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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第59話 ミサトとの出会い

# 第59話 ミサトとの出会い


## 孤立の日々


 転生七十五日目から、七十七日目。


 一言でまとめると——しんどい三日間だった。


 正確には「孤立」というより、「特定の生徒グループから意図的に距離を置かれている」という感じだ。廊下で声をかけてくる生徒はいる。でも、女装コンテストの件以来、俺に近づこうとする生徒の数が明確に二分されていた。


 好意的な生徒と、反感を持つ生徒と。


(こういう現象、どこでも起きるんだな。急に注目された人間に対して「あいつ調子に乗ってる」派と「すごい」派が生まれるやつ。他人事で見てたのとは全然違う——自分がその当事者だと、笑えない)


 特に厳しかったのが、一部の女子生徒グループからの視線だった。正面から文句を言ってくるなら対処できる。でも、ひそひそ話をしながら目を逸らされるのは、防ぎようがない。


(これが「無視」というやつか。今回は逃げ場がない。学園生活を続けなきゃいけない。詰んでる)


 授業中は普通に座って、先生の話を聞く。隣の生徒と目が合っても、相手の方から視線を逸らした。でも、教授の魔法理論の授業だけは違った。内容が純粋に面白くて、そこだけは雰囲気を忘れて集中できた。


(学園に来た目的は魔法を学ぶことだ。人間関係がうまくいかなくても、学びを得られるなら来た意味はある。魔法の理論は面白い。それが救いだ)


「セラ、最近どう?」


 昼休み、アリアが聞いた。


「まあ……普通かな」


「普通じゃなさそうな顔してる」


「……少し疲れてるだけだ」


 アリアが俺の顔を見た。じっと見た。なんかいろんなことが伝わった気がする顔で見た後、「そっか」と言った。


(「そっか」で止まるのは珍しい。何か言いたいことを察して黙っているタイプじゃないと思ってたのに……成長してるな。成長するな、心配させる側としては居心地が悪い)


「でも、私がいるよ」


「……知ってる。ありがとう」


「一緒にいると、もう少し楽になる?」


「……なる」


「じゃあ、ずっとそばにいるよ。えへへ」


(えへへ、と言いながら横に座ってくれた。「一緒にいる」をこんなにさらっと言える人間が近くにいるというのは、思いのほか効く)


「アリアって、たまにすごいことを簡単に言うよな」


「簡単なことだよ。難しくないじゃない」


「そうか」


(難しくないか。……そうかもしれない。でも俺にとっては難しかったんだよ。「一緒にいる」を言うのも、「そばにいてほしい」と言うのも。それが当たり前のように言えるアリアが、正直うらやましい)


 リリナは放課後に「一緒に図書館行かない?」と誘ってくれた。


「古代エルフの本、新しいやつ入ってたんだよ!」リリナが目を輝かせる。「セラも読みたいでしょ?」


「……読む。行く」


「えへへ、一緒に行こう」


(読書仲間、というのが今まで縁のない概念だった。一人で図書館に行って、一人で借りて、一人で読んで返すだけ——それが当たり前だったのに。リリナと二人で同じ本棚を眺める時間が、こんなに気持ちいいとは知らなかった)


 カトレアは「セラ、売店のクリームパン、一個奢るよ!」と言った。


「……借金、返済中じゃないのか」


「ギャハハ! セラの顔色が悪かったから、特別! ドワーフだってたまには気前よくする!」


「……ありがとう」


(奢る余裕があったとは思えないが……ありがたく受け取った。クリームパン、美味かった。転生してから食べた中でトップクラスの美味さだった。それだけ疲弊してたってことだ)


「カトレアって、意外と優しいよな」


「意外と!? 失礼じゃない!」


「……ごめん。「いつも優しい」に訂正する」


「よろしい! ギャハハ!」


 三人がいるから、耐えられる。


 でも、正直なところ——疲弊していた。


(逃げられない状況でのじわじわした圧力というのは、体力を削る。そして、三人がいることが、唯一の違いだ。それがあるとないとでは、全然違う)


 夜、一人で窓の外を眺めながら考えた。


 孤立そのものより、なぜ孤立しているかの理由が分からないのがしんどい。女装コンテストで優勝したことが問題なのか、目立ちすぎたことが問題なのか、それとも俺自身の何かが問題なのか。


(分からないまま解決しようとするのは、原因の見えない病気を治そうとするようなものだ。どこに手を当てればいいか、分からないまま三日が過ぎた)


 そうやって、三日間が過ぎた。


## ミサトとの遭遇


 転生七十八日目の昼。


 廊下を歩いていた時のことだった。


 角を曲がった瞬間——ぶつかった。


「っ……!」


 相手も、よろめいた。


「す、すみません!」


 俺が先に謝る。慣れた反射で出た言葉だった。ぶつかったら先に謝るやつ。三十年近く染み込んだ習慣の残滓だ。


「……謝って済む問題じゃないでしょ」


 声がした。


 見ると、俺と同じくらいの背丈の女子生徒が立っていた。赤みを帯びた茶髪。制服の着こなしが妙にきっぱりしている。目つきが鋭く、腰に手を当てて俺を見ている。


「ちゃんと前を見て歩きなさい」


「それはお互い様だと思いますが」


 思わず言い返した。


(あ、言い返してしまった。理不尽なことを言われても「すみませんでした」で終わらせてたのに……転生してから口が少し悪くなった気がする。エルフの体に引きずられてるのか、単に疲れてて余裕がないのか)


 女子生徒は、少し驚いた顔をした。言い返されると思っていなかったらしい。

 それがすぐ、面白そうな目に変わった。


「……なんですって?」


 女子生徒の目が細くなった。


「お互い様、と言いました。俺だけじゃなく、あなたも前を見ていなかった」


「私は急いでいたの」


「急いでいたとしても、前を見る余裕くらいはあったでしょう」


「…………」


 一瞬の沈黙。


 女子生徒が腕を組んだ。


「あんた、名前は?」


「セラ・ウィスパーウィンドです」


「……女装コンテストのセラ?」


「……そうです」


(その話が既にアイデンティティになってしまっているのが悲しい。「社内プレゼンで大失敗したあの人」みたいな感じで覚えられてるやつ。完全にそれだ。一生このレッテルが貼られるのだろうか。嫌すぎる)


「私はミサト・ヴァレンタイン。覚えておきなさい」


「……分かりました」


「フン」


 ミサトはそう言って、俺の横を通り過ぎた。


「……なんだあいつ」


 思わず呟く。


(「俺様ポジション」の先輩みたいな感じだった、とは言えない。ああいう目つきは純粋に強気で、媚びてない感じがした。嫌いとは言えない、奇妙な存在感だった。嫌いじゃないとも言えないけど)


 授業に戻りながら、ミサトのことを少し考えた。


「セラ、どうしたの? ぼんやりしてる」


 廊下でアリアが声をかけた。


「……さっき、ぶつかった人がいて」


「大丈夫だった?」


「大丈夫だった。でも、なんか変な会話をした」


「変な会話?」


「謝ったら「謝って済む問題じゃない」と言われて、でも俺が言い返したら「フン」で終わって、去っていった」


「……すごい人ね」アリアが苦笑する。「名前は?」


「ミサト・ヴァレンタインって言ってた。B組らしい」


「知らないな。でも、また会いそうな予感がする」


「俺も、そう思う。なんとなく」


(根拠はない。でも「また会う」という予感が、ぶつかった瞬間からある。三十年近く生きた勘が、「この人とは続きがある」と言っている)


## 犬猿の仲


 転生七十九日目の昼。


 中庭でパンを食べていたら、またミサトが現れた。


「……また会ったわね」


「奇遇ですね」


「この学園、狭いから仕方ないわ」


 ミサトがベンチに腰を下ろした。俺のベンチから二つ隣のやつだ。


(距離がある。でも意識してるのは明らかだ。二つ隣を選ぶのは中途半端すぎる。隣にはいない、でも全然別の場所でもない。絶妙なポジションだ。自分でも気づいてないのか、それとも意図的か)


「昨日のこと、根に持ってない?」


「別に根に持ってない。正論言っただけだし」


「……あんた、生意気ね」


「正直に言っただけです」


「同じことよ、この場合」


(敵意とも友好とも違う、妙なテンポの会話だ。……これ、もしかして俺が会話を楽しんでる? 三日間でこんなに口が動いたのは久しぶりだ)


「あんたって、一年A組でしょ」


「そうですが」


「私はB組。授業で一緒になることがあるのよ」


「それはそれとして、今は何の用ですか?」


「……別に用はない。偶然ここにいた」


「そうですか」


 沈黙。


「……あんた、孤立してるって聞いたわ」


 ミサトが少し違うトーンで言った。


「そうですね、多少」


「女装コンテストの件で?」


「そうです」


「フン」


(フン、で終わらせるのか。コメントなし。ぶっきらぼうだ。でも「フン」の後に去らずにそこにいる時点で、何か言いたいことがあるやつだ。そういうタイプが、職場にも稀にいた)


「惨めじゃないの、そんな理由で孤立するなんて」


「……あなたに惨めと言われる筋合いはないですが」


「ただの観察よ。事実を言っただけ」


「まあ、孤立はしてますよ。でも、アリアとリリナとカトレアがいるから問題ない」


「……三人、ね。いい仲間じゃない」


「そうですね」


「私には、そういうのいないから」


 ミサトがぽつりと言った。


(あ。今のは本音だ。ストレートな人間って、時々こういうふうにさらっと本音が出る。一番怖い顔した人間が急に「俺、友達少ないんだよな」ってぼやくあれだ)


「……作ったらいいんじゃないですか」


「勝手に言わないで。いないには理由があるのよ」


「そうですか」


「そうよ」


 また沈黙。


「……まあ」


 ミサトが立ち上がる。


「孤立してるなら、せめて強くいなさい。孤立してて弱かったら、ただの負け犬よ」


「ずいぶん失礼な言い方だな」


「事実でしょ」


 ミサトがさっさと歩いていく。


(……この人と、なんかまた話す気がする。この間合い、このテンポ、言い合ってる感じが——嫌じゃない。むしろ、今日初めてすっきりした気がする。なんでだ)


「犬猿の仲?」


 いつの間にか後ろに来ていたカトレアが言った。


「見てたのか」


「ギャハハ! ちょっとね。なんか火花散ってたよ、二人の間に」


「火花は散ってない」


「散ってたよ。信じて」


(散ってたかもしれない。否定できない。……まあいいか)


## ミサトの実力


 転生八十日目の午後。


 実技の授業で、ミサトを見た。


 演習場に現れたミサトは、いつもの強気な顔で剣を手にしていた。魔法だけでなく、剣術も学んでいるらしい。


(この学園に剣術の授業があることは知っていたが、積極的に取り組んでいる生徒は少ない。魔法がメインだからだ。剣術まで磨くというのは、かなり本気の人間だ)


「ミサト・ヴァレンタイン、示範をお願いします」


 教授が言った。


 ミサトが前に出る。


 剣を手に取り、息を整える——その一瞬だけで、空気が変わった。


 そして——動いた。


「おっ」


 思わず声が出た。


 速い。踏み込みが深く、体の軸が全くぶれない。剣が弧を描くたびに、空気を切る音が演習場に響く。フォームに無駄がない——力みが一切ない。動作の一つ一つが、反射として染み込んでいる種類の動きだった。


 仮想の相手を想定した連続動作だ。斬り込む、引く、捌く、踏み込む——その繰り返しが、途切れずに流れていく。剣先が最短距離を描き、次の体勢へ移行する前にもう次の軌道が決まっている。


(あれは、技術だ。才能に頼った動きじゃない。反復と精度で積み上げた、本物の剣士の動き。剣先が走るたびに軌道が正確で、次の一手への移行が無呼吸で繋がっていく。あの捌き方——完成されてる)


 最後の一振りが静止した。


 演習場が、一瞬だけ静かだった。


「……すごいね」


 隣でアリアが目を丸くした。


「うん。あれは本物の技術だ」


「練習、すごい積んでるんだろうね」


「そうだな。ああいう動きは、才能だけじゃない」


(才能と努力の掛け算が、あの種の動きを作る。そしてミサトの場合、どちらも高い。やっかいな存在だ。でも——かっこいいとは思う。素直に)


 示範が終わると、教授が一言言った。


「ミサトさんは、特待生入学です。本学園の、三年間において最も優れた剣士候補の一人です」


(特待生。それだけの実力ということか。剣と魔法の両立。どこかにいるんだな、そういう人間が)


「すごいね、ミサトさん」


 アリアが隣でつぶやく。


「うん。本物の技術だと思う」


「剣術、練習してるの?」


「基礎は知ってる。でもあのレベルじゃない。ドワーフの素材で作った剣でも、技術がなければ意味ないんだよな、とカトレアが以前言ってた」


「カトレアは? 見てる?」


「見てた。ギャハハって笑うと思ってたんだけど、珍しく静かだった」


「……本当にすごかったんだね」


(カトレアが静かになるのは、本当に感心した時だ。普段うるさい人間が静かになった時こそ「これは本物だ」と分かる瞬間がある)


「俺も、鍛えないとな」


「剣術を?」


「剣も、魔法も。この学園に来た意味がある。せっかくなら本気でやりたい」


(ミサトの剣を見て、久しぶりに「負けたくない」という気持ちが出てきた。与えられた仕事をこなすだけの時代は終わった。今は自分で選んで学べる。それがこの転生のありがたいところだ)


(それにしても、あの剣の精度は気になる。魔法使いが剣術を磨くと、どこかで組み合わせを考えるはずだ。魔法と剣の連携——そこまで研究しているとしたら、俺が今の実力を隠したままでは、そのうち追い越される。それは——嫌だ)


「セラ、目が違う」


 アリアが言う。


「え?」


「今の目、少し前と違う。……いい顔してる」


「……そうか」


(そうかもしれない。疲弊した三日間だったが、ミサトのせいで少し前を向いた気がする。不思議な存在だ、あいつは)


 実技の授業で久しぶりに「退屈じゃない」瞬間があった。


## 対立の始まり


 転生八十日目の夕方。


 学園から寮に戻る廊下で、またミサトがいた。


(この学園、本当に狭い。それとも運命か。いや、ただの偶然だ。この三日で三回会ってるのは統計的におかしい気もするが、偶然だ。絶対に偶然だ)


「また会ったわね」


「また会いましたね」


 ミサトが少し俺を見た。


「さっきの実技、見てたでしょ」


「見てた」


「どう思った?」


「……強いと思いました」


「そうよ、強いの。私は強い」


「自分で言うか」


「言って何が悪いの。事実でしょ」


(自己評価の出し方が、俺の知ってる人間と全然違う。「謙遜してなんぼ」な空気が皆無だ。ある意味、清々しい。プレゼンで「私が一番よ」と言い切れる人間の存在感がある)


「あんたも、強いでしょ」


 ミサトが言った。


「……なんで?」


「さっきの実技で、明らかに力を抑えてた。あの小さな火球、あんたの実力じゃないでしょ」


(見抜かれた。居心地が悪い)


「……見てたんですか」


「当然よ。私が見ない人間なんていない」


「自信の根拠は?」


「実力よ」


「それは循環してる」


「別にいいじゃない」


 ミサトが鼻を鳴らした。


「いつか見せてちょうだい、本当の力を」


「……」


「それまで、私の実力を認めておきなさい。対等な立場で話したいなら、対等な実力を見せてから言いなさい」


(はっきりしてるな。「対等に認めてほしければ対等になれ」という論理。理不尽じゃないが、言い方がストレートすぎる。でも……俺はこの言い方の方が好きかもしれない。遠回しな圧力より、正面から来てくれた方が対処しやすい)


「……分かりました。機会があれば」


「機会は作るものよ」


 ミサトが歩き出そうとした——が、その足が止まった。


「……一つ、聞かせなさい」


 声のトーンが変わった。さっきまでの強気な張り合いとは別の、低くて真剣な声だ。


「なんですか」


「あんたの動き方——剣を抑えてる時の、魔力の流れが変だった」


「……」


「普通の魔法使いの流れじゃない。詠唱が短すぎる、タイミングが違う、制御が過剰だ。まるで——別の世界で、別の方法で鍛えたみたいな」


 ミサトの目が細くなった。


「あんた、ここの出身じゃないでしょ」


 俺は黙っていた。


「……私も、そうなの」


 ミサトが小さく言った。


「え?」


「ここの出身じゃない。もとは別の世界にいた。この身体に移ったのは、一年前」


 静寂。


 廊下の端から端まで、誰もいない。夕日が窓から差し込んでいる。


 ミサトの表情は変わっていなかった。強気なままだった。でも——声から、張り合うための力が抜けていた。


(転生者、だ。ミサトも)


「……俺も、そうです。生まれた時からここじゃない」


「やっぱりね」


 ミサトが小さく息をついた。緊張を解いたような、ほんの僅かな違いだった。


「一年、か。だいぶ慣れた?」


「……慣れた。でも最初の三ヶ月は、何もかも分からなくて、動けなかった。魔力の使い方も、この世界のルールも」


「俺も、最初はそうだった」


「でもあんたは八十日でそれなりに使えるようになってる。私より飲み込みが早い」


「……そうかもしれない。それなりに経験があったので」


「それなりの経験、ね。……まあいいわ、詮索しない」


「何か月ここにいる?」


「八十日くらい」


「私は一年。……慣れたと思ってたけど、なんか——同じやつがいると思ったら、ちょっとだけ楽になった。なんで」


(それは分かる。言語化しにくいが、分かる)


「知ってる人間がいると、根が生えるんです。たぶん」


「…………詩的ね」


「そうでもないですよ」


 ミサトが少しだけ笑った。笑ったように見えた。


「この話、他には言わないこと。転生者だってことは、目立つだけだから」


「言いません。俺もそうしてる」


「……握手」


 ミサトが手を出した。


(強引だ。何の前置きもなく握手)


 でも——俺は手を出した。


 握った。


(ミサト・ヴァレンタイン。言い合いばかりしてきた相手が、同じところから来た人間だとは思わなかった。こんな出会い方があるのか)


「犬猿の仲でいきましょ」


 ミサトが手を離しながら言った。


「それ、自分で言うか」


「言って何が悪いの。それが私たちの関係でしょ」


「……まあ、そうですね」


 ミサトが角を曲がって消えた。


 俺は少しの間、廊下に立っていた。


 ミサトが去った後の廊下は静かだった。夕日の角度が変わって、床に長い影が伸びている。


(転生者同士、か。だからといって、すぐに仲良くなれるわけじゃない。犬猿の仲で、たぶんこれからも言い合いをする。でも——悪くない。なんか、不思議と悪くない)


(同じ場所から来た、という感覚は、アリアたちとも共有できないものだ。アリアは大切な存在だ。でも「転生前の世界」を知っている人間というのは、ここには他にいない。ミサトがいた、というそれだけのことが——思ったより大きかった)


 寮に戻ると、三人がいた。


「遅かったね」アリアが言う。「どこかで話し込んでた?」


「……少し」


「ミサトさんと?」


「なんで知ってる?」


「カトレアが見てたって」


「ギャハハ! 廊下で言い合ってるの見えたよ! 火花散ってた!」


「散ってない」


「散ってたよ! 信じて!」


(散ってたかもしれない。今日は二回目だ。何度でも「散ってない」と言い続けるしかない)


「どんな話したの?」リリナが興味津々に聞く。「ミサトさんってすごい人なんでしょ?」


「……特待生らしい。剣術も魔法も優秀で、言い方がストレートで、友達がいないと言ってた」


「友達がいない?」アリアが少し考え込む。「……なんか、複雑だね」


「そうだな。あれだけの実力があって、でも仲間がいない。どっちがいいかは分からないけど」


「セラは、どう思う?」


「俺は……三人と一緒がいい。それは間違いない」


「えへへ」


(答えは出てる。力はあるが仲間がいない。仲間はいるが力が足りない。どちらが豊かかは、言うまでもない。両方あればいいんだが——それは欲張りか)


「ミサトさんと、仲良くなれたりするかな?」リリナが言う。「私も! と言いたいけど、怖そうで……」


「ええっ、でも悪い人じゃなさそうだったよね? 実技の時」


「……悪くはないと思う。ただ、ぶっきらぼうだ。仲良くなれるかは、本人次第だな」


「セラが最初に仲良くなってよ」カトレアが言う。「ギャハハ! 言い合い友達みたいな感じで!」


「言い合い友達って何ですか」


「なんか、ライバルみたいな?」


(ライバル。ミサトに対してそういう感覚がある。不思議だ。あいつ、絶対に俺より先に進むつもりでいる。それが——少し、好きかもしれない)


(俺には、アリアとリリナとカトレアがいる。ミサトとは別の意味で、付き合っていくことになりそうだ。犬猿の仲として、あるいは——どういう関係になるか、まだ分からない)


 夕日が学園の塔を橙色に染めていた。


 ミサトとのやり取りで、少し前を向けた一日。三人と笑えた夜。


(転生してから八十日。色々あったけど、毎日何かが動いてる。一日で何かが変わる。それだけで、いい転生だと思う)


 転生八十日目が、静かに終わった。




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