第46話 新たな仲間
# 第46話 新たな仲間
## ギルドでの出会い
転生五十七日目の朝。
冒険者ギルドのカウンターには、すでに行列ができていた。
(コンビニの月曜朝より活気がある。ここでは依頼を選ぶ——あっちは飲み物を買うだけだが、目的の方向性が正反対だ)
受付嬢のエリスが明るく声をかけてくる。金髪のポニーテールが揺れる。
「おはよう、セラ。今日も早いですね」
「おはよう。今日もよろしく」
「あ、そうです。新しいクエストが入ってきました。鉱山での魔物討伐です」
エリスが木札を一枚、カウンターに滑らせる。
鉱山。
(ドワーフ……この世界にもいるんだな。エルフ、人間、魔族に続いて、ドワーフも。慣れというのは怖い——今は「珍しい」という感覚すら薄れている)
「難易度は?」
「Fランク推奨ですが、報酬が良いんです。銀貨五枚」
銀貨五枚。ゴブリン五体の報酬が銀貨三枚だったから、かなり高い。
「受けるよ」
「ありがとうございます。お気をつけて」
木札を受け取り、アリアとリリナの待つ場所へ向かう。二人はすでにギルドの入り口付近で待っていた。
「おはよう、セラ」アリアが微笑む。金色の髪が朝の光に輝く。エルフ特有の尖った耳が微かに動く。
「おはよう。今日のクエスト、鉱山だ」
「鉱山?」リリナが目を丸くする。「新しい場所だね。楽しみ」
「報酬は銀貨五枚」
「わーい! ご馳走食べられる!」リリナが両手を上げる。
(この素直な反応、嫌いじゃない。仕事の報酬でご馳走を楽しみにする——それが正しい人間の姿だと思う)
その時だった。
「これは俺が先に見つけたんだ! 下がれ!」
「はぁ? 時間は早い者勝ちだろ!」
「金を払えば譲ってやるよ! いくらだ?」
「金で解決しろというのかよ!」
クエストボードの前で揉めている声が聞こえる。声が荒い。身長は低いが、筋肉質な体格。髪は赤茶色で、顔立ちは──女性?
「ドワーフ……?」リリナが小声で呟く。
ドワーフの女性は、争いを交わす二人の冒険者の間に割って入っていた。
「だから私は先だって言ってるんだよ! 時間は重要だ! 時間は金だ!」
「うるせえ! チビ!」
一人の冒険者がドワーフの女性を突き飛ばす。
バランスを崩した彼女が、こちらへと倒れ込んでくる。反射的に支えた。
「危ない」
「っ──あ、ありがとう」
女性が顔を上げる。丸い顔、大きな目、そして──
(落ち着け俺。エルフでも前世の良識は保つ。それが俺のポリシーだ)
「あんた、どこの馬の骨とも知らないけど、俺のクエストを横取りする気か?」
突き飛ばした冒険者がこちらに向かってくる。手が腰の剣の柄に伸びた。
(面倒だな……)
ギルド内での乱闘は罰則対象だ。受付嬢たちも困っている。でも、こういう時に口を挟んでしまうのが俺の悪い癖だ。
「横取り? 彼女は先に見つけたと言っていたはずだが」
「はぁ? あんたも何かか?」冒険者が手を腰に置く。
「そこの方、初めてですか?」
受付嬢のエリスが割って入る。タイミングが絶妙だ。本当に有能だ。
「ギルド内での喧嘩は禁止です。クエストボードのルールとして、クエストを手にした瞬間にその権利が発生します」
「俺が手に取る前に、このチビが──」
「クエストボードのルール第三条。『クエストの権利は、最初に木札を手にした者に帰属する』です」
エリスが淡々と言う。
「チッ。ついてないな」
冒険者は踵を返し、クエストボードから離れた。
「ふぅ。危ない危ない」ドワーフの女性が胸をなで下ろす。
「ありがとうね。あんた、助かったよ」
「いや。自然に動いただけだ」
「名前はカトレア。ドワーフの商人兼冒険者だ」カトレアが胸を張る。
「セラ。エルフの冒険者だ」
「アリア。セラの幼馴染です」
「リリナ! 同じくパーティー!」
「へー。エルフのパーティーだ。珍しいね」カトレアが興味深そうに三人を見る。
「で、カトレアさんは商人兼冒険者?」リリナが聞く。
「そうだよ。ドワーフは商売が好きだからね。金、銀、宝石──そういうのが肌に合うの。鍛冶もするよ。ドワーフの本業は鍛冶師だから」
カトレアがニカっと笑う。笑顔だと、威圧感が消えて親しみやすい。さっきの喧嘩中は怖かったが、笑うと全然違う。
「で、そのクエスト、何するんだっけ?」
「鉱山での魔物討伐。報酬は銀貨五枚」
「へー、同じだね。あんたたちも鉱山のクエストを受けたのか?」
「ええ。私たちも」アリアが頷く。
「そっか。じゃあ、一緒に行かない? 危険分散もできるし、情報も共有できるし。私は罠の解除も得意だし」
(初対面だし、性格もわからない。でも、ドワーフの戦闘スタイルを見るのは勉強になるかも。それに、この人の金への執着がどこから来るのか、少し気になる)
アリアは穏やかに微笑んでいる。リリナは興味深そうにカトレアを見ている。
「いいよ。一緒に行こう」
「やった! じゃあ、交渉成立!」カトレアが手を叩く。
「あ、そうだ。報酬の分配はどうする?」
「均等でいいかな」
「おっと、なかなか気がいいね。じゃあ、均等で行こう。銀貨五枚÷四人で……銀貨一枚と四分の一枚ずつ」
「四分の一枚って、切れるのか?」とリリナが真顔で聞く。
「ギャハハ! 比喩だよ! 後で換算するんだよ! 銅貨にすればちゃんど割り切れる!」
カトレアが豪快に笑う。
「じゃあ、すぐに出発しようか? 時間は金だ!」
## 合同クエスト
鉱山へ向かう道は、街道から山道へと続いていた。
「ねえカトレアさん、ドワーフってどんな特徴があるの?」リリナが興味深そうに聞く。
「ドワーフねぇ。まず、視力がいい。暗闇でも少しは見えるよ。それから、筋肉が発達してるから力仕事が得意。あと──」カトレアが誇らしげに胸を張る。
「商才がある」
「商才?」
「そう。ドワーフは昔から鍛冶や商売で生きてきたから。値切り交渉とか、相場を見極めるのも得意。ギャハハ! それと、頑固なところもある。ドワーフが一度決めたことは変わらない。良いことにも、悪いことにも言えるけどね」
「カトレアさんはどこの出身?」
「北の山脈のドワーフ集落。でもね、ちょっと事情があって今は一人で活動してるの」
事情、という言葉に、少しの影がカトレアの表情を掠める。一瞬だけ。すぐにいつもの明るさが戻る。でも、その一瞬は確かにあった。
(事情、か。追及しない方がいいかな。人には語りたくない過去がある。それを尊重するのが大人だ)
「で、カトレアさん。武器は?」
「これだよ」カトレアが袋を開け、中から巨大なハンマーを取り出す。
「うわ、でかい!」リリナが驚く。
「これが私の相棒。『石砕き(ストーンブレイカー)』。ドワーフ特製の鍛冶ハンマーだ。この子のおかげで、何百体の魔物を倒してきたことか」
カトレアがハンマーを軽々と振る。見た目以上に軽そうだ。でも、その一振りが空気を切る音が鋭い。
「魔法は使う?」
「魔法は苦手だね。ドワーフは魔力的には劣るから。でも、身体能力と武術で補ってる。それに、商売もするから戦闘は最小限にしたいしね」
「商売もする、というと?」
「鉱山で鉱石も採掘するつもりだよ。魔物を退治しながら、いい鉱石が見つかればラッキーって感じ。一石二鳥だ。商人としての本能ってやつだね」
「じゃあ、セラが前衛、私が中衛、アリアとリリナが後衛でどう?」
「いいよ。その形で行こう」
「了解。じゃあ、そろそろ鉱山が見えてくるはず」カトレアが指差す先に、巨大な岩山が見えてきた。
山道を登る途中、リリナがカトレアに近づく。
「ねえ、カトレアさん。ドワーフって背が低いけど、どうして力持ちなの?」
「骨密度だよ。ドワーフは人間の二倍以上、骨が密な。だから重いし、頑丈。岩を毎日叩いてたら、そうなる」
「それって、鍛え方で強くなれるの?」リリナが目を輝かせる。
「もちろん。でも、骨密度は種族差があるから……エルフは残念ながら向いてない。体が軽いから速さで勝負だ。その分、魔力容量は私より遥かに上だろうけどね」
「魔法でできることは私たちの方が多いってこと?」
「そうだよ。種族ごとに得意不得意がある。だから、こうやって組むのが一番強い。ドワーフとエルフは、正反対の強さを持ってる。補い合えば完璧だ」
(カトレアの言葉は、実感から来ている。一人でやってきたから、チームの価値が分かる)
「それ、良い考え方だね」アリアが言う。
「商売と同じだよ。一人でできないことを、誰かと組んでやる。それが交渉の基本だ」
「カトレアさん、哲学者みたい」リリナが言う。
「哲学者じゃなくて商人だ! ギャハハ!」
## クエスト遂行
鉱山は、荒涼とした場所だった。地面が黒く、所々に坑道の入り口が見える。鼻を衝く独特の臭い。硫黄のような、土のような、金属のような。坑道の黒い口が、岩山の斜面に点々と並んでいる。
「ここだよ。魔物はどこに?」
「坑道の中。それとも、周囲の岩陰。気をつけてね」カトレアがハンマーを構える。
鉱山の入り口へ近づくと、そこから異臭が漂ってきた。
「くっ、臭い……」リリナが鼻をつまむ。
「魔物の臭いだ。警戒して」
その時、岩陰から影が現れた。
「あそこ!」
三体の魔物が現れる。ゴブリンよりも大きく、肌が灰色。岩のような硬そうな皮膚。目が黄色く光っている。
「岩石ゴブリンだ! 硬いから注意して! 光の魔法なら少しは効く!」
「まずは止める! 光よ、矢となれ——ライト・アロー!」
光の矢が岩石ゴブリンに直撃する。だが、浅い傷しか残らない。
「硬い!」
「任せて! 石砕き(ストーンブレイカー)!」
ドゴォォォォン!
衝撃波が広がり、岩石ゴブリンが吹き飛ぶ。
「すげぇ……!」リリナが驚く。
「ドワーフの力、見せてやるよ!」カトレアが笑う。
「水の鞭!」アリアが水流を放ち、岩石ゴブリンの足を拘束する。
「ナイス!」
「風よ、刃となれ——ウィンド・エッジ!」リリナが風の刃で三体目を攻撃する。
「連携、いいね!」カトレアが叫ぶ。
(カトレアの力強さと、三人の魔法の組み合わせ。こんなにすんなりと連携が取れるとは思わなかった。カトレアの動きが読みやすいのかもしれない。正直で、単純明快な戦い方だから)
「三つの光よ、交わりて結界となれ——ホーリー・トライアングル!」
三人の魔力が共鳴し、光の三角形が現れる。
「なにそれ!?」カトレアが驚く。
ホーリー・トライアングルが岩石ゴブリンを包み込み、浄化する。三体が光の中で消えていった。
「……すごい」カトレアが目を丸くする。「何だったそれ? すごい光だよね」
「三人の合体魔法」
「合体魔法……伝説のやつ? ドワーフの間でも話題になってた。エルフの三人が伝説の魔法を使ったって。あんたたち、その三人?」
「……ええ、たぶん」アリアが少し照れくさそうに答える。
「すげぇな。これ、交渉の材料になるね。後でドワーフの集落に来たら、いい待遇を受けられるよ」
「交渉の材料?」リリナが首を傾げる。
「ギャハハ! 商人として当然の発想だろ!」
「で、これで終わり?」
「いや。まだ奥にいるはず。ボス級も」
「ボス級?」
「鉱山の守護者って呼ばれてる。巨大な岩石魔獣だよ。前に他の冒険者が挑んで、返り討ちにされたらしい。だから報酬が高いんだ」
リリナが少し不安そうな顔を見せる。
「大丈夫。私たちなら勝てる」アリアがリリナの手を握る。
「うん、そうだね。セラと一緒なら」
「じゃあ、行くよ。時間は金だ!」
坑道の中は外よりも暗く、湿気を感じた。地面が濡れている。天井から水が滴っている。足音が洞窟に響く。
「暗視魔法、必要かな?」
「私なら少しは見えるよ」カトレアが先行する。
坑道を進むと、徐々に空気が変わってきた。魔物の気配が濃くなる。目に見えないものが息をしているような、重い気配。
「来るぞ!」
カトレアが叫んだ瞬間、巨大な影が現れた。岩から成る巨大な魔獣。高さは三メートル以上。腕は太く、先端が鋭い爪。体の表面が岩そのものだ。
(でかい。本当にでかい。森の守護者の時もでかいと思ったが、密閉された坑道の中だと圧迫感が段違いだ)
「弱点は腹部の水晶! 守護者の腹部には、魔力の源となる水晶が埋まってる。そこを攻撃すれば倒せる!」
「了解! 光よ、矢となれ——ライト・アロー!」
光が守護者の胸に当たるが、岩の装甲に弾かれる。
「効かない!」
「私がやる! 石砕き(ストーンブレイカー)!」
ハンマーが守護者の腕を叩く。ダメージを与えるが、倒しきれない。
「くっ、硬い!」
守護者が反撃し、カトレアを吹き飛ばす。
「カトレア!」アリアが駆け寄る。「大丈夫?」
「へっ、痛いけど。まかせて」カトレアが立ち上がる。
(吹き飛ばされてまだ笑ってる。このドワーフ、メンタルが化け物だ。これが「頑固」ということか)
「連携だ! セラ、牽制して! アリア、拘束! リリナ、支援!」
「了解!」
光弾を連射する。アリアが水の鞭で守護者の動きを封じる。リリナが風の盾で防御。
「ナイス! 今だ!」
カトレアが守護者の腹部に近づき、ハンマーを振り上げる。
「石砕き・改!」
ハンマーが水晶を砕く。守護者が悲鳴を上げ、崩れ落ちた。轟音が坑道を揺らす。
「やった!」リリナが叫ぶ。
「……勝ったか」
「勝ったね。お疲れ」
「へへ、ありがとう。あんたたちのおかげだよ。連携、完璧だった」
「カトレアもすごかったよ。あのハンマー、威力がすごい」
「でしょ? ドワーフの鍛冶技術の結晶だよ。この子、私の父が作ったんだ。形見なの」
一瞬、カトレアの表情に影が差した。形見、という言葉の重さ。
(父が作ったハンマーを形見として持っている。集落を失った彼女が、それを使って戦っている。前世の俺には分からない重さだ)
「……大切にしてるんだね」
「ああ。だから、絶対折れさせない。頑張ってもらってるよ」
カトレアがハンマーを優しく撫でる。その仕草は、まるで生き物を撫でるようだった。
しばらく沈黙が続いた。坑道の中は静かだ。水が滴る音だけが響く。
「ギルドに報告しよう。証拠も持ち帰らないと」
「そうだね。守護者の欠片でも持って行けばいい。立派な証拠になる」
カトレアが崩れ落ちた守護者の一部を持ち上げる。重い岩だが、ドワーフの腕力なら軽そうだ。
「それにしても……いい仕事だったね。君たちと組んで、正解だった」
カトレアが振り向く。顔には、満足そうな笑みがある。さっきまでの影が消えている。
「こちらこそ。カトレアの情報がなかったら、守護者には勝てなかった」
## 報告後の会話
夜、街の酒場で四人が乾杯した。
「乾杯!」「乾杯!」
エールのジョッキをぶつけ合う。酒場の喧騒の中で、四人の声だけが近く聞こえる。
「うまい! こういうのが待ってたんだよ!」カトレアが豪快に飲む。一気に半分以上減っている。
「カトレアさん、酒強いね」リリナが自分のジョッキをそっと置く。
「ドワーフは酒に強いのよ。これくらいじゃ酔わない。ギャハハ! エルフはどう?」
「私は少し弱いかも……」アリアが苦笑する。
「じゃあ、少しずつ飲めるようになろう。酒は仲間を作るための大切な道具だからね」
「カトレアさんの強さ、今日改めてすごいと思った」リリナが言う。「あの守護者を吹き飛ばした時、本当に驚いた」
「ドワーフは打撃系が得意だからね。岩は岩で壊すんだよ。それがドワーフの鍛冶師の哲学だ。固いものをさらに固いもので砕く」
カトレアがジョッキを置く。少し真剣な顔になる。
「それに、今日は君たちの魔法も勉強になった。ホーリー・トライアングル、あれは伝説だよ。ドワーフの間でも噂になってた。まさか一緒に戦えるとは思わなかった」
「カトレアに褒められると、嬉しいね」アリアが微笑む。
「褒め言葉は貨幣と一緒。価値のある場所で渡すべきだ。今日は渡す価値があった。ギャハハ!」
「で、カトレアさん。一人で活動してるの?」アリアが聞く。
「そうだよ。ちょっと事情がね……」カトレアの表情が少し曇る。
「私の集落は、数年前に魔物の襲撃を受けたの。多くの人が亡くなって、生き残った人たちも散り散りに」
静寂が流れる。酒場の騒音が遠くなった気がした。
「私も家族を失った。両親も、弟も……。それで、一人で冒険者を始めたの。金を稼いで、いつか集落を再建したいと思って」
さっき見たハンマーの意味が、今分かった気がした。形見のハンマーを振るって、集落を再建するための金を稼いでいる。シンプルで、切ない動機だ。
「……それは、大変だったね」
「うん。でも、ね」カトレアが顔を上げる。「今日、あんたたちと組んで、思ったんだよ」
「何を?」
「一人じゃなくてもいい、って」カトレアが三人を見る。
「集落を再建するには、仲間が必要だよね。金だけじゃ、何もできない。金は手段であって、目的じゃないと、分かってたんだけどね。でも、一人でいると忘れそうになるんだ」
「カトレアさん……」リリナがカトレアの手を握る。
「あんたたち、いいチームだね。伝説の魔法も使えるし、仲も良い。もしよかったら、また一緒に仕事しない?」
「ええ、ぜひ!」アリアが即答する。
「私も! カトレアさんと一緒なら、もっと強くなれそう!」リリナも目を輝かせる。
「セラは?」
「いいよ。カトレアとの相性も良かったし」
「やった! じゃあ、これからはよろしくね!」カトレアが手を差し出す。
その手を握る。温かい手だ。ハンマーを振るってきた、強い手だ。
(カトレアの言葉の方がよっぽど重みがある。本当に一人だったから、「一人じゃなくていい」という言葉が生きている)
「こちらこそ。よろしく」
「今日、楽しかったな」カトレアが少し遠くを見る。「久しぶりに、楽しかった。一人じゃなくて、誰かとご飯を食べるのも。戦うのも」
「それは……」
「あんたたちに感謝してる。今日という日を作ってくれて」
カトレアが照れくさそうに笑う。豪快な笑いじゃない。小さな、本物の笑い。
## 協力関係
宿に戻ると、三人で話し合うことになった。
「カトレアさん、いい人だよね」リリナが言う。
「うん。商才もあるし、戦闘も強い。仲間に入れるのはありだと思う。それに、背景があるから信頼できる気がする」アリアが頷く。
「セラは?」二人がこちらを見る。
「同じく。カトレアは商才もあるし、戦士としても頼もしい。ドワーフの知識も役に立つだろう。ゴーレムに詳しいって言ってたし、鉱山の知識もある。あと、あのハンマーの扱い方は素直にすごい」
「じゃあ、仲間に入れる?」リリナが聞く。
「でも、まずは協力関係から始めよう。まだ一緒に一日しか過ごしてないし」
「そうだね。焦りは必要ない」アリアが同意する。
「じゃあ、今後もクエストで一緒に仕事をしながら、様子を見ることにしよう」
「了解!」リリナが笑う。
アリアが私の隣に座る。
「ねえ、セラ。新しい仲間が増えるのは嬉しい?」
「……まあ、悪くはないと思う。チームの戦力も上がるし」
「ふふ、素直じゃないね」アリアが微笑む。
「リリナは?」私がリリナを見る。
「え? 私は……」リリナが少し照れくさそうに顔を赤らめる。「カトレアさんはいい人だと思う。でも、少し嫉妬しちゃったかも」
「嫉妬?」
「だって、セラがカトレアさんと仲良く話してて……」リリナが俯く。
(可愛い心配をするなぁ……)
「バカだな。カトレアは戦友だ。二人とは違う」
「……本当に?」
「本当にだ。アリアとリリナは、私にとって特別だ」
私の言葉に、リリナが顔を上げる。
「……特別、ね」リリナが微笑む。「私もセラのことが、大好きだから」
「ふふ、私も」アリアも微笑む。
二人の笑顔を見て、胸が温かくなる。
しばらく、三人は黙って座っていた。外から酒場の声が聞こえてくる。カトレアが笑う声。豪快に、遠くまで響く声。
「また明日も、カトレアと一緒にクエストできるかな」リリナが窓の方を向く。
「声がまだ聞こえるね。あの人、まだ飲んでるんだ」アリアが苦笑する。
「元気があっていい」
「うん。カトレアさんって、元気を分けてもらえる感じがする」
「そうかもしれない」
(新しい仲間、か。カトレアが加われば、チームの可能性は広がる。転生五十七日目にして、まだ話は続く。いい意味で、この世界は退屈しない)
転生五十七日目は、新しい出会いと希望を持って終わった。
明日からは、四人での冒険が始まる。
時間は金だ。だが、仲間との時間は、金以上の価値がある。それはカトレアも分かっているはずだ。だから今日、彼女は笑っていた。




