を指差した。壁一面に大きな掲示板が設けられ、多くの依頼書が貼り付けられている。


「クエスト掲示板だ。ギルドで仕事を受ける場所だね」


「色々な仕事があるね。どれから手を付けようか」


「まずは登録を済ませないとね」


 二人はカウンターへと向かった。カウンターの前には数人の冒険者が並んでいた。


 前の冒険者の会話が聞こえてくる。


「最近、ダンジョンの奥で奇妙な現象があるらしいぞ」


「奇妙な現象?」


「先週、Dランクのパーティが探索に行ったんだが、戻ってきたとき、全員記憶を失っていたらしい」


「マジか? 何があったんだろう?」


(……嫌な話を聞いてしまった。廃墟でも似たようなことが起きないか心配になってきた。でも今は考えないでおこう。まず登録だ)


「次の方、どうぞ」


 受付嬢の声が響いた。列が進み、セラたちの番が近づいてきた。


「いらっしゃいませ。初めてですか?」


 カウンターの中にいたのは、若い受付嬢だった。明るい笑顔を浮かべ、親切そうに対応してくれる。


「はい、初めてです。冒険者として登録したいのですが」


「かしこまりました。こちらの用紙に必要事項をご記入ください」


## 受付嬢との対面


 受付嬢が渡してくれた用紙には、名前、年齢、種族、得意な魔法や武器などの項目があった。


 セラは用紙を受け取り、アリアと一緒に記入を始めた。名前はセラ・ウィスパーウィンド、年齢は見た年齢相当の十五歳、種族はエルフ、得意な魔法は光と風。


(年齢欄で少し悩んだ。転生者の年齢はどこから数えるのか。とりあえずこの体の年齢を書くのが正解だろう。そういう事情は省略する)


 記入を終えて受付嬢に用紙を返した。


「ありがとうございます。セラさんとアリアさんですね。エルフのお二人ですか。珍しいですね」


「はい、エルフの森から来ました」


「そうですか。エルフの森は遠いですね。ようこそ、王都の冒険者ギルドへ」


 受付嬢の名札には「ミサキ」と書かれている。


「まずは、簡単な説明をさせていただきますね。冒険者ギルドでは、クエストを受けることで報酬を得ることができます。ランクはGから始まって、F、E、D、C、B、A、S、SSまであります。新人はGランクからのスタートになります」


「分かりました。Gランクからのスタートですね」


「はい、最初は簡単なクエストからになります。薬草の採取や弱いモンスターの討伐などです」


 セラは頷いた。


(「G」ランク。でも実力があれば上がれる。それだけで、やる気の出方がまるで違う)


「それから、ギルドにはルールがあります。他の冒険者を傷つけたり、クエストを放棄したりすると、ペナルティを受けます。逆に、功績を上げれば特別な報酬がもらえることもあります」


「ルールは守ります」


「そう言ってもらえて安心しました。それでは、登録テストがあります。魔力と身体能力を測定するテストです。別室へご案内しますので、ついてきてください」


「テストがあるんだ」


「大丈夫ですよ。新人の方は誰でも受けるテストです」


 ミサキさんがカウンターから出てきて、セラたちを案内してくれた。


「この部屋です」


 ミサキさんが開けてくれたのは、小さな部屋だった。部屋の中には様々な測定器具が設置されている。


「まずは魔力測定から始めましょう。この水晶の玉に手を置いてください」


 セラは言われた通りに水晶の玉に手を置いた。水晶の玉がゆっくりと輝き始め、やがて明るい光を放つ。


「うわあ、すごい光……!」


 ミサキさんが目を丸くした。


「セラさんの魔力は、平均の五倍以上ですよ。エルフの方はもともと魔力が高いですが、それにしても高い数値です」


「そうなんだ……。エルフの森では、普通なんですけど」


(嘘だ。エルフの森でも普通じゃなかった。でもここで詳細を話すわけにもいかない。とりあえずエルフのせいにしておく)


「次はアリアさんです」


 アリアも水晶の玉に手を置いた。水晶の玉が再び輝き始める。


「アリアさんも、平均の四倍以上です。お二人とも、素晴らしい魔力をお持ちですね」


## 登録テストの説明


 測定を終えて別室に通された。部屋の中には、厳しい表情の男性が立っている。胸には「試験官」と書かれたバッジが付いていた。


「私はギルドの試験官、ガトーです。これから、お二方の登録テストを担当します」


 ガトーさんは事務的に挨拶をした。声は低く、威圧感がある。


(いかにも「試験官」という風格だ。この人、本当に戦士の匂いがする。覚悟して臨まねばならない雰囲気だ)


「登録テストでは、魔法の使い方と戦闘技術を確認します。エルフの方は魔力が高いと聞いていますが、実際に見せてください」


「テストは二つあります。一つ目は魔力を用いた攻撃魔法の演示。二つ目は模擬戦闘です」


「模擬戦闘ですか?」


 俺は声が少し上ずった。模擬とはいえ、戦闘は戦闘だ。


「はい。ギルドで用意したターゲットを使って、戦闘技術を確認します。怪我をしないように、安全な環境で行います」


「分かりました」


 隣でアリアも頷いている。少し顔が硬い。アリアも緊張しているんだろう。


「テストは明日の午前十時から始めます。場所はギルドの裏にある演習場です。準備はいいですか?」


「はい、大丈夫です」


「では、明日お会いしましょう。質問はありませんか?」


「あの、ターゲットはどんなものですか?」


 セラが尋ねると、ガトーさんが少し詳しく説明してくれた。


「ターゲットは、魔法で作られた擬似的な敵です。ゴブリンやオークなどの弱い魔物を模したものです。本物のように動きますが、痛みはありません」


「なるほど、分かりました」


「それと、魔法を使う際は力を抑えてください。演習場の設備を壊さないように注意してください」


「はい、分かりました」


(「力を抑えて」という言葉が気になった。俺の魔力は「平均の五倍以上」だ。抑えないと演習場が——。うん、抑えよう。確実に抑えよう。今回ばかりは「もう少し自己主張しては」という状況じゃなく、逆だ)


「アリアさん、何かご質問は?」


「えっと……私は大丈夫です。セラが大丈夫なら、私も大丈夫なので」


 アリアがそう言うと、ガトーさんが少し表情を緩めた。そうか、この人は怖い顔をしているだけで、根はそんなに厳しくないのかもしれない。


「では、リラックスして来てください。テストは実力を見るもので、合否ではありません。実力通りの評価が出ます」


「最後に、アドバイスを一つ。緊張しすぎないことです。ギルドは実力を認める場所です。自分の力を出し切ってください」


「ありがとうございます」


 ガトーさんは部屋を出て行った。残されたセラとアリアは、互いに顔を見合わせた。


「明日、テストだね」


「うん、でも大丈夫。セラとなら、きっとできるよ」


「そうだね。聖三角を使えば、どんなターゲットでも倒せるよ」


「えへへ、そうだね。二人ならできる!」


 アリアが微笑むと、セラも笑顔で頷いた。


「明日は早く起きよう。演習場には午前九時半に着くように」


「うん、分かった」


 セラとアリアは部屋を出て、ギルドのホールへと戻った。


「ねえ、セラ。あそこの掲示板、見て」


 アリアがクエスト掲示板を指差した。掲示板には、多くの依頼書が貼り付けられている。


「どのクエストも面白そうだね。明日テストが終わったら、どれかを受けてみようか」


「うん、楽しみだね」


 掲示板の前で少し足を止める。依頼書を一枚一枚見ていると、世界の多様さが伝わってくる。「森の魔物退治」「薬草の採取・王都郊外」「古い地図の解読・要古語知識」——。


(「古語知識」。エルフ語の古い形か。もしかしたら俺、得意なんじゃないか? 試してみる価値がある)


「セラ、どれが気になる?」


「この『廃墟の文献調査』ってやつ。古代エルフの記録が残っているらしい」


「……廃墟か。危なそうだけど、興味あるね」


「まずは明日のテストを乗り越えてからだな」


「そうだね! 先にテストに集中しなきゃ」


「さあ、宿に戻ろう。明日のために、しっかり休まないと」


「うん、そうだね」


 セラとアリアはギルドを出て、朝の王都の通りを歩いた。


「明日、頑張ろう」


「うん、セラとなら、きっとできるよ」


(「セラとなら、きっとできる」。アリアがこの言葉を言うたびに、俺は思う。この人に恥ずかしくない姿でいよう、と。それが今の俺の原動力だ)


「ねえ、セラ。明日のテスト、終わったらお祝いしようよ」


「まだテストも受けてないのに」


「でも、絶対大丈夫だから。お祝いを先に決めておけば、やる気も出るじゃない?」


(……このポジティブ思考、すごい。七回生まれ変わっても辿り着けない境地かもしれない)


「じゃあ、テストに合格したら何が食べたい?」


「えへへ! 王都で一番美味しいお菓子!」


「甘いもの系か。まあそうだろうな。探しておく」


「本当に!? ありがとう、セラ!」


 アリアがぱっと明るくなった。テストへの不安が少し飛んでいった気がした。俺も少し気持ちが軽くなった。


 二人は手を握りしめ、宿へと向かった。


 明日のテスト、そして明日から始まる冒険者としての生活。二人の胸に、希望と決意が満ちていた。


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