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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第15話 魔力の秘密

# 第15話 魔力の秘密


## 魔力の異変


 転生十四日目の昼。


 守護隊訓練場は、熱気に包まれていた。新入隊員たちが一様に汗を流し、魔法の訓練に励む。ガトー教官の鋭い声が響き渡る。


「甘い! もっと集中しろ! 魔力のコントロールが雑すぎる! 続き、やるぞ!」


 セラもまた、息を切らして訓練を続けていた。


(守護隊の訓練というのは、魔力を使い果たすまで続く。疲れるが、不思議と嫌じゃない)


「フー……」


 深く息を吸い込み、掌に魔力を集める。風刃魔法の練習だ。三十メートル先の的を狙って、圧縮した風を放つ。


「風よ、刃となれ。敵を裂け——ウィンド・エッジ!」


 詠唱とともに、風の刃が的を貫く。真っ二つ、きれいに切断された的が地面に落ちる。


「いい調子だ、セラ! 精度も向上してきているな」


 ガトー教官からの称賛に、セラは小さく笑みを返す。


「ありがとうございます!」


 しかし、その直後だった。


 体内の何かが、弾けた。


「ッ……!?」


 突然、全身の魔力が暴れ出す感覚。掌に集めていたはずの風が、制御を越えて広がり始める。


「あ、危ない……!」


 セラは慌てて魔力を抑え込もうとするが、逆効果だ。ますます魔力が乱れ、周囲の風を巻き込み始める。訓練場全体が、不穏な気配に包まれていく。


「お、おい! セラ、どうした!?」


 ガトー教官が駆け寄ろうとするが、発散する魔力の壁に阻まれて近づけない。


「う、うぅ……!」


 冷や汗が額を伝う。心拍数が上がる。それに伴って、魔力の乱れも加速していく。


(まずい。焦れば焦るほど悪化する。落ち着け——でも落ち着けるなら最初から落ち着いてる!)


「セラさん!?」


 アリアの声が聞こえた。


「あ、アリア……!」


 彼女の姿が見える。訓練場の向こう側、遠く感じる。視界が少し揺れている。


「セラさん、落ち着いて! 深呼吸して!」


 アリアの声は、冷静だ。だが、その表情には隠しきれない不安が浮かんでいる。


「だ、できない……魔力が……!」


 セラの周囲の風が、さらに激しく巻き上がる。小石が浮遊し、砂埃が舞う。訓練場の他の隊員たちも驚いて、距離を取っている。


「止まってくれ……頼むから……!」


 セラは体内の魔力を抑え込もうとする。だが、暴走する馬のように、自分の意志では制御できない。


「長くならないでっ! こういう時は……!」


 アリアが、迷いなく走り出した。


「えっ……アリア、危ないっ!」


「大丈夫! 信じて!」


 彼女は、発散する魔力の壁なんて気にも留めず、一直線にセラに駆け寄る。


 そして——


 セラの手を、両手で包み込んだ。


「っ……!?」


 一瞬、全身に電流が走ったような感覚。


 その瞬間、暴走していた魔力が、嘘のように鎮まっていく。


「あ……」


 セラは、息を吐き出す。


 アリアの手の温もり。それが、自分の中の乱れた魔力を、優しく、しかし確固たる力で包み込んでいく。


「ふぅ……ふぅ……」


 心拍数が落ち着いていく。魔力の流れも、正常に戻っていく。周囲の風も収まり、浮遊していた小石たちが静かに地面に落ちる。


「よ、よかった……」


 アリアが、安堵の吐息を漏らす。彼女の手は、まだセラの手を握りしめている。


「ありがとう……、アリア。また、君に助けられた」


(二度目だ。三度目になる前に、自分でなんとかしないといけない。……でも今は、素直に感謝しておく)


「セラさん……大丈夫でしたか?」


 ガトー教官が、心配そうに駆け寄ってくる。


「はい、おかげさまで……なんとか。すみません、訓練の邪魔をして」


「いや、訓練の一環と言ってもいいくらいだ。まさか、そんな魔力量の放出を見せるとはな……」


 教官は、セラを驚きと共に見つめる。


「正直、俺も驚いたぞ。オフスケールの魔力量とは聞いていたが、それを制御できなくなった時のリスクまで、理解していなかったな」


 ガトーは、真剣な表情でセラに向き合う。


「お前の魔力は、通常のエルフとは桁違いだ。だが、それと同時に、不安定さも持ち合わせている。感情が高ぶると、制御を失う可能性がある。そう訓練でも言ったはずだ」


「はい、承知しています……でも、今日は特に感情が高ぶったわけでも……」


 セラは、少し困惑する。緊張はあった。だが、以前のようなパニック状態ではなかった。それなのに、なぜ魔力が暴走しかけたのか。


「ただ訓練していただけなのに、いきなり……」


「セラさん」


 アリアが、心配そうにセラを見る。


「もしかして、最近、何か違和感はありませんでしたか? 魔力に関して」


 セラは、考える。


(最近のこと……守護隊に入ってから、訓練を重ねてきた。魔法の精度も上がったし、制御も良くなったはずだ。だが——)


「……今思えば」


 セラは、自分の体内に意識を向ける。


「魔力が、少し……違う感じがします」


「違う、というのは?」


「今までは、単に量が多すぎて制御しきれない、という感覚でした。でも……今回は、違いました。魔力が、何かに呼応しているような……外から何かが引き込まれているような」


 セラの言葉に、アリアの表情が曇る。


「外から……魔力が引き込まれている?」


「うん。最初は自分の魔力だけだと思ってたんです。でも、暴走しそうになった時……明らかに自分の魔力量を超える何かが、体内に流れ込んでくる感じがしました」


 これは、ただの暴走ではない。何か、他の要因がある。


 セラは、以前から抱えていた疑問を思い出す。自分の魔力が、通常のエルフとは違うということ。オフスケール、測定不能という数値。長老が、自分の体に何か特別なものが混じっていると言ったこと。


「……調べなきゃ」


 セラは、決意を口にする。


「私の魔力について、もっと詳しく調べる必要があります。このままじゃ、またいつ暴走するかわからないし、周りに迷惑をかける」


「私も、お手伝いします」


 アリアが、即答する。


「セラさんの魔力は、私が一番近くで見てきましたから。何か役に立てることがあれば……」


「……ありがとう。アリアがいてくれて、本当に助かる」


「では、セラ、アリア。今日はここまでにする。様子を見て、明日また訓練だ。だが……無理はするなよ」


 ガトー教官が、心配そうに言う。


「はい、ありがとうございます!」


## 調査の提案


 守護隊本部から出て、二人は並んで歩く。


「……どうしましょうか? まずは」


 アリアが、不安げに問いかける。


「長老に相談するのも一つですけど……その前に、まずは自分たちで何か情報が得られないか探したいですね」


「私たちで、ですか?」


「うん。長老には、なんとなく……全部を話してくれる気がしなくて」


 セラの直感だ。長老は、自分の特異性を知っている。だが、それを全て明かしてくれるわけではないだろう。


(答えを持っている人間が必ずしも全部話してくれるとは限らない。それはこの世界でも同じらしい)


「それに……もしかしたら、村に何か資料が残ってるかもしれません。古代のエルフのこととか、魔力の特殊な事例とか」


「古代のエルフ……ですか?」


 アリアが、少し怪訝な表情をする。


「ええ。私の体に何か特別なものが混じっていると言ってましたよね? もしかすると、古代エルフに関係しているのかもしれない」


「なるほど……村には、古い文献を保管している場所がありますね」


 アリアがパッと思い出したように言う。


「図書館! 村の広場の近くにありましたよね」


「ええ。村の歴史や、古代エルフに関する記録などが保管されています。一般のエルフたちも閲覧できるので、もしかしたら何か手がかりが見つかるかもしれません」


「じゃあ、早速行ってみましょう!」


 二人は、村の図書館へと向かうことになった。


 エルフの村の図書館は、静謐な空気が漂う建物だった。古木に囲まれ、建物自体も、何百年も前から存在するような佇まい。木造で、屋根は苔むし、壁にはツタが絡まっている。手入れは行き届いていて、決して荒れているわけではない。


「すごい……」


 セラは、図書館の前でその雰囲気に圧倒される。


(建物から、積み重なった年月が漂ってくる。知識の重さというか——建築物に歴史を感じたのは、生まれて初めてかもしれない)


「ここには、村の歴史や、エルフの文化、魔法に関する記録など、様々な文献が保管されています」


 アリアが、静かに扉を開ける。


 中は、外の喧騒が嘘のように静かだった。木の香りが漂い、柔らかな光が差し込む。本棚が並び、数え切れないほどの本や巻物が収められている。


「……すごい数ですね」


「ええ。村の長老たちが、代々記録を残してきたものです」


「まずは……何を探せばいいでしょうね?」


「うーん……古代エルフのこと、魔力の特殊性、あと……転生のこととか?」


(転生についての記録があるとは思えないが。でも、似たようなケースが過去にあれば、何か残っているはずだ)


「じゃあ、まずは古代エルフについて調べてみます。アリアさんは、魔力の特殊性についての記録とか、何か思い当たるものありませんか?」


「はい……私の方は、魔力制御や魔法の基礎に関する文献を探してみます。セラさんのケースのような、大量の魔力を持つエルフの事例とか」


 二人は、それぞれのテーマで文献を探し始める。


## 古代の記録


 セラは、古代エルフに関する書架へ向かう。歴史や神話のコーナー。古びた本が多数並んでいる。


「でてでてー……古代エルフ……古代エルフ……」


 何冊か本を取り出し、パラパラとめくる。


『古代エルフの興亡』『エルフの起源』『シルヴァニア森林の歴史』


 概略的な記述は多いが、具体的なことは書かれていない。古代エルフは、遥か昔に存在したエルフの祖先で、高い魔力と文明を持っていたが、何らかの理由で滅んだ……というような、お決まりの内容。


(教科書的な歴史は分かった。次は、もっと個人の話が欲しい。誰かの記録、日記、手記……そういうものがないか)


 セラは、さらに奥の書架へと進む。そこは、より古い文献が保管されているエリア。


「……これは?」


 一冊の本に、手が止まる。


『異能の系譜 ~特殊な魔力を持つエルフたち~』


 タイトルが、ちょっと怪しい感じがする。だが、中身を確認する価値はありそうだ。


 本を開く。古い書体で書かれた文字が、並んでいる。


『エルフの間には、稀に特殊な魔力を持つ者が現れる。それは、通常のエルフとは異なる性質を持ち、時に驚異的な力を発揮するが、同時に制御の困難さも伴う』


(セラの心拍数が、少し上がる)


『古代エルフの時代、特殊な魔力を持つ者は「異能者」と呼ばれ、敬意と畏怖の対象とされていた。彼らは、通常のエルフでは不可能な魔法を操り、村の守護者として活躍したとも伝えられている』


(おっ……!)


 セラは急いで読み進める。


『代表的な異能者の例として、以下のような記録がある』


『・「風の歌い手」:風属性の魔法を無詠唱で駆使し、嵐を自在に操ったとされる』


『・「炎の語り部」:炎属性の魔法の達人で、その炎は感情に呼応して変化したと伝えられる』


『・「光の司」:光属性の魔法を得意とし、その光には癒しの効果があったという』


(この記録に注目する。光属性……俺の「ライト・アロー」は光弾だ。偶然か?)


『特に「炎の語り部」については、詳細な記録が残っている。彼は、感情の高ぶりと共に魔力が増幅する傾向があり、時として制御を失うこともあったという。そのため、常に安定を保つ「鎮め役」を必要とした』


(鎮め役……!)


 セラは、アリアのことを思い出す。彼女は、自分の魔力を安定させてくれる。まさに、鎮め役としての役割を果たしてくれている。


「これだ……!」


 セラは、本を抱えてアリアのもとへ駆け寄る。


「アリアさん! 見つけました!」


「えっ? 何をですか?」


 アリアが、驚いた顔を上げる。彼女の手元には、数冊の文献が開かれている。


「これです『異能の系譜』って本。古代エルフの中に、特殊な魔力を持つ「異能者」って人たちがいたんです。彼らは、通常のエルフとは違う魔力を持ち、すごい力を発揮したらしい。でも、同時に制御も難しかった」


 セラは、本の該当箇所を指し示す。


「特にこの「炎の語り部」って人、感情が高ぶると魔力が増幅して、制御を失うこともあったらしい。だから、「鎮め役」って人が必要だったんだ」


 アリアは、目を輝かせてその記述を読む。


「……これは、セラさんに似ていますね。私が近いと魔力が安定するのも、この「鎮め役」のような役割を果たしているからかもしれません」


(かもしれない、じゃない。確実にそうだ。状況証拠が全部揃っている)


 アリアは、自分の手元にあった文献も見せる。


「私の方も、興味深い記述を見つけました」


『魔力共鳴現象について~二人の魂の繋がり~』


「エルフの間には、稀に「魂の繋がり」と呼ばれる現象があるらしいです。強い絆で結ばれた二人の間で、魔力が共鳴し、互いに魔力を共有できるようになる現象です」


「魂の繋がり……」


 セラは、以前アリアから聞いた言葉を思い出す。


「この記述によると、魂の繋がりを持つ二人のうち、一方が魔力を持て余す傾向にある場合、もう一方がその魔力を受け止め、安定させる役割を果たすことができるとあります」


 アリアが、少し照れくさそうに言う。


「つまり……私とセラさんは、魂の繋がりを持った二人で、私がセラさんの多すぎる魔力を受け止めている……ということです」


 セラは、驚きを隠せない。


 そういうことだったのか。


(自分の魔力が、アリアの近くで安定するのは、単なる安心感からくる感情の問題だけじゃない。もっと根源的な、魂のレベルでの繋がりが関係している。……そういうことか)


「でも……」


 アリアは、少し悩むように眉を下げる。


「この記述だけじゃ、セラさんの魔力がなぜそんなに多いのか、その原因までは説明できませんよね。異能者の話もありますけど、セラさんは古代エルフの子孫ですか?」


「うーん……私の両親や祖先については、詳しく知らないんですよね。転生してから、あまり深く調べていませんでした」


 セラは、少し気になっていることを口にする。


「実は……私の両親について、あまり知らないんです。幼い頃に、両親とは離れて暮らすようになって……」


 アリアは、少し驚いたような表情をする。


「えっ……そうだったんですか?」


「うん。長老に育てられたと思っていたんですけど、実は……詳しいことは覚えていないんです。転生前の記憶がある分、そっちの記憶と混ざって、よくわからなくなってて」


(二つの記憶が混ざっているのは、割と深刻な問題だ。どこまでがセラ・ウィスパーウィンドの記憶で、どこからが俺の記憶なのか、境界が曖昧になってきている)


「それは……調べた方がいいかもしれませんね。ご両親のこと、自分のルーツのこと」


「うん、そう思います。長老に聞いてみようかな」


 セラは、決意を新たにする。


「でも、まずは……これらの文献をもう少し詳しく調べてみましょう」


 二人は、再び文献を読み込むことにした。


 夕方になり、図書館の中はオレンジ色の光に染まる。


「だいぶ情報は集められましたね。あとで整理する必要がありますが」


 アリアも、少し疲れた様子で頷く。


「はい。でも、手がかりはいくつか見つかりましたよね。古代エルフの異能者、魂の繋がり、それに……セラさんの両親やルーツについての謎」


「うん。これらを繋ぎ合わせていけば、私の魔力の秘密に近づけるはずです」


「長老に相談する前に、まずは私の両親について調べてみようかな。長老なら、何か知っているはずだし」


 アリアは、少し真剣な表情でセラを見る。


「セラさん……。もしかしたら、長老はすでに全てを知っているかもしれませんよ。セラさんのこと、両親のこと、それに魔力の秘密について」


「そうかもしれませんね。……でも、聞かなきゃ始まらない。今夜、長老を訪ねてみようと思います」


「はい。私も、一緒に行きます。セラさん一人じゃ、不安ですし」


「ありがとう」


## 長老との対面


 夜が更けた。


 セラとアリアは、長老の家を訪ねた。


 長老の家は、村の少し外れた場所にある。古木に囲まれ、静かな佇まい。灯りが灯っているのを確認し、セラは扉をノックする。


(緊張する。自分の正体に関わる問いを、相手が答えを持っているかもしれない人間に投げかける。そういう状況だ)


「長老、今夜はお時間よろしいでしょうか? セラとアリアです」


 少し間があって、扉が開く。


 長老が、穏やかな表情で二人を迎える。


「ああ、セラ、アリアか。夜分にわざわざ、どうしたんだね?」


 長老の家の中へ通される。部屋には、古い文献や巻物が散らばっている。長老は、何かを研究している最中だったようだ。


「実は……今日、訓練中に私の魔力が暴走しそうになったんです」


 セラは、今日の出来事を説明する。


「アリアが鎮めてくれたのですが、その際、私の魔力についてもう少し詳しく知りたいと思うようになって。で、図書館で文献を調べてみたんです」


 セラは、手元に持っていた『異能の系譜』を長老に見せる。


「この本に、古代エルフの「異能者」という人たちの記述がありました。特殊な魔力を持つ者たちがいて、その中には感情が高ぶると魔力が増幅する者もいたと……」


 長老は、その本をパラパラとめくる。


「ふむ……。これは、貴重な文献だね。古代エルフの異能者について、かなり詳しく記述されている」


 長老は、セラを静かに見つめる。


「そして、お前は自分のことが重なったのだろう?」


「はい。……長老、私の両親について、何か知っていますか? あるいは、私の魔力について、何かご存じのことは……?」


(単刀直入に聞く。遠回しにしても時間の無駄だ。自分の正体に関わる問題だから)


 長老は、少し沈黙する。


「……そう来るとは分かっておったが、やはりこの時が来たか」


 長老は、深く息を吐く。


「セラ。お前の両親については、あまり多くを語れない。だが、一つだけ言えるのは……お前の両親は、特別な存在だったということだ」


「特別な、存在?」


「ああ。通常のエルフとは、少し違っていた。……魔力に関してだ」


 長老の言葉に、セラの心臓が早鐘を打つ。


「私の両親は、特殊な魔力を持っていたんですか?」


「……その可能性は高い。だが、詳しいことは語れない。まだ、時期尚早だ」


 長老は、少し残念そうに言う。


(「時期尚早」。……今は苛立ちよりも、意味が分かる。全部を知る前に、準備が必要な時がある。受け入れよう)


「でも、一つ言えるのは……お前の魔力は、お前自身の力だということだ。与えられたものでも、偶然の産物でもない。お前が持ち、お前が制御すべき力だ」


 長老は、セラの目を見つめる。


「異能者の記述にもあった通り、特殊な魔力を持つ者は、制御に苦労する。だが、それは単に制御が難しいからだけではない。その力を理解し、受け入れ、自分のものにしていないからだ」


「自分のものにする、ですか?」


「ああ。お前の魔力は、お前の一部だ。拒絶するのではなく、受け入れろ。そして、自分の意志で制御するんだ」


 長老は、アリアにも視線を向ける。


「そして、アリア。お前は、セラにとって重要な存在だ。魂の繋がりを持つ二人として、互いに支え合いながら、この力を理解していくといい」


 アリアは、真剣な表情で頷く。


「はい、承知しました」


「だが、注意しなければならないことがある。お前の力は、まだ完全には覚醒していない。これからさらに成長し、変化していく可能性がある。だから、慎重に、少しずつその力を理解していく必要がある」


 覚醒。


 セラは、その言葉に戦慄と興奮を同時に覚える。まだまだ、自分の力を理解しきっていない。これから、さらに何かが起きる。


「長老……私の力は、最終的にどうなるんですか? 私の魔力は、何のためにあるのか……」


 長老は、少し微笑む。


「それは、お前自身が見つけることだ。力の意味は、使う者が決めるものだ。お前がその力をどう使い、何のために役立てるか……それが、お前の力の意味を決める」


(「力の意味は、使う者が決める」。シンプルだが、重い言葉だ。誰かに決めさせるより、自分で決める。それだけのことが、なぜこんなに難しいのだろう)


「……わかりました。慎重に、少しずつ調べていきます」


 長老は、満足そうに頷く。


「そのことだ。私も、分かる範囲で協力しよう。だが、すべてを語れるわけではない。時期が来れば、すべてが明らかになる。それまで、焦らずに……な」


 セラとアリアは、長老に感謝して告げる。


 長老の家を出て、夜風に当たる。


「……なんか、分かったような、分からないような、ですね」


(得た情報を整理すると:長老はセラの特殊性を知っている、両親は特別な存在、力はまだ覚醒の途中。……前進はした。それは確かだ)


「はい。でも、少しは前進できたと思いますよ。セラさんの両親が特別な存在だったこと、そしてセラさんの力はまだ覚醒の途中であること……それを知れただけでも、大きな収穫です」


「うん、そうだね。……まずは、自分の力を理解することから始めよう」


「アリア」


 セラが、彼女の名前を呼ぶ。


「はい?」


「これからも、よろしくね。私の力を、一緒に理解していってほしい」


 アリアは、少し照れくさそうに、でも幸せそうに笑う。


「はい! もちろん。セラさんと一緒なら、何だって乗り越えられると思います」


 二人は、互いの瞳を見つめ合う。月明かりが、二人の影を長く伸ばす。


## 深まる謎


 セラは、自分の部屋に戻り、ベッドに横たわる。


 天井を見つめる。


 今日の出来事が、頭の中を駆け巡る。訓練中の魔力の暴走、図書館での発見、長老との対話。


「古代エルフの異能者……魂の繋がり……覚醒……」


 セラは、独り言のように呟く。


(自分の体に、特別なものが混じっているという長老の言葉。両親は特別な存在だったという示唆。全てが繋がり始めている。……この世界で俺は、ただの転生者じゃないらしい)


「俺は、何者なんだ」


 セラは、自分の問いを反芻する。


 転生した異世界人。エルフの体を得た者。異常な魔力を持つ者。


 すべてが、まだ謎に包まれている。


(でも、一つだけ確かなことがある)


「この世界で、生きる」


 セラは、拳を握る。


「楽しめ、と言われたんだからな。全力で生きて、この力を理解して、何かの役に立てばいい」


(謎があるということは、まだ知れることがあるということだ。怖くない。むしろ——少し楽しみだ)


 セラは、目を閉じる。


 明日はまた、新たな一日だ。訓練も、調査も、続けていく。


 自分の力の秘密に迫る旅は、まだ始まったばかりだ。


 セラは、静かに眠りへと落ちていった。


 夜は更け、シルヴァニアの森は静寂に包まれていく。


 だが、その静寂の下で、何かが静かに動き出しているのを、セラは眠りの中でも感じていた。


 自分の魔力が、何かに呼応している感覚。それは、まだ完全には理解できないけれど、確かに存在している。


「明日から、もっと調べよう」


 セラは、眠りの中でそう決意する。


 自分の力の秘密に迫る旅は、まだ始まったばかりだ。そして、その旅は――アリアと共に歩む旅でもある。


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