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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第52話 王都到着

# 第52話 王都到着


## 王都入城


 朝霧が晴れると、遠くに巨大な影が姿を現していた。


 丘の上から望むその光景は——


「……でかい」


 カトレアが呟く。


 ドワーフの彼女でさえ、珍しく言葉を失っている。普段なら金の話や商売の話ばかりするカトレアが、口を閉じている。それだけ、目の前の光景が圧倒的だということだ。


 セラは丘の上に立ち、王都を見つめていた。


 街道の終わりに、巨大な城壁がそびえ立っている。


 高さは、二十メートル以上はあるだろうか。白い石で築かれた城壁は、朝日に輝いて神々しいほどだ。城壁の上には歩哨たちが行き交い、鎧もまた朝日に反射して輝いている。


(でかい。本当にでかい。守護隊の砦なんて比較にならない。これ、現役で機能してる要塞だ)


 エルフの森には、こんなに巨大な建造物なんてなかった。自然と共存するエルフたちは、こうした巨大な人工物を建造しない。


 でも、王都は違う。


 人間の意志が、自然を征服したような建造物。白い石の城壁が、平野を支配している。


「……すごいな」


 アリアがアンバー色の瞳を輝かせている。金髪が朝風に揺れている。「これが、王都なのね」


「うわ、人がいっぱいいそう」リリナが遠くを見つめる。


 街道には、すでに多くの人々が行き来している。馬車、商人、冒険者、旅人。多種多様な人たちが、王都へ向かって流れている。


「おい、売るのか!」


「ここで買ってくよ!」


「一番新鮮な果物だ!」


 屋台の主人たちが客引きをしている。その活気に、エルフの森にはなかったエネルギーがある。


「なんか、すごい」リリナがキョロキョロしている。


「ドワーフの街も賑やかだけど、王都はまた違うな」カトレアが腕を組んで言う。「種族も多いしな」


 確かに、人間だけでなく、エルフ、ドワーフ、獣人、そして見たことのない種族の人々も行き交っている。


 そして、人間たち。


 転生する前の俺と同じ種族。


(見ていると、懐かしさと違和感が同時に湧いてくる。あいつらと俺は同族だったのに、今の俺はエルフだ。向こうからすれば俺は「エルフ観光客」なんだろうけど)


「……楽しもう」


 小さく呟いて、セラは前を向く。


「さて、行くか」


「……うん!」アリアが力強く頷く。


 四人は丘を下り、街道に戻った。近づくにつれて、人々の流れはさらに濃くなる。まるで、王都という巨大な磁石が、人々を引き寄せているかのようだ。


「ちょっと緊張してきた」アリアが認める。


「大丈夫だよ」セラが彼女の手を握る。「私たち、最強チームだもん」


「……うん!」アリアが微笑む。


 王都の門は、巨大だった。


 高さ十メートル以上のアーチ状の構造。両側には鎧を着た兵士たちが槍を握って立っている。表情は真剣だ。


「すごい門だね」リリナが首を上げて見る。「大きすぎて首が痛くなる」


「王都の威厳、って感じかな」カトレアが解説する。「王都の門ってのは、その国の力を示すもんな。でかいほど、強いってこと」


「へえ、そうなんだ」セラが感心する。


(守護隊でいうと、中枢の審問の間みたいなものか。入るだけで圧されるやつ。ただしこっちは本物の城壁なので、比較にならないけど)


 門の前には入城を待つ人々の列ができていた。セラたちも列の最後尾につく。


「入城料いるのかな?」アリアが尋ねる。


「たぶんね」カトレアが答える。「普通の街だと、銅貨数枚くらいかな。でも王都だと、もう少し取られるかも」


「銅貨、持ってるよね?」リリナが心配そうに見る。


「大丈夫よ」カトレアが胸を張る。「私の管理なら、しっかり把握してる」


「カトレアさん、頼もしい」セラが笑う。


「もちろんよ。金って大事だから。特に、私たちみたいな借金持ちには」


「借金、早く返そうね」リリナが言う。


「うん。だから、王都で稼ぐの」カトレアが決意を込めて言う。


 列は意外と早く進んだ。


「次の方、どうぞ」


 門番の声がかかる。


 セラが前に出ると、門番は目を少し見開いた。


「エルフ……?」そして、アリアとリリナを見て、さらに驚く。「エルフが三人……?」最後にカトレアを見て、混乱した。「ど、どのような用件で?」


「冒険者として王都を訪れました」セラが答える。


「ギルドカード、お持ちですか?」


 セラが銀色のカードを取り出す。


「Fランク……」門番はカードを確認し、返す。「入城料は、銀貨一枚です」


(高いな。普通の街なら銅貨数枚だが、王都は銀貨一枚か。それだけの価値があるということだろう)


 カトレアが銀貨を一枚取り出し、渡す。


「はい、入城許可をいたします。王都でのルールを守って、楽しんでください」


「ありがとうございます」


「あ、そうだ」門番が呼び止める。「王都は広いですよ。地図が必要なら、門の脇にある売店で買えます」


「地図、買おうかな」アリアが提案する。


「そうね。迷ったら大変だし」リリナも同意する。


 門の脇の小さな売店で、王都の地図を銅貨三枚で購入した。地図には、王都の各区画、ギルド、宿、そして主要な施設が記されている。


「これで迷わないね」カトレアが地図を確認する。「王都は、区画ごとに特徴がある。商業区、居住区、娯楽区、そして貴族区。それぞれ雰囲気が違うから」


「商業区に行けば、買い物ができそうだね」アリアが期待する。


「娯楽区は……楽しそう」セラが微笑む。


「まずは、全体を見てみよう」


 セラが門をくぐる。


 その瞬間、新しい世界の空気が彼を包んだ。


 王都の空気は、エルフの森とは違う。多くの人々が呼吸した空気、多くの物語が交差した空気。そして、何かが起きそうな予感。


 四人は、王都への一歩を踏み出した。


## 王都の街並み


 王都の中は、さらに賑やかだった。


 石畳の広い通りが、街の中心へと伸びている。両側には、多種多様な店が並んでいる。武器屋、防具屋、道具屋、雑貨屋、食堂、酒場——そして、見たこともない店々。


「うわ、すごい」リリナが興奮している。「何から見ればいいの?」


「まずは歩こうか」セラが提案する。「宿も確保しないといけないし」


「そうね。でも、ちょっと見ていい?」アリアがショーウィンドウを指差す。


 そこには、美しいドレスが展示されていた。淡いピンク色のドレスで、レースが施されている。エルフの森にはない、華やかなデザイン。


「きれい……」


「似合いそうだね」セラが言うと、アリアは少し顔を赤らめた。


「……えへへ」


(言った瞬間後悔した。なんでさらっと言えてんだ。口が軽くなったのか、それとも何か別の理由か。どちらにせよ、撤回するのはもっと恥ずかしい)


「あ、こっちも見て」リリナが別の店を指差す。


 そこには、魔法的なアイテムが並んでいた。発光する石、浮遊する羽、そして様々なポーション。色とりどりの液体が入った瓶が、棚に並んでいる。


「魔法のアイテムだ」


「高そうだね」カトレアが値札を見る。「銀貨百枚……高いよ」


「それ買うなら、クエスト百回分だ」セラが苦笑する。


「ま、クエスト百回やれば買えるよね」アリアが前向きに言う。


「うん、遠い目標じゃない」


(遠い。普通に遠い。でも目標があるのは良いことだ。なんとかなるだろう)


 通りを進むと、広場に出た。


 広場の中央には噴水が設置されている。きらきらと輝く水が空に向かって噴き上がっている。演奏している吟遊詩人、踊っている旅人、そして物語を語る老人。


「活気がある」アリアが呟く。「エルフの森とは違う」


「うん。でも、悪い感じじゃない」セラも感じる。


(エルフの森は穏やかで平和だった。でも、王都にはエネルギーがある。何かが起きそうな、何かができるような予感。剣と魔法がある街、だ)


「クエストもたくさんありそう」カトレアが実務的に言う。「王都のギルドなら、高額報酬のクエストもあるはず」


「それ期待できる」セラが頷く。


 広場の人々を眺めていると、様々な種族が見える。人間、エルフ、ドワーフ、獣人。


「あの子たち、獣人?」リリナが尋ねる。


「うん。耳、可愛いね」アリアが微笑む。「エルフとも違う感じ」


「王都は、いろんな種族が共存してる」セラが観察する。「平和なんだな」


「平和に見えるけど、裏もあるかも」カトレアが冷静に分析する。「王都だからね。政治も経済も、いろいろ動いてる」


「難しいことはよくわかんない」リリナが率直に言う。「でも、楽しみたい!」


「まずは、王都に慣れる。そして、楽しむ」


## 冒険者ギルド


 広場を横切ると、大きな建物が見えてきた。冒険者ギルドの看板。


「ここだ」セラが言う。「ギルドに行こう」


「うん!」アリアも興味深そうだ。


 王都の冒険者ギルドは、街のギルドより大きかった。


 入り口をくぐると、広いホールが広がっている。カウンター、クエストボード、休憩スペース。そして、多くの冒険者たち。Gランクの初心者から、Aランクのベテランまで。


「なんか、すごい」リリナが圧倒されている。「人がいっぱい」


「王都だからね」カトレアが説明する。「ここは拠点として使う冒険者が多い。情報交換、クエスト受注、そして仲間募集」


「仲間募集……」セラが考える。


(四人のチームは今のところ最高だ。でも将来どうなるかは分からない。将来の不安より今のことを考えよう)


「とりあえず、登録しような」


 カウンターに向かう。受付には茶色の髪をポニーテールにした明るい笑顔の女性が立っていた。


「いらっしゃいませ」受付の女性が笑顔で迎える。「何かサービスいたしましょうか?」


「こちらの街のギルドで登録した冒険者です」セラがギルドカードを提示する。


「Fランク、セラ・ウィスパーウィンド様」女性がカードを確認する。「支部登録ですね」


「はい」


「では、手続きいたします」


 羽根ペンが、カサカサと音を立てている。その音が、ギルドの喧騒の中で響く。


「セラ様、アリア様、リリナ様、カトレア様……の四名ですね」


「はい」


「支部登録完了です。王都のギルドでも、クエストを受けることができます。ただし、ランクに応じた制限がありますので、ご注意ください」


「わかりました。ありがとうございます」


「あと、王都ならではのサービスもご用意しています」女性が説明する。「情報提供、装備鑑定、そして魔物図鑑の閲覧。Fランクでも利用できますので、ぜひどうぞ」


「情報提供、気になる」カトレアが言う。「高額報酬のクエストの情報は?」


「はい、クエストボードに掲示されています。ただし、Fランクが受けられるのは、Fランク以下のクエストのみです」


 カウンターを離れ、クエストボードを見る。


 王都のクエストは、街より多様だ。薬草採取、ゴブリン討伐、ダンジョン攻略、護衛、調査……そして、高額報酬の危険なクエストも。


「『古代遺跡の調査』……銀貨五百枚」カトレアが目を輝かせる。「これ受かりたいなあ」


「でも、Fランクじゃ無理だよね」リリナが現実的に言う。


「まずは、王都で実績を積まないと」


「うん。焦らないで、着実に」セラが言う。「まずは宿を確保して、それから王都を探索しよう」


「そうね」アリアも同意する。


 ギルドを出て、再び通りに出る。昼の王都は、さらに賑やかになっていた。屋台からは食欲をそそる匂いが漂ってくる。


「なんかお腹空いた」リリナがお腹をさする。


「王都の名物とか、あるのかな」セラが考える。「探してみよう」


 四人は屋台の列を歩き始めた。焼きたてのパン、煮込み料理、そして見たこともない果物。


「これ、美味しそう」リリナが肉の串焼きを指差す。


「王都の名物、『グリルドミート』らしいよ」カトレアが説明する。「畜産農家が新鮮な肉を直送してるんだって」


「じゃあ、それにしよう」


 広場のベンチで四人が串焼きを食べる。熱々の肉が、口の中でとろける。


「……美味しい!」リリナが目を輝かせる。「すごく柔らかい」


「エルフの料理とは違うね」アリアも感心している。「濃い味で、美味しい」


(肉はいい。旅の食事は美味しい。この法則は転生先でも有効だと証明された)


## 女騎士の噂


 夜になり、四人は酒場にいた。


 王都の酒場は、活気に満ちていた。冒険者たちがテーブルを囲み、今日のクエストについて語り合っている。ある者は勝利を祝い、ある者は失敗を悔やんでいる。


「いい雰囲気」セラが生ビールを飲む。「エルフの酒とは違う」


「強いね」アリアが小さく一口飲む。「……ちょっと酔いそう」


「甘い酒がいいなら、注文してよ」カトレアが言う。「遠慮しないで」


「うん、でもこれでいい。セラの飲んでるの、ちょっと飲みたいな」


「いいよ」セラがジョッキを差し出す。


 アリアが小さく一口飲む。その瞬間、彼女の顔がほんのりと赤くなった。


「……苦い」


「だろ。大人の味だよ」セラが笑う。


「……うーん」アリアは顔をしかめるが、また一口飲んだ。「慣れたいな」


「うん。いつでも飲んでいいよ」


(好きな人と一緒に飲む——これ、普通に楽しいな。転生して良かった点の一つだ)


 隣のテーブルから、冒険者たちの会話が聞こえてくる。


「へえ、ミサトさんまたSランククエストクリアしたんだ」


「あいつ、強すぎるよな」


「女騎士にしては、最強クラスだろ」


「次はAランク昇格試験受けるらしいよ」


 ミサト?


 セラが耳を澄ます。


「あのミサトさん、美人だし強いし」


「性格は……まあ、あれはあれで」


「ツンデレだろ」


「いや、ただ強いだけかも」


 女騎士ミサト。


(……なんか、気になる名前だな。強くて美人で、ツンデレ。直感的に「この人とは絶対に関わることになる」という予感がある)


「誰?」アリアが気づく。


「ああ、女騎士のミサトさんって人がいるらしい。Sランククエストをクリアするくらい強いんだと」


「女騎士……」リリナの目が少し細められる。「強いの?」


「うん。そうらしいよ」


「……うーん」リリナが頬を膨らませる。


「ライバル?」カトレアがからかう。


「……別に」リリナはそっぽを向く。


(リリナ、気にしてるじゃないか。隠す気ゼロだ)


「とりあえず、情報は頭に入れとこう」セラが言う。「王都には、強力な女騎士がいる。それは今後の冒険に関わってくる」


「女騎士かあ。会ってみたいね」アリアが興味深そうだ。「王国の騎士団は、強くて誇り高い人たちで構成されてる。その中でも、女騎士は珍しいらしい」


「会ってみたいね」リリナも同意する。「強さ、見てみたい。……でも、ライバルにはなりたくない」


「ライバルなんていないよ」セラが笑う。「私たち、最強チームだもん」


「……うん!」リリナも微笑む。


## 宿での一夜


「さて、そろそろ戻るか」セラが立ち上がる。「明日は王都を探索する」


「うん!」アリアも立ち上がる。


 四人は酒場を出て、夜の王都を歩く。


 夜の王都も、美しかった。魔法の灯りが通りを照らし、星空が空に輝いている。


「きれい」リリナが呟く。「エルフの森の夜とも違う」


「うん。でも、いい」アリアも微笑む。「魔法の灯り、幻想的だね」


(電球の冷たい白色じゃなくて、もっと柔らかい光。この世界、いいな)


「王都、住みやすそうだね」カトレアが呟く。「ドワーフの街も悪くないけど、王都も魅力的」


「楽しそう」アリアも同意する。


「住んでみるのも、ありかもね」セラが提案する。「しばらく、王都を拠点にするのは」


「いいね!」リリナが目を輝かせる。「王都で冒険者として頑張る!」


「うん。借金も返すし」カトレアも決意を込めて言う。


 宿に到着すると、チェックインを済ませて部屋へ。


 四人部屋。それぞれにベッドがあり、共有スペースにはテーブルと椅子がある。清潔で、快適な部屋だ。


「ふう、疲れた」カトレアがベッドに倒れ込む。「でも、楽しかった」


「王都、広いね」リリナも座る。「まだ見てない場所がいっぱいある」


「明日も探索しよう」セラが言う。「ギルドでクエストも受けるし」


「まずは王都に慣れる。そして、高額報酬のクエストを目指す」アリアが頷く。


「カトレアさんの借金もあるし」リリナが現実的な問題を提起する。


「銀貨千枚以上……」カトレアがため息をつく。「無理だろ……」


「いけるよ」セラが言う。「四人で頑張れば」


「……セラ」カトレアが少し目を潤ませる。「ありがとう」


「仲間だから」セラが微笑む。


「四人で、できる」アリアが言う。「私たち、最強チームだもん」


「うん!」リリナも力強く頷く。「聖三角もできるし。何でもできる」


「……うん」カトレアが涙を拭う。「私、頑張る」


「うん。四人で頑張ろう。王都で、頑張ろう」


「うん!」三人が答える。


 窓の外には、王都の夜景が広がっている。魔法の灯りが星のように輝き、遠くには城のシルエットが見える。


「……王都、いい場所だ」セラが呟く。


「うん。楽しみだね」アリアも微笑む。「王都で、どんな出会いがあるのかな」


 「いろいろあると思う。良い出会いも、難しい出会いも」


 「えへへ、どんな出会いでも、セラがいれば大丈夫だよ」アリアが笑う。


 「当たり前でしょ? セラたちがいれば、何も怖くない」リリナが言う。


「おやすみ、みんな」


「おやすみ、セラ」アリアが答える。「おやすみ」「おやすみなさい」


 静寂が部屋を包む。


 王都の夜は、まだ終わらない。


 遠くから、誰かの笑い声が聞こえる。


(明日は、ギルドでクエストを受けて、王都をもっと探索して。そして、いつか——女騎士ミサトと出会う日が来るんだろうか。どんな出会いなんだろうな)


(「どんな出会いかな」と思える。それが、この世界の変化だ)


 セラは、そう感じながら目を閉じた。


 王都での生活が、始まる。


 新しい物語の、第一ページ目だった。四人にとって、最初の夜。


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