第104話 冒険者ランクアップ
# 第104話 冒険者ランクアップ
## ランクアップの話
朝のギルドは、いつもより静かだった。
冬休みだからか、常連の冒険者たちの姿が少ない。椅子が空いていて、カウンター付近も珍しく閑散としている。それでも受付ではミサキさんが笑顔で仕事をしていた。どんなに客足が少なくても、どんなに寒い朝でも、彼女はちゃんとそこにいる。職場の空気を安定させる人、というのがいる。ミサキさんはまさにそれだ——いてくれるだけで助かる人。
「おはようございます! セラさん、アリアさん!」
「おはよう、ミサキさん。今日はちょっと相談があって」
「はい、何でしょう? どうぞどうぞ、カウンターへ」
「ランクアップの試験を受けてみたいんだ。その話を聞きたくて」
ミサキさんの目が輝いた。ランクアップ志望者が来た時の顔だ。嬉しそうで、少しだけ張り切っている。そういう顔を見ると、こちらもつられて気合いが入る。
ミサキさんが帳簿を取り出し、二人の実績を確認し始めた。ページをめくる音だけが静かなギルドに響く。
「セラさん、森林狼三匹討伐……ダンジョン調査……オーガ討伐……アイス・ウルフ討伐……」
「はい」
「すごい実績ですね。一年生の冒険者でこれだけの記録、そうそうないですよ」
「アリアと二人で、いろいろやってきた結果です」
アリアがセラの横で「そうです」と頷いた。二人の連携プレーだ、という主張。事実なので反論の余地はない。
「確認しました。セラさん、アリアさん、お二人ともEランク昇格試験の受験資格があります」
「よかった」
アリアが小さく息をついた。セラも同様だ。資格があるかどうかの確認、というのは書類選考みたいなものだ。通過して一安心。
「試験の内容を教えてください」
「はい。試験は実技のみです。ゴブリンを模した人形三体との戦闘試験と、魔法の制御力試験があります。場所は明後日、ギルド裏の第二演習場、午前十時集合です。時間制限は各科目五分、規定数を倒せば合格です」
「分かりました」
「あと、特記事項があります」
「特記事項?」
「魔法学園の成績優秀者には、通常必要なクエスト実績の半分で受験できる特例があるんです。セラさんはその適用条件を満たしています。学園でも話題になっているみたいで……ギルドにも噂が届いていますよ」
「……また噂が」
ギルドにまで学園の話が広まるとは。セラはひそかに苦笑した。成績優秀賞と女装コンテスト優勝という二大ニュースが、どのように伝わっているのかが少々心配ではある。良い噂ならいいが。
「Eランクになると、どんなことが変わりますか?」
アリアが聞いた。
「中型モンスターの討伐や、少し危険なダンジョンの探索ができるようになります。報酬はFランクの約一点五倍です。それと——」
ミサキさんが少し声を小さくした。
「Eランクから、特別依頼というカテゴリの仕事が受けられるようになります。ギルドが民間からでなく、王都や騎士団から直接依頼を受けた仕事です。内容は少し特殊ですが、やりがいはあります」
「王都や騎士団からの依頼……」
「一気に本格的になるんだな」
本格的——という言葉の重さが、胸の中にじわりと広がった。学園祭もランクアップも、この数ヶ月で積み上げてきたものが、少しずつ本当の意味で機能し始めている。F登録のあの日から比べると、えらく遠いところまで来た気がする。
「一点五倍か。……アリア、受けてみよう」
「はい、セラくんと一緒なら」
アリアの信頼の表明は、いつもこれだ。嬉しい。同時に、そのプレッシャーが前に進む燃料になっている。
ギルドを出ると、朝の光が通りに溢れていた。パン屋の香ばしい匂いが漂い、冬の王都の空気が澄んでいる。
「明後日だね」
セラが空を見上げた。青い。快晴だ。
試験前の独特な緊張感がある。でも、これは戦える緊張だ。知識が問われる場所ではなく、体が覚えていることを試す場所。頭に詰め込んだものを吐き出すより、積み上げた実力を出す方が好きだ。冒険者の試験は、そういう場所だ。
(緊張の種類が違う。昇格のための筆記試験は、詰め込みが尽きたら終わりだった。こっちは実力試験——できることをやるだけだ。うん、俺はこういう試験の方が向いている。……と思いたい)
## 準備とトレーニング
翌日、冒険者ギルドの管理する演習場。
学園の演習場よりも広い。石畳の床に、魔物を模した的が並んでいる。魔法の試験用の標的もある。本格的だ。Fランクで登録した頃には、こんな場所で自分が練習できるとは思っていなかった。
「まずは魔法の練習から」
アリアが提案した。セラも同意して、中央に立つ。
「ウィンド・エッジ」
詠唱省略。風の刃が形成されて飛ぶ。的の中心に命中し、的がぱかっと割れた。
「すごい!」
アリアが声を上げた。セラは「まあこれくらいは」と思いつつ、内心は少し得意だった。詠唱省略というのは、いわば魔法の効率化だ。作業のショートカット化といえばいい。リナ先生の授業でその理論を学んだ甲斐があった。
アリアも水の刃を飛ばした。精確だ。的の中心から数センチもずれない。
「完璧じゃないか」
「ありがとう」
アリアが少し照れた。その照れが、なんとも言えず見ていて良い。
次は連携の練習だ。お互いの手を合わせ、魔力を共鳴させる。セラの風、アリアの水が絡まり合って「聖三角」が発動した。三角形の光が飛び、複数の的が同時に砕ける。
「威力、上がってる」
「学園での練習の成果だと思います」
「あそこで手を抜かなかった甲斐があったな」
「セラくん、いつも真剣だったもの」
確かな成長の実感がある。以前よりずっとうまくできる——それが分かる。悪くない。むしろ、今世の方がその実感がよほど大きい。
戦闘シミュレーションに移った。ゴブリン型の人形が動き出す。木の棒を振り上げ、アリアに向かってくる。
「水鞭!」
アリアが迎え打った。人形の攻撃を弾いて、同時にセラへの隙を作る。
「風刃!」
セラが人形の脚を撃ち抜いた。人形が倒れる。
「完璧だ」
「セラくんと二人だと、やりやすい」
次はホブゴブリン型。ゴブリンより一回り大きく、打撃力も強い。
「私が前衛をやります」
「待って、危ないだろ」
「大丈夫、セラくんが援護してくれるなら」
この無条件の信頼。毎回プレッシャーになるんだが……嬉しい。それは確かだ。そのプレッシャーが俺を動かす燃料になっている。
「わかった。援護する」
アリアが前に出た。人形が大きな棒を振り上げる。セラはタイミングを計って防御魔法を展開した。盾が人形の打撃を受け止める。衝撃が走るが、盾は保った。
「今!」
アリアが水鞭で人形の足を縛る。動けなくなった人形に、セラが風刃を三連射。腕、脚、頭部。倒れた。
「やった!」
「よかった。アリアの拘束が的確だった」
「セラくんの援護があったから」
演習場のベンチに座って水を飲んだ。汗をかいた。疲れた。でも良い疲れだ。学園の座学とは違う、実戦で鍛えられた感覚がある。
「明日の試験、自信が持てた」
アリアが微笑んだ。セラも頷いた。ランクアップの試験は、ただの昇格じゃない。これまでの積み重ねの確認だ。
「今日の練習、本当に良かったな」
「はい。……セラくん、明日絶対受かりますよ」
「アリアも受かるよ。二人で合格しよう」
「はい、二人で!」
太陽が西に傾き始めた。演習場の石畳に、長い影が落ちている。
「帰る前にもう一回、連携の確認をしよう」
「そうしましょ。完璧にして行きたい」
もう一度、聖三角の練習をした。今度はタイミングをより早く、より確実に。セラが先に風を展開し、アリアが水を重ねる。合わさった瞬間、光の三角形が形成される。的に直撃した。的が跡形もなく砕けた。
「……これで行こう」
「はい」
二人は演習場を後にした。夕暮れの王都の道を、並んで歩いた。二人の影が石畳の上に長く伸びていた。
帰り道で、アリアが突然立ち止まった。
「ねえ、セラくん」
「なに?」
「……受かると思う? 二人とも」
「受かる」
「そんなにはっきり言い切れるの?」
「はっきり言い切る。昨日の練習、完璧だったから」
アリアがしばらくセラの目を見た。それから、少しだけ表情が柔らかくなった。
「セラくんが言うなら、そうかな」
「俺もアリアに同じことを言われたら、そうかなってなるから。お互い様だよ」
「ふふ。……じゃあ、二人で受かろう」
「うん、二人で」
石畳を踏む足音が、二人分重なって夕暮れの路地に響いた。
## 試験当日
試験当日の朝は、雲一つない快晴だった。
良い天気だ。天気だけは味方をしてくれる。裏を返すと——言い訳ができない。
(昨晩、変な緊張で眠れなかった。試験前夜は妙な時間の使い方をするものだ。ぼんやりしたり、道具を確認したり。でも今世では「明日の練習の通りに動けばいい」という確信が、前よりずっとはっきりある。積み上げてきたものを信頼できる。それだけで十分だ)
第二演習場には十人ほどの受験者が集まっていた。全員緊張した顔をしている。隅で小声で練習している人。一人で目を閉じて集中している人。アリアはセラの隣で静かに呼吸を整えていた。それを見て、セラも呼吸を整えた。できることをやるだけ。
試験官が現れた。Aランクのバッジ。厳しい顔。でも、どこかフェアな雰囲気がある。腕は確かだが、横暴な人ではない——一目でそれが分かった。
「Eランク昇格試験を始めます。実技のみです。ゴブリン的人形三体との戦闘、時間制限五分。制限時間内に全て撃破すれば合格」
名前が呼ばれた。一番最初。
「セラ・ウィスパーウィンド」
「はい」
演習場の中央に立つ。三体のゴブリン的人形が現れた。昨日の練習と同じ大きさ。動き出した瞬間に——
「風刃!」
一体目の脚を撃ち抜く。倒れる。
二体目が突撃してくる。シールドを展開し、攻撃を受け流す。その隙に。
「風刃、二連射!」
二体目と三体目を同時に仕留めた。
「試験終了! 全体制圧、タイム四十五秒」
周囲がざわついた。「速い」「一年生か」という声が聞こえた。
セラは内心で苦笑した。嬉しいが、照れる。ちょっと居心地が悪い。次のアリアの試験を静かに応援しよう。
次はアリアの番だった。
「試験開始!」
「水鞭!」
水鞭で一体目を拘束して倒す。アリアの目が残り二体に向いた。
「水よ、弾けて敵を砕け——アクア・ブラスト!」
澄んだ声が演習場に響いた。水の衝撃波が炸裂し、二体目と三体目が同時に吹き飛んだ。
「試験終了! タイム五十五秒」
また驚きの声が上がる。「彼女もすごい」「二人、別格だ」。
アリアが掌を見つめた。詠唱に込めた力が、まだ指先に残っている感じがするように見えた。初めて本番で使った技の感触を確かめているのかもしれない。
「……やれた」
アリアが小さくそう呟いた。セラには聞こえた。
魔法制御力試験。指定の魔法を、指定の威力で発動する。
「ウィンド・カッター、五割で」
「ウィンド・カッター」
威力を落として放つ。的が半分ほど切れた。
「完璧。適切な制御です」
「十割で」
「ウィンド・カッター!」
全力。的が真っ二つになり、後ろの壁まで切り裂いた。
試験官が満足そうに頷いた。アリアの水魔法の試験も同様に、的確だった。
制御というのが重要だと改めて実感した。全力を出すのはできる。調整しながら出すのは、練習が必要だ。大声しか出せない人と、ちゃんとボリュームを変えられる人、どっちが使い物になるかは明らかで。魔法も同じ理屈だ。
午前の試験が終わり、試験官が言った。
「結果発表は午後二時からギルドのホールで。それまで解散」
セラとアリアはギルドを出て、近くの食堂で昼飯を食べ、ぶらぶらした。緊張は解けたが、発表まで落ち着かない。
「自信ある?」
「まあ……うん。でも発表まで落ち着かないな」
「私も。なんか、胃のあたりがムズムズする」
「アリア、それが緊張だ」
「そうなのか! 初めてかも」
「えっ、アリアって普段あんなに落ち着いてるのに……」
「ランクアップって大事なことだから」
自信満々に見えたアリアが実は緊張していた。意外だった。そしてなぜかすごく安心した。余裕そうに見える人も、ちゃんと普通に緊張する。完璧に見える人も、実は普通に人間だ——そう思うと楽になった。
「大丈夫だよ、アリア。昨日の練習の通りに動けた」
「セラくんが言うなら、そうかな」
「俺もアリアに言われたら「そうかな」ってなるから、お互いさまだ」
アリアが笑った。二人で笑い合いながら、午後の発表を待った。
## 結果発表
午後二時。ギルドのホールに受験者たちが集まった。
試験官が立ち上がり、羊皮紙を手に取った。名前が次々と読み上げられる。合格する度に歓声が上がる。
最後に、試験官が深呼吸をした。
「特筆すべき二人の合格者です」
ホールが静かになった。
「セラ・ウィスパーウィンド。戦闘試験タイム四十五秒、制御力試験満点。上級魔法エアロ・ストームの適性が認められ、特別評価」
ざわめき。称賛の声。
ありがたい。でも居心地は悪い。周囲の視線が増えるのが少し怖い。視線の量と自分のキャパシティが見合っていないと感じる。……まあ、慣れるしかない。
「アリア・ムーンウィスパー。戦闘試験タイム五十五秒、制御力試験満点。水魔法の熟練度は熟練冒険者の域に達しています」
再び称賛の声。アリアが照れ笑いをしている。
壇上に上がり、試験官から新しいランクカードを受け取った。Eランクの刻印。Fランクのカードと比べると、重さは変わらないが、なんとなく違う気がする。
昇格というのは、見た目より内側の変化が大きい。「なれた」という事実が、自分の中の基準を書き換える。それが、昇格の本当の意味だ。
「おめでとう、アリア」
「おめでとう、セラくん」
手を握り合った。ミサキさんが受付カウンターから両手を振って祝ってくれていた。その顔が心底嬉しそうで、こちらまで嬉しくなった。
試験官が近づいてきた。
「セラ・ウィスパーウィンド。君のエアロ・ストームの適性は本物だ。通常のEランク試験で測れる水準を超えている。今後、Dランクを視野に入れた訓練を積むことを薦める」
「ありがとうございます」
「焦る必要はないが、止まることもするな」
「はい」
試験官が去った後、アリアがセラの肘を突いた。
「ねえ、今の試験官に直接言ってもらったよ。すごいね」
「……ちょっと照れるな」
「セラくんが照れてる。珍しい」
「うるさい」
ギルドを出た。夕暮れの王都が橙色に染まっている。
「もう夕方か」
「あっという間だった。試験って、時間が経つのが速い気がする」
「緊張してたからじゃないか」
「セラくんも緊張してたの?」
「してた。四十五秒で終わった後も、アリアの試験が終わるまで落ち着かなかった。アリアが上手くやってくれるか気になって」
「……気にしてくれてたんだ」
「当たり前だろ」
アリアが笑った。橙の光の中で、その顔がとても綺麗だった。
## 祝賀
「おめでとう! Eランク昇格!」
「森の恵み亭」に戻ると、店主が待ち構えていた。特製ローストチキンと新鮮なサラダ、シチュー。テーブルの上がすごいことになっていた。
「どうして知ってるんですか店主さん」
「ミサキさんから連絡があったよ。あの娘、気が利くな」
受付嬢の情報網、侮れない。でも、こうして祝ってもらえるのは純粋に嬉しい。
「ありがとうございます」
「いいえ、お祝いさせてよ。二人が頑張ってたの、知ってたから」
「えへへ、ありがとうございます! 食べていいですか?」
「当たり前だよ、アリアさん。たくさん食べなさい」
セラは素直に嬉しかった。頑張りを認めてもらえる機会というのは、思ったよりずっと少ない。成果を出しても次の仕事が増えるだけ、ということが以前はあった。こっちでは積み重ねが見えている人がいる。その違いは、大きい。
「いただきます」
ローストチキンを食べた。美味い。シチューも美味い。疲れた体に、温かい食事が沁みる。サラダの野菜も、冬の時期に新鮮なものが用意されている。店主の心遣いが、料理の隅々に感じられた。
「セラくん、今日の試験、四十五秒はすごかったです」
「アリアも五十五秒は十分すごい」
「連携の練習の成果ですね」
「うん、二人でやってきたからな」
アリアがセラの手を取った。
「これからも、もっと上を目指せると思います。DランクもCランクも、その先も」
「うん。アリアとならできる」
「私も、そう思います」
前に進む。その感覚が今世では鮮明だ。この先に何があるかわからなくても、前に進むことが楽しいと思えている。やるべきことが見えている。仲間がいる。
「ミサトさんにも報告しようね」
アリアが言った。セラは頷いた。
「きっと喜んでくれる」
「はい。私、ミサトさんとも仲良くなりたいです」
「アリアは優しいな」
「だって、三人で幸せになりたいですから。セラくんが大切にしている人は、私も大切にしたい」
それを聞いて、セラは改めてアリアのことを好きだと思った。理屈ではなく、ただそう思った。
「ありがとう、アリア」
「どういたしまして! えへへ」
料理を食べながら、今日一日のことを振り返った。試験の緊張、四十五秒の達成感、アリアとの祝い合い、店主の顔、ミサキさんの両手を振る姿。全部、今日という日の一部だ。どれも大切にしたい記憶だ。
アリアが白ワイン風の飲み物を少しだけ口に含んで、目を細めた。
「美味しいですね」
「学園の食堂より断然うまい」
「当然よ。ここのシチュー、秘伝のレシピがあるって店主さんが言ってたもの」
「知ってたのか」
「聞いたの。料理が好きだから、気になって」
アリアが料理に詳しいことは知っていた。でも、こういうところでも能動的に情報を集めているのか——そういう人間だ。セラが「いるだけで心強い」と思う理由のひとつが、その能動性にある。
「……アリア」
「なに?」
「今日、ありがとう。一緒にいてくれて」
「どういたしまして。——でも、セラくんも言わせてほしい。今日、一緒にいられて良かった」
二人の声が重なるような間があって、それから二人同時に笑った。
窓の外に月が出ていた。
「Eランクになったんだな」
セラが呟いた。
「はい。前に進みましたね」
「うん。次も、前に進もう」
「はい。……セラくんと一緒なら、どこへでも」
「アリア、また言った」
「えへへ、本当のことだから」
アリアが微笑んだ。セラも笑い返した。
「おやすみなさい、セラくん」
「おやすみ、アリア」
ベッドに入って天井を見た。Eランクのカードをベッドサイドに置いた。明日、ミサトに報告する。明後日、Eランクのクエストを探す。やることは山ほどある。でも、それが楽しみだ。
(転生して、昇格できたぞ。自分と仲間の力で積み上げた。積み重ねたものが、ちゃんと手元にある。こっちの昇格は、全部そういうものだ。今世の俺は、ちゃんとやってる)
目を閉じた。冬の夜が静かに更けていった。
翌朝、ミサキさんからギルドに報告書を提出する時、セラは今日もアリアと並んで受付に向かった。Eランクのカードが、胸ポケットの中でわずかに重かった。その重さが、昨日から今日へと続く証拠だ。変わったのか変わっていないのか分からないけど、何かが違う——そういう感じ。今世では、その感覚がずっとはっきりしている。
「おはようございます、セラくん」
受付でミサキさんが笑顔を向けてくれた。
「おはようございます。昨日はありがとうございました」
「いえいえ! Eランク昇格、おめでとうございます。次のランクアップも期待していますよ!」
「期待しています」という言葉が、温かい。「頑張れよ」止まりの言葉とは、同じ言葉でも違う温度がある。ミサキさんのこれは——確かに温かい。
「はい、頑張ります」
翡翠色の瞳を細めて、セラは頷いた。
ミサキさんが少し身を乗り出した。
「……一つ聞いていいですか? セラさん、昨日の試験中、四十五秒で終えた時、表情変えてなかったですよね。周りはざわついてたのに、本人がいちばん落ち着いてた」
「緊張してましたよ。内心では」
「でも外には出さなかったでしょ」
「……それは、試験官が見てたから」
ミサキさんが笑った。今日もよく晴れている。受付の窓から差し込む光が、ミサキさんの銀色の髪をほんのり輝かせていた。
「これからも、ギルドに遊びに来てくださいね。いつでも歓迎します」
「はい。また来ます」
アリアが隣で小声で言った。「ミサキさん、セラのこと好きなのね」
「友人として、でしょ」
「それだよ」
アリアがくすりと笑う。セラもつられて笑った。それが心地よかった。Eランクになった朝、こういう会話をしている——これが今世の日常だ。悪くない。まったく悪くない。




