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第八話 冬の膳 燻し魚で狼煙を上げる盗賊団(9)

 灰枝団は四列で進んだ。

 先頭は見張り役、二列目は短刀を持つ縄切り役、三列目は押さえ役と扉割り役、残る者が四列目だった。


 お頭はその全部を全軍と呼んだ。


 リュカと薪番は列の中央を歩かされ、薪番は火鋏を持たされていた。

 前後の盗賊が下げた兵糧袋には、燻し魚が詰まっていた。


 狼煙の火に、見張りは残さなかった。

 裸地の中央で燃えているのは、乾き薪二本と、その上の濡れ薪二本だけだった。

 薪番は周囲の雪をもう一度踏み固め、火の粉が落ち葉まで届かないことを確かめた。

 余分な薪は火から離し、炎が裸地の中央に収まっているうちに、全員が小屋を離れた。


「ここからは右の道を行け」


 リュカが言った。

 お頭は左を見た。


「冬詰所は左だ」


「左には炭焼きの家がある」


「軍は街道を進む」


「騎士と戦うなら、人家を通るな」


 リュカが道を指すと、お頭は足を止めた。


 見張り役も止まり、後ろの列が詰まった。


「なぜだ」


 リュカは言葉を選んだ。


 巻き込みたくない、と言えば軍議として退けられるかもしれない。


「炭焼きが冬詰所へ知らせれば、騎士が先回りする。人家を抜ける前に道を塞がれる」


 見張り役がうなずいた。


「軍師の言うとおりだ」


「軍師じゃない」


「人家を避ける」


 お頭は右へ向きを変え、古い炭焼き道へ入った。

 食堂と炭焼きの家を避け、冬詰所へ大きく回る道だった。


 リュカは薪番へ目を向けた。


 薪番は小さくうなずいた。


 この道なら、食堂にも炭焼きの家にも近づかない。


 狼煙と雪上の足跡を見た騎士隊は、いずれ森側にも人を回す。

 騎士隊の前まで、誰も傷つけずに進ませる方がよかった。


 見張り役が、兵糧袋の横へ吊っていた炭粉の袋を開いた。


「墨の代わりだ」


 袋から一つまみ取り、雪へ落とした。

 炭粉は風に押され、狼煙の後ろへ落ちた。


 お頭が手を上げた。


「炭粉は狼煙より前へ出すな。麦の火酒も、魚の煙よりあとだった」


 見張り役は、炭粉の袋と狼煙の後ろへ落ちた粉を見比べた。


「俺も後ろか」


「その袋を持つ間はな」


 麦火酒の評が、炭粉を持つ者の配置へすり替わった。


 見張り役は、列の中で半歩だけ後ろへ下がった。


 次に、お頭は道の幅を見た。


「林檎の火酒は、海老の塩気を丸くした。お前たちも左右から回り込め」


 押さえ役が両腕を広げた。


「敵を包む」


「何人で包むつもりだ」


 リュカが聞いた。


「十三」


「盗賊は十一人だ。残りの二人は捕虜だ」


「中央に置く軍師と、火と兵糧だ」


「十三で包む」


 冬詰所に何人いるかも知らない。

 道の上に十三人しかいない。


 それでも押さえ役が両腕を広げたまま左右を示すと、後ろの者たちは道脇の雪へ踏み出そうとした。


「道から出るな」


 リュカが止めた。


「雪が深い。列が崩れる」


「軍師は慎重だ」


 列は道へ戻った。

 香草火酒の評も軍令になった。


「香草の苦みは、イカの端にだけ残った。縄切りも隊列の端へ置く」


 お頭は短刀の男を見た。


「柵際へ出ても、切るのは柵縄だけだ。人へ刃を向けるな」


 短刀の男が刃を確かめた。


「柵縄だけだ」


 短刀の男は刃を鞘へ戻した。


 お頭は扉割り役が肩へ担いだ木槌を見た。


「盾は薄い」


「叩くな」


 薪番が言った。


「まだ叩いてない」


「これからも叩くな」


「軍師補佐まで慎重だ」


「火と兵糧だ」


 お頭が訂正した。


「どちらでもない」


 薪番は火鋏を持ち直した。

 道は緩く下った。


 木の間から見え始めた冬詰所の灯は、三つから五つ、さらに七つへ増えた。

 騎士隊は起きていた。


 挑戦状を読んだのか、詰所前を人影が動いていた。


 お頭の足が速くなった。


「灯へ近づくな」


 見張り役が言った。


 お頭は前を見たまま答えた。


「敵の灯だ」


「街道の灯は避けろと言っただろう」


「盗賊ならな」


 お頭は上着の内側の瓶差しを叩いた。

 黒瓶の赤い紐が襟元で揺れた。


「今夜は軍だ」


 街道の灯を避ける鉄則も消えた。


 冬詰所の灯が動いた。


 一群は街道を横切るように並び、もう一群は森側へ移って木の陰へ一つずつ消えていった。


 見張り役が息をのんだ。


「敵が陣を割った」


 押さえ役が後ろの白煙を見た。


「こちらの狼煙を見た」


 扉割り役が木槌を握った。


「戦を受けたぞ」


 お頭は笑った。


「全軍、前へ」


 前に残った灯は街道を塞ぎ、森へ消えた灯は白煙を目印に彼らの後ろへ回っていた。


 だが、竜の息吹が効いている間、お頭は前の灯だけを見て進み、背後の灯へ一度も振り返らなかった。


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