第七話 秋の膳 竜の息吹で磯合戦を語る酒飲み(7)
卓には、干しイカと塩蟹と干し蛸と干し貝柱が残っている。
火酒を合わせなければ、どの皿にも箸が伸びた。
「干物は出します。火酒は一杯まで。水は先に置きます」
酒番が低く言った。
リュカは薄いエールを一口飲んだ。
「それでいい。何を言ったかは、朝に教えてやれ」
「それで済ませますか」
「朝になって自分の言葉を聞かされれば、二杯目は頼みにくい」
「船も親方も、ここにはいない」
「親方は無事なんですね」
「たぶん、今も兜を洗っている」
山側の女は、干し貝柱をもう一つ取った。
酒番が水を注ぐたび、黒瓶の栓より水差しの蓋がよく鳴った。
「今夜は水で商いができそうだな」
荷運びが言った。
「水代はいただきません」
「取ればいい」
「取ったら飲まなくなります」
「それは困る」
酒番が空の水差しを満ちたものと替え、リュカが焼き餅へ箸を伸ばしかけた時、奥の席で声がした。
「干しシャコはないのか」
声を出したのは、夕方に宿帳へ来た肩幅の広い男だった。
荷の護衛か、馬車の押し手か。
上着の前をきちんと留め、椅子へ座る時も背筋が崩れない。
酒番は、すぐには答えなかった。
「あります。ただ、火酒には合わせません」
「なら、それを頼む。薄いエールを一杯つけてくれ」
肩幅の広い男は、棚の黒瓶を見た。
「竜の息吹も」
丸顔の男が水を吹き出した。
年配の女が、すぐに布を投げる。
「話を聞いていなかったのかい」
「聞いていた」
肩幅の広い男は、背筋を崩さずに答えた。
「だから水も飲む」
「水で済むのか」
丸顔の男が聞いた。
「一杯だけだ」
酒番は干しシャコの箱を見た。
布の下にある。
昼に「まだ開けません」と言っていた箱だ。
「やめておいた方がいいです」
「酒番がそこまで言うなら、よほど合うのか」
「それは逆です」
「逆なら、なおさら一杯で分かる」
年配の女が額に手を当てた。
「男ってのは、どうして水差しを前に置かれても、奥の小瓶を見るんだろうね」
「男だけじゃないよ。私も見てる」
山側の女が言った。
「飲むのかい」
「飲まないよ。誰が騒ぎ出すか見てるだけだよ」
酒番は大きな水の杯を置いてから、干しシャコの皿と空の小杯を並べた。
皿の底が、卓で小さく鳴った。
水の杯を先に置いても、今夜の騒ぎはまだ終わらなかった。




