表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
118/121

第118話 冒険者としての集大成

# 第118話 冒険者としての集大成


## 最後の週末


 学園を出て、久しぶりに王都の宿屋に泊まった翌朝。


 早い。


 窓を開けると、朝霧が街道を覆っていた。遠くの城壁がぼんやりと浮かぶ。春の風が頬を撫で、微かな花の香りが漂ってくる。


 今日が、最後の週末だ。


(新卒で入った会社を辞める最終出勤日みたいな感覚、か——いや違う。あっちは解放感が先に来た。今回は純粋に名残惜しい。それだけ、ここに居場所があったってことだな)


「……おはよう、セラくん」


 アリアが目をこすりながら隣に来た。寝起きの髪が少しだけ乱れている。


「おはよう。早起きだね」


「なんか目が覚めちゃって」


 二人で黙って朝の景色を眺めた。パン屋の煙突から煙が上がる。早朝から働く人々のシルエット。石畳が朝露を反射して、鈍く光っている。


「今日が、最後の週末だね」


「うん。学園の次の学期が始まったら、週末クエストの頻度も減る」


「少し、寂しいね」


「でも、良い思い出になる」


 俺はアリアの肩に手を置いた。冷気の中で、体温が温かい。


「冒険者として積み上げたもの——無駄にはしない」


「当然だよ。セラくんが積み上げたもの、全部本物だもん」


(本物。……魔法の制御力も、戦闘の判断力も、仲間との連携も。全部、どこへ行っても持ち歩けるものだ)


「ギルドにも行かなきゃいけないし、最後のクエストも受けてこないと」


「うん、頑張ろう! セラくんとアリアの、最後の週末クエスト!」


 アリアが握り拳を作った。俺も笑って頷いた。


 二人は装備を整え、朝食を済ませてギルドへ向かった。


「最初にギルドに来た時のこと、覚えてる?」


「もちろん。緊張して手が震えた」


「あはは、私も。受付嬢の笑顔にほっとしたのを覚えてる」


 懐かしく語り合いながら歩く。最初に王都に来た時のことは、よく覚えている。見知らぬ土地、見知らぬ人々、冒険者ギルドという新しい世界。全部が新鮮で、少し不安だった。


 今は、この石畳も、この王都も、懐かしい場所になっている。


「カトレアとも、ギルドで出会ったもんね」


「そうだね。カトレアさん、久しぶりに会いたいな。借金、どうなってるか」


「前回聞いた時は銀貨千枚以上残ってたって」


「……あの人、大丈夫なのかな」


「ギャハハ精神があるから大丈夫だよ、きっと」


(あれだけ豪快に笑える人が身近にいれば——ブラック職場ももう少し楽だったかもしれない。いや、たぶんカトレアさんがいたらその職場ごと「ギャハハ! 解決!」って打開してた気がする)


 遠くに冒険者ギルドの看板が見えてきた。


「ただいまって言いたくなるね」


「そうだね。帰ってきた、って感じ」


「……ただいま」


「ただいま、ギルド」


 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


## ギルドでの別れ


 昼の冒険者ギルドは、いつものように賑わっていた。


 扉を開けた瞬間——


「おっ、セラじゃないか!」


「アリアさんも! 久しぶり!」


「最近学園で忙しいって聞いてたけど、元気だった?」


 次々と声がかかる。俺とアリアは手を振りながら答えた。


(こういうのが、会社の送別会と根本的に違うやつだ。誰も「義務だから来た」顔をしていない)


「お疲れ様です!」


「久しぶりです! 元気でしたよ!」


 受付カウンターには、いつものミサキがいた。二人の顔を見るなり、大きく手を振る。


「セラさん、アリアさん! いらっしゃい!」


「お疲れ様、ミサキさん」


「学園でも忙しいのに、週末来てくれるなんて!」


「久しぶりにギルドに来たくて。それに最後の週末クエストもしに」


 ミサキの表情が少し柔らかくなった。


「……最後の週末、ね」


「はい。次の旅が始まると、学園が忙しくなるから」


「それは少し寂しいですね。でも——二人のような冒険者に来てほしいのは変わりません」


(プロの笑顔と本物の笑顔の違い、分かる。これは本物だ)


「今日はどんなクエストにしますか?」


「少し難易度の高いものに挑戦したい」


「実はちょうど今日、少し特別なクエストが出ていて。街道北の森で、森狼の群れが目撃されています。数が多くて少し危険ですが——」


「挑戦します!」


 即答すると、ミサキが少し驚いた顔をした。


「本当に? Eランクの二人には少し危険ですよ?」


「大丈夫です。アリアと一緒なら倒せます」


「セラくんと一緒なら大丈夫!」


 アリアが自信満々に追随した。ミサキは微笑んだ。


「……わかりました。登録しますね」


 手続きを進めていると、ギルドの奥からガトーが出てきた。


「おっ、セラじゃないか!」


「ガトーさん! お久しぶりです!」


 ガトーは太い腕を組み、二人を見下ろした。


「学園での生活、順調か?」


「はい。魔法の勉強も、友達関係も」


「それは何よりだ。セラ、君はEランクに昇格してからも素晴らしい活躍だった」


「……ありがとうございます」


「感謝するのはこっちだよ。君のような若い冒険者がギルドで活躍してくれると、他の連中も励まされる」


(上司に褒められると社交辞令に聞こえていたあの頃とは、何かが違う。ガトーさんに言われると——素直に嬉しい。なぜかは分からないが、嬉しい)


「ギルドの期待に応えます」


「そうこなくちゃ。今日のクエストも頑張ってこい」


「はい、行ってきます!」


 二人がクエストの紙を受け取って帰ろうとすると、ギルド中の冒険者たちが集まってきた。


「セラ! しばらく会わないけど、元気でね!」


「アリアさんも! 応援してるよ!」


「またクエストで会おう!」


 涙する人まで出てきた。


(こんな風に、自発的に集まって声をかけてくれる——前の仕事でも、そういう人たちがいたか。正直言えば、いなかったな)


「……みんな、ありがとう」


「こっちこそだよ、セラ。君に出会えて、刺激をもらった」


「セラさんとアリアさんは、ギルドの宝物だよ」


「また絶対に来てね!」


「はい、絶対来ます!」


 アリアも何人かに抱きしめられ、涙ぐんでいた。


 俺の目も、少し潤んだ。


(……エルフは感情が豊かでいい。そういうことにしておこう)


「みんな、本当にありがとう。ここで過ごした時間、ずっと忘れない」


「セラくん、また来てよ!」


「また来るよ、絶対に!」


「約束だぞ!」


「約束だ!」


 ガトーが太い腕を組んだまま、静かに笑っていた。ミサキも目を潤ませながら手を振っていた。


 ギルドを出る前、二人で振り返った。賑やかな内部。笑い声、話し声、温かい空気。


「……また、絶対に来るよ」


「うん、約束だよ」


## 最後のクエスト


 午後の街道北の森は、静寂に包まれていた。


 森の入り口。深呼吸。


「感知魔法、使ってみるね」


 アリアが目を閉じ、魔力を周囲に広げた。俺も気配を探る。


「……西北に反応がある。六匹くらい」


「じゃあそこへ。慎重に」


 木々が生い茂る中を進む。落ち葉の音がサクサクと響く。鳥のさえずり。そして——遠くで何かが動く、重い足音。


「……セラくん、気配が濃くなってきた」


「もうすぐだ」


「緊張する?」


「……少し。でも、大丈夫だ」


「えへへ、私も少し緊張してる。最後のクエストだから、気合が入りすぎてる」


「気合が入りすぎて失敗するのが一番まずいパターンだぞ」


「分かってる。でも、なんか燃えてくる」


(分かる。スポーツの大会前の——いや、俺は文化系だったから大会前の高揚感は知らない。でも今ならよく分かる。最後の戦いに向かう、この体が前のめりになる感じが)


 開けた場所に出た瞬間——六匹の森狼が正面にいた。


 普通より大きい。牙が長い。琥珀色の瞳が光っている。


(六匹同時か。Eランクには少し重いと言われた理由が分かった。でも——)


「……準備いい?」


「いつでも!」


「行くよ」


 三匹が同時に飛びかかってきた。


「風よ、刃となれ——ウィンド・エッジ!」


 風の刃が走る。最初の一匹が回避する——その隙をアリアが突いた。


「水よ、撃て——!」


 水流が二匹目に直撃。三匹目がアリアに向かうのを、俺が先読みして牽制する。


「そこ! 風よ、刃となれ!」


 森狼が鳴いた。


(冒険者になったばかりの頃、初めてモンスターと戦った時、手が震えていた。詠唱を間違えて、アリアに「大丈夫?」と声をかけられてた。今は——体が勝手に動く)


「セラくん、左!」


「わかった——風の壁!」


 二匹の突撃を防ぎながら、アリアが水魔法で一匹を仕留める。残り二匹。


「炎と風よ、融けて吹き荒れよ——フレイム・ウィンド!」


 炎風の渦が広がる。残る二匹が一斉に後退した——瞬間、アリアの水流が横から叩き込む。


「やった!」


 戦闘は十数分で終わった。六匹目が倒れた瞬間、森が静かになった。


 俺とアリアは肩で息をしながら向かい合った。額に汗が滲んでいる。


「……やったね」


「うん。全員。一人も怪我なし」


「最後のクエスト、完璧だったよ」


(今日の最後のクエストは、完璧だったと言い切れる。なんとなく、それが嬉しかった)


「セラくん、今日の魔法、すごく安定してた」


「そうか?」


「うん。以前より迷いがない。『次はどこを狙う』っていう判断が速い」


「……アリアと連携してるから、余裕が生まれるのかもしれない」


「えへへ、私のおかげ?」


「アリアのおかげだよ」


「やった!」


 アリアが小さくガッツポーズをした。森の中に小さな笑いが響いた。


 二人は戦闘結果を確認し、証拠を回収して森を出た。


「六匹、全部」


「傷もない。完璧だよ」


「冒険者としての集大成にふさわしいクエストだったな」


 街道に戻ると、夕方の光が橙色に染まっていた。


## ギルドマスターとの面会


 ギルドに戻ると、ミサキが「ギルドマスターがお呼びです」と告げてきた。


 ブロンウィン・ギルドマスターの部屋は、奥まった場所にある。入ったことは数えるほどしかない。


「失礼します」


 扉を開けると、初老の女性が椅子に座っていた。見た目は穏やかだが、その目には深い厚みがある。


「来たか、セラ。アリアも」


「お呼びいただきありがとうございます」


「座れ。そんなに緊張しなくていい」


 俺とアリアは向かいの椅子に座った。


「学園で忙しい中、冒険者としての活躍も続けていたな。見ていたよ」


「……ありがとうございます」


「Fランクから始まって、今はEランクだ。冒険者としての成長は申し分ない。だが——」


 ギルドマスターは俺を真っすぐに見た。


「——魔法の才能だけでなく、人としても成長している。ギルドの連中が君を慕っているのは、その証拠だ」


(予想外のことを言われた。魔法の実力ではなく、「人として」の部分——それを言われるとは)


「……恐れ入ります」


「謙遜するな。事実を言っている。君のような冒険者が、これからも世界のために動いてくれると、私は嬉しい」


「世界のために、ですか」


「これからの旅では、もっと大きな試練が待っているかもしれない。魔族との接触、古代の遺産、未知の魔法——。覚悟はあるか?」


「あります」


 即答すると、ギルドマスターが微笑んだ。


「よい目だ。行け、セラ。次の旅も、その目で進め」


 俺とアリアはギルドマスターの部屋を出た。


「セラくん、すごく褒められてたね」


「……びっくりした」


「私も嬉しかったよ。セラくんが認められるのが」


(実績を見た上で、本当のことを言っている——そういう重さが、あの言葉にはあった)


「セラ」


「はい」


「一つだけ言っておく。君は——特別な才能を持っている。魔法だけでなく、人を動かす力だ」


「……人を動かす力」


「ギルドの連中は、君に憧れている。あの年齢の冒険者が、ここまで慕われることはそうそうない。それを忘れないように」


(人を動かす力。以前の俺には、まったく縁のない概念だったな。与えられた仕事をこなす歯車として生きていた。でも——今は違うのか。そうなのか)


「肝に銘じます」


「行け。次の旅が君たちを待っている」


 ギルドマスターの視線が、俺たちを送り出していた。


## 冒険者としての集大成


 夕方。王都の街道を二人で歩いて戻った。


 日が傾き、石畳が橙色に染まっている。


「……今日、充実してたな」


「うん。クエストも、ギルドでの別れも、全部」


「冒険者として、王都でやれることはやった気がする」


「セラくん、強くなったよ。ほんとに」


「アリアも」


「えへへ、ありがとう」


 夜の学園へ向かいながら、俺は王都での冒険者生活を振り返った。


 Fランクから始まった。初クエストは採取任務だった。それがダンジョン攻略になり、モンスター討伐になり、今日は群れの森狼を二人で仕留めた。


(改めて並べてみると、よく頑張ったな。エルフになって一年足らずで、ここまでできるとは思ってなかった)


「次の旅、楽しみだな」


「うん! どんな冒険が待ってるかな」


「分からないけど——アリアと一緒なら、怖くない」


「私も。セラくんとなら、どこへでも行く」


 二人は手を繋ぎ、夜の街道を歩いた。遠くに学園の灯りが見える。


「ねえ、セラくん」


「ん?」


「冒険者として一番嬉しかった瞬間って、何?」


 少し考えた。


「初クエストを完了した時かな。採取任務だったけど、達成感があった」


「私は、ダンジョンで最初のボスを倒した時! 三人で連携して、うまくいったあの瞬間!」


「カトレアさんが罠を解除しながら『銀貨いくらになるか計算してる』とか言ってたやつだっけ」


「えへへ、そうそう! カトレアさんらしいよね」


「あの時のカトレアさん、かっこよかったけど」


「でしょ? ドワーフとしての本領発揮だったよね」


 二人は歩きながら笑い合った。


「一番怖かった瞬間は?」


「……アリアが怪我しそうになった時かな」


「え、いつ?」


「ダンジョン攻略の時、魔物の爪がかすったやつ。あの時は体が勝手に動いてた」


「……セラくん」


「大したことじゃないけど、その瞬間だけは頭が真っ白になった」


(守りたいと思って体が動く——転生して、初めて知った感覚だ)


「えへへ、セラくん、かっこよかったよあの時」


「そういうことを言うと……照れるだろ」


「照れていいじゃん!」


「……まあ、そうか」


 学園の門が見えてきた。灯りが明るく輝いている。


「帰ってきたね」


「うん。今日も、お疲れ様」


「お疲れ様、セラくん」


「ギルドへの感謝も忘れないようにしよう。あそこで出会ったもの、全部今の俺を作ってる」


「そうだね。ギルド、大好き」


「俺も」


 二人は学園の門をくぐった。夜の学園は静かで、月明かりが白く広場を照らしていた。


 今夜は早めに休もう。次の旅への体力を残しておくために。


(大事な時に向けて準備することの意味、今の俺はちゃんと分かってる)


「おやすみなさい、アリア」


「おやすみなさい、セラくん。今日も最高だったよ」


「うん、最高だった」


 静かな夜が、二人を包んだ。


## ミサトの言葉


 寮に戻ると、廊下でミサトに会った。


「セラさん」


「ミサトさん! こんな時間に」


「クエスト帰り? お疲れ様」


 ミサトの声には珍しく柔らかさがあった。


「今日は最後のクエストでした。六匹の森狼を」


「完了報告、見た。ギルドから連絡が来てたから」


「もう? 早いですね」


「ギルドマスターが直接教えてくれた。二人の連携が美しかったって言ってた」


(ギルドマスターの言葉が、ミサトのところにも届いてるのか。この世界の情報網、思ったより速い)


「ありがとうございます」


「セラさん、次の旅に入ったら……少し、引き継ぎのつもりで話させてください」


 ミサトが珍しく真剣な顔をした。


「引き継ぎ?」


「これからの旅の最初の難所は、魔族との接触だと聞いている。私のような騎士としての経験が、多少役に立てるかもしれない」


「……ありがたいです」


「私も、セラさんたちと一緒に戦いたいと思っている。才能じゃなくて、向かい合う勇気を持った人と一緒に戦いたい」


(ミサトさんがこういうことを言ってくれるのは、珍しい。普段は「フン」くらいで終わるのに。こういう言葉は——刺さる)


「……嬉しいです。一緒に、よろしくお願いします」


「ええ。よろしく」


 二人は短い沈黙を共有した。


「じゃあ、おやすみなさい」


「おやすみなさい、セラさん。良い夢を」


 ミサトが去った後、廊下でしばらく立っていた。


(良い夢、か。そういう言葉が当たり前みたいに飛んでくる——ありがたいことだ)


 部屋に戻り、明かりを消した。布団の中で目を閉じる。


 王都での日々は終わった。次の旅が待っている。


(でも今夜は——ただ眠る。それで十分だ)


# 第118話 完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ