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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第47話 ドワーフの洞窟

# 第47話 ドワーフの洞窟


## カトレアの誘い


 転生五十八日目の朝。


 ドタドタドタドタ。


 廊下を踏み鳴らす足音が聞こえた瞬間、俺には分かった。カトレアだ。エルフやら人間やらの静かな歩みとは全然違う、重厚感のある足音。一歩一歩が確実に地に刻まれるような踏みしめ方。


 (前世だったら苦情が来るレベルだな、これ。マンションの下の階の住人が確実に怒る。でも、この世界の宿屋は石造りが多いから、騒音問題にはならないらしい。文明の差、というやつか)


 ドアが開く前から、俺はすでに起き上がっていた。


 「おはよう殿方! 良いニュースがあるぞ!」


 カトレアの声が大きい。隣で寝ていたアリアとリリナが飛び起きる。


 「か、カトレアさん!?」リリナが目を白黒させる。「朝から……声が……」


 「朝だから元気なんだよ! ドワーフは朝型なの! ギャハハ!」


 「おはよう、カトレア。良いニュースって?」


 「そうだ! 私の故郷の近くに、ドワーフの洞窟があるんだ。そこには希少な鉱石が眠っている」


 (いきなりだな。でも、良いニュースがドワーフ語で「金になる場所を見つけた」という意味なのは、もう分かってきた。カトレアの「良いニュース」は、いつも金銭的な良いニュースだ。それが彼女の優先順位の一位なんだろう)


 「鉱石、というと?」


 「特に青いのは魔石として使える。それが採れるんだ。それに、その洞窟には私の故郷の集落と関係する遺物もあるかもしれない。昔、父から聞いた話なんだけど」


 「魔石!?」リリナの目が輝く。魔法に使える貴重な鉱石。高価で、手に入りにくい。


 「魔石って、どれくらい珍しいの?」


 セラが聞く。まだこの世界の物価はよく分からない。


 「銀貨一枚くらいする。でも、洞窟なら採れる量が多い。うまくいけば金貨が手に入るかもしれない。ギャハハ!」


 「ということは、今回のクエスト、かなり良い案件?」


 「最高級だよ! 私が見つけた情報の中で、一番の案件だ! 機密事項だったが、君たちは信頼できるから話した」


 (信頼できるから話した、か。カトレアに信頼されているんだな。それは嬉しい)


 「そこに行こうじゃないか! 私が詳しく案内するよ」


 カトレアの手には古びた地図がある。羊皮紙に描かれた線は薄れているが、ルートは読める。何度も使われた地図だ。


 「面白そうだね。行ってみようか」


 「セラが行くなら、私も行く!」


 「私も!」


 アリアとリリナも賛成する。


 「よし! じゃあ早速出発だ。朝食は街中で買っていこう! 美味しいパン屋があるんだよ。私が昨日偵察してきた」


 (昨日のうちに偵察してたのか。本当に行動が早い)


 「なんで昨日偵察したの?」


 リリナが不思議そうな顔で聞く。


 「当たり前でしょ! 良いパンがどこにあるかを知らずに冒険に出るなんて、士気が下がるじゃないか!」


 「パンと士気が繋がるの?」


 「つながるとも! 美味い飯は、戦士の基本だ。腹が減ってたら良い判断ができない」


 セラは頷く。それは一理ある。空腹は敵だ。


 「カトレアの言う通りだな」


 「えっ、セラも同意するの!?」アリアが少し驚く。


 「食事と仕事は関係する。栄養と判断力は繋がってる」


 「さすがセラ分かってる! じゃあ行こう!」


## 洞窟への道


 パン屋で軽い朝食を済ませ、四人は街を出た。街道を山へと向かう。


 カトレアが先頭を歩く。小柄だけど、力強い。大地を踏みしめる歩みが、昨日のドタドタ廊下歩きとまったく同じリズムだ。山道を歩くカトレアを見ていると、この人は本当に山の人間なんだな、と思う。どんな地形でも、迷いなく進む。


 「リリナ、昨日の鉱山戦の感想を聞かせてよ」カトレアが振り向く。


 「えっ? 私の感想?」リリナが驚く。


 「君は一番素直な反応をするから、感想が正直だよ。アリアは遠慮して良いことばかり言うし、セラはポーカーフェイスだから。リリナが一番信頼できる」


 「えへへ」リリナが照れる。「じゃあ……カトレアさんが吹き飛ばされても立ち上がったのが、かっこよかった」


 「あれ、痛かったけどね! ギャハハ! でも、倒れるわけにはいかない。私が倒れたら守護者の情報を伝えられないから」


 「情報が一番大事だったの?」


 「そうだよ。力だけなら単独で行く。でも、今日は一緒に戦う仲間がいる。だから、私の役割は情報と誘導だ。一番大事なことを一番できる人間がやる。それが連携だ」


 (カトレアの考え方が、本当に実用的だ。ロマンじゃなくて、合理から動いている。それが彼女の強さだ)


 「カトレア、その地図、古くないか?」


 セラが地図を覗き込む。文字が薄れている。端が少し破れている。でも大切に折り畳まれた跡がある。何度も開かれた跡だ。


 「父の地図だよ。古くて当然だ。でも、ドワーフの地図は正確。二百年前のものでも、地形は変わらない。山は動かないからな」


 「二百年!」リリナが驚く。「そんなに古いの!?」


 「ドワーフは長生きだから。父が若い頃に書いた地図でも、私にとっては現役だよ」


 「へえ……」アリアが感心する。


 (ドワーフの寿命は長い。スケールが違いすぎる)


 「私の故郷は、山の向こう側にあるんだ。洞窟はその手前」


 カトレアが話し始める。彼女の声には少し郷愁が混じっている。


 「カトレアさん、故郷には戻りたいの?」


 「ああ、いつかは。集落を再建するのが夢だ。そのために金を稼いでいる」


 (金への執着が夢のためだということは、少し理解してきた。カトレアの金稼ぎは、純粋な動機で動いている)


 「私たちが手伝えることがあれば、言ってね」


 「ありがとう、セラ。君たちと出会えて良かった。……正直、最初は警戒してたんだよ。エルフは接しにくいって聞いてたから」


 「そうなの?」アリアが少し驚く。


 「ドワーフとエルフは、文化が違いすぎて仲良くなりにくいんだよ。でも、君たちは違った。こうやって話してると、種族の差なんてどうでもいいな、って思う。ギャハハ!」


 「私たちはカトレアさんのこと、最初から普通に接してたよ?」リリナが不思議そうに言う。


 「だからいいんだよ。それが自然にできる人は、信頼できる」


 カトレアが微笑む。その笑顔には、真実の喜びがある。


 山道はさらに続く。木々の間から風が吹き抜ける。少し冷たい空気。山の匂いがする。土と草と、少しの湿り気。


 「ここから先は坂が急になる。気をつけて」


 カトレアが振り向いて言う。実際、道は狭くなった。岩が突き出している。地面が傾いている。


 「うわ、本当だ」リリナがバランスを崩しそうになる。


 「リリナ、手」


 セラが手を差し出す。リリナがつかむ。温かい手。三人で繋がって、急坂を登る。


 「えへへ、手つないで山登り。エルフっぽくない気がするけど」アリアが笑う。


 「安全が一番。おしゃれは後だ」


 カトレアが先を進む。小柄なのに、急坂を軽々と登る。ドワーフの体力だ。


 (この人、体力おばけだな。前世でいうと、山岳部の上級生みたいな感じだ。でも上級生より確実にキャラが濃い)


 「あ、見て! あれが洞窟の入り口だ」


 カトレアが指差す。岩山の陰に、黒い口が開いている。洞窟だ。入り口から冷気が漂ってくる。地下の深淵の匂い。古代の秘密を湛えた空気。


 「大きいね……」


 「ああ、中は広いぞ。でも暗いから気をつけて。足元も滑りやすいからな。あと、魔物がいる可能性もある。気を引き締めて」


 セラが洞窟を見上げる。岩の肌がざらついている。苔が生えている。長い時が流れた証拠だ。


 アリアが少し身構える。


 「大丈夫だよ」


 アリアの手を握ると、彼女の指先が冷たい。でも、握り返してくる。その温かさが伝わる。


 リリナもそっと服の裾を摘む。


 「準備はいい? じゃあ入るぞ」


 カトレアが足を踏み入れる。三人も続く。暗闇に包まれた。外の世界との境界を越えた瞬間、空気が変わった。


 「待って。私の暗視で十分だ。魔力は取っておこう。洞窟の奥で必要になるから」


 「え、カトレアさん、暗視できるの?」リリナが驚く。


 「ドワーフの基本スキルだよ。暗闇でも見える。地下では必須だからな」


 (便利な能力だな。種族によって適性が違う。これが多種族が共存するこの世界の面白さだ)


 「すごいね。ドワーフって地下に強いんだ」


 「ああ、山と地下が我が家だ。安心してついてきて」


## 洞窟探索


 洞窟内部は、驚くほど美しかった。


 壁面に鉱石が埋め込まれている。青、赤、緑。光を反射して輝く。闇の中で、星のように瞬く鉱石の数々。


 「わあ、綺麗……」アリアが感嘆する。


 (本当に綺麗だ。この世界には本物がある。造り物じゃない。それが一番の違いだ)


 「鉱石の名前、教えてもらえる?」アリアがカトレアに聞く。


 「ああ、これは青鉄鉱。光を吸収して放出する性質がある。あっちは赤火石——熱を持ちやすいから鍛冶に使う。こっちの緑のは緑蛍石、魔術の補助素材になる」


 カトレアが指差すたびに、洞窟が彩られていく。単なる岩の壁が、カトレアの言葉で宝の地図になる。


 「全部価値があるの?」リリナが聞く。


 「金額的にはまちまちだけど、使い道はある。ドワーフにとっては、これが本来の職場だよ」


 カトレアがしみじみと言う。


 「洞窟が、家みたいな感覚なの?」


 「そうだよ。エルフにとって森が家なように、ドワーフにとって地下が家だ。空が見えなくても、落ち着く。岩が囲んでいると、守られてる感じがする」


 「反対だな」アリアが笑う。「私は空がないと落ち着かない」


 「だから、種族が違うんだよ」カトレアが笑い返す。「でも、今日はここに来てくれてありがとう。私には特別な場所だから」


 「この鉱石、価値ありそうだね」


 「ああ、特に青いのは魔石として使える。結構な値段で売れるぞ。これが見つかれば大当たりだ。でもそれより……」


 カトレアが洞窟の奥を見つめる。


 「……ここ、懐かしい感じがする。父から聞いた話と合ってる。父は若い頃、ここに来たことがあるって言ってた」


 「へえ……」


 「採掘と鍛冶で生計を立てていた。何百年も前だけど、ドワーフたちは繁栄していた。この洞窟も、昔は賑やかだったはずだ」


 カトレアの声が静かだ。いつもの豪快な声じゃない。歴史の重みを感じる。


 「何で放棄されたの?」


 「魔物が増えたからだ。洞窟の奥に主が住み着いて、ドワーフたちを追い出した。それ以来、誰も近づかなくなった。父の時代にはもうここには住んでいなかった」


 「主って……」リリナが少し不安そうな目をする。


 「ゴーレムだ。洞窟を守る番人だよ。でも、私たちなら倒せる。ゴーレムの弱点は知っているから。父に教わった」


 カトレアの目が真剣だ。恐怖はない。むしろ、挑戦的な光がある。そして、どこか悲しい光も混じっている。父から聞いた話が、今ここで試されている。


 (カトレアの話には父親の思い出が重なっている。それは重さだ)


 「私たちも戦うよ。一緒に頑張ろう」


 「ああ、頼もしい味方だ。君たちなら、連携できるはずだ」


 「見つけた! これは鉄鉱石、これは銀鉱石……こっちは魔石だ!」


 カトレアが次々と鉱石を指す。彼女の声は弾んでいる。子供のような純粋な喜び。父から聞いた話の中の場所に、今立っている。その事実が、彼女に特別な喜びをもたらしているんだろう。


 「わあ、これ魔石? 温かい」リリナが壁の鉱石に触れる。


 「そうだ。魔力が宿っているんだ。少し持って帰ろう。魔法の練習にも使える。あと、売れば金になる。ギャハハ!」


 魔石を手に取ると、確かに温かい。掌の中で脈打っているような感覚。魔力の共鳴。心臓の鼓動のように、規則正しく脈打っている。


 「これ、私たちの魔法の練習にも使えるかも」リリナが提案する。


 「いいアイデアだね。少し持って帰ろう。でも、主の近くになるから気をつけて」


 カトレアの声が警戒に変わる。周囲を見渡す。暗闇の奥に、何かの気配を感じる。皮膚がピリピリするような感覚。何かが近づいている。


## 洞窟の主


 洞窟の奥に進むと、空気が変わった。


 重い。圧迫感がある。呼吸が少し苦しくなる。


 「ここからが主の領域だ。気をつけて」カトレアが手を止める。


 その時、地面が揺れた。ドスン、ドスン。重い足音が響く。洞窟全体が振動している。天井の雫が、ポタポタと落ちてくる。


 暗闇から巨大な影が現れる。


 「ゴーレム!」


 カトレアが叫ぶ。身長三メートルほどの石の巨人。体は岩石で構成されている。隙間なく積まれた石。古代の工芸品のような精巧さ。でも、その圧倒的な質量が脅威だ。赤い目が光っている。


 「大きい……!」アリアが驚く。


 (でかい。めちゃくちゃでかい。なんで俺はこういう状況に何度も遭遇するんだ。これが転生者の運命か。しかも今回は密閉空間だ。逃げ場がない)


 「弱点は頭のコアだ! あそこを狙え! あの赤く光っている部分!」


 カトレアはハンマーを構え、突進する。体格差が歴然だ。ゴーレムの高さがカトレアの三倍近くある。でも、彼女は怯まない。ドワーフの誇りが、彼女を支えている。


 「石砕き(ストーンブレイカー)!」


 ハンマーがゴーレムの足を砕く。岩が崩れ落ちる。ゴーレムが悲鳴を上げる。石が擦れるような、不快な音。耳障りな音が洞窟に響く。巨人がよろめく。


 「今だ! 攻撃!」


 「光よ、矢となれ——ライト・アロー!」光が暗闇を切り裂く。頭部のコアに命中。


 「水のアクアウィップ!」アリアが足元を固める。ゴーレムの重い足が、水の鞭に絡まる。動きが鈍る。


 「風よ、刃となれ——ウィンド・エッジ!」リリナが関節を狙う。石と石の継ぎ目に、風の刃が食い込む。


 四人の連携が機能する。息が合っている。それが勝利への鍵だ。


 「うおおお!」


 ゴーレムが腕を振る。巨大な石の拳が空を切る。岩の破片が飛んでくる。


 「魔力の壁!」


 透明な壁が現れ、破片を弾き返す。


 「石砕き、連撃!」


 数回の打撃でゴーレムの膝を折らせる。巨人がバランスを崩し、倒れ込む。洞窟が揺れる。地響きが体に響く。


 「頭だ! 頭のコアを!」カトレアが叫ぶ。


 「三つの光よ、交わりて結界となれ——ホーリー・トライアングル!」


 三人の魔力が合流する。光がゴーレムの頭部に直撃。コアが砕け散る。赤い光が消える。


 ゴーレムが動きを止める。石の体が崩れ落ちる。静寂が戻る。


 「やった……!」アリアが歓声を上げる。


 「カトレアさん、すごい!」リリナがカトレアに駆け寄る。


 「へへ、まあね。ゴーレムには詳しいからな。ドワーフの仕事だよ。……父の受け売りだけど」


 カトレアが照れくさそうに笑う。そして、ハンマーを見つめる。


 「これ、使えたよ。お父さん」


 誰にも聞こえない声で、そう言った気がした。


 でも、セラには聞こえた。


 「ドワーフはこういうのが得意なんだよ。岩と石、それが私の友だ。相手の構造がわかるんだ」


 「カトレア、本当にありがとう。あなたがいなかったら、勝てなかったかも」


 「いいや、君たちのおかげだ。連携が完璧だったよ。エルフの魔法、強いね」


 カトレアとセラが握手する。温かい手のひらの感触。信頼の証だ。


 (この組み合わせは正解だったな。エルフ三人の魔法力と、ドワーフの地力と知識。そして職人の仕事に、亡き父への思いが込められている)


 「カトレア。父親の話、もう少し聞かせてもらえるか」


 セラが聞く。カトレアが少し驚いたような顔をする。


 「……なんで、急に?」


 「ここに来て、父親のことを思い出しながら戦ってたのが分かった。それだけの理由があるなら、知りたい」


 カトレアが少し沈黙する。でも、顔は笑っていた。


 「父は良い鍛冶師だった。ハンマーを振るう時、いつも歌ってたよ。ドワーフの作業歌。岩に語りかける歌。魔物に集落が壊滅した夜、父は最後まで住人を守ってた。私を山の外に逃がして、自分は残った」


 淡々と話す。感情を込めずに。それが、込めすぎると溢れてしまうから押さえているように聞こえた。


 「だから、このハンマーを使うたびに、父が一緒にいる気がする。馬鹿みたいな話だけど」


 「馬鹿じゃない」アリアが静かに言う。


 「うん。全然」リリナも頷く。


 「……ありがとう」カトレアが鼻の頭を少し赤くする。「さあ、帰ろう。こういう話をすると弱くなる。帰ってから飯を食おう!」


## 帰還と友情


 洞窟を出ると、夕方の光が差していた。一日が過ぎた。


 四人は帰路につく。山道を下る。空がオレンジ色に染まる。夕日が、世界を黄金色に塗る。美しい。平和な時間だ。戦いの緊張が解け、心地よい疲れが残る。


 「鉱石、重いね」アリアが袋を揺らす。


 「大丈夫?」


 「うん。でも、これ全部持って街まで帰るの、少し大変かも」


 「分けて持つか」セラがアリアの袋を半分引き取る。


 「ありがとう。セラは優しいね、こういう時」


 「重さの問題だ」「ふふ」アリアが笑う。「それでも嬉しい」


 「私の鉱石は私が持つ! ドワーフは力仕事は任せてよ!」カトレアが全員分の袋を奪い取ろうとする。


 「カトレア、流石に全部は無理だろ」


 「いや、これくらいは大丈夫。ドワーフを侮るな!」カトレアが三人分の袋を担ぎ上げる。笑いながら。重そうだが、足取りはしっかりしている。


 (本物の力持ちだ。ドワーフの骨密度、改めてすごいな)


 「楽しかったね、今日」アリアが言う。


 「そうだね。カトレアさんのおかげで、楽しかった」


 「いやいや、君たちのおかげだ。良い冒険だった。鉱石もたくさん手に入ったし。でも、それより……」


 カトレアが少し遠くを見る。


 「父が話してた洞窟に、実際に行けたのが嬉しかった。ゴーレムを倒せたのも、嬉しかった。父が知ったら喜ぶかな」


 「……きっと喜ぶと思うよ」


 アリアが優しく言う。カトレアが照れくさそうに顔を背ける。


 「ギャハハ! なんか、しみじみしちゃったな。そういう気分じゃなかったんだけど!」


 「いいじゃない。たまには」リリナが笑う。


 「そういえば、カトレアは次はどうするつもりなの?」セラが聞く。


 「次も、あんたたちと一緒に仕事したい。良い連携だったし。それに……」カトレアが少し照れくさそうに言う。「また、こういう日が欲しい。楽しいのは良いことだ」


 「また一緒に行こう」


 「うん! いつでも呼んでね、カトレアさん!」リリナが手を振る。


 「ねえ、これからも一緒にクエストしようね」


 「もちろんだ。四人でなら、どんな敵も倒せる。金も稼げるしね」


 カトレアが金の話を忘れない。それが彼女らしい。


 「街に着いたら、祝いをしよう! 私の奢りだ!」


 「カトレアさん、良いところ!」リリナが歓声を上げる。カトレアが満足げに胸を張る。


 「当たり前でしょ? ドワーフは貸し借りをきちんとする民族なんだ。今日は君たちに助けてもらったから、私が出す。それだけだよ」


 「なんか、とても道理が通ってる」アリアが感心する。


 「そりゃそうだよ。義理と人情はドワーフの命だ。金で動いても、心は動かさない。その線引きは大事だ」


 「カトレアって、すごいな」リリナが言う。素直な言葉。


 「何が?」


 「金の話ばかりするのに、一番ちゃんとしてる」


 カトレアが一瞬、きょとんとした顔をする。それからくすっと笑う。


 「ギャハハ! それ、褒め言葉として受け取っておくよ!」


 (金に執着するけど、心は温かい。今は仲間だ。奢ってくれる人間は、仲間を大切にしている。それは間違いない)


 「明日は何をする?」アリアが聞く。


 「まずは今日の戦利品を整理して、それから次のクエストを探そう。ギルドで報告もしないと」


 「いいね。楽しみだ」


 四人の笑顔が夕日に輝く。街が見えてきた。灯りが点いている。温かい光。家に帰るような安心感。


 「さあ、行こう。美味しいものが待ってるぞ」


 カトレアが先を歩く。三人も続く。笑い声が山に響く。


 「わあ、匂いがする! 何かな?」


 「焼き肉だよ! 私の一番好きなんだ。肉と酒、それがドワーフの魂だ!」


 (魂が焼き肉と酒でできているドワーフ。この世界に来て良かったと思う瞬間がまたひとつ増えた)


 酒場へ向かう。新しい友情の夜が始まる。星空が頭上に輝く。


 酒場は賑やかだった。他の冒険者たちが飲んでいる。笑い声。グラスがぶつかる音。肉の焼ける匂い。


 「四人分、肉と酒! ……あ、エルフのみんなには酒じゃなくてジュースか? 何がいい?」


 「ジュース、お願い」「私も!」「ありがとう」


 「ドワーフの奢りにジュースをオーダーするとは、なんとも可愛いやつらだな。ギャハハ!」


 カトレアが豪快に笑いながら席を取る。肉が運ばれてくる。大きな鶏肉。香ばしい匂い。


 「いただきます!」「いただきます!」「いただきます!」「いただきます!」


 四人で食べる。美味い。戦いの後の食事は格別だ。


 今日一日を思い返す。洞窟、鉱石、ゴーレム。三人の仲間と共に経験した。


 カトレアがまた「ギャハハ!」と笑う。


 四人の笑い声が夜空に吸い込まれていく。


 四人の友情は、これからも続いていく。それは確かなことだった。


 今日の収穫。鉱石と魔石、ゴーレム討伐、そして新しい仲間との絆の深まり。密度の高い一日だった。


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