第127話 古代エルフの遺産の手がかり
# 第127話 古代エルフの遺産の手がかり
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朝の光が洞窟の入り口から差し込んでいる。魔界の朝は紫色の空色に染まっていた。
(……異世界の夜明けはいつ見ても慣れない。空の色が、知っているどの空とも違う)
カズヤは目を覚まし、まず天井の岩肌を見た。横ではアリアが静かに寝息を立てている。金色の睫毛が長く伸びて、寝顔が無防備にすぎる。
(ここで良からぬことを考えない俺は、人格者だと思う。この世界に来た甲斐があった)
「おはよう」
アリアも目を覚ました。寝起きの声は少しぼんやりとしていて、目が半分しか開いていない。
「えへへ……おはよう、カズヤ」
「ミサトは?」
「もう起きてる。外で素振りしてるよ」
洞窟の入り口へ向かうと、ミサトが真剣を持って優雅かつ力強い動きで剣を振っていた。朝の魔界の空気の中、銀色の鎧が微かに光っている。
「おはよう、ミサト」
「あ、おはよう。起きたのね」
ミサトは剣を下ろし、汗を拭いた。
「昨日は大変だったわね。ルナ姫との話」
「ああ。意外といい話ができたと思う」
「そっか……カズヤがそう言うなら、きっとそうなのね」
ミサトは少し照れくさそうに言った。フン、とも言わずに素直に認めるとは。調子が狂う。
(……今日のミサト、なんか素直じゃないか。昨日何かあったのか。まあ、気にしない方向で。気にしすぎると疲れることを、俺はよく知っている)
「アリア、教えてよ。昨日、集落で情報を集めてたんでしょ?」
洞窟から出てきたアリアに声をかける。
「うん! 実はね、カズヤが変装して偵察してる間、私たちも色々聞いてたんだよ」
「何か気になる話を?」
「一つだけ、かなり気になる話を聞いたわ」
アリアは少し声を潜めた。
「『闇の森』に、古代の遺跡があるという噂」
「闇の森?」
「うん。魔族の集落から北に約三日ほど行った場所にある、暗い森。魔族の人たちもあまり近づかない場所らしいの」
カズヤの心が速まった。
(古代エルフの遺産。この世界の歴史の深さを考えると、千年単位の時間が関わっているはずだ)
「どんな遺跡?」
「詳しくは分からないの。昔、偉大な魔法使いが住んでいたという伝説があるらしくて。その魔法使いは人間でも魔族でもない、別の種族だったと」
「別の種族……」
エルフの森で長老から聞いた話が浮かんだ。古代エルフ。かつてこの世界を支えていた強大な魔法使いたち。そして、突然滅亡した。
「カズヤ、何か心当たりがあるの?」
ミサトが鋭い視線で見た。
「ああ。エルフの森で長老から聞いた話がある。古代エルフは非常に強大な魔力を持っていて、感情と魔力を直結させていたと」
「感情と魔力を直結させる……って、カズヤと同じじゃない?」
「……確かに」
自分の体に意識を向けた。皮膚の下を流れる魔力。感情が高ぶると、その流れが速くなる感覚。
「もしかすると、カズヤは古代エルフの能力を受け継いでいるのかもしれないわね」
アリアの言葉に、カズヤは首を縮めた。古代エルフ。転生。覚醒。すべてが繋がっているような気がした。
(……俺の体の秘密と、千年前の存在が繋がっているとしたら——それは偶然じゃないはずだ)
「でも、遺跡って確実にあるの?」ミサトが現実的に問う。「噂だけなら、空振りもあり得るよね」
「あるかどうかは行ってみないと分からない」カズヤは認める。「でも、俺の体の感覚として——何かある気がする。古代エルフの痕跡に、このエルフの体が反応してるような」
「感覚頼りか」ミサトが苦笑する。
「騎士の本能、ってやつでしょ」アリアが言う。「ミサトちゃんだって、敵の動きを感じる直感があるじゃない。カズヤのは魔力の直感」
「……まあ、そういう見方もあるか」ミサトが渋々認める。
(ミサト、アリアに言われると素直になる傾向がある。誰の言葉が届くかというのは、信頼関係による。それはこの世界でも変わらない)
「行ってみる? 『闇の森』」
ミサトが即座に提案した。
「え、本当に? 危険かもしれないよ」
「だって、カズヤにとって重要な手がかりかもしれないじゃない。カズヤが知りたいことなら、私も付き合うわよ」
「私も!」
アリアも手を挙げた。
(……この二人は、本当に俺のことを心配してくれているんだな)
学園に入ったばかりの頃とは、何もかもが変わった。孤独だと感じていたあの頃と、今の俺とでは、持っているものが全然違う。頼れる仲間。本物の絆。それが、今俺の隣にいる。
「でも、本当にいいのか」カズヤが改めて言う。「危険だぞ」
「分かってる」ミサトが即座に言う。「でも、あなただけ行かせて私が後ろで待ってる、なんてできないわよ。それが騎士の誇りに反する」
「誇り、か」
「カズヤのそばにいるのは、私の誓いでもある」ミサトが少し低い声で言った。「学園で試験に合格したあの日から、ずっとそう思ってる」
(ミサトって、本当に誇り高い。こんなに誇りを持って生きている人間が——いや、この場合は人間じゃないが——そのそばにいてくれる。それはどれほど心強いことか)
「……ありがとう、ミサト」
「お礼は後でいいわよ。今は準備を進めましょ」
(自信を持って、どーんと構えていい——ミサトの態度が、そう言っているようだった)
「ありがとう。本当に、ありがとう」
「……照れるなよ」
ミサトは少し赤くなって、そっぽを向いた。
「俺、こういうことを言えない人間だった時期があるんだよ」カズヤが呟く。「感謝を言えない。素直に喜べない。そういう人間だった」
「でも今は言えてるじゃない」アリアが言う。「それは、変わったってことだよ」
「転生のせいか、ここでの経験のせいか」
「どっちでもいい」アリアが笑う。「今のカズヤが、ちゃんと言える人になった。それだけのことだよ」
(アリアって、本当にポジティブだな。このポジティブさは、生まれつきのものなのか経験で培われたものなのか。どちらにせよ、俺には眩しい)
ルナのこと
「それでね、カズヤ」
三人が洞窟の中に戻り、焚き火の残り火の周りに座ったところで、アリアが少し意地悪な顔をした。
「昨日のルナ姫の話、もっと聞かせてよ。なんかカズヤ、ずいぶん長く話してたじゃない」
「あー……そうだな。彼女、本当に孤独だったんだ。上級魔族として生まれたけど、魔力が強すぎて他の魔族から恐れられている」
「それは、カズヤと同じね」
「え?」
「カズヤも異常な魔力量を持ってるでしょ? 最初、私も少し怖かったよ。そんなに魔力が溢れているなんて」
「怖かったのか……」
「うん。でも、すぐに分かったの。カズヤは優しい人だって。魔力が強くても、心は優しいって」
アリアはカズヤの手を握った。温かい。
(……アリアのやつ、こういうことを本当に自然に言う。照れているが、話題を変えないようにしている。それが精一杯の変化だ)
「ルナも、きっとそうなのよ。強い魔力を持ってるから、孤独を感じてる。でも、心は優しいはず」
「彼女は人間の冒険者を助けたんだ。18歳未満の少年だったから、逃がしてやったと言ってた」
「そういうことね。彼女、悪い人じゃないみたいね」
ミサトも納得したように頷いた。
「でも、敵対関係は変わらないわよね?」
「一時的な休戦を約束したけど……魔族全体の人間への敵対心は消えてないはずだ」
「そっか。気をつけないとね」
ミサトは少し警戒心を見せた。そして。
「ねえ、カズヤ。ルナ姫のこと、どう思う?」
「え、どうって?」
「だって、二人とも強い魔力を持ってる。孤独を感じてる。人間界に興味を持ってる。なんか、共通点が多くない?」
「……確かに」
「カズヤは、ルナ姫のことが好きなの?」
ミサトが鋭く聞いてきた。
「えっ!? な、なんでもないよ! ただ、同情したってだけだよ!」
「あら、慌ててるわね」
「慌ててない!」
「カズヤ、可愛いところあるね」
アリアがクスクスと笑った。
「笑わないでよ」
「だって面白いもん。カズヤが動揺するの、珍しいから」
「俺だって動揺する。人間だ——いや、エルフだけど」
「でも」アリアは少し真剣な顔になった。「ルナさんのこと、私も気になるよ。どんな子なのかな、って」
「どんな……かな。高慢で、すごく強くて、でも——一人でいるのが当たり前みたいな顔をしてた」
「一人でいるのが当たり前」アリアが繰り返す。「それって、寂しいね」
(アリアの共感力はすごい。一言言っただけで、ルナの本質を言い当てた)
(……なんで俺がからかわれてるんだ。休戦の交渉に行っただけなのに。まあ、こういう掛け合いが三人でできること自体が、俺には宝物だ)
「からかわないでよ」
「まあ、いいわよ。カズヤが誰を好きだろうと、私は応援してるから」
アリアは優しく微笑んだ。その屈託のなさが、時々俺を困らせる。
「……俺が誰かを好きでも、応援できるの?」
「できるよ。カズヤが幸せならいいの」
「……アリアは強いな」
「えへへ、そうかな? でもセラと一緒なら、なんでも平気だよ」
(この子のこういうところが……いや、今はそういう話をしていない。後で考えよう)
「とりあえず、ルナのことは時間をかけて考える。今は『闇の森』への準備を優先しよう」
「そうね」
ミサトが剣の手入れをしながら頷いた。
出発の決意
昼を過ぎると、三人は本格的に出発の話し合いをした。
「やっぱり、『闇の森』に行くべきだと思う」
カズヤが改めて提案した。
「うん。カズヤの覚醒の手がかりがあるなら、絶対行くべきよ」
アリアが賛成した。
「私もいいわよ。ただ、注意しないとね。魔族の人たちでも近づかない場所なのよ? 危険がいっぱいあるはず」
ミサトは慎重な姿勢だが、反対はしない。
「分かってる。慎重に行こう」
「それに、ルナ姫との休戦が続くかどうかも分からないわよね?」
重要な指摘だった。カズヤとルナの個人的な約束であって、魔族全体との停戦ではない。
「そうだね。でも、行ってみる価値はあると思う」
「私たちはチームよ。カズヤが行きたいと言うなら、私も行くわ」
アリアが力強く言った。
「私も従うわよ。リーダーが決めたことなら」
ミサトも微笑んだ。
(こんなにあっさり、そしてこんなに力強く賛成してもらえる。それがどれだけ有り難いことか。守護隊の訓練でも、学園でも、誰かにこう言ってもらえることはなかった)
「ありがとう、二人とも」カズヤが言う。「本当に、助かってる」
「また言ってる」ミサトが苦笑する。「感謝ばかり言うのも、らしくないわよ。もっとどーんと構えればいいのに」
「どーんと構えろ、か」カズヤが苦笑した。「ミサトに言われるとは」
「意外なことくらい言えるわよ」ミサトがそっぽを向く。
(「自信を持て」——その言葉が、素直に刺さる。自信がないことを隠し続けてきた。でも今のミサトの言葉は、そういう俺に向けられたものだ)
「ありがとう。二人がいてくれて本当に心強い」
「……照れるなよってば」
ミサトはまたそっぽを向いたが、頬が少し赤い。
「地図も手に入れたわよ」
アリアが集落の長老から教わった手書きの地図を広げた。
「ここが集落で、北に進むと『闇の森』。約三日って書いてあるわね」
「三日か。長旅になりそうだ」
「魔物が多いって、警告のマークがいくつも」
ミサトが眉をひそめた。
「大丈夫だよ。私たちなら乗り越えられる。それに——」
カズヤは自分の両手を見た。掌に集まる魔力。
「二人が近くにいると、俺の魔力が安定するんだ。一人より、三人の方が絶対強い」
「なんか、カズヤちゃんのこと言い方」
アリアが少し笑った。
「魔力安定要因、でしょ?」
「そうじゃなくて、もっと普通に『大切な存在』とか言いなさいよ」
「……大切な存在だよ。二人とも」
「「……」」
なぜか二人とも黙った。そして同時に顔を赤らめた。
(……俺、何か変なこと言ったか? 普通のことを言った気がするんだが。感謝は素直に言うべきだと学んだ。それを実践しただけだ。なぜ二人が赤くなる)
旅立ち
「準備できたわね。出発しましょ!」
アリアがパンと手を叩いた。
「うん、行こうか」
カズヤは立ち上がった。洞窟の入り口から、夕方の魔界が見えている。紫色の空、二つの月、遠くに見える黒い森。
「私たちは一緒よ。三人で行きましょう」
アリアがカズヤの手を握った。
「三人で何でも乗り越えられるわ」
ミサトも手を重ねた。
三つの手が重なる。
(この三人で荒野を歩いていく。それが今の俺には、何よりも頼もしい)
「うん。三人で行こう」
三人は洞窟を出た。外はもう夕暮れだった。魔界の空は深い紫色に染まり、遠くには不気味なほどに暗い森が見えていた。
「あれが『闇の森』……」
ミサトが指差した。確かに、遠くに黒い森が広がっている。他の場所とは明らかに違う雰囲気だ。黒い。とにかく黒い。太陽の光を吸い込んでいるような、そんな暗さがある。
「遠く見えるけど、三日はかかりそうだね」
(三日間、魔界の荒野を歩く。若いエルフの体は、歩くことをほとんど苦に感じない。俺のこの体は、こういう旅のために作られているのかもしれない)
「三日か。途中で補給はどうする?」ミサトが実務的に聞く。
「集落で買い込んだ食料が五日分ある。水は感知魔法で見つけられると思う」
「魔界の水は大丈夫なの?」
「浄化魔法をかければ問題ない。学園でそれだけは習った」
「頼もしいわ」ミサトが言った。珍しく素直な言い方だった。
「でも、行くしかないわよね」
アリアがカズヤの隣に立った。
「カズヤの覚醒の手がかり。古代エルフの遺産。それが『闇の森』にある」
「うん。行こう」
カズヤは前を向いた。魔界の風が吹き抜ける。少し冷たいが、決意を固めるにはちょうどいい温度だった。
「それじゃあ、出発!」
カズヤが声を上げると、三人は一斉に歩き出した。
魔界の大地は赤茶色で、所々に黒い岩が突き出している。空は紫色で、二つの月がかすかに見えていた。風は少し冷たく、遠くからは何かの獣の鳴き声が聞こえてくる。
「ねえ、カズヤ。ルナ姫がテレパシーみたいな能力を持ってると思わない? 集落でも、カズヤが変装してるのを見抜こうとしてたって言ってたし」
「そうだな。上級魔族は特殊な知覚能力を持ってる場合がある。でも、それで変装を完全に見破れなかったということは——」
「ということは?」
「俺の変装魔法が、意外と優秀だったってこと」
「それは自画自賛では」
「謙遜しない。自分の魔法を信じることも、魔力の一部だ」
「なんか急に格好いいこと言った」
ミサトが呆れた顔で見ている。
「二人とも、警戒しながら歩いてよ。魔物が出るかもしれないんだから」
「了解、ミサト殿」
「殿ってつけないでよ!」
三人の言い合いが、夕暮れの魔界に響く。遠くには、暗く沈む『闇の森』のシルエットが見える。
(……三人でこんな掛け合いをしながら荒野を歩いている。それが普通になってきた。この「普通」が、俺には一番の宝物だ)
夜が近づいてきた。魔界の夜は暗く、星が輝いていた。人間界とは違う星座が見える。なんか、俺が知っている星座とは全然違う。当たり前だ。ここは異世界だ。
「今日はここで野営しましょ」
ミサトが提案した。テントを張り、焚き火を熾す。
「焚き火、私が付ける!」
アリアが手をかざすと、小さな炎が灯った。魔界の炎は紫がかっていて、光の色が少し違う。でも温かみは変わらない。
「カズヤ、ご飯食べてね。明日は早起きだし」
「うん。……魔界の食料は想像以上にうまいな。集落で買い込んでよかった」
「へえ」
アリアが興味深そうに聞いてくる。
「美食家だったの、カズヤ?」
「そうじゃないけど、良いものは良いと分かる程度には」
「前世の話、もっと教えてよ。カズヤの元の世界ってどんな感じなの?」
「……それは、また今度。今は休もう。明日は長い一日になるから」
「約束ね」
「ああ。約束だ」
(前世の話は今することじゃない。でも、いつかちゃんと話す日が来るかもしれない。アリアは受け止めてくれそうな気がする。この子は、どんな話でも笑いながら聞いてくれる)
焚き火を囲んで、三人は夜食をとった。
遠くには、暗く沈む『闇の森』のシルエットが見える。三日後、あそこに着く。何が待っているのか分からない。でも、二人がいれば——
「セラ」
アリアが静かに呼んだ。
「ん?」
「絶対に、みんなで帰ろうね」
真剣な瞳。その目に、火の明かりが映っている。
「ああ。絶対に」
「……うん。それだけ聞けたらいいや」
アリアは微笑んで、寝袋に潜り込んだ。
カズヤは空を見上げた。魔界の星は、人間界よりも輝いている。理由はわからないが、そう見えた。
(古代エルフの遺産。俺の覚醒の手がかり。そして、ルナとの不思議な縁。この旅が、何かを変えるはずだ)
(……まあ、腹が減っているのもまた事実だ。三大欲求には逆らえない。明日また、うまいものを食べたい)
カズヤは横を向いた。
「眠れない?」アリアの声が聞こえた。小声だった。
「少しだけ」
「緊張してる?」
「……少しだけ」
「一緒だよ」アリアが言う。「でも、それでいいと思う。緊張してない人間は、危機をなめてる人間だから」
(アリア、本当にたまに鋭いことを言う。)
「おやすみ、アリア」
「おやすみ、カズヤ」
短いやりとりだった。でも十分だった。
三人分の寝息が聞こえてくる中、カズヤは目を閉じた。
翌朝が来れば、旅の続きが始まる。
***
二日後。
赤茶色の荒野を抜けると、空気が変わった。
「……冷たくなってきた」
アリアが自分の腕を擦る。
「近づいてるな。『闇の森』だ」
遠くに見えていた黒い影が、今やはっきりとした輪郭を持っていた。森の木々は、高く、暗く、密集している。葉の色は深い黒緑で、光を吸い込んでいるように見える。森の向こうは何も見えない。完全な暗黒だ。
「雰囲気が、全然違う」ミサトが剣の柄に手をかけた。「ここまで来る道でも、魔物は何匹かいたけど、あれは比じゃないわね」
「気配が多い」カズヤは感知魔法を広げた。「複数いる。大型のも」
「何か来る?」
「……こっちを警戒してる感じ。まだ動いてない」
「入り口に近づいたら、攻撃してくるかも」アリアが言う。「結界が張られてるみたいな感じがする。ここが縄張りなのかも」
三人は立ち止まり、木の陰から森の入り口を観察した。
「大型の魔物、一体いるな」カズヤが低く言う。「でかい。狼みたいな形だが……」
「ダーク・ウルフ」ミサトが言った。「魔界の上位魔物。俊敏で、闇属性の咆哮を使う。単独でも相当手強い」
「どうする?」アリアが問う。
「戦う。ここは通らないといけない」
ミサトが剣を抜いた。刃が朝の光を反射する。
「任せて。私が前に出る。カズヤとアリアは後方でサポートを」
「了解。アリア、回復待機」
「うん、準備できてる」
木の影から三人が踏み出した瞬間、黒い影が動いた。
ダーク・ウルフだ。体長二メートルを超える、深黒色の狼。黒い霧を纏い、赤い目が三人を睨み付けていた。
「——来た!」
ミサトが前に出た。聖剣閃が閃く。白い光の斬撃が、ダーク・ウルフの体を打った。
「ガアアッ!」
咆哮。闇の波動が広がる。
「カズヤ!」
魔力を集中した。感情を乗せる——守りたい。通り抜けたい。この旅を続けたい。
「——風刃!」
風の刃が連続して飛ぶ。ダーク・ウルフが回避しようとするが、ミサトが側面を押さえている。
「私が前面を維持する! カズヤ、上から!」
「分かった——」
(三人でやれば、絶対に通れる。俺が守りたいのは、この先だ。この旅の続きだ)
「《ライト・バースト》!」
光の爆発がダーク・ウルフを包む。短い悲鳴。霧が晴れた。
沈黙。
ダーク・ウルフが倒れていた。
「……やった」アリアが息を吐く。
「よかった。大事には至らなかったわ」ミサトが剣を収めた。
「二人とも、怪我は?」
「なし」
「私も大丈夫」
(三人で連携すれば、こういう魔物にも対応できる。強くなってるんだな、俺たちは。気づかないうちに)
森の入り口をくぐると、空気がどっと変わった。暗く、湿っている。木の根が絡み合い、足元は不安定だ。
数十メートル進んだところで、カズヤは立ち止まった。
「……あれ」
木々の間から、遠くに光が見えた。
黄金色の光。微かに、しかし確実に輝いている。
「遺跡?」アリアが目を細めた。
「たぶん。あの光、俺のエルフの体が反応してる。古い魔力の痕跡だ」
「……本当にあったんだね」ミサトが呟く。「古代エルフの遺産」
「ある。あそこに」
三人は光の方向へ歩き出した。
(見えてきた。答えが、向こうにある。覚醒の意味。この体の秘密。俺がこの世界に来た理由——それが全部、あの光の先にあるかもしれない)
「絶対に、みんなで行こう」
「うん」
「当然よ」
三人の足音が、古い森に響いていた。




