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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第27話 アリアへの告白

# 第27話 アリアへの告白


## 翌朝の混乱


 転生三十二日目の朝。


 窓から差し込む光が、セラのまぶたを刺した。


 体が、動かない。


(リリナの「好きです」が、頭の中でずっと回ってる)


 ベッドの上で天井を見つめたまま、セラは手をそっと額の上に置いた。夜中に何度も寝返りを打ったせいで、シーツが絡みついている。


(あれは夢じゃない。本当にあった)


 夜の広場。古いベンチ。震える声。指先が白くなるほど膝の上で握りしめた手。月明かりの下でキラリと光った一筋の涙。あの決意の重さは、絶対に夢じゃない。


 問題は、アリアだ。


 昨夜、家に帰るとリビングは静まり返っていた。アリアはもう就寝したのだろう、部屋の扉が閉まっていた。「伝えるのは明日」と決意したのに、実際に朝が来たら余計に怖い。


(正直に言わなきゃいけない。でも——どう切り出すんだ)


 セラは起き上がって、窓の外を見た。朝の光が村の石畳を照らしている。鳥の声が聞こえる。いつも通りの朝だ。でも昨日と全然違う。


(リリナのことを好きかどうか、と聞かれたら——好きだと思う。でもアリアへの気持ちとは別物だ。どちらかを消せない。でも、どちらも「本物」なら、何をどう整理すればいい)


 答えは出なかった。でも、ぐるぐると考えていても仕方がない。


「……起きなきゃ」


 独り言をつぶやいてから、セラはようやく身を起こした。


---


 リビングに出ると、温かいスープの香りがした。


 テーブルの前でアリアが振り返った。金髪が朝の光を反射してきらきら輝いている。いつも通りの笑顔。でもセラには、その笑顔が今朝は少し眩しすぎた。


「おはよう、シルヴャン。顔色が悪いよ?」


「おはよう。昨夜、あまり眠れなくて」


「風邪じゃないといいけど。スープあるよ、座って」


 アリアがスープを椀に注いでくれる。セラはその手元を見つめながら、深く息を吸い込んだ。


(今だ。言わないと、ずっと言えない。アリアが先で、リリナの話はその次だ)


「アリア、話がある」


「うん?」


「座ってくれるか。ちゃんと伝えたいことがあって」


 アリアが手を止めた。セラの顔を一度見て、椅子を引いて腰を下ろす。その表情は穏やかだけど、目が少し鋭くなった。


(アリアはもうわかってる。何かあるって、気づいてる。だから余計に言わなきゃいけない)


「……俺は、アリアのことが好きだ」


 部屋の空気が、一瞬静止した気がした。


「幼馴染だから、じゃない。そういう意味じゃなくて」


 セラはスープの表面を見つめながら、続けた。


「アリアのそばにいると魔力が安定するのは、体の問題だと思ってた。でも違った。アリアがいないと不安で、アリアの顔を見るとほっとして、アリアの声を聞くと——それだけで、なんか大丈夫な気がする。昨夜一人で部屋にいながら、ずっとそのことを考えてた。それが好きってことじゃないかって、やっとちゃんとわかった」


 アリアは黙っていた。


 セラはそこで顔を上げた。アリアの目が、微かに揺れている。


「前置きが長くなったけど、要は——アリアが好きだ。それを先に言いたかった。その後に、昨夜のことを話す」


「昨夜のこと」


「うん。リリナから告白された。本部で待ってくれてて、夜の広場に連れて行かれて……ちゃんと聞いた。「時間をくれ」と答えた。でも、今朝ここで一番最初に言うべき気持ちはこっちだと思った」


---


 しばらく、沈黙があった。


 アリアの瞳が、ゆっくりと揺れた。


「シルヴャン……」


「ごめん、突然で。でも先に言っておかないと、他の話が全部噓みたいになる気がして」


「ありがとう」


 アリアの声が、少し震えていた。


「そんな風に言ってもらえるとは思ってなかった。当たり前にそばにいてくれるから、そういう言葉を聞いたことがなかった。子供の頃から、ずっと一緒にいたけど——改めて言ってもらうと」


 アリアは視線をテーブルに落とした。その横顔に、どこか傷ついたような影がよぎった——でも、すぐに消えた。


「一晩だけ、一人で考えさせて」


「……そうだよな」


「セラのことが大事だから、ちゃんと考えたい。急いで答えを出して、後で嘘になったら嫌だから」


「わかった。待つ」


「今夜、話しよう」


 アリアはそこで立ち上がった。スープを椀に盛り、セラの前に置く。いつも通りの、穏やかな手つきで。


「食べて。冷める」


「……ありがとう」


## 一人のアリア


 セラが訓練場に向かうと、アリアは後片付けをしながら一人になった。


 食器を洗う水の音が、部屋に響いている。


(好きだって、言われた)


 スポンジを握る手が、止まる。


(転生前から知ってた。子供の頃から、シルヴャンと一緒にいた。守護隊に入って、毎日会って、魔力が安定するって言われて——当たり前になりすぎて、あんなふうに真正面から言われたことなかった)


 胸の真ん中が、きゅっとなった。


 嬉しい。


 本当に、嬉しかった。胸が痛くなるくらい。


 でも——


(リリナちゃんは、昨夜告白したんだ)


 アリアはスポンジを桶の縁に置いた。両手が水滴を滴らせながら、静止している。


(怒ってない。本当に怒ってない。怒る気持ちが、全くない。リリナちゃんは正直で、一生懸命で、セラさんのことをちゃんと好きなんだって、話を聞いてわかった)


 でも。


(ちょっとだけ、怖い)


 怖い、という感情が自分の胸の中にあることに、アリアは少し驚いた。


 エルフの文化では複数のパートナーは珍しくない。それはわかっている。頭では受け入れている。セラが誰かを好きになっても、それは当然のことで、祝福してあげたいとも思っている。


 でも——


(リリナちゃん、すごく明るくて、元気で。セラさんと訓練場で笑い合ってるのを見ると……私にはない何かがある気がして)


 それを、嫉妬と呼ぶのかどうか、アリアにはよくわからなかった。


 好きだから怖い。当たり前が壊れるのが怖い。セラが自分だけを見てくれていた時間が、これからは変わるかもしれないことが怖い。


(でも——それは、私がシルヴャンを大事に思ってるってことだよね)


 アリアは窓の外を見た。朝の光が、村の木々を明るく染めている。


(シルヴャンを信じる。あの人は嘘をつかない。正直に話してくれた。だから私も、正直に伝えよう。今夜。怖いと思った気持ちも、嬉しかった気持ちも、全部)


 食器を拭きながら、アリアは静かに決めた。


 「一晩考える」と言った。それは本当だ。急いで「いいよ」と言いたくなかったのも本当だ。答えを出す前に、ちゃんと自分の感情と向き合いたかった。


(……少し泣いてもいいか)


 誰もいない台所で、アリアはそっと目元を拭った。涙が一滴、指先を伝って流れた。


 それから、深く息を吸い込んで——また、皿を拭き始めた。


---


 午後になっても、アリアの頭は昨夜の話から離れなかった。


 午前の任務補助業務は何もなかったから、アリアは長老の家を訪ねた。顔を見せるためだけのつもりだったが、長老は「お茶でも飲んでいきなさい」と言って、温かいハーブ茶を出してくれた。


「最近、顔が曇っているね」


「……気づいてました?」


「守護隊の子たちの顔はよく見えるよ。特に、シルヴャンの周りは賑やかだからね」


 アリアは苦笑した。


「長老、一つ聞いていいですか」


「うん?」


「好きな人が、別の人のことも好きだって知ったとき、どうすればいいんでしょう」


 長老は少し考えるような顔をして、ゆっくりと答えた。


「エルフは昔から、一つの木に多くの枝があるように生きてきた。愛情は分けても減るものじゃない。だが——人間も、エルフも、心が痛むことがある。それは愛していないからじゃない。むしろ逆だよ、アリア」


「逆……」


「大切にしているから、失うのが怖い。怖いのは弱さじゃない。正直な証だよ」


 アリアはカップを両手で包んだ。ハーブ茶の温かさが、指先から伝わってくる。


「……ありがとうございます」


「お前は誰よりも賢くて、優しい子だ。自分の気持ちを大事にしなさい。相手に伝えることを、怖がらないで」


 長老の家を出る頃、夕陽が傾いていた。


 セラが「今夜話そう」と言っていた。


(そうだ。正直に話そう。嬉しかったことも、怖かったことも、全部)


## 訓練場で


 訓練場に着くと、リリナが既に準備運動をしていた。


「お、セラ! おはよ!」


 いつも通りの笑顔。でも、その目に一瞬だけ、緊張の色が走った。


「おはよう、リリナ」


「今日は早いんだね。顔色悪くない?」


「昨夜ちょっと寝れなかった。リリナは平気そうだな」


「へへ……平気じゃないけど、ぐっすり寝たよ。言い切ったらすっきりしちゃって。後悔はゼロ」


(言い切ったらすっきり。……かっこいい台詞だ)


 セラは小さく笑った。


「アリアには、話した?」


 リリナが声を落として聞いてきた。


「今朝話した。一晩、考えさせてほしいって言われた」


「そっか……」


 リリナは少し目を伏せた。


「ちゃんと伝えてくれてありがとう。怖かったでしょ」


「……まあ、ちょっとな」


「私さ、今日もここに来るか迷ったんだよね。気まずいかなって。でも、来てよかった。セラが普通に話しかけてくれたから」


「普通に話せない理由はないだろ。昨夜のことがあっても、リリナはリリナだし、俺は俺だ」


 リリナが、少し目を細めた。


「セラって、そういうとこ——ちゃんと割り切れるんだよね。私にはそれができるかわからなかった。だから余計に勇気いったんだよ、昨夜」


「割り切れてるわけじゃないけどな。ただ、リリナに対して普通に接することが正直だと思った」


「それだよ。それがセラらしいとこ」


 リリナは伸びをしながら言った。


「私、待つって言った。本当に待つよ。でも——アリアさんを大事にして。それが一番大事だから」


(こいつは、本当に——)


「わかった」


 セラは短く答えた。それ以上の言葉は出てこなかったけど、出なくてよかった。


---


 午前の訓練は、いつも通り進んだ。


 剣の素振り、魔法制御、隊列演習。ガトー教官の号令が飛んで、隊員たちが動く。テイオが誰かに話しかけて笑っている。いつもの光景だ。


 体を動かしていると、頭が少し静かになる。でも昼休みになると、すぐにまた考え始める。


 今夜、アリアはどう答えるのか。


 怒るだろうか。いや、怒らないと思う。でも、傷ついていることはわかった。あの朝食時の一瞬の表情が、頭から離れない。


(アリアが傷ついてるのに、俺には何もできない。できることは——今夜、正直に話すことだけだ)


## 森の散策道


 訓練が終わり、夕方近く。


 アリアから「今日の夕方、二人で歩かない?」と声をかけられた。


「行こう」


 返事は一言で足りた。


---


 森の散策道は、夕日が差し込んで橙色に染まっていた。木の葉が風でざわめいて、遠くで鳥の声がする。昨日よりも風が少し冷たい。夜が来るのが早くなってきた。


 しばらく、二人は黙って歩いた。


 沈黙が居心地悪いわけじゃなかった。こういう沈黙を二人で持てること自体、積み重ねてきた時間の証明みたいなものだとセラは思った。


「さっき、訓練場でリリナちゃんと話してたね」


「うん。リリナが……アリアを大事にしてくれって言ってた」


 アリアが少し微笑んだ。


「リリナちゃんらしいね」


「らしいよな。あいつは正直だ」


「うん。朝、シルヴャンからリリナちゃんのことを聞いてから——ずっと考えてた」


 アリアの歩調が少し遅くなった。セラも合わせる。


「怖かったって、今なら言える。リリナちゃんがセラさんを好きって知った時、ちょっとだけ不安になった。セラと訓練場で笑い合ってるリリナちゃんを思い浮かべたら、私にはない何かがあるって感じて」


「アリア……」


「嫉妬なのかどうかわからないけど、そういう気持ちがあって。一人で食器洗いながら、少し泣いた」


 セラは足を止めた。


(泣いた。アリアが一人で泣いた。それを、俺は訓練場で剣振ってた)


「アリア、ごめん」


「謝らないで。シルヴャンは正直に話してくれた。それだけで充分だよ」


「でも、傷つけた」


「傷つけたんじゃない。傷ついたのは私が本気だから。それは——いいことだと思う」


 アリアはセラの方を向いた。夕日が彼女の横顔を照らしている。


「一つだけ聞いていい?」


「なんでも」


「私のこと、好きだって言ってくれたのは——本当?」


「本当だ」


 間を置かずに答えた。


「変に見えるかもしれないけど、リリナのことも大切に思ってる。でも——アリアとの気持ちは、別のものだ。どっちが上とかじゃない、ただ違う」


 セラは続けた。


「アリアに感じるのは……はじまりと、安心と、一緒にいるのが当たり前みたいな感覚だ。それが好きってことの正体だって、今朝ようやくわかった。リリナのことがあったから、ちゃんと向き合えた気がする」


 アリアは下を向いた。


(どう受け取ってるのか。怒ってるのか、泣いてるのか——見えない)


 少しして、アリアが言った。


「それでいい」


「え?」


「それでいい、って言った。シルヴャンがちゃんと向き合ってくれた。それが一番大事だった」


 アリアがセラの手を取った。その手は、少し冷たかった。


「条件を一つだけ言っていい?」


「なんでも」


「私が一番じゃなきゃ嫌。わがままかもしれないけど、それだけは」


「わがままじゃない。当然だ」


「……ふふっ」


 アリアが小さく笑った。さっきまでの緊張が、ほんの少し溶けた気がした。


「シルヴャンって、誓うの早いよね」


「誓う価値があるからだよ」


「もう。そういう台詞がさらっと出てくるから」


---


 歩きながら、アリアが続けた。


「リリナちゃんとの関係、続けていいよ。嘘をつかないで、私にも正直でいてくれるなら」


「それは絶対に守る」


「うん。シルヴャンが「絶対に」と言うなら信じる。ずっとそういう人だった、シルヴャンは」


 アリアはセラの肩に頭を預けた。その重さが、じんわりと伝わってくる。


「好きだよ、シルヴャン。幼馴染だから、じゃなくて」


「俺も好きだよ、アリア。当たり前みたいになってたけど——当たり前の方が、本物ってことがある気がする」


「ふふっ……そうだね」


 二人の影が、夕日の中に重なった。木の葉がさらさらと鳴った。遠くで、鳥が一羽鳴いた。


 前世の俺には——こういう時間があったか。記憶の端をさぐっても、出てくるのは忙しい毎日の残影ばかりだ。この温かさは、記憶にない。


 転生して、よかったと思った。


## 夜の広場にて


 帰り道の途中、アリアが言った。


「リリナちゃんに伝えてあげて。今日」


「いいのか?」


「うん。モヤモヤを長引かせるのは、あの子にも悪いから。ちゃんと決まったなら、はっきりさせてあげて」


 夜の広場に近づくと、ベンチにリリナの影が見えた。


(……来てたのか)


「リリナ」


 セラが声をかけると、リリナが立ち上がった。


「あ、シルヴャン! アリアさんも!」


「待ってたの?」


「えへへ、なんとなく……ここ、昨日もいたから。来ちゃった」


 アリアが前に出た。


「リリナちゃん、昨日はセラに勇気を出してくれてありがとう」


「えっ、あ……いえ……」


「シルヴャンのことを大事にしてくれようとする気持ち、ちゃんと伝わったよ。それだけ、ちゃんと伝えたかった」


 リリナの目が、少し潤んだ。


「アリアさん……」


「ちゃんと向き合ってくれてありがとう。リリナちゃんが正直でいてくれたから、私も正直になれた気がする」


 リリナは一瞬、唇を噛んだ。それから、笑顔を作った。ちょっとだけ不安定な、でも本物の笑顔だった。


「セラ」


 アリアがセラの方を向いた。


「伝えてあげて」


---


 セラはリリナに向き直った。


「リリナの気持ち——ちゃんと、受け取った。昨夜じゃなくて、今日も一日ずっと考えた。アリアとも話した」


「うん……」


「俺は、アリアのことが好きで——」


 そこで、少し詰まった。


「それと、リリナのことも、大切に思ってる。訓練で一緒にいた時間も、昨夜お前が震えながら告白してくれたことも、今朝「アリアを大事にして」って言ってくれたことも——全部、ちゃんと俺の中に残ってる」


 リリナが唇を噛んだ。


「だから」


 セラは続けた。


「今は答えを出せないって言った。でも、ずっと「待つしかない」って言いたいわけじゃない。ちゃんと向き合う。正直に。お前の「待つ」に応える気持ちはある」


「シルヴャン……」


 リリナの目に、涙が浮かんだ。


「ありがとう。それだけで——それだけで充分だよ」


 アリアがそっと一歩引いた。夜の広場の星明かりの下、リリナは涙を拭おうともせず笑顔を浮かべた。


「私さ、昨日より元気だよ。言ったから、すっきりしたし——今日、シルヴャンの顔見て、逃げてないってわかった。嬉しかった」


「逃げないよ」


「うん、知ってる。だから好きなんだよ」


 三人が笑った。


 笑ってから、リリナが少し照れたように言った。


「帰ろっか。夜風、冷たくなってきた」


 アリアがセラの左手を握った。右側からリリナが並んだ。


 三人で、並んで歩き出した。


(左手にアリア。右隣にリリナ。こんな夜が来るとは——転生した時には想像もしなかった)


 星が瞬いている。村の家々の窓から、あかりが漏れている。足音が三つ、石畳に響いている。


「ねえ、シルヴャン」


 リリナが少し声を上げた。


「なに」


「今日、正直に言ってくれてありがとう。昨日よりちゃんとした答えが来た気がする」


「昨日より?」


「昨日のセラは「時間をくれ」で終わった。今日は「ちゃんと向き合う」って言ってくれた。違いがある。ちょっとだけど、前に進んだ気がした」


 セラは少し考えた。


「……確かにな。俺もそう感じてる」


「ふふ。正直なんだよね、シルヴャンって。嘘をつかない。それが——一番好きなとこだと思う、私の中では」


 アリアが笑った。


「私も同じ。それが一番好き」


「二人ともそれか」


 セラが苦笑すると、リリナがけらけら笑った。


「えへへ、二人の意見が合った! 私たち、趣味が同じだったんだ」


「こんなとこで仲良くなっちゃいますかね」


 アリアが楽しそうに言った。


「ならいいじゃないですか。私、アリアさんのこと好きだから。セラへの気持ちを抜きにしても、好きな人です」


「リリナちゃん……」


「守護隊に入った時、先輩が何人かいたけど、アリアさんが一番話しやすかった。魔法が上手で、優しくて、でもちゃんと自分の意見を言う。かっこいいと思ってた」


「お世辞?」


「嘘つかない。今のは本気です」


 アリアがリリナの手を取った。


「ありがとう、リリナちゃん。私も——あなたのこと、もっとちゃんと知りたいって思ってた」


「本当ですか!」


「うん。正直に好きだって言える人間って、なかなかいないから。セラも、あなたも、正直に生きてる。だから信じられる」


---


 三人が家の近くに差し掛かると、アリアがセラの手を一瞬強く握った。


「ありがとう、シルヴャン。今日、正直に話してくれて」


「俺の方こそ。一人で考えさせて、ごめんな」


「ううん、そうしてもらえてよかった。急いで答えを出してたら、こんなに気持ちを整理できなかったから」


 リリナが二人の前で立ち止まった。


「じゃあ私はここで。おやすみなさい、アリアさん。おやすみ、シルヴャン」


「おやすみ、リリナ」


「おやすみなさい、リリナちゃん」


 リリナは早足で自分の方向へ歩いていった。振り返らないまま、栗色の髪が夜の暗がりに消えていった。


 セラはその背中が見えなくなるまで見送った。


(「待つ」って言ってくれた。昨日も、今日も。それに応えるだけだ)


「帰ろう、アリア」


「うん」


(「楽しめ」って声が、また頭の中で聞こえた気がした)


(……そうだな。これが「楽しむ」ということなのかもしれない)


 二人で夜道を歩きながら、セラはアリアの手の温かさを感じていた。


 転生三十二日目が終わろうとしている。


【第27話 了】


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