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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第40話 旅立ちの予感

# 第40話 旅立ちの予感


## 予感の朝


 転生四十五日目。朝だ。


 セラは目を開ける。いつもの天井、いつもの光、いつもの静寂。でも何かが違う。胸の奥で何かが鳴っているような、遠くで鐘が鳴り響いたような——そんな予感が、静かに、しかし確かにそこにあった。


「……変だな」


 ベッドから起き上がり、窓を開ける。朝の光が部屋に差し込む。エルフの森シルヴァニア。木々たちが、今日は特別な日を迎えるかのように揺れている。風が運んでくる空気も、どこか違う。昨日までは平和だった森の香りが、今日は何かを告げている。


 (エルフに転生してから、魔力センサーのようなものが体に宿っている。今日はその感覚が、いつもより鋭く反応している。何かが来る)


 セラは窓枠に手をかけ、深呼吸する。冷たい朝の空気が肺を満たす。耳に風が触れる。エルフの耳の感覚は相変わらず鋭い。葉ずれの音、遠くの鳥の声、森の呼吸。すべてが、はっきりと聞こえる。


 予感はだんだんはっきりしてくる。今日か、明日か、近日中に。何かが始まる。旅立ちか、冒険か、試練か。名前はまだ分からないけど、確かに来る。


「備えなきゃ」


 セラは自分に言い聞かせる。心の準備。気持ちの整理。何があっても、二人と一緒なら——。


 セラは着替えを始める。いつもの服、いつもの帯。でも今日は、何か特別な気分。


 (変わるんだろうな)


 エルフの森。ここが全部だと思っていた。ここで一生を過ごすと思っていた。アリアとの思い出が詰まった場所。リリナとの絆が深まった場所。平和な日々が、そろそろ終わるのか。


 セラは鏡の前に立つ。金髪のエルフ。美形の自分。


 (……イケメンすぎないか、俺。鏡を見るたびに思う。これ誰よって。前世の佐藤カズヤ二十九歳が、この顔をしてたことに、四十五日経ってもまだ慣れない)


 転生してからの日々が走馬灯のように浮かぶ。初めて目覚めた時の混乱。アリアとの再会。魔力の修行。共鳴魔法。聖三角。黒い影との戦い。平和な日々。昨日の愛の告白。


 すべてが、ここでの思い出。


「でも、外にも世界があるんだ」


 鏡の中の自分が、静かに頷く。予感は告げている。旅立ちが近い。


 (見てみたい。外の世界。ここだけの往復では、何かが足りない気がする)


 窓から見える朝の森は、いつもと変わらない。木々が揺れて、光が葉の間からこぼれて、遠くで鳥が鳴いている。


 なのに、何かが違う。


 セラは窓に映る自分の顔を見た。銀の前髪がかかっている。目の色は深い緑。エルフ特有の長い耳。


 セラは部屋を出る。朝の静けさが、予感の重さを際立たせる。今日は、何かが起こる日になる。


## 長老の呼び出し


 昼、長老の家を訪れる。


「セラか。入ってくれ」


 長老は真剣な表情だった。いつもの穏やかな笑顔はない。部屋の中央には、見たことのない地図が広げられている。エルフの森だけじゃなく、外の世界も描かれている。


「アリアとリリナも?」


 二人も呼ばれていた。三人で部屋に入る。長老は地図を指差す。


「座りたまえ」


 セラたちは言われて座る。長老の向かいに、三人が並ぶ。アリアは不安そうに、リリナは緊張した面持ちで。


「呼び出して悪かったのう。だが、重要な話がある」


 長老は深呼吸する。その一動作だけで、話の重要さが伝わってくる。部屋の空気が重い。


「森に異変が起きている」


 長老の言葉が、部屋の空気を凍らせる。


「異変……ですか?」


「ああ。先日セラたちが森の深部で退治した黒い影——あれは、外の世界で起きている何かの前兆だ。闇の魔力が凝縮された存在があのような形で森に出没するとは、ただ事ではない」


 (予感が当たった。しかし当たって嬉しくない予感というのもあるんだな、と今日初めて知った)


「外の世界へ行く必要がある」


 その言葉が、部屋の空気を完全に凍らせる。


「外……へ?」


 アリアが小さく呟く。リリナも目を丸くしている。セラ自身も、心臓が早鐘を打っている。


「ああ。異変の源を探る旅に、お前たちを行かせたい」


 長老の目は真剣そのもの。冗談じゃない。本気だ。


 (旅立ち。予感は当たった。スケールが想像以上だ)


 セラは深呼吸する。外の世界。未知の場所。未知の敵。でも、やるしかない。


「……選ばれたのは、我々三人で?」


「ああ。お前たちなら、聖三角を使える。初日の修行で成功させた史上初のチーム。守護指輪を受けた絆の深い三人。これ以上の適任者はおらん」


 長老の言葉に、セラは胸を張る。認められた。実戦で証明した。


「分かりました。僕たちが行きます」


「セラ……」


 アリアが心配そうに見る。リリナも不安そう。でも、セラは頷く。大丈夫、二人と一緒なら。


「準備する時間をくれますか?」


「ああ。三日の猶予を与えよう。武器、防具、補給品。心の準備も含めて、すべてを整えよ」


 三日。旅立ちまで三日。短いようで長い。


「よろしくお願いします」


 セラは深く頭を下げる。外の世界へ。新しい冒険へ。予感は確信に変わる。


 アリアとリリナも、二人で頭を下げる。三人の旅立ち。それは、エルフの森の運命も左右することになる。


「頼んだぞ。森の未来が、かかっておる」


 長老の言葉に、セラは改めて重さを感じる。ただの旅じゃない。使命だ。


「信頼してくれて、ありがとうございます」


「お前たちを信じておるのだ。だからこそ、この任務を頼める」


「絶対、期待に応えます」


 セラは強く言う。アリアとリリナも、二人で頷く。三人の決意が、部屋に満ちる。


## 二人との相談


 午後、森の散策道で二人と話す。


 木々が風に揺れる。鳥たちが囀る。平和な光景。でも、三人の心は重い。


「旅立ち……だね」


 アリアが呟く。リリナも黙り込んでいる。二人にとって、森は世界のすべて。外の世界は、名前だけ聞いた物語の場所。


「不安?」


 セラが問うと、二人は顔を上げる。


「うん……でも、セラと一緒なら」


 アリアが弱々しく微笑む。その笑顔に、セラの胸が温まる。


「私も! セラたちと一緒なら、どこへだって行く!」


 リリナが拳を握る。その強さに、セラは少し驚く。リリナも変わった。転生四十五日。孤独だった少女が、二人と絆を深め、強くなった。


「二人が行ってくれるなら、僕も頑張れる」


 セラは正直に言う。一人じゃない。三人で。その絆が、何よりの力。


「絶対、一緒だよ」


 アリアがセラの手を握る。リリナももう片方の手を握る。三つの手が重なる。温かい。安心する。


「旅立ちだね。新しい世界へ」


 セラが言うと、二人は頷く。不安はまだあるけど、希望が大きい。三人でなら、何だってできる。


「楽しみだね、二人と」


「うん!」


「ええっ!」


 二人の笑顔。セラも自然と笑みがこぼれる。旅立ちの予感は、希望の予感へ。


 (二人がいると、「行くのか、めんどくさい」じゃなくて「楽しみだ」になる。人って、一緒にいる人で、こんなに変わるんだな)


 三人は散策を続ける。木々の匂い、風の音、鳥の声。すべてが、今のうちに味わっておきたい「ここ」の匂い。明日からは、外の世界の匂いになるだろう。


「たくさん思い出作ったね」


 アリアが言う。その言葉に、セラも頷く。


「これからも、もっと作ろう」


「ええっ!」


 リリナの元気な声が、森に響く。三人の笑顔が、揃って輝く。


 セラは二人の手を見る。三つの手が、まだ繋がっている。この絆が、何よりの力。聖三角も、この絆があるからこそ成功した。


「三人で、いられるね」


「うん、絶対」


「ええっ!」


 三人の声が、森に響く。平和な光景。でも、三人の心は、もう外の世界へ向いている。


「ねえ、外の世界って、どんなところかな」


 アリアが、少し遠くを見ながら言った。木々の向こうにある、見えない世界を想像しているような目。


「人間の王国があって、竜の谷があって、魔族の領域がある——って、長老の話に出てきたやつ、だよな」


「えっ、魔族?」 アリアが目を丸くする。「それって、危ないんじゃ」


「危ない。絶対に危ない」


 (魔族の領域。ファンタジーすぎる。でも俺はファンタジーの住人なんだよな、今)


「でも、危ないなら三人で乗り越えるんでしょ?」 リリナが言った。「聖三角だって、あるんだし」


「そうだよ、リリナの言う通り」


「セラが前に出て、私たちが支援する。そういう陣形、得意でしょ」


「……アリア、それ修行の話でしょ。実戦ではもっと複雑になるんだけど」


「でも、基本は一緒でしょ? 当たり前じゃない」


「当たり前って言うな」


 (まったく、この子の根拠のない自信はどこから来るんだ。まあ、その自信が俺には頼もしいんだけど)


「三人で行って、三人で帰ってくる。それだけよ」


 アリアの言葉は、短くて、シンプルで、そして確信に満ちていた。


「……そうだな」


 セラは、思わず頷いた。細かいことを考えすぎていた。外の世界が危険かどうか、魔族が何者か、何が待ち受けているか——全部あとで考えればいい。今は、三人で行くと決まった。それだけで、充分だ。


「帰ってきたら、お祝いしようね」 リリナが言った。「もっとすごいピクニック!」


「ピクニックがゴールなのか……」 セラが呆れる。


「何がいけないの? 美味しいご飯を食べながら、みんなで笑う。最高でしょ」


「……確かに」


「でしょ! えへへ」


 アリアが嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、セラはまた思った——この笑顔を守るために旅立つ、それで充分だ、と。


## 準備の開始


 夕方、守護隊本部で隊長に報告。


「旅立ち、ですか」


 隊長は少し寂しそうな表情。でも、すぐに真剣な顔に戻る。守護隊長としての責務。


「長老の命令なら、仕方ないな。お前たちなら、大丈夫だ」


 隊長は承認印を押す。旅立ちの許可が下りた。


「準備は進めます。武器、防具、補給品。三日以内に全部揃える」


「頼んだぞ。森の名誉を背負っているんだ」


「はいっ!」


 三人で揃って返事する。隊長は少し笑って、頷く。


「気をつけてな。そして、無理するな。命が一番大事だ」


 隊長の言葉が、心に残る。「命が一番大事だ」。旅立ちは、冒険もある。危険もある。でも、三人と一緒なら。


「隊長も、お体を」


 セラが言うと、隊長はまた笑った。


「出発の日、送ってもらえますか?」


「当たり前だ。全隊員で送るぞ」


 隊長の言葉に、三人は微笑む。


「一人一人、リストを作ろう」


 セラの提案に、二人は頷く。紙とペンを用意し、三人で話し合う。


「私は杖。もう慣れてるし」


「私は短剣。近距離戦闘用」


「セラは?」


「俺は魔法支援メインで、詠唱と魔力供給。あと全体的な指揮」


「じゃあ補給品は?」


「食料、水、テント、薬……」


「テントはどういうやつを持ってく?」


「アリアちゃん、ちゃんと知ってるんだね」


「当たり前でしょ? 旅の準備くらい」


 アリアが補足して、リストに書き込む。リリナも真剣な表情で、必要なものを思い出していく。


「三日間で全部揃えられるかな?」


「大丈夫。市場で買えるものは買うし、守護隊の備品も使えるし」


「守護隊としての装備も、貸してやる」


 隊長が言った。


「ありがとうございます!」


 三人で深く頭を下げる。隊長は少し照れくさそうに笑った。


「大人げないな。お前たちだって、守護隊の一員じゃ」


 (カッコよく決めたつもりだったが、よく考えたら俺たちは三人で旅立つって言いながら、まだ補給品のリストすら完成してない。台無しだ。でも、こういうところが俺たちらしい気もする)


「帰ってくるまで、守護隊を任せる」


 セラが言うと、隊長は大きく頷く。


「ああ。期待してるぞ」


 三人は隊長室を出る。廊下を歩きながら、互いに顔を見合わせる。笑みがこぼれる。


「いけるよね?」


「うん!」


「ああ、行ける」


 三人の声が、廊下に響く。旅立ちへの期待。少しの不安。でも、三人と一緒なら。


 守護隊本部を出ると、夕日が西に沈んでいる。赤い空。美しい空。


「綺麗ね」


 アリアが呟く。その声に、少し寂しさが混じっている。


「また見れるよ。旅先でも、こんな空が見えるはずだ」


「見えるといいな」


「見えるよ。空は、どこでも同じだから」


 (旅行に行った時は確かに空はどこでも同じだった。異世界でもそうだと断言しよう。二人と一緒に見ればどんな空でも綺麗だ)


 夕日は、さらに西へ沈んでいく。三人は夕日を背に、歩き出す。家へ。準備へ。そして、旅立ちへ。


## 夜の決意


 夜、セラの家で今日を振り返る。


 ベッドに横たわり、天井を見上げる。今日一日で、たくさんのことがあった。朝の予感。昼の長老の呼び出し。午後の二人との話。夕方の隊長との報告。


 すべてが、旅立ちへと繋がっている。


「外の世界へ……」


 セラは呟く。人間の王国。魔族の領域。竜の谷。全部、物語でしか聞いたことのない場所。でも、もうすぐそこに行く。


「アリアとリリナと一緒なら」


 不安はある。未知の敵。未知の危険。でも、二人と一緒なら。三人の絆が、何よりの力。聖三角もある。守護指輪もある。


「頑張ろう、セラ」


 自分に言い聞かせる。転生して四十五日。


 (今は楽しみだ)


 外の世界。新しい出会い。新しい冒険。そして、二人との絆がさらに深まるだろう。


 セラは起き上がり、窓を開ける。夜の森が、静かに広がっている。月の光が、木々を照らしている。平和な光景。


「眠ろう。明日も準備がある」


 セラは窓を閉める。ベッドに戻り、布団を被る。


「おやすみ、アリア。おやすみ、リリナ」


 二人には聞こえない。でも、言わずにいられなかった。


「おやすみ、新しい世界」


 呟いて、セラは目を閉じる。予感の朝は、決意の夜へ。旅立ちへの第一歩は、もう始まっている。


 明日は出発だ。荷物の最終確認を済ませた。もう、準備は整っている。


 (旅立ちの前夜。胸が熱い。この感覚が、生きてるってことなんだろうな)


「楽しみだな」


 セラは呟いて、眠りにつく。平和な森の夜。明日からは、旅立ちのカレンダーが始まる。


 夢の中で、セラは新しい世界を見た。広い野原。高い塔。たくさんの人たち。未知の場所。未知の冒険。


 でも夢の中でも、セラの両手には、アリアとリリナの手があった。温かい手。安心する手。その手が、夢の中で繋がっている。


「行こう」


 夢の中で、セラは言う。二人は笑顔で頷く。三人の夢。新しい世界の夢。


 アリアが「当たり前でしょ、行くに決まってるじゃない」と言って、リリナが「ええっ! 行く行く!」と飛び跳ねる。そんな夢だった。


 (なんでリリナは夢の中でも元気なんだ。いいけど)


 夜は更けていく。平和な森。平和な夜。でも、明日からは、旅立ちの準備が始まる。予感は確信に変わった。旅立ちの予感は、旅立ちの決意へ。そして、決意は行動へ。


 エルフの森が、静かに夜を守っている。フクロウが鳴く。小川が流れる。風が木々を撫でる。すべてが平和で、だからこそ、この平和を守るための旅が必要だと、セラは深い眠りの中で知っていた。


 旅立ちの朝まで、あと一日。


 三日後、セラは、アリアとリリナと共に、エルフの森の外へ踏み出す。どんな危険が待ち受けているか、今夜の時点では分からない。


 でも、一つだけ確かなことがある。


 三人なら、どこへでも行ける。


 おやすみ、エルフの森。行ってきます、新しい世界。


 セラは目を閉じ、深く息を吸った。森の匂いが、まだそこにある。木の香り。土の湿気。風のひんやりとした感触。


 これが「ここ」の匂いだ。三日後には、違う匂いに変わる。


 でも、どこにいっても三人でいる。それだけが変わらない。それだけで、充分すぎる。


 セラは再び目を閉じた。今度は、眠れた。


 旅立ちの前夜は、こうして静かに終わっていった。


 明日、市場へ行く。補給品のリストをもう一度確認しなければいけない。アリアは食料担当、リリナは装備補助、セラは全体管理と魔力消耗品の調達。役割分担は決まっている。


 (組織的だな、俺たち。こういう三人の連携が、外の世界でも力になる)


 今は、三人でこれから旅に出る。それが全部だ。


「楽しみだな、やっぱり」


 誰もいない部屋で、セラはもう一度言った。


 返事はなかったけど、なんとなく、アリアとリリナが頷いてくれている気がした。三人の心が、聖三角の共鳴で繋がっているように。


 旅立ちの予感は、旅立ちの確信へ。確信は、決意へ。決意は、明日への一歩へ。


 あと一日。


 エルフの森の夜が、静かに三人を包んでいた。


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