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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第124話 戦闘の後夜

# 第124話 戦闘の後夜


## 傷の治療


 洞窟の奥で、魔力の光が岩肌を淡青色に染め上げていた。


 セラは壁に寄りかかり、深く息を吐く。


 全身が重い。鉛を体の中に詰め込まれたみたいな、魔力を使い果たした後の脱力感。昨夜の戦闘は短かったが、消耗は深刻だった。


(魔力切れって、こんなに体に響くのか。守護隊の訓練でも感じたことのない重さだ)


 体を動かそうとすると、腕がしびれる。ひどい。魔力が枯渇するとここまで身体能力が落ちるとは、学園の授業では教わらなかった。回復に時間がかかる。低血糖みたいなものだが、こちらは果物一個でどうにかなる話でもない。


「カズヤ、動かないで」


 アリアの声。彼女の手がセラの腕に触れる。掌が光り始め、淡い緑色の光が傷跡を包んだ。


「《ヒール・ライト》」


 温かさが広がる。傷の痛みが、すうっと消えていく。痛みが「薄れる」のではなく「消える」のだ。アリアの回復魔法の精度、恐ろしいくらい上がっている。


「ふー、だいじょうぶだね。皮膚も元通り」アリアが安心したように息を吐く。


「ありがとう。アリアの魔法、本当にすごいな」


「えへへ、これくらい」アリアが少し照れる。「でも、カズヤの魔力、すごく減ってるよ。指先がほとんど空っぽ」


「だろうな。あの戦闘、普段より多く使っちゃった」


「少し食べて。魔力回復にいい」


 アリアが袋から干し肉と果物を出す。干し肉は硬いが、旨味がある。噛むほどに、微かに魔力が戻ってくる気がした。


 果物は、見た目は梨に似ているが、皮が赤紫色だ。魔界の果物。食べていいのか、と一瞬躊躇ったが、アリアが普通に食べていたので、セラも口にした。甘かった。後味に少し金属っぽい感じがある。でも、魔力が微かに戻る感覚があった。


「美味しい」とセラが言うと、アリアがぱっと笑顔になった。


「よかった。魔界の果物、怖かったから食べてくれるか心配してた」


「だったら先に言えよ」


「言ったら食べなさそうだったから」


(正解)


「ミサトも軽傷だったけど、大丈夫だった?」セラが尋ねる。


「うん、私が回復魔法かけておいたよ。今は入り口で見張りしてる」


「あの人、本当に止まらないな」


「昨日、セラが倒れた時、すごく焦ってたんだよ」アリアがそっと言う。「『カズヤ!』って叫んで駆け寄ってきて——顔、真っ青だった」


「……ごめんね、心配させて」


「ううん。でも、カズヤがミサトちゃんのこと守ろうとしてたのを見て——私、胸がぎゅってなった」アリアが少し笑う。「嬉しいのと、怖いのが混ざって、変な感じ」


「嬉しい、のは?」


「カズヤが仲間を守ろうとしてたから」アリアがまっすぐに言う。「怖いのは——カズヤが消えてしまいそうで」


(消えてしまいそう。その言葉が、心に刺さった。アリアにとって、あの覚醒暴走は「強くなる」じゃなくて「失う」として映ってたのか。その視点は、俺になかった)


「消えない。絶対に」セラは言った。「アリアがいてくれるなら、消えない」


「……うん」アリアが頷く。「だから、私もそばにいる。ずっと」


(嬉しいのと怖いの——アリアにそこまで思わせてしまったか。心配させた。でも、守りたかったのは本当だ。ミサトもアリアも、絶対に傷つかせたくない)


「昨日の覚醒、何か変だったよ」セラは自分の手を見る。「体の内側から何かが湧いてくる感じ。制御できないくらいの熱さが」


「怖かった?」アリアが真剣な顔で聞く。


「……少し。自分の制御を超えた力が、暴走しそうで」


「でも、私が来たら落ち着いた」


「ああ。アリアが近くにいてくれたから、正気を保てた」


「よかった」アリアは小さく言う。「これからも、アリアがそばにいるから」


「頼むよ」


 洞窟の天井から水滴が落ちる。ポチャン、ポチャンと規則的な音が、静寂を区切っていく。


「カズヤが守りたいと思えば思うほど、魔力が強くなるんだよね」アリアが言う。「それはいいことでもあるけど——怖いことでもある」


「怖い?」


「カズヤが自分を失っちゃいそうで」


(そうか。アリアはそこを心配してたのか。力に飲み込まれることを。確かに、あの感覚はそういう危うさがあった)


「安心して。アリアがいてくれるなら、大丈夫だ」セラはアリアの肩を引き寄せる。「おかげで昨日も正気を保てた。アリアが近くにいてくれたから」


「カズヤ……」


「だから、これからもそばにいてくれ」


「もちろん。ずっとそばにいる」


 アリアはセラの肩に頭を預ける。微かな体温が伝わってくる。森林の香り、微かな花の香り。それらが混ざり合って、魔力の流れが穏やかになっていく。


(これが、俺の「魔力の栓」なんだろうか。アリアが近いと、暴れる魔力が静まる。理屈はわからない。でも、本当のことだ)


 しばらくそのまま、二人は静かにいた。


 洞窟の中に水滴の音。外からは風の音。遠くで魔獣が鳴いている。それ以外は静かだった。


「魔力、少し戻ってきた?」


 アリアがそっと尋ねる。


「うん。アリアのそばにいると、整う感じがする」


「それ、嬉しい」アリアは小さく言った。「私がカズヤの役に立ててるなら、それだけで十分だよ」


「十分どころか、お前なしだと本当にやばかった。昨夜の覚醒、一人だったら暴走してたと思う」


「じゃあ、私はカズヤの魔力安定装置ね」


「そんな言い方すると語弊があるけど……まあ、そういうことかもしれない」


「えへへ、光栄です」


(アリアがいるから、俺は俺でいられる。それが単純な事実だ。難しく考えなくていい。ただ、そばにいてくれるだけでいい。それで十分だ)


覚醒について


 昼、セラは洞窟の外に出た。


 魔界の空は、昼間でも完全な青ではなく、紫がかっている。でも夜よりはずっとましだ。鳥の声が聞こえる。風が草を揺らす。


「……覚醒、か」


 自分の手を見る。


(この世界で感情が魔力に直結する——エルフの長老はそう言っていた。理屈は分かる。でも制御できないのは問題だ。古代エルフの遺産に、その答えがあるかもしれない)


「カズヤ?」


 アリアが来た。隣に立って、同じ空を見上げる。


「ちょっと考え事をして」


「何を考えてたの?」


「……色々なことだ。この世界のこと。自分のこと。これからのこと」


「難しいこと考えてるね」アリアが笑う。「カズヤが迷ってるなら、私も一緒に考えるよ」


「ありがとう」


 風が吹き抜ける。二人の髪が揺れる。


「ねえ、カズヤ」アリアが言う。


「ん?」


「私、強くなりたいよ」


「え?」


「カズヤが強くなるなら、私も強くならなきゃ。カズヤを支えるために、守るために」


 アリアの瞳に、強い決意が宿っている。あのふわふわした天然ボケが嘘みたいな、しっかりとした目だ。


「アリアはもう十分強いよ。回復魔法も支援魔法も、本当に頼りになってる」


「それでも、もっともっと強くなりたい。カズヤの覚醒に付いていけるように」


「……分かった。一緒に頑張ろう」


「うん!」


 アリアは笑顔で頷く。空を見上げると、雲が流れていく。


「ねえ、カズヤ。あの雲、龍みたいに見えない?」


 セラは空を見る。確かに、横に長い雲がうねうねと伸びている。


「……見えなくもないか」


「カズヤ、龍って会ったことある?」


「ない、ない。会いたくもない。絶対に強すぎる」


「ふふ、そうだね。でも、私は会ってみたいな。龍って、かっこいいし」


「アリアって、怖いもの知らずだよな」


「そうかな? ちゃんと怖いよ。でも怖くても、見てみたいって思うことはある」


「たとえば?」


「カズヤが本気で戦う顔。昨夜の覚醒の時みたいな、あの光」アリアが言う。「すごかった。怖かったけど、目が離せなかった」


(えっと、それは……複雑な言い方だが、嬉しいのか? 守護隊の訓練で上官に「存在感がない」って言われたことがある。だから「目が離せない」と言われることが、なんか、新鮮だ)


(だいたいアリアの恐怖感覚がどこかずれてる。いい意味で。龍に会いたいと言える子が「カズヤの覚醒が怖かった」と言うのだから、よほど凄まじかったのだろう)


「カズヤ、私のことどう思ってる?」アリアが唐突に聞く。


「え、急に?」


「ふふ、変なこと言ってごめん。でも、気になったから」


 セラは少し考えた。


 ちゃんと答えたかった。誤魔化したくなかった。


「アリアは……特別だよ」セラは正直に言う。「魔力を安定させてくれる。心も支えてくれる。俺にとって、なくてはならない存在だ」


「……カズヤ」


「恥ずかしい言い方だったか?」


「ううん」アリアの目が、少し潤む。「嬉しい。私もカズヤが特別だよ」


 アリアはセラの腕に抱きつく。


(こんな言葉、学園に入学した頃の俺には言えなかったな。ここでの経験が、俺を変えたのか。それとも、アリアがそうさせたのか。どちらにしても、今の俺の言葉は本心だ)


「これからも、ずっと一緒だよ」アリアが言う。


「ああ、そうだな」


 その瞬間、何かが腑に落ちた。


 この世界で「守りたい」と思える人がいる。それだけで、セラは走れる。魔力の暴走も、先の見えない旅も——二人がいれば越えていける。根拠のない確信だが、確かにある。


## ミサとの距離


 夕方。


 洞窟の入り口で、ミサトが夕日を見つめていた。


「……なによあれ」


 昨夜のセラの姿を思い出している。あの光。圧倒的な威力。そして、倒れた瞬間。


(自分の心臓が止まるかと思った。あれは何だ。「仲間が倒れた」というだけの話じゃない。もっと個人的な、もっと強い——)


「ミサト」


 振り返ると、セラが立っていた。


「な、なによ! 驚かさないでよ!」ミサトは弾かれたように反応する。


「悪かった。見張り、ありがとう」


「……べ、別に。当然でしょ。パーティの一員だから」


「ああ、そうだな」


 セラはミサトの隣に並ぶ。夕日が二人の影を長く伸ばす。茜色の空。どこか懐かしい色だ。魔界なのに、夕日の色だけは人間界と変わらない。


「昨日の戦闘、大丈夫だった?」ミサトが少し間を置いてから言う。


「おかげさまで。アリアの回復魔法がすごくて」


「そっか。……よかった」


「ミサト、心配してくれてたのか?」


「べ、別に!」ミサトは即座に言い返す。「心配なんてしてない! ただ、パーティ戦力に欠けたら困るから……それだけよ!」


「ははは、やっぱりミサトだな」


「なによそれ! バカにしてるの!?」


「違う違う。ミサトらしいな、って」セラは微笑む。「ありがとう、ミサト」


「……もう」


 ミサトはそっぽを向く。耳が赤かった。


(ツンデレ。完全にツンデレだ。騎士団の訓練でも、こういうタイプは表情で全部バレてた。ミサトのは本物だ)


「昨日さ、ミサトの聖剣閃がなかったら、相当ピンチだった」セラは言う。「隠れて特訓してたんだろう?」


「……どうして分かるの」


「ミサトの性格上、そうするだろうなって」セラが笑う。「いつも俺に助けられてばかりで悔しい——ってなるタイプだから」


「な、見え見えでしたか!?」


「見え見えだよ」


「最悪……」ミサトは頭を抱える。「恥ずかしすぎる……」


「でも、いいことだと思うよ」セラは続ける。「自分が悔しいと感じて、それを努力に変えられる。そういうの、なかなかできない」


「べ、べつに……そういうたいそうなものじゃなくて……」


「ミサト」


「な、なに」


「前向きでいいな、って言いたかっただけだ」


 ミサトがまた顔を赤くして黙った。前を向く。耳が赤い。


(昨日の戦闘でミサトは折れなかった。俺が倒れても、アリアと共に戦い続けた。誇り高い人間だと思う、本当に)


「恥ずかしくない。かっこよかったよ、あの剣魔法」


 ミサトは黙った。


 何も言わなかった。


「アンタのこと、バカじゃないと思うよ」ミサトが静かに言う。「強いし、優しいし。でも、無理はしないでね」


「うん、分かった」


「アリアちゃんは当然、私も——」ミサトが言いかけて、止まる。


「いるから。と言おうとしてたんだろう?」


「……バカ。変なこと言わないで」


「ミサト、本当にツンデレだな」


「言ってない!」


「目で言ってる」


「……もう、知らない!」


 ミサトは洞窟の中へ逃げ込む。


「待ってよ、ミサト」


 セラは苦笑しながら後を追った。


(これが心地よい日常だ。魔界にいるのに、なんで俺こんなに穏やかなんだろう。二人がそばにいるから、か。それだけで十分だ——今この瞬間、それだけが確かなことだ)


## 次なる行動


 夜。


 焚き火を囲んで、三人の作戦会議。


 地面に広げた地図。魔族の領域図。偵察で得た情報を書き込んだ手製の追記。


「で、どうする?」セラが地図を見ながら問う。「魔族の本拠地に向かうのか、それとも」


「情報が不足してるよ」ミサトが真剣な表情で言う。「いきなり本拠地は危険すぎる」


「ミサトちゃんの言う通り」アリアも頷く。


「そうだな……」


 セラは地図を見つめる。


(この先に何があるのか。ルナが言っていた『エルフの遺産』は本当にあるのか。覚醒——あの感覚は何だったのか。わからないことが多すぎる)


「遺跡の場所、この地図で確定してるの?」ミサトが地図を指でなぞりながら問う。


「確定じゃない。学園の資料に「この付近に古代の痕跡がある」という記述があったんだ。具体的な座標じゃなくて、大まかな方角と距離しか書いてなかった」


「つまり、探すしかない」


「そういうこと」


「……広いね、魔界」アリアが地図を見て遠い目をする。


「広いな」セラも同意する。「でも、感知魔法を全力で使えば、遺跡特有の魔力の揺らぎを感じ取れるかもしれない」


「特有の揺らぎ、ってどんな感じですか」ミサトが興味深そうに聞く。


「人間が建てたものには、人間の魔力の痕跡が残る。エルフが建てたものには、エルフの魔力の痕跡が」セラが説明する。「古代エルフの建造物なら、俺のエルフの体が反応するはずだ。理論的には」


「理論的には」


「まだ試してないから保証はできない」


「古代エルフの遺産、それが鍵かもしれない」ミサトが呟く。「王都の図書館で読んだことがある。古代エルフは、感情と魔力を直結させて、圧倒的な力を発揮したと」


「ミサトって、よく知ってるね。図書館によく行くの?」アリアが少し驚いたように聞く。


「騎士の訓練の合間に。情報を持ってる人間の方が、持ってない人間より強いと教官に言われたから」


「偉いな、本当に」セラが感心する。


「当たり前のことでしょ」ミサトがすまし顔で言う。「あなたこそ、学園の資料を全部頭に入れてるみたいだし。お互い様よ」


(ミサト、さりげなく俺を褒めてる。気づいてるぞ)


「感情と魔力……」セラは頷く。「昨日の覚醒、まさにそんな感じだった。守りたいという感情が爆発して、魔力が跳ね上がった」


「カズヤの覚醒、まだ制御できてないよ」アリアが心配そうに言う。「無理に強くなろうとしないで。私が近くにいたら安定するけど、戦場ではいつも一緒にいられるとは限らない」


「その通りだ。だから、まず情報を集める。制御の方法を探す。遺跡に手がかりがあるかもしれない」


「どこにあるの? 遺跡」


「ここら辺に、廃墟みたいな記録が残ってる」セラは地図の一点を指差す。「古い時代のエルフが魔界に来た痕跡だって、学園の資料にあった。確実ではないけど、探してみる価値はある」


「それより、ルナについてどうするの?」ミサトが聞く。


「ルナ……」


 昨夜の魔姫の姿が浮かぶ。黒い炎。深紅の瞳。高慢な笑み——でも、その奥に見えた何か。


「次に会う時は、話してみたい」セラは言う。「あの戦闘、ルナは俺たちを殺せるのに殺さなかった。撤退を選んだ。それは——」


「気になってるのね」ミサトが少し呆れたように言う。「敵なのに」


「気になる。それは認める。でも、敵意だけで動く相手じゃない気がする」


「……まあ」ミサトは少し考える。「合理的な判断ができる相手なら、対話の可能性はある。騎士として、無益な戦いは避けたいし」


「でも、甘く見るのは危険ですよ」ミサトが付け加える。「ルナは確かに賢い。だからこそ、隙を見せたら一瞬でやられる」


「わかってる」セラは頷く。「慎重に、かつ機を逃さず。難しい綱渡りだけど」


「あなたならできる」アリアが言う。「私が魔力を安定させるから」


「二人がいてくれるなら」セラはゆっくりと言う。「できる気がするな」


「じゃあ、明日から動こう」セラは言う。「まず遺跡を探す。ルナの情報も、できれば集める。慎重に、でも確実に」


「はい」


「了解です」


 二人の声が揃った。


 焚き火の炎がぱちりと弾ける。


 セラは炎を見つめる。


(彼女がいなければ、アリアがいなければ、きっともっと孤独な旅だった。彼女は特別だ。魔力を安定させ、心を支えてくれる。アリアがいなければ——それは間違いない)


「ねえ、カズヤ」アリアが言う。「寝る前に、少し練習してみない? 魔力制御の練習」


「今夜は安静にした方がいいんじゃ……」


「アリアが隣にいるから、暴走しないよ。少しだけ」アリアがにこっと笑う。「カズヤの魔法、もっと見たい」


「……まあ、少しだけなら」


「やった!」


(こういう顔をされると、断れない。アリアの笑顔には本当に弱い。これは永遠に治らない気がする)


 三人は焚き火を囲んで、少しだけ魔法の練習を始めた。


「じゃあ、指先に光を集中させて」アリアが先生役になる。「魔力を絞り出すんじゃなくて、流れを整えるイメージ」


「流れを整える……」


 セラは試した。意識を指先に向ける。暴れようとするエネルギーを抑えるんじゃなく——川の流れを誘導するように。


 ポッ。


 小さな光が指先に灯った。


「できた!」アリアが目を輝かせる。「すごい、カズヤ! 制御が全然違う!」


「……ほんとだ」セラも驚く。「昨日と全然違う感覚だ。力で押さえるんじゃなくて、流れに乗せる」


「そう! それ!」


 ミサトが腕を組んで見ていた。


「……魔法、習ったことないから分からないけど」ミサトが言う。「なんか、さっきより顔色がいい」


「ほんと?」


「うん。昨日の戦闘後はずっと青かったから」


(ミサト、ちゃんと見てた。心配してたんだな。言わないけど。飯に誘う代わりに見張りを引き受けるタイプだな、こいつは)


 炎が揺れる。


 洞窟の中に、笑い声が響く。


 魔界の夜は、また静かに穏やかに更けていった。


 洞窟の外では、紫の空に星が瞬いている。人間界では見たことのない星座。この世界で生きているんだと、ここに来るたびに思う。きれいだと、素直に思えた。


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