第119話 学園での最後の日々
# 第119話 学園での最後の日々
## 学園の朝
早朝の魔法学園・寮は、まだ静寂に包まれている。
セラは目を開けた。
天井の木目。窓から差し込む薄明かり。馴染み深い寮の部屋だ。
……最後だな。
(サラリーマン時代にも、最終出社日ってあったよな。でもあっちは「清々する」の方が強かった。今回は全然違う。惜しい。本気で惜しい)
「セラ、起きたの?」
隣のベッドから、ルームメイトのライルが身を起こした。
「ああ。ライルも眠れなかったか」
「うん。なんか……頭の中がうるさくて」
ライルは髪をかき上げながら、苦笑いした。
「最初に入った日のこと、覚えてる?」
「もちろん。あの入学式。俺、めちゃくちゃ緊張してたよ」
「えっ、そうなの? 全然そんな風に見えなかったけど」
「外面だけ取り繕う技術は、割と鍛えてるから」
ライルは案の定、特に反応しないまま、寮の部屋を見渡した。二人の机。本棚。魔法道具が所狭しと並んでいる。一つ一つに、思い出が刻まれている。
「俺はね、セラと出会えて本当によかったと思ってるよ」
真剣な眼差しで、ライルは言った。
「最初はね、正直、妬ましかったんだ。才能も容姿も性格も、全部完璧すぎて。俺なんかドワーフだし、魔法の成績も中の中だし」
「ライル……」
「でも、すぐ分かったよ。セラって、努力してるんだって。魔法の練習も、勉強も、みんなとの付き合いも。全部、本気で向き合ってる。だから……俺、セラから学んだよ。才能だけじゃない。人としての在り方を」
(こんな朝から泣かせに来るなよライル)
セラは少し目頭が熱くなるのを感じた。あわてて天井を見上げる。エルフが朝っぱらから泣いていたら格好つかない。
「……ありがとう。ライルと出会えて、俺もよかったよ」
「友達でいてくれて、ありがとう」
ライルが手を差し出した。セラはその手を握った。温かい。
「また会えるよね?」
「絶対に」
「約束だよ」
「約束だ」
ライルは少し涙ぐんでいたが、すぐに「んじゃ朝飯行こうぜ、最後の学園の朝飯だ」と笑顔になった。
(……いいやつだ。本当に、いいやつだ)
廊下に出ると、他の学生たちも出てきていた。みんな少しだけ、いつもより静かな顔をしている。
「おはよう、セラ、ライル」
アズマが向こうから歩いてきた。
「おはよう」
「早起きだね。って、みんな早起きか。最後の日だもんな」
食堂には、すでに多くの学生が集まっていた。ミナ、サクラさん、カイト、ライル。みんながセラを見て手を振った。
(この世界に転生して、この学園に来て——正直、最初は「なんで学校に入り直さなきゃいけないんだ」って思ってた。でも今は)
「セラくん!」
ミナが駆け寄ってきた。目がすでに少し赤い。
「おはよう、ミナ。早起きだな」
「当たり前よ! 最後の日に寝てられないでしょ!」
(……来てよかった。この学園に来て、本当によかった)
テーブルにはいつもの朝食が用意されていた。パン、スープ、サラダ。ありふれたものだ。でも今日だけは、なぜか特別に見えた。
「美味しいね」
サクラさんが呟いた。
「最後だからかもな」
カイトが言った。
「そうかもしれないし、毎日こんなに美味しかったのに気づいてなかっただけかもしれない」
(いいこと言ったつもりだったが、ちょっとくさかったな。まあいいか)
食事中、みんな黙っていた。でも、それは不快な沈黙ではなかった。感謝と名残惜しさに満ちた、温かい沈黙だ。
朝食の後、アリアと合流した。
「セラ、おはよう」
「おはよう、アリア」
「最後の日だね」
「うん」
「……寂しいね」
「だな」
アリアは少しだけ間を置いてから、「でも、セラと一緒なら大丈夫」と言った。
「根拠は?」
「だって、いつでもそうだったじゃん」
(……反論できない。すごい論法だ)
## 思い出の場所
朝の授業が終わった後、セラとアリアは校内を巡ることにした。
「思い出の場所、全部回ろうよ」
「いいね。まずは教室から」
最初の授業を受けた教室へ向かった。
中に入ると、まだ誰もいなかった。窓から差し込む陽光、黒板、整然と並んだ机と椅子。すべてが懐かしい。
(ここで初めて魔法の授業を受けたんだよな。物理とは全然違う——いや、物理学もある意味ファンタジーなんだが、こっちはさらにその上をいく)
「セラ、最初の授業のこと、覚えてますか?」
「もちろん。詠唱を間違えて変な光が出て、先生に笑われたやつだろ」
「えっ、そんなことあったっけ!」
「あったよ。アリアは覚えてないのか」
「私はセラが天才だって思ってたから、そういう失敗は記憶からこぼれてたかも」
(こぼれてたかも、じゃないよアリア。大事な黒歴史がひとつ消えかけてたぞ)
「セラはね、最初から特別だと思ってたよ。詠唱が正確で、魔力の質が他の子とぜんぜん違って」
「まあ、いろいろあったから」
「うん、前世の話、いつか全部聞かせてね」
「……全部は長いぞ。大体二十九年分ある」
「一晩かけて聞く!」
(それ、俺のほうが先に眠くなる気がする)
二人は教室を一周した。黒板の跡。窓の外の景色。隅っこに置かれた観葉鉢。一つ一つに、あの頃が蘇る。
次は図書館だ。
図書館は静まり返っていた。本棚が並び、魔力の染みこんだ羊皮紙の匂いが漂う。
(この匂い——なぜか懐かしい感じがするのは気のせいじゃない)
「ここでよく勉強したよね」
セラは自分がよく使っていた机を見つけた。
「そうですね。セラは魔法理論が得意だったから、私に教えてくれましたよね」
「教わったのは俺の方だよ。アリアの実践技術、すごかった」
「ふふ、お互い様ですね」
二人は図書館を歩いた。かつて一緒に読んだ本。議論した魔法の理論。小声で話した秘密の話。
「セラ、共鳴について語り合った時のこと、覚えてますか?」
「ああ。アリアが近くにいると魔力が安定するって話をした時だな」
「最初は不思議だったけど、今は当たり前になりました。アリアがそばにいると、セラの魔力が落ち着くんです。……変ですかね?」
「全然。俺もアリアがそばにいると安心する」
アリアの耳が少しだけ赤くなった。
(エルフの耳は感情が出やすい。……って人のことを言える立場か、俺も同じエルフなんだが)
「次は中庭に行こう」
「はい」
中庭へ向かう途中、かつて特訓をした演習場を通った。
「ここで、死にそうになりながら魔法を練習したな」
「死にそうって大げさな」
「大げさじゃない。第一、この世界の体力消費の感覚がおかしいんだよ。体育の授業の比じゃない」
「体育?」
「……こっちに体育はないか。まあ、修練場の特訓よりきつかった、くらいに思ってくれ」
(危ない危ない。前世の記憶がダダ漏れになりかけた)
中庭のベンチに腰を下ろした。春の陽気が心地よい。
「ここでよく話したね。将来のことも、魔法のことも」
「転生したことについては、アリアに初めて話したのがここだったかな」
「ええ。最初は信じられませんでしたけど」
「今は信じてる?」
「ええ。だって、セラは特別だから」
(特別というか……以前が普通のサラリーマンだったから、特別でもなんでもないんだが。でも、まあ。この世界での俺は特別であろうとした。みんなのために。アリアのために)
「アリア、ありがとう」
「何を?」
「ずっとそばにいてくれて。俺の魔力を安定させてくれて」
「当たり前でしょ? セラのためなら何だってするよ」
「……それを言われると、頑張らなきゃいけない気持ちになる」
「ふふ、プレッシャーをかけてるわけじゃないよ?」
「分かってる。ありがとう、アリア」
アリアはセラの手に自分の手を重ねた。
「私も、セラのことが大好きですよ」
(……やばい。これが感動的な場面のはずなのに、なんで今俺の腹がタイミング悪く鳴るんですかね)
ぐぅ、と小さな音がした。
「……セラ?」
「……聞こえなかったことにしてほしい」
「えへへ、お腹空いたの? 昼ご飯、まだだったね」
(エルフに転生しても、三大欲求には逆らえない。感動もへったくれもない。何も変わってないな、俺)
## クラスメイトとの別れ
午後、教室にクラス全員が集まった。
(こんなに全員揃うの、久しぶりじゃないか。いつも誰かが欠けてるのに)
「みんな、集まってくれてありがとう」
セラは教室の前に立った。
「今日で、俺は学園を去ることになります。みんなとはここでお別れだけど——これはまた会うための別れです」
「セラ!」
ミナが立ち上がった。目が赤い。というか、もう泣いている。
「セラくん、ありがとう! セラくんのおかげで、私は魔法が好きになれた! 私、もっと頑張る!」
「ミナ……」
「私もです!」 サクラさんが続いた。「セラくん、勇気をくれてありがとう。あなたのことが大好きでした!」
「セラ、俺からも言わせてくれ!」 カイトが決意の顔で立ち上がった。「君は俺たちのヒーローだ!」
(ヒーロー。……うーん、イメージとはちょっと違うんだが、空気を読む能力だけはこの一年で磨いた。ここでツッコまない)
「ライルも!」「アズマも!」
次々と立ち上がるクラスメイトたち。
セラの目から、気づいたら涙が溢れていた。
「みんな……ありがとう。俺もみんなのことが大好きだ。こんなにいい奴らに囲まれて——転生してよかったと思ってる。本当に」
「セラ!」
ライルが叫んで、ハグをしに来た。男同士の力強い抱擁だ。
「ライル、友達でいてくれてありがとう」
「セラ、俺たちは永遠の友達だ」
「ああ、永遠だ」
(「永遠ってどれくらいの期間だ」とツッコんだら空気が死ぬ。黙っておこう)
「次はミナだ!」
ミナがセラに抱きついた。
「セラくん、大好きでした! また会いましょうね!」
「ああ、また会おう。ミナも頑張ってね」
「はい! セラくんも頑張って!」
ミナはセラの頬にキスをした。
「っ! ミナ……」
「じゃあね、セラくん!」
ミナは照れくさそうに笑って、離れた。
(ほっぺにキス。……後でアリアに確認しよう。ていうかアリアが目を細めてこっちを見てる気がする。気のせいであってほしい)
サクラさん、カイト、ライル、アズマとも、一人一人と言葉を交わした。ハグをした。涙を流した。
最後にみんなが集まって、教室全体で大きな集団抱擁が始まった。
「みんな、本当にありがとう」
セラは深く頭を下げた。
「この学園での生活は、俺にとって最高の思い出だ。絶対に忘れない」
みんなが拍手した。温かい拍手が教室を包んだ。
涙と笑顔と拍手。それが学園生活の締めくくりだった。
(……この世界の方が、俺の居場所かもしれない)
## ミサトとの最後の時間
夕方、セラは中庭でミサトと待ち合わせをした。
夕日が空をオレンジ色に染めている。
「セラ!」
ミサトが駆けてきた。少し息を切らしている。
「お待たせ、ミサト」
「ううん、私も来たばかり」
ミサトは空を見上げた。
「夕日が綺麗ですね」
「うん。……今日で最後なんだね」
「……寂しい」
ミサトの声は、いつもよりずっと小さかった。
「俺も寂しい。でも、また会える」
「そうですね。でも、やっぱり寂しいものは寂しい」
「否定できない」
(ミサトのこういうところ、好きだ。素直に「寂しい」と言える)
ミサトはセラの腕を抱いた。
「この間のデート、楽しかったです」
「ああ、楽しかった。王都を回って、おいしいものを食べて、手を繋いで……」
「銀のブレスレット、まだつけてますよ」
ミサトは左手首を見せた。銀のブレスレットが夕日に輝いていた。
「俺のもある」
セラも左手首を見せた。同じ銀のブレスレットが光る。
「合っているのね」
ミサトは嬉しそうに微笑んだ。
「うん、これが二人の約束の証だ」
二人は手を繋いだ。銀のブレスレット同士が触れ合い、微かな音を立てた。
「セラ、私のこと、忘れないでね」
「忘れるわけないだろ」
「ふふ、そう言ってくれると安心する。……でも、あんた、さっさとアリアが好きとか言ってたじゃないですか。私のことも同じくらい好きなんですよね?」
「……また始まった」
「始まってない! 確認してるの!」
(ツンデレの確認作業。嫌いじゃない。むしろ——)
「ミサトのことが大好きだよ」
「っ……!」
ミサトの顔が真っ赤になった。
「っし、セラ……! な、なんでそんなこと平気で言えるんですか!」
「これが最後かもしれないチャンスだと思って」
「なっ……バカ……」
ミサトは涙を拭った。
「私も……セラのことが、大好きです。大好き、大好き、大好き!」
ミサトはセラの胸に飛び込んだ。セラは強く抱きしめた。
(——これは大事の重さだ)
「ミサト……」
「セラ、離れたくない。ずっと一緒にいたいです」
「俺もそう思う。でも、今は別れなきゃいけない。これは、また会うための別れだ」
「……はい。必ずまた会いましょう」
「ああ、約束する。絶対に会いに来る」
「待ってます。いつまでも」
二人は抱きしめ合ったまま、しばらく動かなかった。夕日が二人を照らし、影を長く伸ばしていた。
「ねえ、セラ」
「ん?」
「最後に、もう一回だけ」
「もう一回だけ?」
「はい……」
ミサトは顔を上げた。潤んだ瞳がセラを見つめていた。
「キスして、いいですか?」
(夕日の中で、こんな風に告られるとは。絶対信じないだろうけど——まあ、現実だ)
「ああ、いいよ」
二人は顔を近づけた。唇が優しく触れ合った。夕日の中で、長い一瞬が流れていった。
キスが終わった後、ミサトは少し照れくさそうにセラの胸元に顔を埋めた。
「……愛してる、セラ」
「俺も愛してる、ミサト」
二人は手を繋いで、中庭を一周した。
「ここで初めて会ったね、この中庭で」
「そうですね。あの時は喧嘩ばかりしてた」
「今じゃ愛し合ってるなんて、不思議だね」
「ふふ、そうですね。不思議だけど——幸せです」
「俺も幸せだ」
完全に日が沈むと、星が瞬き始めた。
「セラ、星が綺麗」
「うん。ミサトと見る星は、もっと綺麗に見える」
「っ……し、セラ、そういうこと言うのやめてください!」
「なんで」
「……顔が赤くなるから!」
(バカ、それが狙いなんだよ、とは言わない。心の中だけで思う)
ミサトはセラの肩に顔を埋めた。
「セラ、本当に大好きです。どうか、忘れないでください。私がいつもあなたを待っていることを」
「約束だ。忘れない。絶対に」
二人はしばらく、星を見上げながら黙っていた。
「……行かなくちゃ」
「はい……」
ミサトは寂しそうに立ち上がった。
「送っていく」
「ありがとうございます」
寮の前で、ミサトはセラを振り返った。
「セラ、さようなら。また会いましょう」
「ああ、さようなら、ミサト。また会おう」
最後の抱擁。長く、温かい。
「愛してる」
「愛してる」
ミサトは涙を流しながら、笑顔で去った。セラはその背中を見送った。
(……好きだ。転生してよかった、と思う。何回目だ、この台詞。でも、本当に思う)
## 学園の夜
夜。寮の部屋でセラは荷物をまとめ始めた。
(荷物のまとめ方——旅行鞄は出張用のと比べて使い勝手が違う。まあ似たようなものだが)
「セラ、手伝うよ」
ライルが部屋に入ってきた。
「ありがとう、ライル」
二人で荷物をまとめた。服、本、魔法道具、思い出の品々。一つ一つに学園での日々が詰まっている。
「これ、渡したい」
ライルは小さな箱をセラに差し出した。
「これは?」
「お守りだよ。ドワーフの里で作られたもの。旅の無事を守る力があるって言われてる」
「ライル……」
「持っててください。セラが無事でありますように、って」
セラは箱を開けた。中には銀のペンダントが入っていた。ドワーフの伝統的な模様が刻まれている。
(手で作ったって分かる温かさがある。地元の神社のお守りとは、また別の重みだ)
「ありがとう、ライル。大切にするよ」
「こっちからも」
セラは小さな袋を取り出した。
「エルフの森で採れた魔力石。魔力を安定させる力がある。ライルの魔法の役に立つはずだ」
「セラ……ありがとうございます。大切にします」
互いの贈り物を交換した。友の証として。
「荷物はまとまった?」
「うん。ありがとう、ライル」
「ああ、友達だから」
部屋はもう片付いていた。荷物はまとまり、空っぽになった棚が目立つ。
(空っぽの棚を見ると、実感がわいてくる。ここは、確かに俺が暮らした場所だ)
「最後の夜だね」
「そうだね。色々あったね」
「最初に入った日のこと、最初の授業のこと、初めての友達のこと」
「セラと出会った日のこと、忘れないよ」
「俺も忘れない。ライルとの出会いは、宝物だ」
二人はしばらく黙っていた。
「じゃあ、明日、出発前に見送りに行くよ」
「ありがとう」
ライルが部屋を出た後、アリアが入ってきた。
「セラ、準備はできた?」
「ああ、できた。アリアも?」
「はい、まとめました」
アリアはセラの隣に座った。窓から月が明るく輝いている。その月明かりが、片付いた部屋を静かに照らしている。
「最後の夜だね」
「そうですね。この学園での最後の夜」
「……なんか、実感がわかない」
「私も。明日出発するって分かってるのに、まだここにいる気がする」
(それ分かる。引っ越しの前夜は「ここが最後」って実感がなかった。当日になって初めて、「ああ、本当に終わりなんだ」って気づくやつだ)
「アリア」
「はい?」
「この学園での生活、楽しかったよ。アリアといられて、みんなと出会えて。最高だった」
「私も幸せでした。セラと一緒に過ごせて、最高でした。……セラ、ありがとうね」
「俺もありがとう」
アリアはセラの隣で、そっと手を繋いだ。
「学園、ありがとう。良い思い出をくれて」
「うん。次の旅も、頑張ろう」
「はい。二人で全力で」
「ああ、全力で」
(エルフとして転生して、魔法学園に入学して、仲間に出会って、戦って、笑って。想像もできなかった生き方だ。でも——最高だ)
「おやすみ、セラ」
「おやすみ、アリア」
二人は目を閉じた。
学園での最後の夜は、静かに、温かく過ぎていった。
翌朝、セラとアリアは学園を後にした。クラスメイトたちはみんな、門まで見送りに来てくれた。
「セラ、頑張れ!」
「セラくん、幸せに!」
「セラ、また会おう!」
みんなが手を振った。セラとアリアも手を振り返した。
「みんな、ありがとう! また会おう!」
出発の馬車が動き出すと、見送りたちは少しずつ小さくなっていった。
セラは窓の外を見た。学園が遠ざかっていく。その輪郭が、朝の光の中で霞んでいく。
「さようなら、学園」
(ちゃんと「ありがとう」と言える。この世界の俺は、ちゃんと言える)
「ありがとう、学園。良い思い出をくれて」
アリアが隣でセラの手を握った。
「新しい冒険が始まるね、セラ」
「うん。次は——もっとすごいことになりそうだ」
「怖い?」
「怖い。でも、アリアがいるから大丈夫」
「えへへ。私もセラがいるから大丈夫だよ」
二人は静かに笑い合い、夜の学園に戻っていった。




