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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第58話 女装の余波

# 第58話 女装の余波


## 優勝の翌日


 翌々日——転生七十四日目の朝。


 学園に登校した瞬間、空気が違った。


 前日と違う。二日前とも違う。廊下を歩くたびに生徒たちの視線が一点に集中してくる。


 俺に。


(会社でも月曜の朝、「あいつ先週やらかしたらしいぞ」みたいな噂が流れて注目を集める先輩がいたが……まあ似たようなものか。ただ内容が全然違う。あっちはネガティブで、こっちはポジティブらしい。どっちが楽かは微妙なとこだが)


「セラ君!」


 声をかけてきたのは男子生徒だった。緊張した顔で近づいてくる。


「女装コンテスト、見てたよ! すごかった!」


「……ありがとう」


「なんか……かわいかったな……」


「そういうのはいりません」


「え、あ、すみません」


 男子生徒が若干びびって引き下がった。


(かわいかったと言ってくる男子生徒の感情が正直よく分からない。怒るのも違うし、淡々と応答するしかない。職場でもこういうよく分からないコミュニケーションをする人間はいた)


「セラくん! 昨日、優勝したんですよね?」


 今度は別の男子生徒が声をかけてきた。友好的な笑顔だ。


「……そうですね」


「ステージ、見てました。本当に……えっと……いや、すごかった、です」


 言いたいことを途中で言い換えた。察した。


「次の機会があっても、出ません」


「え、そうなんですか? でも、才能あると思いますよ!」


「ありがとうございます。でも、才能の使い道を間違えてるので」


(才能があるかどうかは知らないが、あったとしても女装に使いたくない。「お前、実は接待向きの顔してるよな」と言われたことがあったが、それも使いたくない才能の代表例だった)


 男子生徒が苦笑して離れていく。廊下はまだ続く。


「あの、セラ君! 昨日の、すごくよかったです! 写真とかないんですか?」


 次は女子生徒からだった。


「写真という概念がこの世界にありません」


「えー、残念……でもまた見たいです!」


「二度とやりません」


「えー! なんでですか!?」


 こっちが知りたい。知りたいのはこっちだ。「なんでやったのか」という点では完全に被害者の立場なんだが。


(学園全体が俺をアイドル扱いし始めてる気がする。まずい展開だ。社内で変な話題の人になってしまった時の空気に似ている。しかも好意的な注目だから対処が難しい。批判なら反論できるが、好意には反論できない)


 しかし。


 中庭を横切る時、女子生徒グループがひそひそ話をしながら俺を見て目線を逸らすのに気づいた。


(あれは好意的な視線じゃない。「刺さる感じ」は経験がある。直接言葉はないが、雰囲気で伝わってくる敵意がある。嫉妬か、反感か、あるいは両方か)


「セラ、あっちの女子グループ、ちょっと雰囲気悪いね」


 隣を歩くアリアが小声で言う。


「気づいてた」


「気をつけてね」


「分かった」


(分かった、とは言ったが具体的に何をどう気をつければいいのか。正面から来るなら対応できるが、ひそひそ系は防ぎようがない)


「でも、セラが悪いわけじゃないよ」アリアが小さく言う。「目立ったのは、理事長が勝手に選んだからだし」


「そうだな」


「……不満な気持ちはあるけど」


「ん?」


「強制参加させた理事長に怒ってる」アリアが拳を握る。「セラが困ってるのを見るの、嫌なんだよ」


(アリアが、怒ってくれている。俺のために。職場では、自分の不満や怒りを誰かが代わりに感じてくれることなんて、なかった。一人で飲み込んで、一人で消化していた。それが当たり前だったのに)


 リリナとカトレアと合流した。四人で並んで廊下を歩く。


「昨日のこと、まだ引きずってる人多いね」リリナが少し眉を寄せる。


「しょうがない。どこの世界も、噂はすぐ広まる」


「でも、セラを見る目があんまり……好意的じゃない子もいるから」


「うん、見てる。でも、全員に好かれようとするのも無理だし、全員に嫌われたとしても困るほどでもない。今のところは」


「今のところは、か」カトレアが腕を組む。「つまり今後困る可能性はあるってこと?」


「排除するような動きが出たら、そこで考える。今は現状維持でいい」


「セラ、意外と戦略的だね」


「意外と?」


「……失礼だったね。ごめん」


(リリナが素直に謝れるのは、長所だ。自分が失礼なことを言ったと気づいた瞬間に謝れる人間は、案外少ない。プライドが邪魔して「別に失礼じゃなかった」という方向に持っていく人間の方が多かった)


「ギャハハ! でもセラ、実際意外と戦略家だよ、私も思う!」


「……カトレアはもう少し配慮しろ」


「えーなんで!? 褒めてる!」


「褒め方が難しいな」


「まあ、とりあえず今日は平和に過ごそうよ」アリアが笑いかける。「一日に何回もイベントが起きるわけでもないし」


「そうだな」


「まあ、今日は様子を見よう」


「そうだね」


## 男子生徒との対立


 昼休み。中庭のベンチに腰を下ろして、購買で買ったパンを食べていた。


「おい、セラ」


 三人の男子生徒だった。体格がいい。制服の袖をまくっている。目つきが少し悪い。後ろに二人を従えていて、先頭の一人が前に出てきた。


(来た。これは——面倒な先輩が「ちょっと話がある」と部屋を訪ねてくるやつだ。大体その場合、話は面倒なことになる)


「なに?」


 俺はパンを食べながら顔だけ向ける。立ち上がらない。フラットに受け答えする。圧力をかけてくる人間への基本対応だ。


「女装なんてして、注目を集めようとしてるのか?」


 先頭の男子が言う。


「強制参加でしたが」


「そういう言い訳は聞き飽きた。お前のせいで、学園全体がお前の話題ばかりだ。正直うざい」


(うざいのは分かる。でも俺のせいじゃない。文句は理事長に言え。でもそれを言っても始まらないので、事実だけ返す)


「強制参加は本当のことだし、俺が望んでやったわけじゃない」


「顔がいいから選ばれたんだろ。つまりお前が悪い」


「顔はコントロールできないんですが」


「屁理屈言うな」


「事実を言っています。顔は生まれつきで、制御できるものじゃない」


 男子が一歩近づく。


「一発入れていいか?」


「…………」


(確認をとる男子。「殴っていいか」と確認してから実際には殴れない人間が多い。威嚇が目的だ。でも万が一があるので、対応は必要だ)


 俺はゆっくりと立ち上がった。


 エルフの体格は、ドワーフほどがっしりしていないが、身長はこの男子たちより高い。そして——魔力の「圧」を少しだけ外に出した。ほんの少し。水面に小石を投げ込む程度の量。


 でも十分だった。


 三人が、同時に半歩引いた。


(気づいたか。魔力の差を、本能的に感じ取ったんだろう。意識の外から来る「やばい」という感覚は、説明できなくても誰でも感じ取れる)


「……やめとく」


 先頭の男子が、ぼそっと言って踵を返した。あっという間に去っていく。


(思ったより早く終わった)


「セラ、大丈夫?」


 アリアが心配そうに駆けてくる。


「うん。何もなかった」


「怖かった……」


「吠えてるだけのタイプだ。本当に危ない人間は、事前に警告してこない。あの三人は、話し合えばなんとかなる」


(本当に理不尽なことをしてくる人間は、宣言しない。ある日突然やってくる。「やっていいか確認する」段階で、すでに本人の中に迷いがある)


「リリナは見てた?」


「……遠くから見てた。助けに行こうとしたんだけど、カトレアに止められた」


「正解だよ。カトレア、ありがとう」


「ギャハハ! あそこで四人で突っ立ってたら変に見えると思って!」カトレアが手を振る。


「正しい判断です」


(状況判断が早い。口は悪いし豪快すぎるが、判断基準は正しいことが多い)


「あの三人、また来ると思う?」


「しばらくは来ない気がする。でも根本が解決したわけじゃないから……」セラは考える。「様子を見る」


(慌てて動くと余計こじれる。これが「静観フェーズ」だ)


「……セラ、なんか慣れてる?」


「……まあ、多少ね」


「どういう経験なんだろう……」


 アリアが首をかしげた。答えなかった。


## 女子生徒との対立


 午後の授業。


 問題は、男子ではなく女子からだった。


 教室に戻ったら、机の上に小さな紙が折りたたんで置いてあった。


「……なんだこれ」


 広げると、こう書いてある。


「調子に乗るな」


(匿名メモか。直接言えない、でも何かを伝えたい、その結果として匿名で紙を置いていく。悪意の発露というより、ある種の切迫感がある)


 紙をひっそりと捨てる。周囲を見るが、誰が置いたか分からない。クラスの半分くらいは下を向いている。


「セラ、どうしたの?」


 アリアが聞く。


「ゴミが落ちてた」


「……そう」


 アリアの表情で、なんとなく察したことが分かった。でも彼女は何も言わなかった。俺も何も言わなかった。


 授業中も、いくつかの女子生徒グループからの視線を感じた。冷たい視線。友好的じゃない視線。授業に集中しようとするたびに、その視線が気になって少しだけ集中が乱れた。


(女装コンテストで目立った結果、「なんであいつだけ」という反感が生まれた。学園での序列とか、人気のバランスとか、そういうもののせいだ。急に評価が上がった人間に対して似たような反応をするやつは、どこの世界にでもいる)


 授業が終わっても、空気は変わらない。


 廊下を歩けば、すれ違いざまに「……あの子、昨日のコンテストの」という声が聞こえる。次の瞬間には声が止んで、俺を見た女子生徒たちが目を逸らす。


(見ている人間の気持ちは三種類ある。好意、嫉妬、好奇心。これは全部同時に来るから厄介だ。誰がどれかを区別しようとするより、全部「視線」として受け流すのが楽だと気づいた。感情を細かく仕分けし始めると疲れる)


「セラ、大丈夫?」


 カトレアが廊下で声をかけてきた。


「大丈夫、普通に歩いてるだけだから」


「視線が刺さってんね」


「……刺さってはない。当たってはいる」


「なんか同じじゃないの?」


「刺さるのは貫通する感じで、当たるだけなら壁を通過しない」


「……細かいな、セラは」


(細かくしないと、感情に飲み込まれる。分類すれば、分析できる。分析できれば、制御できる。それが長いこと乗り切ってきた方法だ)


 放課後。


 廊下で、知らない女子生徒に声をかけられた。


「少し話せますか」


「……誰ですか?」


「一年B組のセリナです。あなたに直接言いたいことがあって」


「分かった、聞く」


(来たか。匿名メモより直接言ってくるだけ誠実だ。「あなたのここが問題です」と言ってくれる人間の方が、陰でひそひそするより信用できた。直接言えるということは、相手も腹を括っているということだ)


## 女子生徒との対峙


 空き教室。


 呼ばれたのは俺だけかと思ったら、アリア、リリナ、カトレアも一緒だった。「なんで全員来てるの?」という顔をしたら、「仲間だから」とアリアが答えた。そうですか。


 部屋には、セリナを含めて三人の女子生徒がいた。全員、一年B組の生徒らしい。


「単刀直入に言います」


 セリナが腕を組んで言う。背筋が伸びていて、目が真剣だ。


「あなたたちが学園で目立ちすぎているのが問題です。特に女装コンテストの件。女子生徒の間で反感が高まっています」


「それは分かります」


「分かってるなら、もう少し自重してもらえませんか」


「女装コンテストは強制参加でしたが」


「……でも、あなたが目立ちすぎている事実は変わらない」


(事実は事実だ。強制参加であろうと、目立った結果として反感が生まれた。ただ、俺がどうこうできる話ではなく、単に「そうなった」という話だ。俺に「目立つな」と言われても、どうしろというんだ)


「で、具体的に何を要求してるの?」


 アリアが口を開いた。


「……目立つのをやめてほしい」


「それは無理よ」


 アリアがきっぱり言った。


「え?」


「セラは強制参加だった。それは事実。それに、目立つかどうかはセラの顔面が決めることで、本人には選択肢がない。それを「自重しろ」と言うのは……ちょっとおかしくない?」


(アリアが、ちゃんと正論を言った。こういうことを言えるのは、案外少ない。空気を読んで黙ってしまう人間の方が多い)


「でも、実際に反感があって——」


「反感がある人に、反感を持つことをやめるよう働きかけてほしい。私たちに要求するのは方向が違う。矛先が違うってこと」


「……」


 セリナが黙った。


(アリア、完璧な正論だ。「誰かが怒ってる」を解決するには、怒ってる側の感情の問題を解決するしかない。「怒られてる側に怒るな」と言っても無意味だ)


「俺からも言います」


 俺はセリナと目を合わせた。


「こちらは悪意を持って目立とうとしたわけじゃない。でも、迷惑をかけたなら申し訳なかったと思う。……ただ、自重はできない。できることをやって、できないことはやらない。それしか言えません」


「……」


「もし具体的に「これをやめてほしい」ということがあれば、聞きます。でも「存在を薄くしろ」は難しい」


 セリナたちは少し顔を見合わせた。長い沈黙。


「……分かりました」


 そう言って、三人は出ていった。


 扉が閉まった後、部屋に静寂が戻った。


「……終わった?」


「終わったっぽい」


 カトレアが部屋の外を確認してから戻ってきた。


「アリア、さっきの正論すごかったね」


「え、普通のことを言ったよ?」


「普通のことを普通に言えるのって、実は難しいんですよ」


 リリナがしみじみ言う。


(本当にそうだ。正論を言える人間は意外と少なかった。みんな空気を読んで黙っていた。アリアは天然でそれができる。「正論」と「空気読み」を同時に持ってる希有なタイプだ)


「でも、これで解決したかな?」


「どうだろう……セリナさんは分かってくれたと思うけど、学園全体の反感がなくなったわけじゃないし」


「まあ、時間が経てば落ち着く気がする」


(人の噂も七十五日、と言われていた。ここは異世界だから日数は分からないが、噂が消えない世界はない)


「でも、今日のセリナさんはちゃんと話してくれたね」


 アリアが言う。


「そうだな。直接話しかけてきてくれた分、誠実だと思う」


「私も、そう思った」リリナが頷く。「匿名メモより、ずっとマシ」


「あれ、誰が置いたのか分かった?」


「……分からない。でも、まあ」セラは少し考えてから言う。「犯人探しをしても意味ないかな、と思って」


「どうして?」


「犯人を特定したとして、どうする? 謝らせる? それで相手の反感がなくなるか?」


「……なくならないかも」


「うん。だから、時間の使い方として正しくない」


(誰かが影で悪口を言っていることが分かって、犯人を突き止めたことがあった。でも、対峙したところで何も解決しなかった。根本の感情は変わらないから。それを学んだのは、結構高い授業料を払ってからだった)


「セラって、大人だね」


 カトレアが言う。


「そうかな」


「ギャハハ! なんか、同い年なのに、ずっと年上みたいな感じがするんだよね、セラって。なんでだろ?」


「……さあ」


(えーと、エルフの外見で三十年分の経験があるから、という正直な答えは言えない)


## 覚悟と決意


 夜。寮の部屋。


 四人でベッドに座りながら、今日一日を振り返った。


「なんか……色々あったね、今日」


 リリナが言う。


「そうだね。男子に絡まれて、女子に呼び出されて」


「セラ、疲れてない?」


「……まあ、少し」


(少し、は過小評価だ。結構疲れた。男子からの圧力と、女子からの冷たい視線と、放課後の対峙と。体力的疲弊ではないが、精神的な消耗がある)


「でも、乗り越えたよ」


 アリアが言った。


「……そうだな」


「明日もまた変なことが起きるかもしれない。でも、今日乗り越えたんだから明日も乗り越えられる」


「アリアの論理は単純だけど、たまに正しい」


「たまにじゃなくて、いつも正しいよ」


「自分で言うな」


「えへへ」


 カトレアが笑う。リリナが小さく微笑む。


(こういう時間があるから、続けられる。仕事が辛くて帰っても一人だった。誰かと話して笑える夜がなかった。一人で飯を食って、一人でベッドに入って、翌朝また一人で出かけた。それが普通だと思っていた。でも今は違う)


「一つ言っておきたい」


 俺は三人に言った。


「今日のことで、俺のことを守ってくれた。アリアも、カトレアも、リリナも。……ありがとう」


「当たり前でしょ」


 アリアが即答した。


「当たり前、か」


「セラのことを守るのは私の仕事。えへへ」


「えっと……仕事ってどういう意味?」


「仲間でしょ。仲間を守るのは当然。えへへ」


(天然なのは分かってる。でも、こういう「当たり前」と言える人間が近くにいるのは、本当にありがたい。「当たり前」を押し付けてくる人間はたくさんいたが、「当たり前でしょ」と言いながら守ってくれる人間は一人もいなかった。言葉の中身が全然違う)


「リリナは?」


「私も! セラが困ってたら助ける。それだけ」リリナが力強く頷く。「ええっ、それ以外に何がある?」


「いや、何もないけど……そのシンプルさに、ちょっと安心した」


「シンプルが一番だよ」


(そうだ。シンプルでいい。人間関係も、仕事も、人生も。シンプルに考えれば「助けたいから助ける」だけだ)


「カトレアは当日観客だったが」


「ギャハハ! でも心の中では応援してたよ! セラ、負けるな!って!」


「何と戦ってるんですか!?」


「人気投票と!」


「戦いたくなかったんですが!?」


 大笑いが部屋に広がった。


「でも、明日は平和だといいね」


 リリナが言う。


「そうだな。男子も女子も、しばらくは来ないと思うけど」


「もし来たら、また全員で対応する」アリアが宣言するように言う。「一人で抱え込まなくていいんだよ、セラ」


「……分かってる」


「本当に分かってる?」


「……今日のことで、ちゃんと分かった」


(問題を一人で抱え込みすぎていた。「迷惑をかけてはいけない」という意識が強くて、助けを求める前に一人で疲弊していた。でも今日、三人が当然のように側にいた。それを見て、少し変われた気がする)


「おやすみ」


「おやすみ」「おやすみなさい」「おやすみ、セラ」


 電灯が消えた。部屋が暗くなる。


 セラはベッドの上で天井を見上げた。


(一日が、長かった。でも——悪くなかった)


 三人の寝息がそれぞれのリズムで聞こえてくる。


 学園での対立は、始まったばかりかもしれない。でも——


(俺には、三人がいる。それだけで、十分だ。これがなかった日々を知っているから、今これが何より大事だと分かる)


 夜の学園が、静かに眠っていく。


 翌日も、きっとまた何かある。でも、乗り越えられる。


(根拠はアリア発。でも、信じてみることにする)


 天井を眺めながら、今日の一つ一つを整理した。男子から来た威圧、女子からの匿名メモ、セリナとの対話。どれも、この学園で生きていくということだった。


 逃げ場はない。


 この場所で魔法を学び、この人たちと過ごす。それが今の俺のやることだ。選んで来たわけじゃないが、今は選んでいる。


(覚悟というほど大げさなものでもないが——明日も来る、ということを静かに受け入れた。それで十分だ)


 三人の寝息が聞こえる。それを聞きながら、目を閉じた。


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