↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
129/141

第129話 闇の森の入り口

# 第129話 闇の森の入り口


# 第129話 闇の森の入り口


## 森の入り口


「ここ……か」


 セラは足を止めた。


 目の前に広がっているのは、見たこともないような不気味な光景だった。


 黒い木々が無数に立ち並び、その枝は空を覆い隠すほどに伸びていた。まるで巨大な怪物の爪のような枝が、空を切り裂こうとしている。太陽の光が届かないのか、森の中は深い闇に包まれている。夕暮れの空気とは思えないほど冷たい風が、森の奥から吹き付けてくる。


 その風には、ただの冷たさだけではない。何かが肌を這うような、不快な感覚が含まれていた。粘りつくような重さで、息を吸い込むたびに魔力が体内に侵入してくる気がした。


(……RPGのラストダンジョンってこんな感じか。実際に足を踏み入れるのは初めてだ。ゲームと現実は違う——違うんだが、なんでこんなに見た目が似てるんだ。この世界、テンプレート使ってる? 制作者に問い合わせたい)


 足元の土は、外の街道と色が違った。黒い。深く沈み込んだ黒で、枯れ葉も同じ色に染まっている。踏みしめると、じっとりと湿った感触が靴底越しに伝わってきた。


「うう……」


 アリアがセラの袖をぎゅっと握った。彼女の小さな体が震えているのが、服越しに伝わってくる。


「怖いですね、ここ……」


「ああ。確かに、悪い予感がする」


(そして俺も、若干怖い。でもそれを言ったら全体の士気が下がるので言わない。リーダーとは時として強くあらねばならない。強い振りをするのも仕事のうちだ)


「ここが、いわゆる『闇の森』……」


 ミサトが剣の柄に手をかけ、警戒しながら森の入り口を見つめた。眉間に深い皺が刻まれ、全身に緊張が張り詰めているのが分かる。


「何かが潜んでいそうです。気配を感じませんか?」


「気配……というより、圧が違うな。空気中のマナの濃度が、外と比べ物にならないくらい濃い」


 セラは皮膚を流れる魔力の感覚に意識を向けた。確かに、ここでは魔力が通常より活発に反応している。まるで、森自身が呼吸しているかのように。


 それだけじゃない。魔力が単に「濃い」のではなく、何か意思のようなものを持っている気がした。押し寄せてくる。自分の体の中の古代エルフの魔力に呼びかけてくる。


(まるで、森が生きているみたいだ……。いや、植物は生きてるんだが。普通の植物の「生きてる感じ」とは全然違う。もっと意思があるような。「やる気がある植物」か。植物のやる気は怖い。相当怖い)


 普通の冒険者なら、こんな場所で魔力の乱れを起こして気絶する。でも、自分は平気だ。いや、むしろ魔力が活発になりすぎている感覚がある。これが古代エルフの魔力と関係しているのか——


「マナの濃度……ですか?」


 アリアが不安そうに尋ねた。


「私、あまり感じませんけど……」


「それが逆に怖いところだ。アリアは魔力の感覚が鋭いのに、ここでは感じ取れない。つまり、森の魔力が濃すぎて、逆に感知できていないんだと思う。飽和してると、センサーが機能しない」


「えっ、そ、そうなんですか……?」


 アリアはさらに身を縮めた。捨てられた子猫のように小さく見える。


(アリアが怖がってる。当然だ。俺も怖い。でも俺が怖がってたら、誰がここをまとめるんだ。そういう役割というのは、気づいたら引き受けてることになってる。本人の意思とは無関係に)


「ミサト、何か見える?」


「……木が、こちらを向いているような気がします。錯覚でしょうか」


「錯覚だと思う。でも、感覚は正直かもしれない。この森は、見る者に何かを見せようとしてる。そういう性質を持った場所だ」


「セラさん、正気ですか? こんな場所に入るなんて!」


 ミサトが強調するように言った。彼女の瞳には、本気の困惑と心配が浮かんでいた。


「行くんですか? 本当に……」


 アリアが不安そうに尋ねた。恐怖と信頼が入り混じったような光が瞳に宿っている。



## 入る決意


「行くよ」


 セラは短く答えた。


「えっ!?」


「危険じゃありませんか! だって、見てくださいよあの森! 明らかにヤバいって!」


「分かってる」


「分かってて行くんですか!」


「ミサト、声が大きい。魔物に聞こえる」


 ミサトは口を閉じた。でもその目は、まだ「本当に行くの?」と訴えている。


「なぜ、行く必要があるんですか」ミサトが今度は低い声で言った。「古代エルフの遺産とやらは、本当にここにあるんですか?」


「確証はない。でも、可能性はある。魔界に来たことも、こんな森があることも、俺の体に古代エルフの力が宿っていることも——全部繋がってる気がする」


(自分が何のために存在してるのか——それを知りたい。知らないまま戦い続けるのは、なんとなく嫌だ。そういう感覚だ)


「気がする、か」ミサトは少し考えた。「でも、カズヤさんの直感、今まで外れたことはなかった」


(ミサトが俺を信頼してくれてる。それが、嬉しい)


「でも……」


 ミサトも言葉を詰まらせた。


「私もセラさんの状況は理解しています。でも、これほどの危険を冒してまで、調べる必要が? 遺産がなくても、カズヤさんは十分強い。今のままでも、充分生きていけると思う」


「生きていけるだけじゃ、足りない気がするんだ」


 セラは正直に言った。


「自分の転生の意味——それは、この世界に関わる大きな何かと繋がっている気がする。それを知らずに、ただ安全に暮らしていいのか。俺は、それが分からなかった」


 ミサトは沈黙した。彼女も騎士として、世界の命運に関わる問題を「気にしない」とは言えないことを知っていた。


「……私たちはセラさんについていきます」


 ミサトが静かに言った。いつもの「フン」がない。本気の同意だ。


「私も行く。セラが行くなら、私も行きます。でも、絶対に無理はしないでくださいね!」


 アリアも頷いた。その手がセラの袖をもう一度強く握った。


「みんな……」


「ありがとう。絶対に、みんなを守り抜く。もし危険だと感じたら、すぐに撤退する。それでいい?」


「はい!」


「了解です!」


「それじゃあ、行こう」


 セラは覚悟を決めて、闇の森への入り口に足を踏み入れた。


 一歩ずつ、一歩ずつ進むたびに、周囲の空気が変わっていく。


 最初は不気味な静寂だけだったが、森の中に入ると、五感がおかしくなり始めた。視界が時折歪み、耳に聞こえないはずの声がするような錯覚に襲われる。


(何かがおかしい。空気中のマナが、自分の魔力を刺激している……)


「あうっ……」


 アリアが小さな悲鳴を上げた。


「どうした?」


「な、何かが……足に触れたような……」


 アリアは自分の足元を恐る恐る見た。でも、そこには何もない。ただの黒い土と枯れ葉が広がっているだけだ。


「五感が狂わせられてる。この森はそういう力がある——気にしないようにして」


「そ、そうですか……」


「セラさん、大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。……たぶん」


(「たぶん」って言ったら不安にさせるかな。でも、嘘はつけない。確実に大丈夫かどうか、正直俺にも分からない)


 ミサトが剣を抜きながら警戒していた。


「私も……何かが見えているような気がします。影が動いているような……」


「幻覚だ。気にするな。実態はない」


「気配が変わりました。何かが近づいているような……」


「魔物か?」


 三人は警戒を強めながら進んだ。地面には湿った落ち葉が積もり、踏むたびに水が滲み出すような感触。木々の根が蛇のように地表を這い巡り、つまずきそうになる。


「足元、気をつけて。根が張ってます」


「……ありがとう」


 アリアに支えられながら進む。彼女の小さな体の温かさが、横から伝わってくる。


(アリアが近い。この暗い場所で、彼女の存在だけが温かく感じられる)


「根、多いね」アリアが言った。「つまずきそう」


「気をつけて」


「セラこそ。幻覚みたいの、また出たら怖いよ」


「また出たら、今度は俺が呼びかける前に、アリアが手を握ってくれると助かる」


「分かった」アリアはしっかりと頷いた。「セラが少しでもふらついたら、すぐ握る」


(頼もしすぎる。アリアがいる。それだけで、続けられる)


「みんな、手を繋いで進もう。はぐれたら危険だ」


 セラが提案した。


「はい」


 アリアがすぐにセラの手を取った。小さく、でも温かい。


「ええ、いいでしょう」


 ミサトも同意した。


 三人は繋がったまま、森の奥へと進んでいった。


 しばらく歩くと、木々が密になってきた。頭上の枝が重なり合い、わずかな星明かりすら届かなくなってきた。完全な暗闇に近くなる。セラは光魔法を展開した。小さな光球が宙に浮かび、三人の周囲を照らす。


「こんなに暗いの……自然界にあっていいの?」アリアが光球を見上げながら言う。


「自然界の基準が、魔界では違うから」セラは答える。「光が届かなくても生きていける生態系が、ここには存在してる」


「魔獣とか?」


「魔獣も植物も。眼がなくても生きていける種がいる。反響波とか魔力波で周囲を把握するやつも」


「……知りたくなかったかも」アリアが少し身を縮めた。


「まあ、知っておいた方が動きやすい。ブラックボックスより、中身が分かってる方が使いやすい。そういうことだ」


「ミサト、後方は?」


「今のところ、気配なし」ミサトが低い声で答えた。「でも、正面がよく見えない。光魔法の範囲が、あまり届いていない気がする」


「光が吸収されてる。この森の闇は、単純な暗さじゃない」


 光球を少し大きく展開してみた。だが、光が広がる前に、黒い空気に飲み込まれていくような感覚がある。10メートル先はすでにほぼ見えない。20メートル先は完全に闇だった。


「……不思議ですね」アリアが光球を見上げる。「光が弱まってる感じがする」


「弱まってるんじゃなくて、吸収されてる。闇の属性を持つ場所では、光属性の魔法が効きにくい。光と闇は対になってるからな」


「じゃあ、私の回復魔法は?」


「回復魔法は光属性の変形だから、同じように弱まる可能性がある。使えないわけじゃないが、効率が落ちるかもしれない。念頭に置いておいて」


「わかりました……」アリアが少し青ざめた。


「だから怪我しないよう気をつけよう。慎重に行く」


「俺の光魔法を少し広げる。待って」



## 幻覚


 そして、森のさらに奥へと進んだ瞬間だった。


「っ……!」


 セラの視界が激しく歪んだ。


「セラさん!?」


 アリアの声が遠くから聞こえるような気がした。


 違う。


 目の前に広がっているのは、見覚えのある光景だった。


 アスファルトの道路。信号機。ビルの群れ。


 そして、自分が運転していた乗用車。


「え……っ?」


(ここは異世界のはずだ。エルフの体をしているはずだ。なのに、なぜこんなに鮮明に蘇るんだ?)


 目の前に広がるのは、日本の街角。平日の朝。出勤ラッシュ。


 信号機が赤から黄色へ、そして青へと変わる。


 スーツ。革靴。コーヒーのカップ。助手席に置いた鞄。


 今日の会議の資料を頭の中で確認していた、あの朝。


「よし、出社だ」


 心の中でそう呟いた瞬間だった。


 横から猛スピードで走ってきたトラックが、信号を無視して突っ込んでくる。


「っ……!」


 避ける間もなかった。


 衝撃。世界が回転する。痛み。闇。


 そして、あの声。


『次は楽しめ』


(あの声……あの日、聞いた声だ……)


「うああああっ!」


 セラは膝をついて、頭を抱えた。


「セラさん! セラ!?」


 アリアの声が、遠くから響く。


 頭が割れそうな痛み。記憶が、フラッシュバックのように次々と蘇る。


 毎日の満員電車。上司の小言。終わらない残業。帰宅して誰もいない部屋。


 スーパーで弁当を一つだけ買う。テレビをつけたまま食べて、画面を見ていない。誰かに「今日どうだった?」と聞かれることもなく、「別に」と答えることもなく。ただ、時間が過ぎていく。


 誰かと食事をした記憶が、驚くほど少なかった。


 楽しかった記憶が——


(……どれくらいあったんだろう。ちゃんと数えたことがなかった。数えるまでもなかったと思っていた)


 そして、事故の瞬間。


 信号が青になる。アクセルを踏む。横から影。


(あの日、死んだんだ。意識が途絶える直前、何が頭に浮かんだっけ。後悔だったか。諦めだったか。——それすら、よく思い出せない。思い出せるほど、鮮明に何かを考えていなかった)


 頭の中に、声が響いた。


『次は楽しめよ』


 優しい声だった。性別も年齢も判然としない。でも温かみがある。怒っていない。責めていない。責任を問うわけでも、慰めるわけでもなく。ただ、そう言っていた。一言だけ。


(転生させた存在? それとも——自分自身の、どこかの声? それとも、ただの走馬灯?)


(29年間、楽しみ切れなかった俺への——「次はもっとちゃんと楽しんでいい」という、許しのような言葉だとしたら)


 その解釈が正しいかどうかは分からない。でも、あの声に悪意はなかった。


(今は、楽しんでるか? ……楽しんでる。怖いけど、怖い中に面白さがある。アリアがいる。ミサトがいる。誰かのために動いている。誰かを守りたいと思っている。——それは、確かに以前とは違う)


「セラ!!」


「セラ!!」



## 正気への戻り


 温かい何かが、自分の手を握った。


「!」


 その瞬間、頭の中のノイズが消えた。記憶のフラッシュバックが止まった。痛みが和らぐ。


 視界が戻っていく。


 目を開けると、そこにいたのはアリアだった。


 彼女は心配そうに涙ぐみながら、セラの手を両手でしっかりと握りしめていた。


「セラさん、大丈夫ですか? さっきから呼んでも応答がなくて……」


 アリアの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちていた。


「ああ、大丈夫だ。アリア、ありがとう」


 セラはアリアの涙を、親指で優しく拭い取った。


「セラさん……」


 アリアは嗚咽し、セラの胸に顔を埋めた。その肩が小さく震えている。


「大丈夫だよ。もう、大丈夫だ」


(……アリアがいたから、正気に戻れたんだ。手の温かさが、俺を現実に引き戻した。それよりもっとシンプルに。アリアがいてくれたから、戻れた)


 セラはアリアの背中を、静かに撫でた。


 アリアの温かさが、心を落ち着かせていく。


「アリア……」


「はい、大丈夫です。たぶん」


(……「たぶん」って俺のセリフをそのまま返してきた。アリアも不安なんだろうな。でもこういう時に「たぶん」と正直に言えるのが、アリアらしい。律儀だ)


 ゆっくりと立ち上がった。足が少しふらついたが、アリアが支えてくれた。


「よかった……」


 アリアは安堵のため息をついて、セラの腕にすがりついた。ぴったりと寄り添うように。


「セラさん、さっきは一体どうしたんですか? 突然膝をついて……」


「この森の影響だ。幻覚を見た」


「幻覚?」


「ああ。死んだ瞬間を——事故を、もう一度体験したような感覚だった。いろいろなことが鮮明に蘇って」


(……話さないとアリアが心配し続ける。でも全部話す必要はない。要点だけ)


「……事故?」


 アリアは少し驚いたような表情をしたが、すぐに理解を示した。


「この世界に来る前のことですね」


「ああ」


「辛かったでしょう。ごめんなさい、すぐに気づけなくて」


「いや——アリアが来てくれたから、ちゃんと戻れたんだ。責任はない。むしろ感謝してる」


「古代エルフの遺産と、何か関係があるんでしょうか?」


「……多分。この森はただの自然の場所じゃない。何かが、意図的にここにある気がする」


 少し離れていたミサトが、心配そうに近づいてきた。


「セラさん、大丈夫でしたか? 呼びかけても反応がなかったので……」


「ああ、大丈夫だ。アリアのおかげで」


「私の……おかげで?」


 アリアはきょとんとした。


「ああ。手を握ってくれたから、正気に戻れた」


 セラはそう言って、アリアの手をもう一度握り返した。


 温かい。確かな体温。


(アリアが近くにいると、魔力が安定するだけじゃない。心も安定する。気がついたらそうなっていた。気がついたら彼女がいないと、不安になっていた)


「へへっ、嬉しいです。セラさんの役に立てて」


 アリアは照れくさそうに微笑んだ。この暗い森の中で、その笑顔だけが本当に明るかった。


「でも、セラさんが倒れた時、本当に怖かった」アリアがぽつりと言う。「呼んでも聞こえてなくて。何もできなくて」


「手を握ってくれたじゃないか」


「それだけだよ。何も——」


「それで十分だ」セラはアリアの目を見た。「アリアが手を握ってくれなかったら、どこで彷徨っていたかわからない。本当に」


(温もりって、すごい。手を握るだけで救われる——というのが本当だとは思わなかった。理屈じゃない。体が知ってた)


「……じゃあ、もっとしっかり握る。もっと強く」アリアがぎゅっと力を込めた。


「いたい」


「ごめん」アリアが力を緩める。


「……ちょうどよい力加減だ」セラが小さく苦笑した。「ありがとう」


「でも、これでは進めませんよね」ミサトが真剣な顔で言う。「セラさんが幻覚を見るようじゃ」


「アリアが近くにいると、幻覚の影響を打ち消せる感覚がある。彼女と常に接触を保ちながら進めばいいと思う」


「アリア、手を繋いでいてもいい?」


「えっ? あ、はい! もちろんです!」


 アリアは顔を赤くしながら、セラの手をしっかりと握り直した。その手は、小さくて、でも温かい。


「よし。みんな、警戒は緩めないで。魔物が出る可能性がある」


「はいっ!」


「了解です!」


 三人は歩き出した。今度はアリアが最初からセラの手を繋いだまま、一緒に歩く。


「……この森が見せてくるもの」ミサトが静かに言う。「辛いでしょうけど、向き合ってみる価値はあると思います。カズヤさんにとって重要な何かのはずです。最初からそこに連れていこうとしている気がします、この場所は」


「ミサト、珍しい。そういうことをはっきり言うの」


「時々はまともなことを言えるのよ」ミサトが少し得意げな顔をした。「あの記憶が答えを持ってるなら——それを知ることが、カズヤさんの力の秘密に繋がるかもしれない」


「……そうかもしれない」セラは頷いた。「向き合ってみる。でも、アリアがいないと無理だ」


「いる」アリアがきっぱりと言った。「絶対に、ここにいる。絶対に離れない。握ってるから」


(二人がいる。それだけで、続けられる。人は一人じゃ、ここまで来られない。それは本当のことだ)


 アリアの手の温もりを感じながら、セラは前へと進む。


 転生の意味。死の瞬間に聞こえた声。古代エルフの遺産。


 すべての謎が、この森の奥にある——という確信が、静かに胸の中に根を張っていた。


「行こう」


 セラは短く言って、一歩を踏み出した。


「ね、セラ」


「何?」


「さっきの幻覚で見たこと——死ぬ前のこと——辛くなかったですか?」


(……アリアが心配してる)


「辛くないとは言えないな」


「そうですよね」アリアは少し考えるように沈黙した。「でも。戻ってきてくれてよかった。本当に」


「アリアが手を握ってくれたからだ。ありがとう」


「……もっとはやく握ればよかった。気づくのが遅くて」


「十分だった」セラは繋いだ手を少しだけ強く握った。「十分すぎるくらい」


 アリアの指が、静かに握り返してくる。小さな手。でも確かな力がある。


 アリアの手が、しっかりと自分の手を握り返してきた。その温もりが、胸に染み渡る。


 闇の森の深い闇の中へ、三人の足取りが静かに消えていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。