第45話 昇格への道
# 第45話 昇格への道
## 日々のクエスト
転生五十日目から五十五日目。六日間が、まるで風が過ぎ去るように速かった。
毎朝、同じ時刻に目覚め、ギルドへ向かう。クエストボードから依頼をこなし、討伐、採取、探索——全てが日常のルーティンになっていた。
ギルドの受付嬢が明るく声をかけてくる。彼女の名前はエリス。金髪のポニーテールが揺れる。
「おはよう、セラ。今日も早いですね」
「おはよう。今日もよろしく」
「相変わらず早いですね。他の冒険者さんたちはまだ来てませんよ」
エリスはクエストボードの前で手を動かす。木札が一枚、カウンターに滑ってくる。
「ゴブリン討伐、オークの痕跡確認、薬草採取……今日も三つです」
「ありがとう」
木札を受け取り、アリアとリリナの待つ場所へ向かう。二人はすでにギルドの入り口付近で待っていた。
「おはよう、セラ」
アリアが微笑む。
「今日のクエスト、見た?」
リリナが聞いてくる。転生してから二ヶ月近く——この世界でも、髪の毛は伸びるらしい。リリナの髪が少し長くなっていた。
「ゴブリン討伐がメイン。あとは採取と探索」
「ふーん。ゴブリンなら慣れたもんだね」
リリナは誇らしげに胸を張る。
「最初は緊張してたけど、今はもう平気だよね」
アリアが頷く。
「セラも強くなった。私たちも強くなった」
「……まあ、なったとは思うけど」
適当に相槌を打ち、街の北門へ出る。街道を進み、狩場へ向かう。
狩場は変わらなかった。森の縁、草が生い茂る平原、遠くに見える山脈。どこを切り取ってもファンタジーの風景画のようだ。
「じゃあ、いつもの戦法で」
リリナが提案する。
「セラがライト・アロー、アリアが水で拘束、私がウィンド・エッジで仕留める。いいよね?」
「ああ。今日もその通りにいこう」
ゴブリンの群れを見つけるのは簡単だった。彼らは隠れるのが下手だ。騒がしく、臭く、そして目立つ。
五体のゴブリンが、草むらで何かを食べていた。
「準備——」
三人は同時に息を吸う。
「光よ、矢となれ。敵を射貫け——ライト・アロー!」
光の矢が先頭のゴブリンに直撃し、悲鳴を上げる。
「水の鞭!」
アリアが水流を操り、二体目のゴブリンを縛り上げる。
「風よ、刃となれ——ウィンド・エッジ!」
リリナが風の刃を放ち、拘束されたゴブリンの急所を狙う。
一撃。二撃。三撃。
五体のゴブリンが、一分とかからずに倒れた。
「……やっぱり慣れたもんだね」
リリナが剣をしまう。
「最初は怖かったけど。ゴブリンの顔を見ただけで心臓がバクバクしてた」
「私も」
アリアが頷く。
「でも今は、平気。戦えるし、勝てる」
「自信がついた、ということか」
「うん。セラと一緒なら、何でもできる気がする」
アリアの言葉に、胸の奥が温かくなる。
(二人と一緒なら、確かに何でもできる気がする。その感覚、嘘じゃない)
ギルドに戻り、報告。エリスが木札を受け取り、報酬を渡す。
「お疲れ様でした。銀貨三枚です」
「ありがとう」
日々は、ルーティンとして回っていた。
五十一日目。
「セラ、今日のクエスト終わったら、街を探索しない?」
リリナが提案する。
「まだ知らない場所があるよね。見てみたい」
「いいと思う。明日もクエストがあるけど、今日は少し早めに終わらせよう」
アリアも頷く。
探索は楽しかった。新しい路地、知らない店、変わった建物。街の広場では吟遊詩人が歌を歌い、子供たちが踊っていた。
「こういう平和な場所、守りたいよね」
アリアが囁く。
「うん。だから私たち、頑張る」
リリナが決意のように拳を握る。
五十二日目。
オークの群れと遭遇。五体。ゴブリンより大きく、力強い。
「三つの光よ、交わりて結界となれ——ホーリー・トライアングル!」
三人で魔力を共鳴させ、光の三角を展開。オークの群れを一掃する。
「……すごい」
リリナが息を呑む。
「初めて使った時とは、全然違う」
「うん。自然に発動できる。意識しなくても、三人で繋がれば、力になる」
アリアの言葉に頷く。
(確かに。最初は必死だった。今は、体が覚えている)
五十三日目。
「セラ、経験値、たまってるよね」
リリナが聞いてくる。
「え?」
「ギルドの人たちが言ってた。クエストをこなすと、経験値がたまって、強くなるって。私たち、もう十分たまってると思うな」
「昇格、近いよね?」
アリアが期待を込めた目で見てくる。
「Gランクからスタートして、一週間ちょっと。普通、昇格までもっと時間かかるらしいよ。エリスが言ってた」
「ふーん。じゃあ、私たち、早い方ってこと?」
「……多分」
五十四日目。
「今日は雨だね」
リリナが空を見上げる。雨粒がポツポツと落ちてくる。
「クエスト、どうする?」
「するよ。雨の中でも戦える」
アリアが決断する。
「私たち、雨に慣れてる。エルフの森でも、雨の日も狩りしてた」
雨の中、クエストをこなす。濡れた服、冷える体。でも、三人であれば、何でもできる。
「……冷たかったね」
ギルドに戻ると、エリスが暖かい茶を淹れてくれた。
「お疲れ様。雨の中、大変でしたね」
「ありがとう。でも、悪くなかった。雨の中の戦い、新鮮だった」
「セラ、変わってるね。雨の中で戦うの、楽しいとか」
リリナが笑う。
「……まあ、二人と一緒なら、そういうこともあるかな」
五十五日目。
「明日、昇格の話があるかもしれない」
エリスが声をかけてくる。
「ギルドマスターが、セラたちを呼んでるみたい。明日の朝、来てくださいって」
「昇格の話?」
「ええ。実績が十分だから、ってマスターが言ってた。期待していいですよ」
(……実績が十分、か。Gランクから一週間あまりで昇格とは普通じゃないらしい。まるで——誰かが用意した舞台を歩いているみたいだ。……まあ、今は考えないようにしよう)
夜、宿の部屋で、三人で顔を見合わせる。
「……明日、昇格するかも」
リリナの声が弾んでいる。
「Fランクになる。Gランクからの脱出、早いね」
「二人と一緒だから、早かったんだと思う」
アリアが微笑む。
「これからも、一緒に頑張ろう」
「うん。絶対」
ベッドに横たわり、天井を見上げる。
(昇格。Fランク。次はEランク、Dランク……と上がっていくのか。上限がない気がする)
胸の奥に、小さな期待が広がる。
目を閉じる。明日は、新しい一日になる。
## 昇格クエスト
転生五十六日目。朝。
ギルドに入ると、受付のエリスが手を振る。
「おはよう、セラ。マスターが待ってますよ。奥の部屋、どうぞ」
「ありがとう」
アリアとリリナと共に、ギルドの奥へ向かう。重厚な木の扉。ノックをすると、中から「どうぞ」という声。
扉を開ける。
部屋は広かった。壁には剣と盾が飾られ、デスクには書類が山積み。その後ろに、ギルドマスターが座っていた。
「入ったな。座れ」
マスターは顎で椅子を指す。三人で座る。
「……呼ばれたのは」
私が切り出す。
「昇格の話だ。予想通りだな?」
マスターが笑う。彼の顔には深い皺が刻まれているが、目は鋭い。
「一週間と少しで、十分な実績を積んだ。ゴブリン討伐、オーク撃破、採取、探索——全てで六十件以上。報酬もそれなりの額になったろう」
「……はい。おかげさまで」
「謙遜は不要だ。実力は実績で証明されている。だが、昇格には試験がある」
「試験?」
リリナが身を乗り出す。
「GランクからFランクへの昇格条件は、二つ。実績を積むこと——それはもうクリアしている。もう一つは——」
マスターは一度言葉を切り、部屋を見渡す。
「——ボス級モンスターの討伐だ」
「ボス級?」
アリアが不安そうに問う。
「この世界には、通常のモンスターとは違う個体が存在する。強大な力、高い知能、時には魔法を使う。それらを『ボス級』と呼ぶ。昇格試験では、そのボス級を討伐することを求められる」
「……強いの?」
「通常のモンスターの十倍以上の強さがあるだろう。油断すれば死ぬ。だが、挑戦して討伐すれば——Fランクへの道が開ける」
「……やるしかないね」
リリナが決意のように拳を握る。
「場所は?」
「森の深部。ギルドの北、約十キロ。そこに『深い森』と呼ばれる場所がある。ボス級の生息地だ。昨夜、確認したところ、一体のボス級が現れている」
「一体だけで?」
「ああ。幸いなことに、ボス級は縄張り意識が強い。一体さえ討伐すれば、試験クリアだ」
マスターはデスクから一枚の紙を取り出す。
「これがクエストの依頼書。受諾するか?」
「報酬は?」
「Fランクへの昇格、そして銀貨二十枚。ボス級の討伐は、それだけの価値がある」
「……受けるよ」
私は即答した。
「私たち、やる」「セラ?」
アリアが心配そうに見る。
「大丈夫。二人と一緒なら、ボス級でも勝てる」
「……うん。セラがそう言うなら、信じる」「私も。セラと一緒なら、どこまででも行ける」
マスターが満足そうに頷く。
「良い返事だ。では、クエスト登録完了。ボス討伐に向かってくれ。無理はするなよ。逃げるのも立派な戦術だ」
「分かりました。ありがとうございます」
三人で立ち上がる。部屋を出る前、マスターがもう一言。
「ああ、そうだ。ボス級の名前は『森の守護者』と呼ばれてる。森の深部に古くから存在する、巨大な狼型の魔獣だ。魔法は使わないが、速さと力は折り紙付き。気をつけろ」
「……狼型。了解しました」
廊下で、三人で顔を見合わせる。
「……ボス級、だね」
リリナが呟く。
「強いと思う。でも、勝てる」「うん。ホーリー・トライアングルがあるから」
アリアが自信を持って語る。
「……ああ。頼むよ、二人」
私は二人の手を握る。温かい。力が湧いてくる。
「準備はいい?」「いつでもOK」「私も。セラと一緒なら、どこへでも行ける」
「よし。じゃあ、行こう。深い森へ」
## ボスの討伐
街道を進み、森へ入る。
「深い森」への道は、荒れていた。草が生い茂り、木の根が地表を覆い、歩きにくい。
「……ここからが深い森の入り口、だよね」
リリナが地面を見下ろす。
「足元、気をつけて。転びそう」「大丈夫。慎重に行こう」
先頭に立つ。アリアとリリナが後ろに続く。
森の中は、静かだった。鳥の声も、虫の音も聞こえない。ただ、風が葉を揺らす音だけ。
「……なんか、空気が重いね」
リリナが囁く。
「ボスの存在、感じるかな」
「多分。魔獣の気配、圧力、みたいなの」
アリアが敏感に周囲を見回す。
「セラ、魔力、出したほうがいいかも。いつでも攻撃できるように」
「ああ。分かった」
掌に光を集める。微かな光の粒が、手の中で踊る。
進むにつれて、森は深くなっていく。木々が高くなり、葉が茂り、空が見えなくなる。
「……来ると思う」
アリアが警告する。
「気配、強くなってる。近い」
「準備して」
三人で間隔を取る。三角形の陣形。
その時——。
「ガルルルルルルッ!!」
唸り声が響いた。
森の奥、闇の中から、巨大な影が現れた。
「でかい……!」
リリナが息を呑む。
巨大な狼。体長は五メートル以上。毛皮は黒く、目は赤く光っている。牙は剣のように鋭く、爪は鉤のように曲がっている。
『森の守護者』。ボス級モンスター。
(でかい。マジでかい。これは……前世で見た動物が全部おもちゃに見える。何倍だ)
「……強そう、だね」
私は剣を抜く。光の魔法を纏わせる。
「でも、勝てる。二人と一緒なら」「うん。行こう、セラ」
アリアが杖を構える。水の魔力が集まる。
「私も。絶対、倒す」
リリナが風刃を展開する。
「行くぞ!」
私は先陣を切る。光弾を連射する。
「光よ、矢となれ。敵を射貫け——ライト・アロー!」
光の矢がボスの胸に直撃する。しかし、ボスは微動だにしない。
「硬い……!」
「水の鞭!」
アリアが水流を操り、ボスの足を拘束しようとする。だが、ボスは力強く振り払い、水を弾き飛ばす。
「効かない……!」
「風よ、刃となれ——ウィンド・エッジ!」
リリナが風の刃を放つ。ボスの横腹に命中するが、傷は浅い。
「くそっ、硬い!」
ボスが吼える。赤い目が三者を捕らえる。
次の瞬間、ボスが動いた。
速い。巨大な体には見合わない速度。
「避けてッ!」
私が叫ぶ。間に合わない。
「ギャアアアッ!」
リリナが吹き飛ぶ。ボスの爪が、彼女の肩を掠めた。
「リリナッ!」
アリアが駆け寄る。
「大丈夫?」
「……痛いけど、致命傷じゃない。戦える」
リリナが立ち上がる。血が肩を染めている。
「まずい。このままじゃ」
ボスが次の標的を探す——その動作の切れ味に、底冷えするものを感じた。通常攻撃では傷一つつかない。別の手が要る。
「——ホーリー・トライアングルしかない」
私の言葉に、二人が頷く。
「うん。準備して」
アリアが手を差し出す。
「私、魔力、出す」「私も。風、集める」
リリナが風を纏う。
私は二人の手を握る。三人の魔力が共鳴し、光の三角が展開する。
「三つの光よ、交わりて結界となれ——ホーリー・トライアングル!」
三角形の光が、ボスに向けて放たれる。
直撃。
「ガアアアアアッ!」
ボスが悲鳴を上げる。皮膚が焼かれ、肉が削げる。傷口から血が噴き出す。
「効いた……!」
「もう一度!」
三人で再び魔力を集める。
だが、ボスは逃げなかった。怒りに震えながら、突進してくる。
「くそっ、避けてッ!」
散開しようとするが、間に合わない。ボスが私に向かってくる。
「セラッ!」
アリアが私の前に立つ。
「氷よ、我を守れ——アイス・シールド!」
アリアが叫んだ瞬間——彼女の足元から青白い光が噴き出した。氷の壁が現れる。厚く、滑らかで、まるで翡翠を削り出したような板だ。
アリアが一歩も後退しない。氷の壁を両手で支えるように前に突き出している。
「!?」
ボスが壁に激突する。衝撃が洞窟を走る——いや、森を走る。
壁にヒビが入る。亀裂が広がっていく。でも、砕けない。
「くっ——!」
アリアが歯を食いしばる。膝が僅かに揺れる。それでも、押し返す。
「あぁッ!」
限界に達した壁が砕け散り、アリアが吹き飛ぶ。
「アリアッ!」
私が叫ぶ。
(アイス・シールド……あいつ、いつ習得したんだ。でも今はそれより——)
「やる……こと……!」
リリナが割って入る。牙がリリナの腕に食い込む。
「うぐっ……!」
「リリナッ!」
「風よ、刃となれ——ウィンド・エッジ!」
リリナが片手で放つ。ボスの目に直撃。ボスが後退する。
「リリナ、怪我、大丈夫?」
「……血、すごい。でも、戦える」
リリナが強がって笑う。腕の傷口から血が滴っている。
(ダメだ。これ以上やられたら、死ぬ。全力を出すしかない。ホーリー・トライアングル、最大出力)
「二人、手をつないで! 最大出力の魔法、やる!」
「うん、分かった!」
アリアが私の手を握る。
「私も。全力、行く!」
リリナがもう片方の手を握る。
三人の魔力が共鳴する。強く、熱く、そして輝く。
「三つの光よ、交わりて結界となれ。邪悪を封じ、清浄を守れ————ホーリー・トライアングル!!!」
光が溢れ出す。三角形が巨大化し、ボスを包み込む。
「ガアアアアアアアッッ!!!」
ボスが絶叫する。光が侵食し、肉体を焼き尽くしていく。
最後に——。
爆音と共に、光が弾ける。
ボスは消えた。残ったのは、灰だけ。
静寂が戻る。
三人は、地面にへたり込んだ。
「……勝った、ね」
リリナが息を切らして言う。
「うん。勝った」
アリアが頷く。
「強かった……でも、勝てた」
私は二人の手を見る。手のひらが熱を持っている。
「……二人、怪我、大丈夫?」
「私の肩、すごい痛いけど、治療魔法でなんとか」
アリアが肩をさする。
「私の腕も。治療魔法、お願い」
リリナが腕を見せる。
「分かった。治癒魔法」
私が手をかざす。緑色の光が傷口を包み、肉を再生させていく。
「……痛み、引いていく」「うん。ありがとう、セラ」
リリナが微笑む。
「二人とも、無事で良かった」
「セラも、無事だよね?」「ああ。ボスの攻撃、直撃は受けてない」
私は立ち上がる。足が少し震えている。
「……アリア、さっきの氷の壁、何だった?」
「アイス・シールド。昨日、勉強してた。使えるかどうか分からなかったけど……咄嗟に出てきた」
アリアが照れくさそうに言う。
「役に立てた?」
「役に立てた、どころか——」
その言葉の続きが出てこなかった。あの瞬間、ボスの牙から俺を守るために前に出た彼女の背中。その背中のことは、たぶんずっと忘れない。
「よし。証拠、持って帰ろう。ボスの一部、取る?」
「灰しか残ってないけど……」
アリアが地面を見る。
「……あ、牙が一本、残ってる」
リリナが指さす。灰の中に、一本の黒い牙が転がっている。
「これ、証拠になるかな」「拾うよ。報告に必要だし」
牙を拾い上げる。重い。ボス級の力が凝縮されているようだ。
「帰ろう。ギルドへ」
三人は森を出て、街道へ戻る。
傷は癒えたが、体力は消耗している。魔法の使いすぎで、魔力も枯渇気味だ。
「……帰ったら、褒められるよね」
リリナが笑う。
「Fランクに昇格。一番早い昇格、かも」
「まあ、悪くない一日だったと言えるか」
(悪くない、じゃなくて普通に死にそうだったが。まあ勝ったから良しとしよう)
## 昇格の報告
ギルドに到着したのは、夜になってからだった。
受付のエリスが驚いた顔で私たちを見る。
「お帰りなさい。疲れた顔して……ボス、討伐できたの?」
「ああ。これが証拠だ」
私は黒い牙をカウンターに置く。
「これは……!」
エリスが息を呑む。
「森の守護者の牙……!本当に倒したの!?」
「三人で力を合わせて、倒した」
リリナが胸を張る。
「すごい……!マスターに報告するね!」
エリスが奥へ走る。
数分後、ギルドマスターが出てくる。
「……本当になったな。ボス級を、短期間で倒すとは」
「三人体制で、魔法を共鳴させて倒しました。ホーリー・トライアングルという合体魔法を使って」
「ホーリー・トライアングル……聞いたことはある。伝説の魔法だ。それを使えるとは、君たちはただ者ではないな」
マスターは牙を手に取り、吟味する。
「確かに本物。昇格試験、合格だ」
「ありがとうございます」
「では、昇格の手続きを行う。GランクからFランクへ」
マスターはデスクから新しいカードを取り出す。
「これが新しいランクカード。銀色の枠がFランクの証だ」
カードを受け取る。銀色の枠。Gランクの茶色の枠とは違う。
「これで、Fランクになりました」
「おめでとう。Fランクになると、受けられるクエストの幅が広がる。報酬も上がる」
「ありがとうございます。頑張ります」
「頼んだぞ。期待している」
マスターは笑う。
「エリス、報酬を渡せ」
「はい」
エリスが銀貨二十枚を数える。
「銀貨二十枚です。お疲れ様でした」
「ありがとう」
銀貨を受け取り、ギルドを出る。
「……Fランク、だね」
リリナがカードを眺める。
「銀色、綺麗」「うん。これからも、頑張ろう」
アリアが微笑む。
## 祝いの夜
「セラ、二人、お祝いしない? 酒場で、乾杯しない?」
「いいね!」
リリナが目を輝かせる。
「私も。セラと一緒なら、どこでもいい」
アリアも頷く。
「よし。じゃあ、酒場へ」
街の中心にある酒場「冒険者の杯」に入る。
店内は賑わっていた。冒険者たちが酒を飲み、話をしている。
テーブルを確保し、注文。
「エールを三つ。あと、料理も何か」
ウェイターが注文を聞き、去っていく。
「……にぎやかだね」
リリナが店内を見回す。
「冒険者たち、皆楽しそう」「うん。私たちも、仲間入りだね」
アリアが微笑む。
「エールが来たよ」
ウェイターがジョッキを三つ置く。泡立ったエール。
「乾杯」
三つのジョッキが触れ合う。
「Fランク昇格、おめでとう!」「おめでとう!」「おめでとう、セラ、アリア、リリナ」
エールを飲む。冷たく、苦く、そして美味い。
「……はぁ。生き返る」
リリナが息を吐く。
「今日のボス戦、ハラハラした」「私も。セラが危ない時、心臓止まるかと思った」
アリアが私を見る。
「大丈夫だったよ。二人が助けてくれたから」
「……うん。これからも、助け合おう」
リリナが頷く。
「アリア、アイス・シールドは?」
「びっくりした。自分でも、咄嗟に出て来るとは思わなかった」
「強い防御魔法だった。ありがとう」
アリアが少し頬を染める。
「三名は、すごいなぁ」
隣のテーブルの冒険者が話しかけてくる。
「Gランクスタートで、一週間強でFランク昇格。聞いたことないよ」
「……ありがとうございます」
「ボス級討伐だって?すごいな。私たち、Fランクで半年かかったのに」
「三人が特別、なのかな」
アリアが答える。
「まあ、そうかもね。でも、二人がいなかったら、絶対無理だったよ」
「チームワーク、大事だね」
冒険者はジョッキを掲げる。
「乾杯」
「乾杯」
ジョッキが触れ合う。
料理が運ばれてくる。肉、パン、野菜のスープ。
「いただきます」
三人で食事を楽しむ。
「……セラ、またクエストしようね」
リリナが肉を齧りながら言う。
「Fランクになったら、もっと難しいクエストも受けられるよね」
「うん。でも、無理はしない。二人の安全を第一に考える」
「セラ、過保護だね」
アリアが笑う。
「……まあ、二人には大事にされたいし」
「同感。セラの過保護、好きだよ」
リリナが微笑む。
「二人が、そう言うなら」
私は肩をすくめる。
食事を終え、酒を飲み干す。
「……帰ろう。宿でゆっくり休もう」「うん。明日もクエストあるし」
アリアが立ち上がる。
三人で店を出る。夜風が涼しい。
「……楽しかったね」
リリナが手を繋ぐ。
「うん。昇格のお祝い、最高だった」「二人と一緒なら、何でも楽しい」
アリアも私の手を繋ぐ。
「これからも、ずっと一緒だよ」「……ああ。約束する」
三人は並んで歩いた。宿への道が、近くに感じられた。
部屋に入り、ベッドに横たわる。
「……おやすみ、セラ」
アリアが囁く。
「おやすみ、セラ」
リリナも続く。
「おやすみ、二人。いい夢を」
目を閉じる。
今日は、大きな一歩だった。
Fランク。次はEランク。その次はDランク。Cランク、Bランク、Aランク、Sランク——。
(二人と一緒なら、どこまででも行ける気がする)
そう思いながら、眠りに落ちた。
明日は、新しい一日になる。




