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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第55話 合格発表

# 第55話 合格発表


## 発表の日


 転生五十九日目の朝。


 窓から差し込む朝の光が、部屋を柔らかく照らしている。鳥のさえずりが聞こえる。清々しい朝だ。


 なのに全然清々しい気分じゃない。


 昨日のことは夢じゃなかった。入学試験を受けたこと。実技免除が確定したこと。そして、一晩中ずっと続く、この結果待ちの重さ。


(緊張してる。今日の正午まで、あと何時間ある。数えたくない。守護隊でいうと「大きな依頼の前夜」に似た感覚だ。でも守護隊の仕事では、落ちても次の任務があった。今回は落ちたら……落ちる気はしないが、落ちたら、という可能性だけで胃が重くなる)


「……おはよう」


 アリアの声がした。振り返ると、もう起きて身支度を整えている。朝の光を浴びた金色の髪が、綺麗だ。守護隊の仲間には女性もいたが、こんな朝に思わず見てしまうような光景はなかった。余裕がなかったせいかもしれないし、ただそういう空気じゃなかっただけかもしれない。今もまあ余裕はないのに、それでも見てしまった。


「おはよう、アリア。今日は合格発表だね」


「うん。正午に発表があるから」


「緊張する」リリナが布団からずるずると起きてきた。「本当に、受かってるかな」


「受かってるよ。昨日の夢で見たし」カトレアも言う。「夢の中で、四人が学園で勉強してた」


「夢占いで合否を判断するのはいかがなものかと思うが」


「縁起担ぎは大事よ。ドワーフの商人は必ず縁起を担ぐ」


(まあ、実技免除だし筆記もやった。受かる根拠はある。でも試験の結果待ちって、論理が通じないんだよな。「頑張ったから大丈夫」という言葉が、なぜか心に届かない時間帯がある。今がそれだ)


 朝食をとり、出発の準備をする。


「正午に発表。その後に事務室で手続き。制服を受け取って、寮の鍵をもらう」カトレアが計画を立てる。さすが商人育ち。手続きの段取りを瞬時に組み立てる。


「寮に荷物を運んで、部屋を整える」アリアも続ける。


「新しい生活の始まりだ」


「頑張ろう」リリナも決意を込めて言う。


 学園へ向かう。道行く人々の顔には、それぞれの物語がある。


(私たちも、この街の一部になるんだ。エルフの森でいうところの「共同体に帰属する日」に近い感覚かもしれない。ただしこっちは魔法学園だが。エルフの森での帰属は、生まれた時からすでに決まっていた。今回は違う。自分で受けて、自分の力で入ろうとしている。それが、妙に清々しい)


「……緊張してきた」リリナが少し震える声で言う。


「大丈夫。四人なら」アリアが彼女の肩を抱く。


## 合格発表


 学園の正門前には、多くの受験者が集まっていた。


 エルフ、人間、ドワーフ、獣人。様々な種族の若者たちが、緊張した顔で待っている。全員が同じ目的だ。結果を知りに来た。


「……人多いね」リリナが少し圧倒されている。


「全員気になってるんだよ。三日間待ったんだから」


「合格率は三割だから、三分の一は落ちる」アリアが計算する。「残酷な数字だね」


(残酷な数字だが、それが現実だ。でも私たちは落ちない。落ちる気がしない。根拠? ある。三日間の努力と、実技免除と、三人の仲間だ)


 正門前の広場に、大きな掲示板が設置されている。白い紙が、まだ貼られていない。


「まだ、早いかな」


 太陽はまだ中天に達していない。正午まで、あと少し。青い空に白い雲が流れている。


(心臓の音が大きくなってきた。ドクン、ドクン。こういう感覚は初めてじゃない。守護隊の入団試験の時も同じだった。でもあの時より、今の方がずっと大事だ。あの時は一人だった。今は三人いる。落ちても、一人で落ち込まなくていい。でも、三人のためにも絶対に受かりたい。それが同時にある。不思議な感情だ)


「待とう。すぐ正午だ」


 時間が過ぎていく。一秒一秒が長く感じる。受験者たちが掲示板をじっと見つめている。誰も話さない。静寂が広場を包んでいる。


 アリアが、セラの手を握った。温かい。


「大丈夫」アリアが小さく言う。「四人なら、大丈夫」


「……うん」


 リリナとカトレアも、手を握り合っている。


(こういう時に手を握ってくれる仲間がいるというのは、どれだけ安心するものか。前世には、こういう瞬間がなかった。だから余計に、今が大事だと分かる)


 祈るように手を合わせている者。震える手で何かを口にする者。それぞれが、それぞれのやり方で結果を待っている。


 学園の鐘が鳴った。


 正午だ。


 同時に、数人の職員が掲示板に近づく。


「……発表だ」リリナが息を呑む。


 職員が、大きな紙を掲示板に貼り始める。受験者たちが一斉に動き出す。


「すみません」「見せて」「どれどれ」


 混乱の中、四人も掲示板へ近づく。


 大きな紙に、受験番号と合格者の名前が書かれている。


「セラ・ウィスパーウィンド……」セラが探す。


 あった。


 『セラ・ウィスパーウィンド 合格』


「……受かった」


「やった!」リリナが叫ぶ。「セラ、受かった!」


「次、私だ!」アリアが探す。


 『アリア・スター・シルヴァニア 合格』


「私も!」


「リリナも!」


 『リリナ・ウィンド・シルヴァニア 合格』


「やったー!」リリナが飛び跳ねる。


「カトレアも!」


 『カトレア・アイアンハート 合格』


「よかった」カトレアも安堵する。


「四人、全員合格!」


 四人が抱き合う。


(受かった。本当に受かった。……なんか、目が熱い。こんな感じは久しぶりだ)


 四人の顔を見る。アリアが目に涙を浮かべながら笑っている。リリナが飛び跳ねている。カトレアが珍しく、じっと目を閉じて何かを噛みしめている。


「良かった……本当に良かった」


 言うと、三人が同時に振り返った。そして、また抱き合った。


(守護隊でいうと、入団試験の結果通知は一人で受け取った。喜びを共有できる相手が傍にいなかった。今回は違う。三人と抱き合える。それが何より嬉しい。喜びというのは、分かち合えるほど大きくなるんだな、と今実感した)


 周囲の受験者たちも、様々な反応を示している。


「受かった!」「やった!」「よかった……」


 喜ぶ者、安堵する者、そして。


「落ちた……」「無理か……」


 涙する者もいる。合格率は三割。多くの人が、夢を叶えられなかった。


(彼女たちの顔を見ていると、胸が痛くなる。同じ日、同じ場所で、同じ試験を受けた。でも、この場所では「受かった側」と「落ちた側」に分かれてしまう。それがルールだと分かっていても、目の前で見ると、単純には喜べない部分がある。エルフの森では、こういう「競争で弾かれる」経験があまりなかった。みんなが共同体の一員だったから。この世界は広くて、いろんな場所に「越えなければいけない壁」がある。それを実感した)


「……残酷だね」アリアが少し悲しげに言う。「頑張った人も、落ちるんだ」


「それが現実だ」カトレアが静かに言う。「でも私たちは受かった。それを大切にしよう」


「うん。受かったんだ」リリナも頷く。「魔法学園、行ける!」


## 入学手続き


「入学式は一週間後だ」セラが確認する。「それまでに、入学手続きをしないと」


「今日、手続きするんだよね」アリアが期待する。「制服ももらえるし」


「寮の鍵も!」リリナも目を輝かせる。「四人部屋、楽しみだね」


「奨学金は?」カトレアが現実的な問題を提起する。「学費、どうするんだっけ」


「成績優秀者には学費免除の奨学金が出るはず。事務室で確認できる」


「じゃあ、まずは事務室へ」


 人混みをぬけて事務室へ向かった。


 事務室は教室棟の一階にあった。清潔な部屋で、数人の職員が働いている。


「いらっしゃい」一人の女性が迎えてくれる。「入学手続きですね」


「はい。合格しました。セラ・ウィスパーウィンドです」


「おめでとうございます。四人まとめて手続きしましょう」


 用紙を四枚渡してくる。出身地、種族、属性、特技など。


 四人は記入していく。


 『出身地:エルフの森シルヴァニア』『種族:エルフ』『属性:光』『特技:聖三角、合体魔法』


(正直に書く。隠す必要はない。あ、ただし魔力量は平均の五倍という事実は、あまり宣伝しなくていいかもしれない)


「エルフの森出身の方々ですね。稀有です」


「王都から来ました。冒険者もしてました」


「冒険者経験者は歓迎しますよ。実戦経験がある学生は優秀な成績を収める傾向があります」


「安心した」カトレアも頷く。


「奨学金についてですが」女性が続ける。「成績優秀者には学費免除の奨学金が出ます。実技試験免除で高得点の方は可能性が高いです」


「結果は、入学式に発表します」


(奨学金が出れば、カトレアの借金問題が少し楽になる。四人のうちの誰かが経済的に苦しいと、全体の計画に影響が出る。守護隊でも、装備費に困っている隊員がいると任務全体の足を引っ張ることがあった。仲間の経済状況は、他人事じゃない)


「分かりました。ありがとうございます」


「次に、制服の支給です」


 女性がカウンターの裏へ移動し、四人分の制服を用意してくる。


 丁寧に畳まれた制服が、並んでいる。


「……これが、制服だ」アリアが手に取る。「きれい」


 白を基調とした制服で、エレガントなデザイン。


「試着して、サイズを確認してください」


 セラは男子の制服を持って更衣室へ。


 制服を着ると、鏡に映る自分が変わった。


(……似合うかな。少しぎこちないが、悪くない。「これから魔法学園の学生だ」という、不思議な高揚感がある。守護隊の制服を初めて着た時もこんな感覚があった気がする。でもあの時は義務感の方が強かった。今回は……なんというか、自分で選んで着ている感じがする。これは悪くない)


 更衣室から出ると、三人も制服を着て待っていた。


「……セラ、似合ってる」アリアが目を輝かせる。


「ありがとう。アリアも似合ってる。リリナも、カトレアも」


「……魔法学園の学生、だね」リリナが呟く。「夢みたい」


「制服、着たことなかった」カトレアも少し照れている。「これで学生だ。借金返済中の、学生だ」


「最後の一言は要らなかったかな」


「最後の一言が大事なのよ。商人は忘れない」


(カトレアが鏡の前でくるっと回った。ドワーフが制服を着て、思いの外似合っている。体格がしっかりしているから、制服が映えるんだろう。エルフの森にいた頃、ドワーフと制服の組み合わせを想像したことがなかった。でも実際に見ると、なんというか、すごく「今ここにいる」という感じがした)


 最後に寮の鍵が渡された。「四人部屋です。東寮、二階の二〇四号室」


「四人部屋、確保できた」セラが安堵する。


「希望通りでよかったですね」女性が微笑む。「寮のルールは紙に書いてあります。食事付きです。食堂は朝七時、昼十二時、夜六時です」


「はい。ありがとうございます」


「おめでとうございます。魔法学園で、素晴らしい日々を」


## 寮への引っ越し


 寮は学園の東側にあった。


 赤レンガの三階建ての建物で、清潔感がある。


「……ここが、寮だ」リリナが感心する。「大きい!」


「一階は食堂、二階と三階が部屋。私たちの部屋は二階」


 エントランスに入ると、温かい匂いが漂っていた。昼食の準備が進んでいるようだ。


「お腹、空いた」リリナがお腹をさする。


「まず部屋を見よう」カトレアが提案する。


 階段を上がり、二階の廊下を歩く。清潔で明るい廊下だ。


「二〇四号室……」セラが部屋を探す。あった。


 鍵を開けると、広い部屋が広がっていた。


「……広い!」リリナが驚く。


 四つのベッドが配置され、それぞれに机と椅子がある。窓が二つあり、明るい光が入る。


「四人部屋、ちょうどいい」アリアも満足そうだ。


「私のベッド、ここにする」リリナが窓の近くを選ぶ。


「じゃあ私は隣」アリアも選ぶ。


「カトレアは?」


「奥でいいよ。静かだし」


「じゃあ私は残り」


(それぞれの場所、それぞれのベッド。四人がこの部屋で暮らすんだ。守護隊の宿舎とは全然違う空気がある。なんというか、仲間と住んでいる感じがちゃんとする。守護隊の宿舎は機能的で清潔だったが、温かくはなかった。みんな次の任務のことを考えていた。ここは違う。窓から光が入る。ベッドが四つある。それだけで、ここに住む理由が十分に詰まっている気がした)


「……ここが、私たちの部屋だ」アリアが呟く。「一年間、ここで暮らす」


「楽しみだね」リリナも微笑む。


「ルール、確認しよう」カトレアが紙を取り出す。


 カトレアが読み上げる。


「『一、門限は夜十時。遅れる場合は事前に届ける』」


「十時……」リリナが少し困った顔をする。「冒険者時代は、もっと遅くまで起きてた」


「学生は早寝早起きだよ」アリアが笑う。


(守護隊の夜間当番があったから、夜通し起きていることは普通だった。でも今は学生だ。規律は変わる。変われる、と思う)


「『二、部屋の清掃は当番制。週に一度、大掃除』」


「当番、作らないと」セラがメモを取る。


「『三、食事は食堂でとること。部屋への持ち込みは禁止』」


「『四、異性の部屋への入室は禁止』」


「……四人は、大丈夫だよね」リリナが少し心配そうに言う。「セラ、男性だし」


「まあ、四人部屋の割り当てだから学園公認なんだろう」


(確かに、同じ部屋に住んでいることに今更気づいた感じがする。でも今更言っても仕方ないし、別にまあ……うん、別に)


「『五、魔法の使用は寮の外で。演習場を使うこと』」


「部屋で訓練できないんだ」アリアが少し残念そうだ。


「仕方ない」


「『六、騒音は控えること。他の部屋の迷惑にならない』」


「夜の話し声、気をつけよう」


「『七、荷物は指定の場所に整理すること』」


「『八、ルームメイトと協力し、良好な関係を保つこと』」


「それはできそうだね」リリナが笑う。「四人、仲良しだし」


「……全部守れそうだ」セラが頷く。「四人なら、大丈夫」


(八つのルール。守護隊の規律書と比べたら、ずっと穏やかだ。あちらは「命令違反は即処分」という条文があった。こちらは「ルームメイトと協力し良好な関係を」だ。どちらがいいかは、言うまでもない)


 宿に戻って荷物を運び、部屋を整えていく。


「……完成だ」リリナが手を叩く。「私たちの部屋、できた」


「居心地よさそう」アリアも満足そうだ。「ここで一年間過ごす」


## 新生活の始まり


 夜六時。鐘が鳴った。


「……ご飯、時間だ」リリナがお腹をさする。「食堂、行こう」


 食堂は、すでに多くの学生で賑わっていた。新しい入学生たちが制服を着て食事をしている。


「……人がいっぱい」リリナが少し圧倒されている。


「席、探そう」


 空いている席を見つけ、四人が座る。


「今日の夕食は、ローストチキン」セラがメニューを確認する。


「おいしそう!」リリナが目を輝かせる。「サラダも、スープも付いてる。デザートまである」


「学園の食事、豪華だね」カトレアも感心する。


 ローストチキンは、こんがりと焼かれていた。黄金色の皮に、香ばしい匂い。


「いただきまーす!」リリナが手を合わせる。


「いただきます」


「……おいしい!」リリナが叫ぶ。「最高!」


「うん。美味しい」アリアも満足そうだ。


「野菜、新鮮だ」カトレアも頷く。


(美味しい。学園の料理、ちゃんとしてる。共同生活の醍醐味のひとつだな。これが毎日続くなら、寮生活も悪くない。守護隊の食事は量はあったが、味は……まあ、戦闘食として及第点というやつだった。ここは味がある。塩気の加減が、ちゃんと「食べるための料理」だ。小さなことだが、それが毎日続くのは、思った以上に心に影響する)


 周囲を見ると、新しい入学生たちが話し合っている。


「どこ出身?」「王都だよ」「私は地方から」「魔法、得意なの?」「火属性だよ」


「……話しかけてみようか」アリアが提案する。「友達、作りたいし」


「行こう」リリナも元気よく言う。


 隣の席の女子学生に声をかける。


「あの、よかったら一緒に」


「はい?」女子学生が振り返る。


「私たち、今日入学しました」アリアが微笑む。


「あ、おめでとうございます」女子学生も笑う。「私も、今日入学しました」


「リリナです」「アリアです」「セラです」「カトレアです」


 四人が次々と自己紹介する。


「私は、ミナです」女子学生が答える。「エルフなんですね。珍しい」


「王都から来たんです。冒険者もしてました」


「すごい。私、勉強専門で。どこの出身?」アリアが尋ねる。


「王都の商人の家です。家業を継ぐために魔法を学びに」


「立派だね」セラが感心する。


「私たちは冒険者として強くなりたい。でも、借金も返したい」カトレアが現実的な目標を言う。


「借金?」ミナが少し驚く。


「ドワーフだから金に執着するの。話、長くなるよ」


「そうなんだ」ミナが微笑む。「これから、仲良くしてね」


「はい。よろしくお願いします」


 食事を終えると、四人は部屋に戻った。


「……友達、できた」リリナが嬉しそうだ。「ミナちゃん、優しかった」


「これからも話しかけよう。友達、増えるといいね」


(友達という言葉が、自然に出てくるようになってきた。エルフの森では、仲間と呼べる存在がいなかった。守護隊では「同僚」だったが「友達」とは違う。アリア、リリナ、カトレアと過ごすようになって、初めて「友達がいる」と感じた。それが今、ミナという名前が一つ増えた。なんというか、世界が少し広くなった感じがした)


 四人で夕べを過ごす。


「入学式まで、一週間」カトレアがカレンダーを見る。「その間、何する?」


「王都、見て回りたい」アリアが提案する。「まだ全部見てない」


「図書館も行きたい。古代エルフの資料、あるかも」


「クエストも受けたい。借金の返済も進めないと」カトレアが現実的に言う。


「計画を立てよう。月・水・金はクエスト。火・木は王都探索と学園研究。土日は休息と荷物整理」カトレアが素早く提案する。


「え、もう計画できてる!?」リリナが目を丸くする。


「商人は計画が命よ。段取り八分、実行二分」カトレアが胸を張る。


「カトレア、すごい」アリアが感心する。


「えへへ、当たり前でしょ? これがドワーフの効率主義」


(四人で話し合って、自分たちで方針を決める。それが楽しい。守護隊では上官の命令に従うだけだったが、ここでは違う。これが仲間というものだ。)


(守護隊の上官は、合理的な判断をしていた。でも「こうしたい」という個人の気持ちが入る余地は、あまりなかった。今は違う。カトレアが「クエストの日程はこうしよう」と言って、アリアが「王都探索もしたい」と言って、俺が「図書館も行きたい」と言う。それを全部組み込んで、四人の計画になる。非効率かもしれないが、楽しい)


「図書館って、どれくらい大きいんだろう」リリナが目を輝かせる。「古代エルフの本、あるかな」


「魔法学園だから魔法の資料は豊富なはず。古代文字の解読資料もあるといいんだけど」


「行ってみなきゃ分からないよ」アリアが笑う。「でも、きっとある。楽しみだね」


「研究と実戦を両立するのが、私たちのスタイルだね」リリナが宣言するように言う。


「かっこいいね」アリアが笑う。


「言い出したリリナが一番かっこいい」


「そんなことはないよ……でも、なんか、決まった気がした」


(研究と実戦の両立。それが俺たちのスタイル。守護隊にはなかった言葉だが、今の俺にはしっくりくる)


「そうだな。動きながら、学ぶ」


「二刀流じゃなくて、四刀流だね」アリアが楽しそうに笑う。「四人でやれることが、倍増してる」


「それが、仲間のいることの強みだよ」


(四人でやれば、それぞれの強みが活きる。当たり前のことなのに、ちゃんと実感できるのは今だからだ。ここにいるからだ)


「ふふ」リリナがあくびをする。「眠くなってきた」


「明日、早起きしよう」アリアも立つ。「王都、探索する」


「おやすみ」「おやすみなさい」


 四人がそれぞれのベッドへ。


 セラはベッドに横たわる。天井を見上げながら、今日のことを振り返る。


 合格発表。入学手続き。制服の支給。寮の部屋。新しい友達。


 全部が、新しい生活の始まりだ。


(転生五十九日目。エルフの森を出発してから、王都に来て、試験を受けて、学校に入学することになった。何から何まで想定外だったが——悪くない。合格発表の朝には「受かりたい」と思っていた。夕方には「受かった」が現実になった。人生というのは、こんなに速く動くこともあるんだな。エルフの森での日々は静かで、何年も同じだった。今は、一日で何かが変わる。それが怖いような、楽しいような、不思議な感覚だ)


「……これからだ」


 小さく呟いて、目を閉じた。


(合格した。制服をもらった。部屋が決まった。一日で三つの事実が積み重なった。守護隊でいうと、任務準備が全部整って「あとは実行するだけ」という前夜に近い感覚だ。でもあの頃より、ずっと楽しい気持ちがある。任務じゃないからかもしれない。あるいは、三人がいるからかもしれない。多分、両方だ)


 三人の寝息が聞こえる。それが最高の子守唄だと、最近気づいた。


 明日は、新しい生活の始まりの日。


 魔法学園での日々は、まだ、これからだ。学んで、戦って、笑って。今日みたいに、三人と一緒に。


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