表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/79

第16話 新たな仲間

# 第16話 新たな仲間


## 新隊員の紹介


 守護隊本部の朝は、いつもより少しだけ特別な空気が漂っていた。


 セラは制服のボタンを留めながら、訓練場へと向かう。昨日の休日は心地よい疲れと共に終わり、今日からまた守護隊としての日々が始まる。(休日明けの体は重い。それは転生前も転生後も変わらない普遍の法則だ)


 朝の森は美しかった。露に濡れた木の葉が朝日を反射して輝き、小鳥たちのさえずりが森全体に響いていた。セラは深呼吸をして、清浄な空気を肺いっぱいに吸い込む。いい空気だ。


「おはよう、セラ」


 アリアがすでに訓練場の入り口に立っていた。同じ制服に身を包み、朝の光の中で金髪が輝いている。その姿はまるで森の精霊のようで、一瞬見惚れてしまった。


「おはよう、アリア。今日も早いな」


「隊長から呼ばれたの。何かあるみたいよ」


「何かって……?」


 セラは首を傾げたが、アリアも分からないといった様子で肩をすくめる。


「全然分からないの。でも、隊長が直々に呼び出しするなんて、珍しいことだよね」


「緊急事態か何かか?」


 眉が少し下がる。もし森の異変がさらに悪化しているとしたら、話が変わってくる。


「大丈夫だって。昨日の初任務で十分に力を証明したじゃない」


 アリアがセラの腕を握ると、その温もりが心細さを溶かしていく。それは確かだ。


「うん。俺たちなら何とかなる」


 二人で訓練場に入ると、十数名の隊員たちがすでに集まっていた。テイオは腕組みをして訓練場の隅に立ち、ガトー教官はいつも通り不機嫌そうな顔をしている。(ガトー教官の顔が穏やかな日って、存在するのかな。研究テーマにできそうだ)


「おう、セラ、アリア! 遅刻するところだったぞ」


 テイオが手を振った。セラは軽く手を返し、アリアと共に列に加わる。


「なんだこの集まりは。臨時招集か?」


「隊長が直々に発表があるらしい」


「発表?」


 テイオに尋ねると、彼は肩をすくめた。


「詳しいことは分からん。だが、隊長の顔を見てみろ。いつもより少しだけ楽しそうだぞ」


 セラは隊長室の方へ視線を向けた。確かに、レイナード隊長の表情には、普段の厳しさの中にどこか柔らかさが混じっていた。(隊長も笑うのか。この森は発見の連続だ)


 隊員たちの間でざわめきが広がる。隊長が直々に発表するとなれば、それはかなり重要な事態だ。


「最悪の事態じゃないならいいんだが」


「そうね。何だか楽しみだわ」


 アリアが微笑むと、セラの心も少しだけ明るくなった。


 その時、訓練場の奥にある隊長室の扉が開いた。レイナード隊長が現れ、ゆっくりと歩み寄ってくる。彼の後ろには、見慣れない小柄な影がついていた。


「皆、集まったか」


 隊長の声は低く、重みがある。ざわめきが一瞬で静まり返る。


「本日、重要な発表がある」


 隊長は一息ついてから、視線を後ろの影に向けた。


「この守護隊に、新しい隊員が加わる」


「新しい隊員?」


 誰もが思わず声を漏らす。


「今回の採用は特例だ。推薦枠で入ってきた」


 隊長が手招きすると、影がゆっくりと前に出てきた。


 それは、セラの予想を遥かに超える存在だった。


「えっ……女の子?」


 アリアが小さな声で呟く。


 そこに立っていたのは、一人の少女エルフだった。年齢はセラたちと同じくらい、十二〜三歳ほどだろうか。長い金髪は腰まで届き、大きな緑色の瞳がどこか人懐っこい印象を与えている。制服はまだ少し大きく、小柄な体をゆったりと包んでいた。(守護隊に女の子……これは本格的に驚いた。アリアは特例かと思っていたのに)


「初めまして、リリナです! よろしくお願いします!」


 少女が元気よく挨拶すると、その場の空気が一瞬で和らいだ。彼女の笑顔は太陽のように明るく、見る人の心を温める。


 セラは彼女をじっと見つめた。女の子の守護隊員なんて、今まで聞いたことがない。守護隊は実力主義だから性別は問われないはずだが、現実にはこれまで女性隊員はアリアを含めて数えるほどしかいなかった。


「リリナはこの森の東側、エルフの集落で育った。魔法の才能は特Aクラス、実戦経験はないが基礎はできている」


 隊長が淡々と説明する。特Aクラス。自分と同じだ。(実戦経験なしで特Aクラスとは、ポテンシャルの化け物か。ちょっと待ってほしい)


「特Aクラスだと? この子が?」


 テイオが驚いて目を見開いた。


「そうだ。魔力測定を受けてもらったんだが、数値は信じがたいものだった。セラ君に匹敵する」


 隊長の言葉に、一瞬の静寂が訪れる。


「俺に……匹敵?」


 自分の耳を疑った。自分の魔力はオフスケール、測定不能レベルだ。そんな自分に匹敵するとしたら、相当なものだ。(つまり、同学年に強敵が現れた。守護隊、侮れない)


「まあ、見た目だけじゃ信用しがたいだろう。だから今日は、リリナの実力を見てもらうつもりだ」


 隊長が視線をセラたちに向けた。


「セラ君、アリアさん。君たちはリリナの訓練相手を頼みたい」


「訓練相手、ですか?」


 アリアが少し驚いたように尋ねた。


「ああ。リリナは基礎はできているが、実戦経験がない。君たちは初任務で実戦を経験したばかりだ。リリナに良い手本を見せてやってくれ」


 隣からテイオが小声で囁いた。


「お前たち、優勝チームとして手本を見せるってわけだ。張り切ってくれよ」


「優勝チームって……そんなのあったか?」


「俺が勝手に呼んでるだけだ。だが実質的に、お前たちの初任務の成果は隊内でも評判になっている」


 セラは苦笑いした。(評価されるのは嬉しいが、注目を集めるのが増えるのは少し複雑だ)


「よし、まずは自己紹介から始めよう。リリナ、改めて皆に自分を紹介してくれ」


 隊長に促されたリリナは、一歩前に出て深呼吸をした。


「はいっ! えっと、私、リリナ・エルフウインドです! 東側の集落から来ました! 魔法は遠距離攻撃が得意で、将来は森の守護者として頑張りたいと思っています! 趣味は……」


 彼女は少し詰まった。


「趣味は、お花見と、お絵描きです! あと、甘いものが好きです!」


「お花見?」


 誰もが思わず口を挟む。


「あの、東側の集落には、毎年春に大きな花が咲く場所があって……」


 リリナが少し照れくさそうに説明し始める。


「桃花という花が咲くの。桃色の花が一面に広がって、すごくきれいなんです! 毎年春になると、集落のみんなでお花見に行くんです」


「桃花か。東側の集落にあるのか」


 セラは興味深く思った。東側の集落は、西側からはかなり離れている。行ったことのない場所だ。(花見か。この世界にも花見文化があるとは)


「そうなんです! 今度桃花が咲いたら、セラさんたちもぜひ来てくださいね!」


 リリナが目を輝かせて言う。


「まあいい、細かいことは後だ。重要なのは、彼女がこれから君たちの仲間になるということだ」


 隊長が手を叩いた。


「リリナ、チームを編成する。君の担当は……セラ君とアリアさんのチームだ」


「えっ、私たちのチームですか?」


 セラが驚いて尋ねると、隊長は真顔で頷いた。


「ああ。君たちは最もバランスが取れている。リリナの才能を伸ばすには、君たちのような手本が必要だ」


 複雑な心境になった。新しい仲間、しかも同じ特Aクラスの才能を持つ少女が自分たちのチームに加わる。戦力が増すのは嬉しいが、責任も重くなる。(手本、か。プレッシャーかけてくるじゃないか、隊長)


「分かりました。私たちが面倒を見ます」


 アリアが代表して答えると、隊長は満足そうに頷いた。


「頼んだぞ。よし、訓練を再開する。まずはリリナの魔力測定から始めよう」


 隊員たちが動き出す。ガトー教官が魔力測定器を搬入し、リリナの前に置いた。


「さあ、測るぞ。手を置け」


 ガトー教官の指示に、リリナは少し緊張した様子で装置に手を置いた。


「はい、置きました……」


「よし、魔力を徐々に出していくぞ。急ぐな」


 リリナが目を閉じ、集中を始める。すると、装置の針がゆっくりと動き出した。


「おお……」


 隊員たちから感嘆の声が漏れる。


 針は上昇し続け、やがてAクラスの領域に達する。それでも止まる気配はなく、特Aクラスのラインを突破し、さらに上昇していく。


「くっ、すごい……」


 テイオが思わず呟く。


 針はやがて、セラが記録した数値に肉薄する位置で止まった。


「特Aクラス、確定だ」


 ガトー教官が興味深そうにリリナを見た。


「セラ君に次ぐ数値だ。制御もまだ粗削りだが、ポテンシャルは計り知れない」


「はいっ! ありがとうございます!」


 リリナが針を外し、大きく微笑むと、その笑顔が訓練場全体に明るい空気を広げた。


 セラは彼女を見つめながら、心の中で思った。(新しい仲間、か。面白そうだ)


 女の子が守護隊に加わることへの驚きはあったが、リリナの明るい性格と高い才能に、セラは少しだけ期待を抱いていた。


「よし、次は実技訓練だ。リリナ、まずは基礎魔法を見せてくれ」


 ガトー教官の指示で、リリナは訓練場の中央に立った。


「はいっ! えっと、光弾魔法をやります!」


 彼女が深呼吸し、詠唱を始めた。


「ルーメ・——」


 ん。


 ちょっと待て。


「——ルーメ・フラーレ!」


 え、もう一回?


 セラは思わず訓練場全体を見回した。周囲の隊員たちが、同じような顔をしている。「今、なんかおかしくなかったか」という顔だ。


 その瞬間、リリナの手のひらから光が弾けた。


「っ!」


 思わず目を細める。強い。純度が違う。セラが初めて光弾魔法を使ったときとは比べ物にならない。スピードも、的に向けて一直線——命中。小さな爆発が起きた。


「……」


(待った。今の詠唱って、「ルーメ・ルーメ・フラーレ」? ルーメが二回あったぞ)


 セラは首を傾げた。光弾系の詠唱で、ルーメが二回入るパターンは習ったことがない。言葉の意味から言えば「光よ・光よ・撃て」か? 一回でいいんじゃないか。


 でも、あの威力は——。


「すごい……」


 アリアが感心したように呟く。


「初級魔法にしては、強力だ」


 ガトー教官が頷く。


「だが、詠唱が長すぎる。実戦で使うには、もう少し短くする必要がある」


「はいっ! 分かりました! でも……」


 リリナは少し困ったような顔をした。


「これ、『ルーメ・ルーメ』じゃないと、なぜか上手く出ないんです。一回だと何か足りない気がして……」


「足りない、とは?」


「うーん……なんとなく、二回言うと魔力が整う感じがするんです。説明できないんですが」


(なんだそれ)


 セラはその場で考えた。詠唱の最適化は人によって異なる、という話は聞いていた。でも「同じ言葉を二回」という発想は、教科書には載っていない。


(それが逆に機能してる。なんか、面白い子だな)


 セラは改めて新しい仲間の存在を認識した。(こんなに元気な新人、守護隊で見たことなかったな。詠唱まで独自路線だ)


「よし、休憩だ。その後、セラ君とアリアさん、リリナとの訓練を開始する」


 隊長が宣言すると、隊員たちが一斉に動き出した。


## リリナとの対面


 セラはアリアと共にリリナに近づいた。


「よ、よろしくお願いします!」


 リリナが緊張したように挨拶をする。


「こちらこそ。よろしくね、リリナ」


 アリアが微笑むと、リリナの緊張が少し解けたように見えた。


「うん! よろしくお願いします! あの、セラさんのこと、聞いたことあります!」


「俺のこと?」


 セラが首を傾げると、リリナはぺらぺらと話し始めた。


「はい! 東側の集落でも、すごい才能を持った新人の噂が広まっているんです。特Aクラスで、初任務から成功したとか……」


「そんなに広まってたのか……」


 少し照れくさかった。(東側まで噂が届いているとは。守護隊の情報網は思ったより広い)


「だって、すごいんですよ! セラさんも特Aクラスでしょう? 二人とも特Aクラスなんて、珍しいです!」


 リリナの目がキラキラと輝いている。


「まあ、俺もまだ勉強中だよ。リリナもすごい才能があるみたいだし、互いに学べることがあると思うよ」


「ううん! 私の才能なんて、セラさんには及びませんよ! まだ基礎しかできてないし……」


 リリナは少し謙遜したように言ったが、その瞳には確かな自信の光が宿っていた。(謙虚な顔をして目は輝いている。なかなか食えない子だ)


「基礎ができているのは、最も重要なことだ。基礎をおろそかにして上達はしない」


 アリアが優しく言うと、リリナは嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます、アリアさん! やっぱりアリアさんも優しいですね、噂通りです!」


「噂、またかよ」


 セラが苦笑いすると、リリナは少し照れくさそうに笑った。


「あはは、そうですね。でも、東側の集落でも守護隊の話題はよく出るんです。特に最近は、新しい才能のある隊員が加入したということで……」


「そうか。俺たちがそんなに話題になるとは」


 評価されているのは嬉しいが、注目も大きくなっている。プレッシャーでもあり、励みでもあった。


「それに、セラさんとアリアさんの二人は幼馴染だって聞いてます。ずっと一緒だったんですか?」


「ああ、そうだな。小さい頃からずっと一緒だ」


 セラが答えると、アリアが少し照れくさそうに微笑んだ。


「えへへ、羨ましいです。私、集落にそんな年頃の男の子がいなくて……」


「東側の集落は小さいのか?」


「うん、西側の集落よりずっと小さいです。だから、新しい環境で頑張りたいなって」


 リリナの瞳に決意の光が宿っていた。


「よし、休憩終了だ! 訓練再開!」


 ガトー教官の声が響き渡ると、三人は顔を見合わせた。


「頑張ろうね、リリナ」


「はい! 頑張ります!」


 リリナが元気よく返事をし、セラとアリアも頷いた。


 新しい仲間、新しいチーム。セラはこれからの展開に少しだけ胸を躍らせていた。(あれだけ才能があって、あれだけ素直。チームとして伸びしろが見えてくる)


## リリナの才能


 昼休み、三人は訓練場の隅にある休憩所で一緒に食事を取ることにした。


「わあ、お弁当が素敵!」


 リリナがアリアの手作り弁当を見て目を輝かせた。


「えへへ、ありがとう。リリナも食べる?」


「はい! いただきます!」


 リリナが手を合わせると、セラもそれに続いた。


「いただきます」


 三人で一緒に食事をする。リリナは明るく、よく喋る。東側の集落の話や、自分の夢の話、そして守護隊に入れたことへの喜び。


「やっぱり、守護隊に入れて本当に良かったです。こんなにすごい方たちと一緒に訓練できるなんて、夢みたいです」


「すごい方って、俺たちのことか?」


 セラが苦笑いすると、リリナは真剣な表情で頷いた。


「はい! セラさんもアリアさんも、私の憧れなんです。東側の集落では、セラさんのことは『伝説の新人』って呼ばれてるんですよ」


「伝説の新人、かよ……」


 セラは呆れた。(伝説、ね。ずいぶんと話が盛られてるんじゃないかな)


「だって、初任務から魔獣四匹を撃退したんですよ? そんなの、普通じゃないです!」


「まあ、運が良かっただけだ」


 セラが謙遜すると、アリアが彼の腕をポンと叩いた。


「謙遜しすぎよ、セラ。リリナちゃんの前では、堂々としてた方がかっこいいわよ」


「あはは、アリアさん、厳しいですね!」


 リリナが笑うと、アリアも苦笑いした。


「いえ、そんなことないわ。ただ、セラは自分の功績を謙遜しすぎる傾向があるから」


「えへへ、でも、謙虚なのも素敵ですよね」


 リリナがセラを見て微笑む。


「うーん……どうかな。もっと自信を持ってもいいのかもしれないな」


 セラが少し真剣に考えると、二人の女性が同時に笑った。


「あはは!」


 その笑い声が休憩所に響く。(俺、笑われてる。なぜかな)


「あ、そうだ! アリアさん、あの……」


 リリナが少し恥ずかしそうに口を開いた。


「なんか?」


「あの、セラさんとアリアさんって、付き合ってるんですか?」


「ぷっ!」


 セラが思わず息を飲む。(来た。こういう質問、来た)


「あ、ご、ごめんなさい! 変なこと聞いちゃって!」


 リリナが慌てて手を振る。


「いや、全然。でも、どうしてそう思った?」


 セラが尋ねると、リリナは少し照れくさそうに言った。


「だって、二人の雰囲気がすごく仲が良さそうだし……」


「ああ、それは幼馴染だからかな。俺たちは小さい頃からずっと一緒だから」


「そっか、やっぱり幼馴染なんだ。羨ましいなあ」


 リリナが少し寂しそうな顔をした。


「リリナは、集落に友達がいないのか?」


 アリアが優しく尋ねると、リリナは少し寂しそうに微笑んだ。


「うん、集落が小さいから、同年代の子が少なくて……。だから、新しい場所で新しい友達ができるかなって」


 彼女の言葉に、セラは胸が熱くなった。(そういうことか。東側から飛び出してきた理由が、それだったか)


「大丈夫だ。ここならいい友達ができるはずだ」


「うん! そうだといいな」


 リリナが微笑むと、アリアが彼女の手を握った。


「これからは私たちが友達だよ。何かあったら、何でも言ってね」


「……アリアさん」


 リリナの目が少し潤んだ。


「ありがとうです! ううっ、泣いちゃいそう……」


「泣かないでよ。これから長い付き合いになるんだから」


 セラが言うと、リリナは涙をこらえて微笑んだ。


「はいっ! 泣きません!」


 昼休みは、リリナとの交流を通じて、さらに距離が縮まった時間だった。(出会って半日で友達になれる。リリナの引力はすごい。このチーム、思ったより面白くなりそうだ)


## 合同訓練


 午後の訓練場は、朝よりもさらに活気に満ちていた。


 リリナとの訓練が始まってからというもの、訓練場には拍手と歓声が絶えなかった。彼女の才能は、誰もが認めざるを得ないものだった。


「さすがだ、リリナ! その調子だ!」


 テイオが大きく声を上げる。


 リリナは風刃魔法を使い、訓練用の的に向けて放った。風の刃が的を正確に切り裂き、二つに分かれた的が地面に落ちる。


「わあい! できた!」


 リリナが飛び上がるように喜ぶと、アリアが微笑んで彼女の頭を撫でた。


「すごいね、リリナ。初めて見たけど、きれいな風だね」


「えへへ、ありがとうです! アリアさんもすごいですよ! 光弾魔法がすごく速い!」


 リリナは照れくさそうに微笑む。


 セラは二人を見ながら思った。(案外、いいチームになるかもしれない。というか、もうなりつつある)


 リリナの明るさは、チームの雰囲気を良くしていた。アリアの優しさとリリナの元気さ、そしてセラがバランスを取る。三人の関係性は、予想以上に上手くいっていた。


「よし、次は連携訓練だ。三人で、あの岩を破壊しろ」


 ガトー教官が、訓練場の奥にある巨大な岩を指し示した。


「三人で?」


 セラが尋ねると、教官は頷いた。


「ああ。個々の力は分かった。次は連携だ。守護隊として最も重要なのは、仲間との連携だ」


 三人は顔を見合わせた。


「どう攻める?」


 セラが提案を求めると、アリアが一歩前に出た。


「まずはリリナに遠距離から攻撃してもらう。私とセラが近距離から追撃する、どう?」


「いいと思います! 私は遠距離が得意なので、先に攻撃します!」


 リリナが即答する。


「よし、じゃあその作戦で行こう。リリナ、準備はいいか?」


「はい! いつでも OK です!」


 リリナが岩の正面に立ち、深呼吸をした。


「ルーメ・——ルーメ・フラーレ!」


 二回目の「ルーメ」が響いた瞬間、セラは反射的に身構えた。あの詠唱が来る。


 光弾が岩に命中し、爆発する。先ほどより少し大きい。起点として使うつもりで加減したのか、それとも本当にここが上限なのか。


「今だ! セラ、行くわよ!」


 アリアが叫ぶと、セラも反応した。


「おう! ——風よ、刃となれ。敵を裂け——ウィンド・エッジ!」


 セラの詠唱と共に風の刃が走り、アリアの火の玉と交差するように岩に命中する。二つの魔法がほぼ同時に炸裂し、大きな爆発音が訓練場に響き渡った。


 煙が晴れると、岩は見事に砕け散っていた。


「おおおお! すごい!」


 テイオが思わず声を上げる。


「連携が完璧だ!」


 ガトー教官も満足そうに頷いた。


「初めてにしては、見事だ。君たち、チームとしての可能性を感じさせる」


 三人は顔を見合わせ、微笑んだ。


「やった……!」


 リリナが嬉しそうに言うと、セラは彼女の肩をポンと叩いた。


「悪くないな、リリナ。君の攻撃が起点になって、いいタイミングで動けた」


「えへへ、セラさんたちが上手く合わせてくれたおかげです!」


 リリナは少し照れくさそうに微笑んだ。


「いや、君がいいタイミングで攻撃してくれたからだよ。チームとして息が合った」


 アリアが優しく言うと、リリナはさらに嬉しそうな顔をした。


「うん! 三人でやるの、楽しいです!」


 セラも頷いた。


「ああ。これなら、やっていけそうだ」


 (連携、初めてにしては上出来すぎる。リリナの攻撃タイミングが正確だったのが大きい。この子、天性のアタッカーだ)


## 新しい絆


 夕暮れが近づく中、三人は並んで歩き出した。訓練は終わり、帰路につく時間だった。


「今日は本当にありがとうございました! セラさん、アリアさん!」


 リリナが深くお辞儀をする。


「こちらこそ。リリナの才能には驚かされたよ」


 セラが微笑むと、アリアも頷いた。


「ええ、これからが楽しみだわ。また明日も一緒に頑張りましょうね」


「はい! 絶対に頑張ります!」


 リリナの瞳が輝いている。


「あ、そうだ!」


 リリナが何かを思い出したように言った。


「明日、もしご都合よかったら、集落を案内してくれませんか? 私の住んでる東側の集落を」


「東側の集落か。行ってみたいね」


 アリアがセラを見て微笑む。


「悪くないと思う。明日は任務がないし、見学がてら行ってみようか」


「やった! 楽しみにしてます!」


 リリナが飛び上がるように喜ぶ。


「じゃあ、また明日!」


「はい! また明日お願いします!」


 リリナが手を振り、東側の集落へと走り去っていく。その元気な背中を見送りながら、セラは思った。(守護隊に来てくれてよかった、リリナ。チームの空気が変わった)


 セラとアリアは並んで歩き出した。夕暮れの空が、二人の影を長く伸ばしていた。


「ねえ、セラ」


 アリアが不意に声をかけた。


「ん? なんだ?」


「リリナちゃん、いい子だと思わない?」


「ああ。元気で明るいし、才能もある。チームの良いアクセントになると思うよ」


 セラが答えると、アリアは少し嬉しそうに微笑んだ。


「そうだよね。三人でやるの、楽しそうだね」


「ああ。これからが楽しみだ」


 セラはアリアの手を取った。


「……セラ?」


「なんとなく。リリナが加わって、チームが強くなった気がしてな」


 アリアは少しだけ照れくさそうに微笑むと、セラの手を握り返した。


「うん。私も、そう思う」


 二人は並んで歩き続けた。新しい仲間が加わった守護隊。セラの胸には、これからの希望と期待が満ちていた。


 帰り道、二人はリリナについて語り合った。


「リリナちゃん、明日はどんな案内をしてくれるんだろ?」


「さあな。東側の集落には桃花が咲くって言ってたし、きっと綺麗なんだろう」


「楽しみだね。セラと一緒に行けるのが」


 アリアが微笑むと、セラも微笑んだ。


「ああ。アリアと一緒に行けるのが、俺も楽しみだ」


 二人の影が重なり合い、一つになっていく。


 家に着くと、セラは窓の外を見た。星がきらきらと輝いている。(一日でチームが変わった。守護隊って、面白いところだ)


「明日からは、三人で訓練だな」


「ええ。でも、三人の方が楽しそうね」


「ああ。リリナの明るさは、チームに良い影響を与えると思うよ」


 アリアがセラに近づき、彼の腕に寄り添った。


「セラ、優しいね。新しい人を受け入れるのが」


「別に優しくはないよ。ただ、チームが強くなるなら歓迎するよ」


 セラが少し照れくさそうに言うと、アリアはクスクスと笑った。


「そういうセラもいいわね」


「どういう意味だよ」


「いえ、秘密です」


 アリアが悪戯っぽく微笑むと、セラは呆れながらも微笑んだ。(秘密ね。アリアの「秘密」は、毎回違う意味を持ってる気がする)


「まったく、アリアは……」


「はいはい、私のこと?」


 二人は微笑み合い、幸せな時間を過ごした。


 明日からまた、新しい一日が始まる。今日とは少しだけ違う、もっと楽しい日になるはずだ。


 セラはそう確信していた。


(第16話 了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ