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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第49話 借金返済の旅

# 第49話 借金返済の旅


## 借金の全貌


 転生六十一日目の朝。


 宿の一階にある個室で、カトレアが茶色い封筒を取り出した。その手は微かに震えていた。


 封筒は使い古されている。角は折れ、表面には幾重もの指跡がついている。何百回と取り出し、また仕舞い直したのだろう。三年間、この紙切れと向き合ってきた証拠だ。


「これが……借書」


 紙の質感は粗く、端は擦り切れている。何度も取り出し、確認してきた証拠だ。中身を確認すると、そこに書かれた数字に息を呑む。


「銀貨、千二百枚……!?」


「うん。父が亡くなった時の借金だ。利子が上がって……」


 カトレアは俯く。その言葉の重さが、ずしりと肩にのしかかってくる。


「返済期限は、来月の今日。あと二十九日」


 紙を握りしめた。あと一ヶ月足らずで、この数字を清算しなければならない。普通の冒険者が何年かけても届かない額を。セラは静かに計算する。銀貨千二百枚。Fランクのクエスト報酬が一件あたり三十枚程度とすれば、二十九日で四十件こなす計算になる。現実的じゃない数字だ。


「三年間で、どれくらい返した?」


 数字を把握しないと話が進まない。


「銀貨三百枚。でも利子が毎月三十枚加算されるから、元金があまり減っていない」


「毎月三十枚……それは悪質な利息だ」


「そうなんだ。最初の契約で、返済が遅れたら利子が上がる、という条件があったらしい。父は焦って、その条件に気づかなかったんだと思う」


「詐欺みたいなものだな」


「そう。でも、契約書にはちゃんと書いてあった。父が確認しなかったのが悪い、と言われてしまえば、それまでだ」


 カトレアが自嘲気味に笑う。痛ましい笑いだ。相手を責める言葉も出ない。


「三年間、必死に稼いできた。でも、利息が追いつかないの。このままだと、集落再建の夢も……」


「父は優しかった。集落のみんなに慕われていた。私の自慢の父だった。でも、事業に失敗して……」


 カトレアの声が震える。その声に込められた痛みは、言葉以上のものを語っていた。


「父が倒れた時、私は十七だった。母はもっと前に亡くなっていたから、急に一人になった。父の借金と、父の夢と、全部一人で引き受けた。それが、三年前」


 歯を食いしばった。頬の内側を噛み切らないようにするのがやっとだった。


「『鉄の牙』からの取り立ては、容赦がないんだ。脅迫状、暴力、家族への危害。全部、経験した」


「許せない」


「そう。でも、私には関係ない人を巻き込みたくない。誰かが怪我をしたら、そっちの方が辛い」


「父も、彼らに脅され続けていたと思う。心臓発作で亡くなったけど、本当のことは……」


 カトレアはハンカチで涙を拭う。静かな動作だった。もう何度もこの話をしてきたのか、それとも涙が枯れているのか、判断がつかない。


「私一人では無理。でも、四人なら」


 深く息を吐く。そして、カトレアの目を見る。


「分かった。俺たちで返す」


「え……?」


「カトレアは一人じゃない。俺たちがいる」


「絶対、助ける」


 (これは嘘じゃない。カトレアが仲間なら、カトレアの問題は四人の問題だ。それだけのことだ)


 カトレアの目から涙が溢れる。さっきまでこらえていた涙が、一度に溢れてくる。


「セラ……なんで……そんなに優しいのか。君たちには、関係ないのに」


「関係ある。仲間だから」


「でも、危険になるかもしれない。『鉄の牙』は、本当に怖い連中だ。巻き込みたくない」


「カトレア」


 セラはカトレアの目を見る。


「助けを求めることは、弱さじゃない。相手を信頼しているってことだ。だから、俺に頼んでいい」


「セラ……」カトレアの声が揺れる。「ありがとう」


「だから、詳しく教えて。借金主の『鉄の牙』って、何者だ」


「『鉄の牙』は、ギルドの裏で暗躍する組織だ。形式的には金融業者だけど、実態は暴力団。証拠も残さない。だから、誰も逆らえない」


「分かった。高額報酬のクエストを受ける。ギルドに行こう」


「でも、そんなクエスト、Fランクでは……」


「実力で証明する」


 立ち上がる。


「四人なら、何でもできる」


 カトレアの瞳が揺れた。


「セラ……」


「行こう。仲間を待たせるな」


## 高額クエスト


 昼、冒険者ギルド。


 四人はクエストボードの前で高額依頼を探していた。


「これだ!」


 カトレアが指差す。


 【古代のダンジョン攻略】

 報酬:銀貨三百枚

 期間:三日以内

 内容:古代のダンジョン内に棲む魔物の討伐と、ダンジョン深部の調査

 注意:ボス級モンスターの存在が確認されている


「三百枚……!」セラが目を見開く。


 (銀貨三百枚、一発で。これ以外の手は、時間的に存在しない)


「高い! でも、危険も」リリナが警告する。「古代のダンジョンは、罠が多いって聞く。挑戦者は、戻ってこないことも」


「挑戦者は、半数が死亡」アリアも懸念を示す。


「死亡率、高い……」


 四人は顔を見合わせる。


「やるしかない」


 セラが宣言する。


「カトレアの借金を返すには、これしかない」


「セラ……」カトレアの瞳が揺れる。


「四人なら、大丈夫」リリナが頷く。


 (リリナがこういうことを言えるようになったのは、いつ頃からだろう。最初に会った頃はもっと慎重だった。成長してる)


「私たちの絆が、最強の武器だって証明したもんね」


「セラと一緒なら、どこへでも行く」アリアも笑顔で。


 二人の支えに、カトレアの目が潤む。


「ありがとう。みんな、本当にありがとう。恩に着るよ」


「恩は後にして、受注しよう」


 受付嬢が驚いた顔で見る。


「このクエスト、受けるんですか? Fランクで」


「実力で証明する」


「頑張ってください。ただ、気をつけて。ボスは強いですよ。『ダーク・ナイト』。闇属性のボスだ。前回の挑戦者は、全滅しました」


「全滅……」


「情報、ありがとう」


 クエスト受注完了。報酬銀貨三百枚の高額依頼。


「よし、出発だ。古代のダンジョンへ向かうぞ」


 出発前に、セラはアリアとリリナに話した。カトレアのためにここまで来た事情を、もう一度確認する。


「本当に、大丈夫? 危険なクエストだよ」


 アリアが真剣な顔で聞く。でも、目は決まっている。


「危険は知ってる。でも、仲間を助けたい。それは変わらない」


「うん。私も」リリナが迷わず言う。「カトレアさんのために戦う」


「ありがとう、二人とも」


「行こう」「うん!」「ええっ! 行くよ!」


## ダンジョン攻略


 街道を北へ、半日ほど進むと、森の奥深く、石造りの遺跡が見えてきた。


「これが、古代のダンジョン」


 巨大な扉が聳え立ち、その表面には古代文字が刻まれている。扉は半分埋もれていて、苔が生えている。


「古代エルフが作った試練の場だ。強さを試すために作られたんだって。でも、今は魔物の巣窟になっている」カトレアが言う。


「魔物の種類は?」


骸骨戦士スケルトン・ウォリアー、ゴースト、ワイト。アンデッド系が多い。それに、ダンジョン独自の仕掛けも。罠だ。毒矢、落とし穴、毒ガス。全部、古代エルフが仕掛けたもの」


「罠の解除、できる?」


「商人兼冒険者として、多少は勉強した。ドワーフの知識もあるし」


「頼もしい」リリナが微笑む。


「私たちのチーム、最強かも」


「えへへ、自信あるよ」カトレアも笑う。


 セラが掌に光を宿す。淡い光が扉を照らし出し、古代文字が浮かび上がる。


「古代エルフの文字……」アリアが読む。「『強き者のみ、通れよ』」


「試練の場だ」


 (しかし「強き者のみ、通れよ」と書いてある扉に突っ込もうとしているこの状況——エルフの体だから読めたのか、それとも読まないほうが気楽だったのか、判断が難しい)


 セラが扉を押す。重い音を立てて、扉がゆっくりと開く。中から冷気が流れ出し、暗闇が広がっている。


「行くぞ」


 (扉を開けるのはいい。問題は、この先で何が起きるかだ。全員、無事に帰ってくる。それだけが最低限の条件だ)


 扉の内側は、湿った冷気に満ちていた。石畳の床、石造りの壁、天井から滴る水音。炎のような熱気は一切なく、代わりに古い時代の空気がそこに溜まっている。数百年分、いや、もっと古い何かが眠っている感じがした。


 ダンジョン内部は、薄暗く、不気味な静寂に包まれていた。


「冷たい……」アリアが呟く。


「ダンジョンは地下だから、温度が低い。慣れるまでは寒いかも」


 カトレアが先頭で歩く。足音を立てないように、ゆっくりと。


「匂いがある。石の湿り気と、かなり古い何か」


「ダンジョンの匂いだよ。何百年も前から変わっていない」


「最初の敵と遭遇した」


骸骨戦士スケルトン・ウォリアーだ!」リリナが叫ぶ。


 骨だけで構成された戦士たちが、剣を構えて迫ってくる。五体。ガシャガシャと骨の鳴る音が反響し、不気味な残響が壁を伝わっていく。先頭の一体が剣を振り上げ、カトレアに向かって突進した。


「アリア、リリナ、手を」


 三人が手を繋ぐ。魔力が共鳴し始める。光、水、風。三つの属性が混ざり合い、互いを補強する。何度やっても、この瞬間の感覚は特別だ。三人の呼吸が揃うと、まるで一つの生き物のように魔力が循環し始める。


「三つの光よ、交わりて結界となれ。邪悪を封じ、清浄を守れ——ホーリー・トライアングル!」


 巨大な三角陣形が出現し、そこから虹色の光が放たれる。光は骸骨戦士たちを包み込み、瞬く間に灰化させる。骨が粉砕され、剣が床に転がり、残ったのは細かい灰だけだった。


「一撃だ!」カトレアが驚く。「すごい威力……! あれが聖三角か」


「これが、俺たちの力」セラが微笑む。


「ようやく本物を見た。三人がいれば、アンデッド系は怖くない、ということか」


「そういうことだ」


「心強いな、ギャハハ!」


 ダンジョン攻略は、順調に進むかに見えた。


 スケルトン・ウォリアーはその後も三回遭遇した。どれもホーリー・トライアングルの前では塵芥も同然だった。ゴーストには水魔法と光魔法の組み合わせが効果的で、アリアが射貫くたびに霧のように散っていく。カトレアは罠の発見に専念し、後衛からドワーフハンマーで支援に回る。連携が、ここまで嚙み合うとは思っていなかった。


 しかし、真の危険は奥深くに潜んでいた。


 ダンジョンの中層。突然、カトレアが足を止める。


「待って。罠がある」


「罠?」


「三メートル先、左足が踏むと発動する種類のやつ。古代エルフの仕掛け。押し板式だ。作動すると、毒矢が飛んでくる」


「どうする?」


「解除する」


 カトレアが工具袋から細い針金を取り出し、床の隙間に差し込む。慎重に操作を続けること三十秒、カチッという小さな音がした。


「解除完了」


「すごい!」リリナが称賛する。


「商人兼冒険者として、いろいろ勉強したから。ドワーフは、機械や罠に詳しいんだ。鉱山で働いてきたから」


「カトレアがいなかったら、全員毒矢で串刺しだったな」


「そうだね。毒矢、複数発飛ぶから。一本じゃ済まないよ」


 落とし穴、炎の噴出、毒ガスの霧。次々と罠を乗り越える。カトレアが罠を見つけ、セラが光で照らし出し、アリアとリリナが防御魔法で対処する。


「よし、進める」


 その先に、開けた空間があった。天井が高い。幻のような薄い光が差している。石の壁には、古代文字が彫り込まれていた。アリアが少し立ち止まって読もうとする。


「古代の警告文かな……」


「読める?」


「少しだけ。『先に進む者よ、覚悟を問う』みたいな内容」


「古代エルフ、いちいち大げさなことを書くな」


「試練の場だから仕方ないよ」アリアが苦笑する。


「ここが中層か」


「うん。先に進むほど、強い魔物が出る。気をつけて」


「罠はまだあるか?」


「ある。でも、種類が変わってくる。物理的な罠だけじゃなく、魔法的な罠も」


「魔法的な罠?」アリアが緊張した顔で聞く。


「感情に働きかける幻惑魔法。恐怖を煽ったり、混乱させたり」


「えっ、そんなのがあるの!?」リリナが声を上げる。


「古代エルフは、心理的な試練も仕掛けてあったんだ。強さは肉体だけじゃない、って考えだったらしい」


「心理的な罠か。どう対処する?」


「仲間の声を信じること。幻惑された時は、仲間の声を聞く。それが一番の対策だ」


 (結局どこに行っても、「仲間を信じろ」という話になる。宇宙の法則かもしれない)


 だが、その時だった。


 背後から、冷たい風が吹き抜ける。


「何か来る……」アリアが体を強張らせる。


「気配、ある」リリナも感じ取っている。


 振り返ると、ダンジョンの暗闇から赤い目が光っていた。


「ボスだ」


## ボスとの決戦


 ダンジョンボス。


 『ダーク・ナイト』と呼ばれる、闇で構成された騎士だ。身長三メートル、全身が黒鎧に覆われ、手には巨大な闇の大剣を持っている。鎧の継ぎ目から闇の霧が漏れ出し、周囲の空気を染め上げていく。近づくだけで、体の内側から何かを吸い取られる感覚があった。


「強い……!」カトレアが本能的に感じ取る。「こいつは……格が違う」


「Fランクのボス、じゃないね」リリナが戦く。「絶対、格付けが間違ってる」


「戦うぞ!」


 しかし、ダーク・ナイトの速さは、予想以上だった。


「速い!」


 叫びと同時に、闇の大剣が振り下ろされる。


「回避!」


 四人が散る。大剣が床を叩き、衝撃波が広がる。


「うわっ!」リリナが吹き飛ぶ。


「リリナ!」アリアが駆け寄る。


「聖三角!」試みるが、ダーク・ナイトは闇を纏って突進してくる。


「防御!」アリアがプロテクションを展開するが、闇の大剣は魔法障壁を粉々に砕く。


「きゃあっ!」アリアが吹き飛び、壁に激突する。


「アリア!」


 光弾を連射するが、ダーク・ナイトは闇の障壁で防ぐ。


「効かない……!」カトレアが叫ぶ。「弱点があるはず!」


「どこだ!?」


「胸のコアだ! 鎧の隙間から見える、赤い光!」


 確かに、黒鎧の胸部に赤い光が脈打っている。


「でも、近づけない……!」


 ダーク・ナイトの攻撃は激しくなる。闇の斬撃、闇の波動、闇の槍。次々と放たれる闇属性攻撃に、四人は圧倒される。


「どうする!?」リリナが絶叫する。


「総力だ!」セラが決断する。頭の中で、瞬時に計算する。ダーク・ナイトの動き、魔力量、弱点のコア。一手で仕留めるには、四人全員を動かすしかない。


「カトレア、ハンマーで足を狙え!バランスを崩す!」


「了解!」


「アリア、水魔法で視界を遮れ!目眩ましだ!」


「はい!」


「リリナ、風刃で闇の障壁に亀裂を入れる!コアへの道を開ける!」


「任せて!」


「三つ全部揃ったら、ホーリー・トライアングルでコアを撃ち抜く!タイミングは俺が合図する!」


 四人の連携が始まる。カトレアが『石砕き(ストーンブレイカー)』でダーク・ナイトの足を狙う。ハンマーが床を叩き、衝撃波がバランスを崩す。


「今!」


「アクア・ミスト!」水霧がダーク・ナイトの視界を奪う。


風刃ウィンド・エッジ!」風の刃が闇の障壁に亀裂を入れる。


「聖三角!」


 三人が手を取り合い、魔力を共鳴させる。


「三つの光よ、交わりて結界となれ。邪悪を封じ、清浄を守れ——ホーリー・トライアングル!!」


 三属性の融合魔力が、巨大な光の槍となって放たれる。光は闇を貫き、ダーク・ナイトの胸のコアに直撃する。


「graaaaaaugh!!」


 ダーク・ナイトが絶叫し、闇が崩れ落ちていく。


「当たった!」カトレアが叫ぶ。


「まだ、終わらない!」


 さらに魔力を注ぎ込む。


「最大出力!」


 光がさらに増し輝き、ダーク・ナイトを完全に包み込む。闇が消滅し、静寂が戻る。


 闇が消えた。ボス部屋に静寂が戻る。ダーク・ナイトがいた場所には、黒い霧だけが残り、それもゆっくりと散っていく。


「勝った……!」リリナが膝をつく。


 四人は全員、傷だらけだった。アリアは壁に激突した衝撃で意識が朦朧としている。リリナは腕に深い傷。カトレアは肋骨を一本痛めた。セラ自身も、魔力の使いすぎで頭が割れそうだった。


「みんな、大丈夫か?」


「大丈夫……けど」アリアが息を切らして答える。「死ぬかと思った」


「でも、生き残った」カトレアが微笑む。「四人で」


「帰ろう。全員、立てるか? 自力で歩ける?」


「うん、歩ける」「ええっ! 大丈夫!」「なんとか」


 足がガクガクしている。頭が割れそうだ。でも立てる。それだけで十分だ。


「動ける?」


 セラが確認する。アリアが頷く。リリナが「うん、なんとか」と言う。カトレアも立ち上がる。


「全員、自力で歩ける。良かった」


「でも、これ、相当ピンチだったね。正直」アリアが少し笑う。疲れ笑い。


「うん。ピンチだった。でも勝った」


「なんで勝てたと思う?」リリナが聞く。


「連携だ。一人じゃ絶対に無理だった。四人だから勝てた」


 (そのとおりだ。セラ一人が強くても意味がない。カトレアが罠を解除し、アリアが視界を奪い、リリナが障壁を崩した。全員がいなければ、このボスには勝てなかった)


 カトレアが静かに言う。「こんな私のために、ここまでしてくれて。本当に……」


「後で感謝してくれればいい。今は帰ることを考えよう。もう一戦は無理だ」


「うん、帰ろう」「ええっ! 帰りたい!」


## 生還と報酬


 転生六十二日目の朝。


 四人はダンジョンから生還し、ギルドに報告していた。


「無事か!」受付嬢が駆け寄る。


 (この顔、本当に心配してくれていたんだな。昨日の「気をつけて」も本気だったわけだ)


「ボス倒したよ。ダーク・ナイト、討伐完了」


 ギルドマスターが現れ、驚いた表情を見せる。


「Fランクで、ダーク・ナイトを……!」


「四人で力を合わせた」


「素晴らしい。報酬を授与しよう」


 ギルドマスターが銀貨の袋を取り出す。ずっしりとした重さ。音がする。


「三百枚、確かに」


 銀貨三百枚が差し出される。


「これだ」


 カトレアが受け取る。その手が少し震えている。


「カトレア、大丈夫?」


「うん……ただ、実感がなくて。三年間、こんな大きな額を一度に稼いだことがなかったから」


「これで四分の一だ。残りも、一緒に稼ぐ」


 (四分の一。残り四分の三。現実は厳しい。でも、今日より確実に前に進んだ)


「四人で来月中に稼げるか? 少し不安もある」


「正直に言ってくれてありがとう。俺も不安はある。でも、やるしかない。やって、初めて分かることがある」


「じゃあ、今日はゆっくり休もう。明日からまた動く」「うん!」「ええっ!」「うん」


「借金の一部だ」


「でも、まだ足りない」リリナが指摘する。


「残りは、またクエストで」セラが宣言する。「何度でも挑む。カトレアの借金、全部返す」


 カトレアの目から涙が溢れる。


「みんな……」


「恩に着るなよ」セラが微笑む。「仲間だから」


「そうだね」アリアも笑顔で。


「私たちは、チームだ」リリナも頷く。「四人で、何でも一緒に乗り越えられる」


 カトレアは涙を拭い、深く頭を下げる。


「本当に、ありがとうございます。恩は一生忘れません」


「一生は長いよ」セラが肩を叩く。「これからも、一緒に戦おう」


 宿に戻る道中、カトレアが足を止める。


「あの、みんなに伝えたいことが」


「何?」


「私の夢」カトレアが深呼吸をする。「借金を返したら、集落を再建するんだ。小さな集落、鍛冶場、鉱山を作る。ドワーフたちが住める場所」


「すごいね」リリナが称賛する。


「父の夢だったんだ。でも、父は叶えられなかった。だから、私が叶える」


「手伝うよ」セラが宣言する。「カトレアの夢、俺たちの夢にする」


「え……?」


「仲間の夢は、自分の夢だ」


「私も、手伝う」アリアが頷く。


「私も」リリナも加わる。


「四人で、集落を建てる」


 カトレアの目から涙が溢れる。


「みんな……」


「泣くなよ」セラが笑う。「これからは、四人で」


「うん」カトレアは涙を拭い、微笑む。「四人で」


「ところで、集落の名前は?」リリナが突然聞く。


 (リリナが場の空気を変えた。重くなりかけていたところをうまく転換した。さりげなくすごい)


「え? まだ決めてない」


「じゃあ今決めようよ! みんなで!」


「今決めるの!?」アリアが目を丸くする。


「いいじゃない。せっかく四人いるんだから」


「えっと……」カトレアが考える。「父の名前は、ゴルドだった。ゴルドの集落、とかはどうかな」


「いいじゃない。父への敬意も込まれてる」


「えへへ、私もそう思う!」アリアが笑う。「ゴルドの集落、素敵な名前だよ」


「カトレアの父の名を持つ集落。そこに、俺たちも行こう」


「ほんとうに……ほんとうにいいのか?」


「もちろん」「うん!」「ええっ!」


 四人は宿に向かった。疲れた体。でも軽い足取り。新たな冒険が、そこに待っていた。


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