第54話 入学試験
# 第54話 入学試験
## 試験当日
転生五十八日目の朝。
窓の外が、まだ薄暗い。
寝返りを打つより先に目が開いた。身体が「今日はそういう日だ」と知っている感じ。緊張の種類が違う。
(……これ、試験前の例のやつだ。エルフになってもこの感覚は変わらないのか。守護隊の入団試験の朝も同じだった。あの時は「落ちたら路頭に迷う」という切迫感があった。今回は「落ちたら三人に申し訳ない」という重さがある。動機が違う。でも緊張の質感は同じだ。不思議なことだ)
「……おはよう」
アリアの声がした。振り返ると、もうとっくに起きて身支度を整えている。金の髪が朝の薄明かりに白く光っている。
「おはよう、アリア」
「緊張してる?」
「少しだけ」
「私も。筆記、不安」
「大丈夫。三日間しっかりやったし」
「……うん」
アリアが窓の外を見ながら小さく頷く。自分に言い聞かせるみたいに。
(こういう顔のアリアを見ると、調子が狂うな。でも今は試験の日だから余計なことは考えない。余計なこととは何かを考えるのもやめる)
「受かる!」
リリナが布団から飛び出してきた。宣言というより気合だ。寝起きでこのテンションが出るのは純粋に才能だと思う。
「その意気だ」カトレアも微笑む。「四人で入学するんだ」
「借金返済のためにも落ちるわけにはいかない」
(カトレアはいつでも現実的だな。夢より先に現実がある。)
朝食を食べて、宿を出た。
王都の北側へ向かう道。朝のまだ早い時間なのに、同じ方向へ歩いている人の多いこと。親子連れ、若い学生、少年少女。全員が同じ目的を持っている。
(こんなに多くの人が、同じ場所を目指している。エルフの森では、こういう光景はなかった。そもそも選抜という仕組みが少なかった。みんなが共同体の一員として生きていた。でも王都は違う。競争がある。選ばれる側と選ばれない側がある。それがここの仕組みだ。守護隊でいうとあの選考試験の朝に似てる。あの時も、同じ目的で集まった人たちがたくさんいた)
「……受験者、多い」リリナが少し圧倒されている。「競争、あるね」
「でも私たちは実技免除。筆記一本に集中できる」
「その分、筆記で失敗は許されない」カトレアが鋭く言う。
(カトレアがプレッシャーをさらに追加している。ありがとう、別に要らなかった)
学術区に入ると、人の密度がさらに上がった。魔法学園の正門前に、数十人の受験者。エルフ、人間、ドワーフ、獣人。種族も様々だが、緊張した顔だけは全員共通だ。
「……三割しか受からないんだよね」アリアが呟く。「怖い数字だ」
「でも私たちは特別よ」カトレアが言う。「魔力が高いから実技免除。その分を筆記に使える」
「そうだね。四人なら」アリアも自信を取り戻す。「なんとかなる」
正門の前に試験官が立っていた。
「まず、筆記試験は午前十時から正午まで二時間です。問題は魔法理論、魔法陣、魔法史」
「二時間……」リリナがきょろきょろする。「時間、足りるかな」
「練習問題は一時間半で全部解けたし。三十分は余裕がある」
「実技試験免除の方は、午後一時に演習場へ。合否発表は明日の正午です」
明日の正午か。
(一晩待つのか。長い。しかし待つしかない)
「まずは試験を頑張ろう」
「うん!」三人が頷く。
正門が開いた。学園の中に入る。白い塔がそびえ立ち、赤レンガの教室棟が並んでいる。
(入った。本当に入った。守護隊の選考試験でも、正門をくぐる時は別の緊張があった。「この門をくぐれば、もう引き返せない」という感覚。今も同じだ。この門の中から見る景色は、受験者のそれではなく、学生のそれになるはずだ。そう思うと、足が少しだけ軽くなった)
筆記試験の会場は教室棟一階の大教室。数十の机と椅子が整然と並んでいる。机にはすでに問題用紙と解答用紙が伏せてある。
(この配置、どの世界でも試験会場は同じだな。机が並んで、人が座って、前に試験官が立つ。守護隊の選考試験もこれと同じ配置だった。ただ、あっちの問題は戦術判断と緊急対応だったが)
「セラ・ウィスパーウィンド、三番」
三番に座ると、アリアが四番、リリナが五番、カトレアが六番だった。四人が近くに座れた。
「……席、近いね」リリナが小さく笑う。
「試験中は話さないでください」試験官が言う。「不正行為は即失格です」
「すみません」リリナが頭を下げる。
(そういうとこだぞリリナ。試験官の注意を一番最初に受けるのがリリナだ。でも、それが怖いというより、少し落ち着いた。笑いそうになったのを堪えた)
## 筆記試験
試験会場の大教室は、静かだった。
数十人の受験者が着席して、問題用紙の裏面を向けたまま開始の合図を待っている。これが試験というものの独特の静寂だ。
(隣を見る。アリアは背筋を伸ばして真剣な顔。リリナは少し唇を噛んでいる。カトレアは目を閉じて深呼吸している。みんなそれぞれに緊張してるんだな)
「では、筆記試験を開始します。問題用紙を開けてください。始め!」
一斉に紙が開かれる音がした。
静かに問題用紙を開く。
(この静けさ、守護隊の筆記選考と同じだ。あっちはろうそくの光だったが、こっちは魔法の灯りが柔らかく室内を照らしている。環境が変わっても、緊張の質感は変わらない。あの試験では「規則と判断力」を問われた。今回は「魔法理論と属性知識」だ。内容は違うが、問われているものの本質は同じ気がする。自分が積み上げてきたものを、問われている。だから緊張する。それは普通のことだ)
問題を見る。
『問一 魔法の基本原理について説明しなさい』
『問二 魔法陣の構造と、各要素の役割を述べよ』
『問三 火、水、風、土、光、闇の六属性について、相性関係を図示しなさい』
『問四 古代エルフの魔法と、現代の魔法の違いを三つ挙げよ』
『問五 感情と魔力のリンクについて、具体例を挙げて説明しなさい』
(難易度は予想通り。三日間の勉強でカバーできてる。問四なんか、守護隊でいうと「上位術者の基礎動作」を押さえれば書ける。詠唱短縮、感情直結、無詠唱発動の三点だ)
ペンを走らせる。
問一、問二、問三と順番に解いていく。問三で属性相性の図を描く。火は水に弱く土に強い。水は火に弱く風に強い。風は土に弱く火に強い。土は風に弱く水に強い。光と闇は互いに相殺し合う。
『第一に、古代エルフの魔法はより強力で、現代の魔法の数倍の効果がある。第二に、感情とのリンクがより強く、魔法使いの心の状態が魔力に直結する。第三に、詠唱が短く、無詠唱での発動も可能である』
問五、感情と魔力のリンク。これは自分の経験そのものだ。書くことに迷いがない。
解答完了。一時間近く残っている。
(完璧、と言い切りたいが試験直後に言うのは危険な習慣だ。でもまあ、大丈夫だと思う。問五は特に、自分の経験をそのまま書けた。感情と魔力のリンクなんて、ここ二ヶ月で嫌というほど体験してきた。アリアの手が触れた時に魔力が安定したこと。四人で戦った時に力が増幅した感覚。あれを言語化できたなら、合格点はもらえるはずだ。守護隊でいうと「実戦経験を報告書に落とし込む訓練」に近い作業だ)
周囲を見ると、受験者たちが真剣に取り組んでいる。汗をかいている者、髪をかき乱している者、天井を見つめている者。
(みんな、頑張ってる)
アリアも真剣にペンを動かしている。止まることなく、解答用紙が埋まっていく。エルフの学習能力は伊達じゃない。
(リリナは少し困った顔をしている。問三の属性相性、難しかったかな。助けてあげたいが試験中は無理だ)
カトレアは一問一問、確実にこなしていた。ドワーフらしい実直さがそのまま解答用紙に出ている感じがする。
「後、五分です」
焦りの空気が走る。まだ解き終わっていない受験者が、一斉にペンを速める。紙の音が激しくなる。
「間に合わない……」「あと少し……」
「時間です。筆記用具を置いてください」
一斉に、ペンが置かれた。
「筆記試験、終了です」
「……終わった」リリナが大きな息を吐く。「難しかった」
「どうだった?」
「問三の属性相性、ちょっと自信ない」
「図、描いたし。大丈夫」アリアが励ます。「私は全部書けた、たぶん」
「アリアすごい」リリナが感心する。
「カトレアは?」
「できたと思う。問四の古代エルフ、ドワーフにも資料があったから楽だった」
「ドワーフにも古代魔法の知識があるんだね」
(それは少し意外だった。ドワーフと古代エルフは接点があるんだろうか。後で聞いてみよう。図書館に古代エルフの資料があると聞いた。入学したら一番最初に行くべき場所かもしれない。自分の力の源を理解することは、守護隊でいうと「武器の特性を把握する」ことと同じだ。知らずに使うより、知って使う方が遥かに安全で正確だ)
## 実技試験
午後は魔力測定の再確認。演習場へ向かった。
広い演習場には、様々な設備が配置されている。的を設置した射撃場、魔法を使った模擬戦闘場、魔力制御の訓練施設。
「……ここで毎日訓練できるのか」リリナが目を輝かせる。
「入学したら、ここが練習の場になる」
(毎日訓練できる場所がある。守護隊にも演習場があったが、使えたのは週に数回だ。こっちは毎日使える。それだけで、強くなれる速度が違う。エルフの森では訓練よりも習得が重視されていた。型を学ぶことが先で、実戦は後だった。今は実戦を学びながら型を確立する。この組み合わせが、俺には合っていると思う)
「聖三角も、もっと精度上げられるね」
「カトレアは?」
「ドワーフの武具技術と魔法の融合を研究したい。鍛冶と魔法を組み合わせれば、今まで誰も作れなかった武器が作れる」
「夢が具体的だな、カトレア」
「ドワーフは夢も具体的なんだよ。設計図なき夢は単なる妄想だって教わった」
(名言だ。守護隊でいうと「目標なき訓練は体力の無駄遣い」に近い。ドワーフと守護隊の教えは、なんか通じるところがある。どちらも「実際に役に立つこと」を重視している。エルフの森の教えとは少し違う。あっちは「理解すること」が先に来ていた。でも今の俺には、ドワーフ式の具体的な目標の立て方の方がしっくりくる気がしている)
実技試験が行われている。
一人の受験生が火の魔法を発動する。燃え盛る炎が的を撃ち抜く。見事だが制御が荒い。
「……すごい」リリナが感嘆する。
「でも私たちも負けないよね」アリアが言う。「聖三角もできるし」
「今日は見て学ぶ日だ」セラが冷静に言う。「入学したら実際に競える」
(他の受験生の技術を見ると改善点が見えてくる。あの子の火魔法は威力はあるが制御が荒い。守護隊でいうと「初歩は抜けてるが応用に問題あり」という評価だ)
光の魔法を使う少女が現れた。光弾が的を正確に撃ち抜く。
「……光弾、私もできる」リリナが少し悔しそうに言う。「でも私のほうが速いよ」
「入学したら見せられる」
「頑張る!」
「実技試験免除の方は、こちらに並んでください」
四人が列に加わる。
「セラ・ウィスパーウィンド」
名前を呼ばれて前に出る。演習場の中央に大きな測定器。クリスタル球で、魔力を可視化する道具だ。
「手を置いて、魔力を流してください」
(魔力を流すだけ。ほんの少しだけ)
深呼吸して、魔力をごくわずか流す。
クリスタルが輝き始める。薄い光から、次第に強くなっていく。青白い光が、周囲を照らすほどに明るくなる。
「……すごい光」「あれ、エルフだ」「魔力、高いぞ」
「……素晴らしい」試験官が目を見開く。「平均の五倍以上の魔力です。実技試験免除、確定です」
「ありがとうございます」
(五倍か。守護隊でいうところの「規格外の魔力」判定が出た感じだ。……これはこれで面倒なことになる予感がある)
次にアリア、リリナ、カトレアが呼ばれる。三人とも高い魔力値で、全員実技免除確定。
「……四人、免除だ」リリナが安堵する。「筆記だけだから、結果も期待できるよ」
「でも、まだ合否は分からない」カトレアが冷静に指摘する。「明日の正午まで待つ」
「うん。待つしかない」
周囲の受験者たちが、驚いた目で四人を見ている。
「……四人全員免除だ」「すごい魔力だ」「エルフとドワーフのチームか」
「……噂、広がってる」アリアが少し恥ずかしそうに言う。「注目されちゃった」
「悪いことじゃないよ」リリナが微笑む。「すごいって言われてる」
「実技免除、誇りに思うべきだよ」カトレアも同意する。
「……行こうか」
## 試験終了
演習場を出ると、西日が差し込む石畳の道に出た。
受験者たちがぞろぞろと帰っていく。疲れた表情だが、どこかすっきりしている。試験をやりきった開放感がある。
「……お疲れ様」
「お疲れ様。全部、終わったね」アリアが答える。
「疲れたー」リリナがぐったりと肩を落とす。「でも、頑張った」
「ギャハハ! 筆記は大変だったけど、魔力測定はさすがドワーフって感じで余裕だったわ! 銀貨千枚の借金を持ってても、魔力だけは負けないわよ!」
「なんかカトレアらしいな」
「問三の属性相性、結局どうだった?」リリナがアリアに尋ねる。
「完璧に書けたと思う。風は土に弱いから、図を描いてから確認した」
「すごい。私、最後まで自信なかった……」
「書けたんでしょ?」セラが言う。「書けたなら大丈夫だよ」
「うん……そう、だといいな」
(リリナは不安になりがちだが、実際にはちゃんとできている。守護隊にもこういうタイプがいた。「できてる」と言っても信じてもらえなくて、結果が出るまで不安がる。でも結果はいつも良かった。リリナも多分同じだ。問題は、本人が信じていないことだ。信頼は外から注ぐしかない。「大丈夫」と言い続けること。それが、今できる唯一のことだ)
四人が並んで歩く。
(四人が横に並んで歩いている。守護隊時代は、訓練が終わると解散だった。仲間と並んで「お疲れ様」を言う文化がなかった。今は自然にそうなっている。それが嬉しいというか、居心地がいい。慣れてきた、ということかもしれない)
夕方の学術区は、静かだ。街灯が点々と灯り始めている。
「……学園に入ったら、毎日ここを歩くのかな」アリアが周りを見回す。
「授業棟から演習場、食堂、寮——全部この学術区の中だ」
「想像できるね」リリナが少し目を輝かせる。「毎朝この道を歩いて、魔法の授業に行く」
「借金返済の計算をしながら」カトレアが付け加える。
「……カトレアは夢より現実派だな」
「当たり前よ! でも」カトレアが少し柔らかい表情になる。「学園での生活も、楽しみではある。魔法、もっと上手くなりたい」
(カトレアが「楽しみ」と言うのは珍しい。彼女は基本的に実利優先で、感情を前面に出さない。でも今は本音が少し見えた。みんな、それぞれにわくわくしてるんだな)
学園を出て、宿へ向かう。
夕暮れの王都が美しく輝いている。オレンジ色の太陽が街を染めている。
「……きれいだね」アリアが呟く。「夕日、綺麗」
「うん。王都の夕焼け、最高」リリナも感心している。
「建物が多いから、影のコントラストが美しいんだよ」
(エルフの森の夕焼けは、木々の間から差し込む橙色だった。こっちは石と建物が反射する光だ。どちらも綺麗だが、種類が違う。見慣れた光と、まだ新しい光。両方を知っているのは、悪くないと思う)
「…………」
「セラ、何を考えてるの?」アリアが横から覗く。
「エルフの森の夕焼けと、王都の夕焼けを比べてた」
「どっちが好き?」
「……今は、こっち」
アリアが小さく笑った。
石畳の道路を歩く。足音が響き、夕風が頬を撫でる。
「……終わったね」リリナが呟く。「試験、終わった」
「うん。頑張った」アリアも頷く。
「でも、明日が怖い。結果、どうだろう」
「受かるよ。四人とも」
宿に到着すると、夕食の準備が進んでいた。食堂の匂いが食欲をそそる。
「……お腹、空いた」リリナがお腹をさする。
「たくさん食べよう」
食堂で、四人が食事をする。グリルドミートが、こんがりと焼かれていた。肉汁が滴り、香ばしい匂いが漂う。
「……いただきまーす!」リリナが手を合わせる。
「いただきます」三人も手を合わせる。
「……おいしい!」リリナが目を輝かせる。「グリルドミート、最高!」
「うん。王都の肉は質がいい」アリアも満足そうだ。
「緊張が取れた」リリナが笑う。「やっぱり、食事は美味しい」
「試験が終わった解放感で美味しさが倍増するんだよ」カトレアが言う。「ドワーフは試験の後は必ず肉と酒だよ!」
「私たちはジュースだけど」アリアが笑う。
「えへへ、でもジュースも美味しい!」
(試験後の飯は格別だな。守護隊の選考試験の後も、みんなで食事してたことがあった気がする。……でも今日の方が、断然美味い)
「守護隊でいうと、こういう日の飯は格別なんだよ」
「守護隊って、緊張する日が多いの?」カトレアが聞く。
「選考試験、演習、巡回報告……いろいろある。でもこっちの飯のほうが旨い気がする」
「なんで?」リリナが聞く。
「三人がいるから、かな」
三人が同時に少し驚いた顔をした。それから、アリアが笑った。リリナが「えへへ」と言った。カトレアが「ギャハハ!」と笑った。
「なんで笑うんだ」
「だってセラが珍しいこと言ったから!」アリアが言う。「でも、嬉しい」
(カトレアの言葉は短いが、正しい。俺がここにいること。三人がいること。それが一番の正解だ)
食事を終えると、四人は部屋に戻った。
(試験が終わって、食事して、部屋に戻る。一日の流れが自然になってきた。守護隊でいうと「任務後の定型動作」みたいなもので、身体がルーティンを覚えていく感じだ。慣れというのは、安心の土台だ。この四人でいる感覚が、慣れになってきている。それが嬉しい)
## 結果待ちの夜
「……明日、結果だ」アリアが少し不安そうに言う。「受かるかな」
「受かるよ。大丈夫」セラが彼女の肩を抱く。「四人なら、なんとかなる」
「うん。セラと一緒なら」アリアも少し安心する。
「……私、受かる!」リリナが決意を込めて言う。「魔法学園、絶対入る!」
「その意気だ」カトレアも微笑む。
「入学したら、また一緒に勉強しよう」
「うん!」四人が笑い合う。
「入学したら、何の授業を取りたい?」リリナが聞く。
「魔法理論の上級クラス。あと、連携魔法のコース」
「私は治癒魔法も習いたい」アリアが言う。「戦うだけじゃなく、仲間を守れるようになりたい」
「えへへ、私はなんでも習う! 何が向いてるか分からないから」リリナが笑う。
「カトレアは?」
「錬金術と魔法陣の融合研究。ドワーフの鍛冶技術と組み合わせれば、今まで誰も作れなかった武器が完成する」
「みんな、具体的だな。良い」
「セラは? もっと詳しく聞かせて」アリアが期待する顔で言う。
「連携魔法の理論化が目標だ。四人で使える技を体系化したい。今は感覚でやってるが、ちゃんと理論にすれば教えることもできる」
「教える? 誰に?」
「まだ分からないけど。学園の後輩とか。仲間が増えたら、その仲間に」
「いいね」リリナが目を輝かせる。「みんなに繋がっていく感じがする」
(夢を語り合う夜。守護隊にいた頃も、こういう夜があった気がするが……仲間というものをこんなに感じたのは、転生後の方がずっと強い。三人がいてくれる。それだけで、この世界は住みやすくなった。)
(守護隊では「夢を語る」という行為自体が少し恥ずかしいものだった。任務達成が全てで、個人の夢は後回しだ。でもアリアが「治癒魔法を学びたい」と言い、リリナが「なんでも習う」と笑い、カトレアが具体的な設計図を語る。それを聞いていると、俺にも「こうなりたい」という気持ちが自然に出てくる。これが仲間のいる力なんだと思う)
ベッドに横たわる。天井を見上げながら、今日のことを振り返る。
筆記試験は、自分の力を出し切った。三日間の成果はあった。魔力測定も、納得の結果だ。
(受かると思う。でも不安もある。合格率は三割。多くの受験者が落ちる。でも私たちは強みがある——エルフの血、守護隊での実戦経験、そして三人の仲間。この四人の絆が、力になる)
「……受かる。四人とも、きっと絶対に」
これは決意だ。宣言だ。
小さく呟いて、目を閉じた。
(守護隊の選考を待っていた夜はひとりだった。結果が出るまでの一晩を、一人で過ごした。眠れなかったし、眠れなかったことを誰かに言える相手もいなかった。今は三人の寝息が聞こえる。それが落ち着く。不思議なことだが、三人がそこにいるだけで、待つことが怖くなくなる。これが仲間というものなんだろうと、今改めて思う)
三人の寝息が聞こえる。それが落ち着く。三人が呼吸をしている。それだけで十分だ。
明日は、いよいよ結果発表の日。
新たな冒険が、そこに待っている。受かることが前提で、俺は明日の計画を考え始めていた。入学手続き、制服、寮の部屋。四人の部屋。
(……楽しみだ、と思っている。試験前には思えなかったことだ。緊張が解けると、次のことが見え始める。これも守護隊と同じだ。任務前夜と任務終了後では、見える景色が全然違う。試験前の今日と、合格した後の明日も、きっと違う景色が見える)




