表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/120

第110話 春の訪れ

# 第110話 春の訪れ


## 春の学園


 春の朝。


 セラは寮で目覚めた。窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。春の風がカーテンをそっと揺らし、部屋に新緑の香りを運んでくる。


「……おはよう」


 ベッドから起き上がる。


 ルームメイトのライルはまだ寝ている。大きな寝息を立てて、幸せそうだ。


 (早起きしてよかった。エルフの中庭の桜が、まだ誰にも占領されていない)


 窓の外を眺める。魔法学園の中庭が見下ろせる。昨夜の雨が上がり、すべてが洗われたように輝いている。芝生は鮮やかな緑、花壇には色とりどりの春の花。


 そして——


「桜だ」


 中庭の中央に立つ大きな桜の木が、満開の花を咲かせていた。淡いピンク色の花びらが、春の風に舞い散っている。


 セラは急いで身支度をして、中庭へ向かった。


 中庭に着くと、すでに一人の少女が立っていた。


「アリア」


「セラ!」


 アリアが振り返る。金色の髪が朝の風にそよいでいる。笑顔が春の光みたいだ。


「おはよう、アリア」


「おはよう。……きれいだね、桜」


 二人は並んで桜の木を見上げた。


 満開。淡いピンク色の花が空を覆い尽くし、太陽の光を柔らかく透過している。花びらが風に舞い、地面にはピンク色の絨毯が広がっている。


「……まるで夢のようだ」


「ね。ここの桜、百年の歴史があるんだって」


「百年も咲き続けてる桜か。そりゃすごい」


 (百年の命——。この木は、この学園で何人の卒業生を見送ってきたんだろう。エルフの目で見ると、そういう時間の感覚が変わってくる気がする)


「ねえ、セラ。この春、どう過ごしたい?」


「みんなと楽しく過ごしたいな。勉強も、友達も、冒険も」


「セラらしい。全部盛り」


「アリアは?」


「私?……セラと一緒にいたい。この桜を見るのも、春を感じるのも、セラと一緒なら素敵だから」


 アリアが真剣な目で言う。


「……アリア」


「……ごめん、変なこと言って」


 アリアが少し赤くなる。


「嬉しいよ。僕もアリアと一緒にいたい」


 二人は桜の木の下で手を繋いだ。春の風が二人を包み込む。


「幸せだね」


「……うん。こういう朝があるから、早起きって報われる」


「ふふ、セラらしい理由だわ」


 桜の花びらが舞い散り、二人の肩に落ちる。春の光が差し込んでいる。


「……ねえ、セラ。これからのこと、考えたことある?」


「これから?」


「卒業後のこと。冒険者としての未来。……私たちのこと」


「まだ先のことだけど……一つだけ確かなことがある」


「何?」


「アリアと一緒にいること」


「セラ……」


 アリアが目を潤ませる。


「この世界で出会ったみんなが、今の俺にとって大切だ。特にアリアは——」


「私もよ」


 アリアが先に言った。


「セラのことが大好き。ずっと一緒にいたい」


 アリアがセラの手を強く握る。


「授業が始まるまで、もう少しここにいよう」


「うん。二人で」


## クラスメイトとの春


 昼休みまでの時間、ライルが中庭を覗いた。


「セラ、アリアと二人でいるじゃないか。なんかいい雰囲気だな」


「見てたの?」


「ちょっとだけ。……桜の下で手を繋ぐってやつ、普通はもうちょっとタイミングを選ぶんじゃないか?まだ朝七時なのに」


「なんか自然とそうなった」


「いいな、自然とそうなれる仲って」


 ライルが少し羨ましそうな顔をした。


「ライルにはいないの、気になる人」


「……聞くな」


「いるんだ」


「聞くなって言ってるのに聞いた!しかも顔で判断した!セラ、それは割と失礼だぞ!」


「ごめん。でも応援するよ」


「……ありがとう。でもまだ遠い話だ。というかそういう話、いつの間に俺がしてたんだ」


 (ライル——まあ、いい。応援するだけだ)


 昼休み。教室の中は賑やかだった。


「ねえねえ、桜、見た?」


 ミナが興奮気味に言う。猫耳がぴこぴこ動いている。


「見た見た!満開ですっごくきれいだったよ~」


「え、本当?見逃した……」


「大丈夫、まだ咲いてるよ」


「春だねえ~」


「学園の桜は百年の歴史があるって。毎年春になると満開になる」


「すごい……」


「みんな、花見に行かない?」


 セラが提案した。


「花見!?」


 クラス全員の視線が集まる。


「桜の下でみんなでお弁当を食べたり、遊んだりしませんか。新しい季節の始まりですし」


「いいね!賛成!」


「私も賛成!」


「じゃあ、週末にしよう。みんな、都合つく?」


「週末なら大丈夫だよ~」


「決まり!週末に花見だ!」


「わぁい!花見!花見!」


 ミナが喜びを爆発させる。猫耳が最大稼働している。


 (提案しただけで全員即賛成。クラスの結束力が高すぎる。ありがたい)


「セラ、いい提案だね」


 ゴウタがセラの肩をポンと叩く。


「みんなで楽しみたいと思って」


「セラくん、いつもクラスのこと考えてくれるね」


 サクラが微笑む。


「……セラくんはクラスの太陽だね」


「大げさですよ……」


 セラが苦笑する。


「ねえ、セラくん。アリアさんと二人でお弁当作る?」


 ミナが興味深そうに聞く。


「アリアと相談してみます」


「ふふ、二人で作るの、楽しそうだね」


 教室のドアが開き、アリアが入ってきた。


「ただいま、セラ」


「おかえり、アリア。花見するって決まったんだよ、週末に」


「花見!?楽しそう!」


「うん。二人でお弁当作らない?」


「もちろん!セラと一緒に作るの、楽しみだよ」


「羨ましいな~」


 ミナが少し拗ねたように言う。


「ミナちゃんも誰かと作れるんじゃない?」


「えっ、誰かって……ゴウタくんとか?」


 ミナが顔を赤くする。


「え、俺?」


 ゴウタが少し動揺する。


「ふふ、二人、いい感じだね」


 教室が笑いに包まれた。春の訪れとともに、クラスに新しい風が吹いている。


## 花見の準備


 放課後、アリアとセラは週末の花見に向けて準備の相談をした。


「お弁当、何を作る?」


「アリアの得意料理ってなに?」


「サンドイッチと卵焼き。あとはフルーツを切るくらいかな」


「俺はセルフィ・ロールにしよう。ラフリーフで包んで焼くやつ」


「得意なの?」


「やってみる。あと、デザートを一品」


「春の果物のタルト、作ってみたい」


「手が込んでるな」


「セラと一緒に食べるから、ちょっと頑張りたいの」


 (さらっと核心を言ってくる。それがアリアだ)


「わかった。週末の朝、一緒に作ろう」


「楽しみ!早起きするね」


「アリアが早起きできるか心配だ」


「できるよ!セラと一緒なら絶対起きる!」


「それ、目覚ましとしての俺の役割が増えてない?」


「えへへ、よろしくね!」


 カトレアも混ざってきた。


「セラ!花見の話、聞いた!私も食材手配の手伝いをするわ!業者との交渉は得意よ!」


「業者って、学園の食堂の?」


「ドワーフは常に最安値を求める!ギャハハ!」


「カトレアさんはほんとに何でも借金返済に繋げてくれますね」


「当然よ!食材の節約は借金返済の第一歩!哲学よ!」


 (哲学。節約は哲学——それを本当に体現している人がいる。ある意味、尊敬に値する)


## ミサトとの春


 午後、中庭の桜の下で一人でいると、聞き慣れた声がかかった。


「セラくん!」


「ミサトさん!?」


 ミサトが駆け寄ってくる。今日も私服だ。青いブラウスに白いスカート。春の日差しが彼女のダークブラウンの髪を照らしている。


「今日は王都のお休みをもらって、学園に来たの」


「えっ、わざわざ?」


「桜が満開だと聞いて。セラくんと一緒に見たくて」


「……そのためだけに来てくれたんですか」


「それ以外の理由があると思う?」


 ミサトが少し照れくさそうに言う。


「……ありがとうございます。僕も、ミサトさんと桜が見たかったです」


 二人は桜の木の下に並んだ。


「……きれいだね」


「ええ。春の訪れを感じます」


 (一日に二人と一緒に桜を見る。それが今の俺の普通だ。それが——最高だと思う)


「セラくん、週末のこと、覚えてる?」


「ええ。最高の一日でした」


「……私も。楽しかった」


 ミサトが微笑む。


「ブレスレット、付けてくれてるね」


「はい。大切にしています」


 セラの手首には、月光石のブレスレットが輝いている。


「よかった」


 ミサトが少し赤くなる。


「手、繋いでいい?」


 ミサトが少しだけ視線を逸らして言う。


「喜んで」


 二人の手が繋がれた。ミサトの手の温かさがセラに伝わってくる。


「……春だね」


「新しい季節が始まりました」


「ね。なんか、これからいいことがありそうな気がする」


「ミサトさんが言うと説得力があります」


「女騎士の勘よ」


「女騎士の勘って何ですか」


「いいから信じてなさい」


 (理屈より感覚で信じさせる——ミサトさんが言うからかな。まあ、信じる)


「週末、花見をするんです。クラスのみんなで。ミサトさんも来ませんか?」


「……いいの?私、生徒じゃないけど」


「大丈夫です。みんな喜びます」


「じゃあ行くね。楽しみにしてる」


「はい。楽しみにしていてください」


 二人は桜の下でしばらく手を繋いでいた。花びらが舞い、春の光が降り注ぐ。幸せな時間が流れている。


「またね、セラくん」


「また、ミサトさん」


 ミサトの姿が門の向こうに消えていく。


 (一日に二人と桜を見た。転生してよかった。それだけは言える)


## 夕方の中庭


 夕方、教室が解散した後、セラはもう一度中庭に向かった。桜の木が夕日に染まって、朝とは違う表情を見せている。オレンジ色の光の中でピンクの花が重なり合って、どこか幻想的だ。


「きれいだな」


 独り言が漏れた。


「本当だな」


 ゴウタが現れた。相変わらず体格がいい。片手に練習用の木剣を持っている。


「先輩、鍛錬が終わったんですか」


「ああ。汗かいてぼーっとしてたら、桜が目に入った」


「夕暮れの桜、また朝と違って見えますよね」


「そうだな。……セラ、たまにそういうことをさらっと言うな」


「詩人みたいですか」


「エルフっぽいと思う。良い意味で」


 ゴウタが桜の幹に手を当てた。


「百年ここに立ち続けてるんだろ。すごいな。この木は俺らより長く生きてる」


「ゴウタ先輩もそういうことを言うんですね」


「たまにはある。ギャハハ!」


 二人で少し笑った。


 (ゴウタ先輩、普段は豪快だけど、たまにこういうことを言う。表面は荒削りでも、深いところに繊細さがある——そういう人だ)


「週末の花見、楽しみにしてるぞ」


「はい。みんなで楽しみましょう」


「おう。ミサトも来るんだって?」


「……誰に聞いたんですか」


「アリアがちょっと漏らしてた。ギャハハ!三角関係じゃないか!」


「違います!!」


「落ち着け。冗談だ」


「……冗談にしては圧力がありすぎます」


「それがゴウタ・マグナスのスタイルだ」


 ゴウタが胸を張った。


 (悪気のない大声の先輩——根が善人だ。そうじゃなければあの距離感にならない。間違いない)


「先輩、練習お疲れ様でした」


「ああ。セラも春を楽しめよ」


「はい」


 ゴウタが去っていく。夕日が沈みかけて、桜の花がさらに赤みを帯びてきた。


## アリアとの約束


 夕方から夜にかけて。


 セラとアリアは、夜の散歩道を歩いていた。魔法の照明が道を照らし、星空が頭上に広がっている。


「夜の散歩、落ち着くね」


「ええ。昼間とは違う顔の学園を見られる」


「今日、楽しかったね」


「一日中充実してた。朝の桜、クラスの花見の計画、ミサトさんとの再会」


「ふふ、セラらしいスケジュール。詰め込んでる」


「自分でもそう思う」


 散歩道のベンチに座る。星空が頭上に広がり、月が柔らかな光を放っている。


「……ねえ、セラ。これからのこと、本気で考えてみた?」


「学園卒業後のこと?」


「うん。冒険者としての未来。そして……私たちの未来」


 セラはしばらく考えた。


「正直、まだ完全には決めていない。でも、一つだけ確かなことがある」


「何?」


「アリアと一緒にいること。それだけは、変わらない」


「……セラ」


 アリアの目が潤む。


「この世界で出会ったみんながいる。特にアリアは——」


「私もよ」


 アリアが先に言った。


「セラのことが大好き。ずっと一緒にいたい」


 アリアが強く抱きしめる。


 二人は夜の散歩道で抱き合った。星空が二人を祝福するように輝いている。


「約束して、セラ」


「うん」


「どんなことがあっても、二人で一緒にいること。離れないこと。ずっと、隣にいること」


「約束する。アリアとずっと一緒にいる」


 二人の体温が重なり合う。夜の静寂が二人の誓いを包み込んでいた。


「春が来たね」


「新しい季節の始まりだ」


「この春、二人で始めよう。新しい未来を」


「うん。二人で、未来を歩んでいく」


 二人は抱擁を解き、星空を見上げた。


「……幸せだな、私たち」


「本当に。アリアに出会えてよかった」


「私もよ。セラと出会えて——本当によかった」


「アリア、「転生」って言いかけなかった?」


「違うわよ!」


「じゃあなんで転生って言葉が出てきた!」


「セラがたまに使うから、なんとなく!」


「俺、まずい……」


「ふふ、冗談よ。細かいことはいいじゃない」


 (こうして、また危機を笑いで乗り越えた。今のところ、前世バレ防止は成功中だ)


## 春の夜の振り返り


 夜が深まり、セラは寮に戻った。


 ライルはまだ友人たちと過ごしているらしい。部屋に一人で入り、今日の一日を振り返った。


「……この半年、いろいろあったな」


 セラが独り言のように呟く。


 転生してから王都に到着し、冒険者ギルドに登録。ダンジョンを攻略し、魔法学園に入学。学園生活を送り、友達を作り、勉強会を開催。学園祭で女装コンテストに——これは本当にやりたくなかった——優勝し、定期試験を乗り越え、期末試験を終了。冬休みにはEランクに昇格し、春を迎えた。


「……いろいろあったなあ」


 (魔法の才能とエルフの体とアリアという幼馴染がセットで付いてくるとか——まあ、運が良かったとしか言いようがない。感謝だ)


 アリアとの絆はより深まり、ミサトとの関係は進展した。クラスメイトとの結束は強まり、自分の成長も実感できている。


「……これからも、頑張ろう」


 魔族の姫ルナとの出会い、古代エルフの遺産の探索。未知のことが待っているが、セラは前向きだ。仲間がいるから。


 セラは机の上の日記を開いた。


 「今日。春の訪れ。桜が満開で、アリアとミサトと楽しい時間を過ごした。これからへの期待」


 日記を閉じる。


 窓の外を見る。夜空には月と星が輝いている。春の夜風がそよいで、遠くからは夜の虫の声が聞こえる。


「……おやすみ、この世界。そして、ありがとう」


 セラが小さく呟く。


 (佐藤カズヤは、特に何もない人生だったかもしれない。でも、そこで積み上げた「人間としての経験」が、今のセラ・ウィスパーウィンドを作っている。感謝している。それだけは確かだ)


 ベッドに横になり、目を閉じる。今日の出来事が夢のように流れる。桜の花びら、アリアの笑顔、ミサトの手の温かさ。


「……また明日、新しい一日が始まる」


 春の夜が静かに訪れている。


 セラは眠りに落ちていった。


 夢の中で、桜の花びらが舞っている。アリアとミサトが笑っていて、クラスメイトたちも幸せそうだ。ルナという名前の、見知らぬ少女が遠くに立っているような気がした——けれど、まだ、それは今の話ではない。


 王都に来てからの日々は、ここでひとつの節目を迎えた。


 セラ・ウィスパーウィンドの冒険は、まだ始まったばかりだ。


 新しい季節が、新しい冒険を待っている。


## エピローグ


 翌朝、学園の掲示板に一枚の紙が貼り出された。


「魔法学園春季記念・桜鑑賞会について」


 一年A組の桜の木の前でのクラス集会を知らせる、手書きの告知だった。


「セラが書いたんだよね?この字、見覚えある」


 アリアが言った。


「うん。昨日の夜に思いついて」


「こういうの、さらっとやるよね。セラって」


「みんなで楽しみたいから」


 告知を見たクラスメイトたちが次々と集まってきた。ゴウタ、ミナ、ライル、カトレア。それぞれが笑顔だ。


「セラ、ありがとう!」


「こういうのを提案してくれる人がいるのって、嬉しいよ」


「週末が楽しみだにゃ!」


 (「誰かのために動きたい」——気づいたらそう思ってる。それが一番大きな変化かもしれない。その変化を、ここにいるみんなが教えてくれた)


 春の朝日が学園に降り注いでいた。


 新しい冒険は、もうすぐそこだ。


(俺が知らなかった可能性が、ここに全部ある。場を作ること、仲間と笑うこと、誰かのために動くこと。それが、転生してよかったという理由だ。全部で、十分だ)


 桜の花びらが、また一枚、そっと落ちていった。


# 第110話 完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ