第48話 カトレアの秘密
# 第48話 カトレアの秘密
## カトレアの悩み
酒場の喧騒が、夜の帳と共に高まっていた。
転生五十九日目の夜。
カトレアに誘われてこの店に来た。アリアとリリナは宿で待っている。今日は二人きりだ。丸木のテーブル、粗末な椅子、それでも温かい灯り。冒険者たちの笑い声が響く。そんな空気が、心地よい疲労感と共に体を包む。
「さあ、飲もう! 今日は私の奢りだ!」
カトレアがジョッキを掲げる。琥珀色の液体が、灯りを反射して揺れる。
「乾杯!」「乾杯!」
ジョッキがぶつかり合う。セラは一口飲む。苦い。でも後味がいい。
「うめぇ! こういうのが待ってたんだよ!」
カトレアが豪快に飲む。喉が動くたびに、酒が減っていく。すごい速度だ。
「カトレア、今日は何かあったのか?」
(なんとなく、ずっと感じていた)
今日のカトレアは、笑い声の後に一瞬だけ目が泳ぐ。ギャハハと声を上げてから、どこか遠くを見る。無理に元気な振りをしている人間の顔だ。
セラの問いに、カトレアは少し驚いたように目を開ける。そして、苦笑いをする。
「バレたか。君、察しがいいね」
「三人と一緒にいると、そういうのがわかるようになるんだよ」
カトレアはジョッキを置く。その手が、少し震えている。酔いのせいだけじゃない。感情の揺れだ。彼女は深呼吸をして、語り始めた。
「実はね……借金があるんだ」
一言目から衝撃だった。
借金? カトレアが?
金に執着する彼女が、借金をしているなんて。皮肉なめぐり合わせだ。いや、逆か。金に執着するのは、借金があるからこそかもしれない。
(三年間、ずっと一人で背負ってきたのか。笑い声を武器にして、誰にも弱さを見せずに)
(あの「ギャハハ」の後の、目の泳ぎが気になっていた。笑う声と目の動きが合っていなかった。今なら全部つながる)
「借金……?」
「ああ。集落が壊滅した時、家族を失った。でも、生き残った私には、彼らの借金が残ったんだ」
カトレアの声が低い。重い。過去の傷が、そこに横たわっている。彼女はゆっくりと語る。言葉一つ一つに、痛みが込められている。
セラは黙って聞く。口を挟まない。ただ、彼女が話せるだけ話せるようにする。
「父さんは事業に失敗した。鉱山の権利を買うのに、巨額の金を借りた。でも、魔物の襲撃で全部失った。父さんも母さんも、妹も……死んだ。私だけが生き残った」
言葉が出てこなかった。あまりに残酷だ。集落が壊滅した。家族を喪失した。そして、借金だけが残った。彼女が一人で背負わされた重荷。
「その時、カトレアはいくつだった?」
「十七だよ」カトレアが静かに言う。「ドワーフの十七は、人間でいうと十二、三歳くらいかな。まだ子どもだった。でも、借金主は待ってくれない。一人前の成人として扱われた」
十七歳で家族を失い、借金を背負わされた。それから三年間。
「それから三年間、一人で戦ってきたのか」
「うん。集落の跡地に戻って、使えるものを売って。冒険者になって、少しずつ稼いで。でも、利息が追いつかなくて」
カトレアの手がジョッキを強く握る。
「悔しいよ。本当に。父さんは集落のために夢を持っていた。その夢が、こんな形で残るなんて」
「借金主は……悪い連中だ。手厳しい取り立て屋が、毎月のように金を取りに来る。期限を過ぎれば、利息が膨れ上がる。逃げても無駄だ。どこまでも追ってくる」
カトレアの拳が、白くなっていた。指の関節が浮き出るほど力を込めている。言葉にならないものが、全部そこに出ていた。
「どれくらいの額……?」
「銀貨千枚以上だ。普通の冒険者が一生かかっても稼げない額」
セラは息を呑む。千枚。彼女が金に執着する理由が、今になって完全に理解できた。単なる欲深さじゃない。生きるための必死の努力だ。
(金に細かいのは性格じゃなくて、必死さだったのか。あの値切り交渉も、全部この背景があってのことだ。いや、それを知った上で反省するのが先だな)
「なんで、誰にも言わなかったの?」
「恥ずかしかったからだよ。自称・優秀な商人が、借金まみれなんて。笑い草だろ?」
カトレアが自嘲気味に笑う。痛々しい笑顔だ。胸が締め付けられる。ずっと一人で抱え込んできた。弱音を吐くことすらできずに、強がり続けてきた。
(「自称・優秀な商人」という言い方に、プライドの傷が透けて見える。それだけ誇りを持って生きてきた人が、こんな場所で笑えない笑いをしている)
「カトレア……」
セラは何も言えなかった。でも、黙って聞き続けることだけが、今できることだった。
「……なんか、久しぶりに誰かにこんな話した」カトレアが苦笑する。「商人仲間には言えないし、ギルドの連中には関係ないし。一人で抱えてると、たまに爆発しそうになる」
「爆発していい。ここで」
「えっ?」
「俺は聞く。全部。時間はある。ジョッキも残ってる」
カトレアは少し固まった。それから、ゆっくりと息を吐く。
「悪いな。こんな話をして。せっかく楽しい夜だったのに」
彼女は顔を上げようとしない。テーブルを見つめている。肩が、小さく震えている。涙は見せない。ドワーフの誇りが、彼女を支えている。
セラは手を伸ばす。彼女の肩に触れる。温かい体温が伝わってくる。
「カトレア、俺にできることがあるなら言ってくれ」
セラの言葉に、カトレアが顔を上げる。その瞳には、涙が光っていた。迷いがある。誰かに頼ることへの恐怖。迷惑をかけたくないという思い。
「ううん、いいよ。君たちに迷惑はかけられない。これは私の問題だ」
「迷惑じゃない。仲間でしょう?」
「仲間……」
カトレアはその言葉を噛みしめるように繰り返す。ずっと一人だった彼女にとって、仲間という存在は——光のようなものだ。
「仲間なんて……私は、君たちの足手まといになるだけかも」
「そんなことない。カトレアは強いし、頼もしい。昨日の洞窟、カトレアがいなかったら勝ててなかった」
セラは真剣な眼差しで彼女を見る。嘘じゃない。彼女は確かに強い。
「カトレア、助けさせてくれ。借金のこと、一緒に解決しよう」
セラの言葉に、カトレアの表情が揺れる。拒絶したい気持ちと、助けられたい気持ち。その二つが激しくぶつかり合っている。長い沈黙。酒場の喧騒だけが、遠くで響いている。
やがて、彼女が口を開く。
「……本当に、いいの?」
「ああ。カトレアのことが仲間なら、当然だ」
カトレアの目から、一粒の涙がこぼれ落ちた。テーブルの上に落ちる。それは、長く閉ざしていた心の扉が、少しだけ開いた音だった。
「ありがとう……セラ」
## 助けを提案
「借金主は、誰だ?」
「ギルドの裏で暗躍している組織だ。『鉄の牙』って呼ばれている。表向きは金融業者だが、実態は暴力団みたいな連中で、違法な金貸しをしている。脅迫状も送ってくる。払えなければ、どこまでも追ってくる」
(組織名がある。証拠はない。でも、こういう組織は必ず弱点を持っている。完璧な悪は存在しない。どこかに綻びがあるはずだ)
カトレアが語る借金主の情報は、酷いものだった。組織的な取り立て。法外な利息。支払えなければ、体も自由もなくなる。
「そいつらに、今まで逃げようとしたことは?」
「一度だけ。集落を逃げて、別の街で冒険者になろうとした。でも、一週間で居場所を突き止められた。借金主の手下が五人で来て、担保として私の商売道具を全部持っていった。道具がなければ、商人として稼げない。結局、元の場所に戻るしかなかった」
「証拠は残っていないのか? 脅迫の証拠とか」
「全部、口頭か暗号で来る。書面は残さない。だから証拠がない。ギルドに訴えても、取り合ってくれなかった。『鉄の牙』はギルド内部にも手を回してるって噂だ」
腹が立つ。本当に。こんな連中が、普通に活動できている。カトレアはそれを三年間、一人で受け続けてきた。
(証拠なし、ギルド内部に手が届いている、追跡してくる。厄介な相手だ。でも、相手が強い組織だからといって、諦める理由にはならない。むしろ問題が大きい方が、解決した時の意味も大きい)
「なんで最初に借りたの? 父さんが?」
「ドワーフは鉱山に夢を持つ。父さんも、一族のために一世一代の賭けに出たんだ。成功すれば、集落に大きな繁栄をもたらせた。でも……運が悪かった」
カトレアが空を仰ぐ。天井の梁を見ている。そこには何もない。でも、彼女には何かが見えているのかもしれない。父の夢。その残骸。
「失敗することと、夢を持つことは、セットじゃない」
(思わず口から出た。でも、本心だ)
「一人で全部背負い込む必要もない。チームで解決することが、本当の強さだ——俺は、そう思ってる」
「……そんな風に考えたことなかった」
「いつ期限が来る?」
「来月だ。あと三十日。集金者が来て、金を要求する。払えなければ……」
カトレアの言葉が途切れる。
「わかった。来月までに、どうにかする」
「え、でも……そんな大金、どうやって?」
「クエストで稼ぐよ。ボス級モンスターの討伐とか。高額報酬のクエストを受ければ、なんとかなる」
「無茶だよ! そんなに簡単に稼げるわけじゃない!」
カトレアが反対する。心配している。自分のために無茶をしてほしくない。その優しさが、セラの心を打つ。でも、決意は揺るがない。
「大丈夫。三人だっている。アリアとリリナも、きっと手伝ってくれるよ。四人なら、できる」
「アリアさんとリリナさんを巻き込むのは、申し訳……」
「巻き込むんじゃない。一緒に戦う、だ。前者と後者は全然違う」
(これは本当にそうだ。「巻き込む」には申し訳なさがある。でも「一緒に戦う」は対等だ。カトレアに必要なのは、申し訳なさじゃなくて対等な仲間の感覚だ)
カトレアがじっと考える。口元を引き結んでいる。
「でも……私のわがままじゃないのかな」
「わがままと必要な助けは、違う。カトレアは一人でやれることはやってきた。でも一人じゃ無理な壁にぶつかった。仲間に相談するのは、当然のことだ」
「……わかった。頼むよ、セラ」
「任せて」
二人が手を握り合う。温かい感触。信頼の証。その瞬間、二人の絆は深まった。単なる協力関係じゃない。本当の意味での仲間だ。
「一つだけ約束してくれ」セラが言う。
「何?」
「俺たちが協力している間、一人で抱え込もうとしないこと。何か動きがあったらすぐ言う。秘密にしない。それだけだ」
カトレアはしばらく黙っていた。それから、深く頷く。
「……わかった。約束する。正直に言う」
「よし」
「それで、いつ相談するの? アリアたちに」
「明日の朝だ。早い方がいい」
「そうだな。早い方がいい」カトレアが繰り返す。「夜、眠れるかな」
「眠れる。今夜は一人じゃないから」
カトレアが小さく笑う。今度は、本当に小さくて、でも温かい笑い方だった。
## 三人との相談
翌朝。宿屋の部屋で、セラが二人を呼んだ。
アリアとリリナがテーブルを囲んで座る。カトレアはまだ来ていない。今は三人だけで話し合う。
(二人の顔を見て、少し緊張した。こんな話を突然されても困る人もいる。でも、このチームに限ってそれはないと信じて話す)
「何かあったの? セラ、そんな真剣な顔して」
アリアが心配そうに見る。リリナも不安そうだ。
「カトレアに、借金があるんだ」
二人は驚愕する。口を開けたまま、固まっている。
「借金……? カトレアさんが?」
「そう。集落が壊滅した時、家族の借金を背負わされたらしい。来月が期限で、銀貨千枚以上必要だ」
セラが事情を説明する。カトレアの孤独な戦い。借金主『鉄の牙』の存在。迫りくる期限。家族を失った経緯。全部を、できるだけ丁寧に。
アリアの目に涙が浮かぶ。リリナの拳が、ゆっくりと握りしめられている。
「カトレアさん、一人で抱え込んでたんだ……」
「そんなの、助けてなきゃ」
リリナが立ち上がる。迷いがない。アリアも頷く。二人の反応は、予想以上だった。即座に「助けよう」が第一声で出てくる。
「カトレアを助けたいの。セラ、どうすればいい?」
「まずは高額報酬のクエストを受けること。そして、カトレアに『私たちが一緒に戦う』と伝えることだ」
二人は即座に賛成する。迷いはない。カトレアを助ける。それが、三人の共通の意志になった。
「二人、ありがとう。カトレアもきっと喜ぶよ」
「カトレアさんは、私たちの仲間だもんね!」
「そうだ。助けるのが当たり前だよ」
アリアとリリナの笑顔が、朝日に輝く。
(このチームでよかった。本当に、そう思う。誰かのために即座に動ける仲間が、ここにいる)
「ランクアップのことも考えなきゃ。今のままじゃ、高額クエストは難しい」
セラが続ける。
「カトレアはDランクなんだろう? Dランクなら、私たちを推薦できる」
「推薦状か。審査を早めてもらえるなら、Eランクへの昇格も現実的になるね」アリアが考えながら言う。
「じゃあ、カトレアさんに推薦をお願いしよう」リリナが前のめりになる。「それで実力を証明すれば、高額クエストも受けられる!」
「そうだな。一石二鳥だ」
三人の計画が、少しずつ形になっていく。具体的になればなるほど、やれる気がしてくる。
(こういう時の二人は、本当に速い。問題を前にしても「どうしよう」より先に「どうする」が来る。そういうチームに入れてよかった)
「ありがとう、二人とも。昨日から本当に助かってる」
「何言ってるの。当たり前でしょ」リリナがさらっと言う。「カトレアさんが困ってるのに、知らんふりする方が無理だよ」
「そうよ。私は最初、何も知らなかったけど」アリアが笑う。「でも、セラが打ち明けてくれてよかった。一人で抱えてたらかわいそうだもん」
(この二人、本当にまっすぐだ。損得勘定なしに動ける。それが、このチームの最大の強みだ)
「カトレアさん、昨日から何度も感謝されるの、ちょっと照れくさいよね」リリナが続ける。
「そうね。でも、カトレアさんが感謝してくれるのは、カトレアさんが素直な人だってことだよ」アリアがうまいことを言う。
「うまいな、アリア」
「えへへ」
## カトレアへの伝達
昼。街の広場で四人が集まった。
カトレアは昨日のことをまだ知らない。彼女は少し不安そうだ。視線が泳いでいる。広場の噴水、通り過ぎる人々、屋台の旗。何でもいいものに、意識を向けようとしている。
「セラ……? どうして呼び出したの?」
「話があるんだ。アリアとリリナにも、昨日のことを話した」
カトレアの顔色が変わる。赤から青へ。血の気が引いていくのがわかる。
「話した……って、どういうこと……?」
「二人は、カトレアを助けたいと言ってくれた」
「え……?」
「借金のこと、一緒に解決しようって」
(カトレアの表情が変わった瞬間、その目に複数の感情が同時に走った。喜び、驚き、戸惑い、そして少しの恥ずかしさ。感情が多い人は、表情にも全部出る)
カトレアの目が見開かれる。信じられないという表情。様々な感情が渦巻いている。
アリアとリリナが前に進み出る。
「カトレアさん! 私たちで一緒に頑張りましょう!」アリアの声が広場に響く。
「そうだよ! カトレアさんは、私たちの仲間だもん!」リリナも力強く言う。
カトレアの目から、涙が溢れ出す。一滴、二滴。止まらない。感情の堤防が決壊した。長く抑え込んできた感情が、今となって爆発している。
「みんな……うううっ……ごめんね……ごめんねぇぇぇっ……!」
カトレアが泣き崩れる。大人のドワーフが、子供のように泣いている。
アリアが彼女を抱きしめる。「いいのよ、いいのよ」と繰り返す。リリナもハンカチを取り出し、カトレアの涙を拭う。セラは、彼女の肩に手を置く。
「一人じゃないよ。カトレア。私たちがいるから」
「そうだよ。一緒に戦おう!」
「カトレアさん、私たちが絶対守るから!」
カトレアは泣きながら、笑おうとしている。口の端が上がっているが、涙は止まらない。
「なんで……みんな、そんなに優しいの……私、こんなにお荷物なのに……」
「お荷物じゃない」
アリアがきっぱりと言う。
「カトレアさんがいなかったら、昨日の洞窟、絶対に勝てなかった。あなたは私たちの戦力。大切な人。それは変わらない」
「えへへ、そうだよ! カトレアさん、カッコよかったもん!」リリナが笑顔で言う。
カトレアがぐっと唇を噛む。そしてようやく、ちゃんと笑った。
カトレアは震えながら、微笑む。今まで見た中で、一番の笑顔だ。
「ありがとう……みんな……ありがとう……!」
## 新たなチーム
夜。酒場で四人が乾杯した。
「乾杯! カトレア、これからは四人で頑張ろう!」
「乾杯! 四人でなら、何でもできる!」
ジョッキがぶつかり合う。カン、カン、カン。四つの音が重なる。新しいチームの誕生を告げる音だった。
「ねえ、カトレアさん。借金が返済できたら、何をするの?」リリナが尋ねる。
「集落を再建するんだ。そして、新しい仲間を募る。ドワーフの故郷を取り戻すんだよ」
カトレアの目が遠くを見つめる。そこにはまだ実現していない故郷の姿がある。
(この人の夢は、誰かのためのものだ。自分のためじゃなくて、亡き父のため、集落のため。そういう人の夢には、力がある)
「どのような集落にするの?」
「小さな集落だよ。でも、暖かい家があって、みんなで助け合う。地下には鉱山があって、そこで希少な鉱石を採掘する。鍛冶場も作る。ドワーフの武具は、世界一だからな」
カトレアが誇らしげに語る。
「素敵だね。私も手伝いたいな」アリアの目が輝く。
「ありがとう。君たちが手伝ってくれたら、最高の集落になるよ。エルフの建築技術とドワーフの石工技術が融合すれば、世界最強の集落になる」
リリナも興味津々だ。「魔導鍛冶場も作れるかも」なんて言っている。
「集落の名前は?」
セラが聞く。カトレアは少し照れくさそうに笑う。
「まだ決めてない。でも……みんなで決めたいな」
「じゃあ、みんなで考えよう」
「ええっ! 今決める!?」
「今じゃなくてもいい。でも、いつかね」
カトレアが頷く。その目が、少し輝いている。夢が、少しだけ現実に近づいた感触を覚えているんだろう。
(集落の名前をいつか四人で決める。それが一つの目標になった。借金を返すのは手段で、本当の目的はその先にある)
「私たちで頑張ろう。カトレアの夢、叶えてやる」
「うん。セラの言葉、信じてるよ」
「それにね、私だって手伝わせてよ」
「え? カトレアも?」
「当たり前だろ! 私が借りた金だ。戦力としても役に立つはずだ」
「わかった。四人で戦おう」
「ああ! 四人でなきゃ意味がない!」
「ところで、さっきカトレアさん、四年は組む、って言ってましたよね?」リリナが言う。
「あ、失敬! 四人は組む、だった! ギャハハ! 酒が回ってきたかな!」
その場が爆笑に包まれる。カトレアも顔を赤くして笑っている。
「次は四十年は組む、って言いかねないね」アリアが笑う。
「ギャハハ! 四十年でも四百年でも組むよ! ドワーフは長命だからな!」
(四百年……ドワーフの時間感覚、スケールが違いすぎる)
「セラ、ありがとう。君たちに出会えて、本当に良かった」
カトレアが静かに言う。酒の勢いじゃない。心からの言葉だ。
(昨夜から、カトレアの顔つきが少し変わった気がする。重さは同じだ。でも、一人で背負う重さじゃなくなった。それが顔に出てる)
「こっちこそよ。カトレア、これからよろしく」
「ああ! よろしく! 四人でなら、どんな困難も乗り越えられる!」
四人の笑顔が、酒場に輝く。借金の問題はある。でも、怖くない。仲間がいるから。
「ところで、具体的にはどうするの? 銀貨千枚って、どうやって稼ぐ計画?」
アリアが実務的に聞く。さすがアリア。感動の場面でも、頭はちゃんと動いている。
「まずはランクアップして、高額クエストを受けられるようになること。今はGランク。最低でもEランクになれば、報酬が全然違う」
「Eランクになるには?」
「クエストをこなして実績を積む。それと、推薦状。上位ランクの冒険者に推薦してもらえれば、審査が早い」
「カトレアは、何ランクだっけ?」
「Dランクだよ。だから私が推薦できる。来月中に、三人のランクを上げることが目標だ」
「Dランクが推薦してくれるの!? じゃあ、計画、実現可能だ!」 リリナが立ち上がりそうになる。
「座れ」カトレアが笑いながら言う。「でも、そうだ。可能だ。難しいけど、不可能じゃない」
「やろう」「うん!」「ええっ!」
「セラさ、一個聞いていいか?」カトレアが言う。
「何?」
「なんで俺の話、こんなにちゃんと聞いてくれるんだ? 他の人は……みんな、慰めて終わりだった。でも君は、解決策まで一緒に考えてくれる。商人として、不思議でならないんだよ」
「俺も仲間に助けられてきたから、かな」セラはしばらく考えてから答える。「アリアに何度も助けてもらった。リリナにも。仲間っていうのは、そういうものだと思ってる。困った時に力を貸す。それだけだよ」
「シンプルだな」
「うん。でも、そのシンプルさが一番大事な気がする」
「……そうかもな」カトレアがジョッキを持ち上げる。「もう一杯、付き合ってくれるか?」
「もちろん。今夜は俺が払う」
「ダメだ。今夜は私の奢りだって言っただろ」カトレアがきっぱり言う。
「借金があるのに?」
「借金があっても、恩人に奢るくらいの余裕はある」カトレアが豪快に笑う。「ギャハハ! むしろ奢らせてくれなきゃ、私のプライドが持たない!」
その笑い声は、今夜初めて、本物の笑い声だった。
(今日、一日前のカトレアと、今のカトレアで、笑い声の質が変わった。あのギャハハが、重さのない本物になっている。それだけで、今日の価値はある)
夜が更けていく。窓の外に、星空が広がっている。美しい星々。それは、四人の未来を照らす光のようだった。




