第四話 冬の膳 勇者の名乗りを求める門(4)
ガロは火のそばを少し空けた。
だが、椀には手を伸ばさない。
「名前を言え」
「名はリュカ」
「リュカ。火を借りるなら火の番だ。椀を借りるなら鍋の番だ」
ガロは、入口の毛布の下に残った雪を指した。
「寝るなら、入口の雪を払え。ここは町の宿じゃない」
リュカは濡れた手袋を外した。
指先は赤くなっている。外套の袖口から落ちた雪が、天幕の土の上で小さく溶けた。
「それなら、できる」
ガロはうなずいた。
「それなら入れ」
リュカは天幕の中へ入り、毛布を後ろで下ろした。
外の冷たい風が、そこで切れた。
火鉢の熱が、膝のあたりへゆっくり来る。
町門の内側には、宿も市場も灯りもある。
けれど、その夜リュカが最初に座る場所は、門の外の待ち天幕だった。
天幕の中は、町の宿とは違った。
床に板はなく、踏み固めた土の上で、古い敷物が二枚、角をずらして敷かれていた。
端のほうは湿っている。入口の毛布が風を止めきれず、下の隙間から細い冷気が入ってくる。
火鉢は二つ。
一つは鍋の下に置かれ、もう一つは人の手足を温めるために低い台の上へ置かれていた。
炭は赤く、灰の下でゆっくり息をしている。
ガロが時々火かき棒で灰を寄せるたび、細い火の粉が立った。
鍋の中では、根菜と豆が煮えていた。
芋に似た白い根。
赤い皮の薄い根。
小さな豆。
それに、さっきガロが削って入れた燻製肉の端。
町の宿で椀に注がれる汁なら、もっと澄んでいる。
けれど天幕の鍋は、何度も火に戻され、何度も混ぜられ、底の方に豆の崩れたとろみが沈んでいる。
底のとろみは、澄んだ汁より重く腹へ落ちる。
リュカは入口近くで立ったまま、火鉢の前に片膝をついた。
「何をすればいい」
ガロは火かき棒をリュカの前へ置いた。
「薪は入れるな。灰を寄せろ。火が強いと鍋の底が焦げる」
リュカは火かき棒を取り、灰を薄く寄せた。
赤い炭が、灰の下でゆっくり光った。
火鉢のそばで、子どもの手が横の薪へ伸びた。
「今じゃない」
ガロが止めた。
「ここは寒い」
「今入れると火が強すぎる」
「ほんの少しだけ」
「少しでも、鍋の底が焦げる」
子どもは薪を戻した。薪の端が、土の上で小さく跳ねた。リュカはその横を通り、鍋の前へ膝をついた。
木の柄がついた大きな匙を手に取る。
鍋の底へ、ゆっくり入れる。
豆が沈んでいた。
根菜が少し崩れている。
底に近いところで、燻製肉の端がいくつか引っかかった。
リュカは鍋の底を起こした。
湯気が上がる。
燻製肉の匂いが、さっきより濃くなった。
「底を削るなよ」
ガロが言った。
「削っていない」
「町の宿じゃない。焦がしたら、焦げたところも食うことになる」
「焦がしていない」
「今はまだな」
ガロは鍋の縁を指で示した。
「もう一度、火に近い側を回せ」
リュカは匙を戻さず、鍋の縁に沿わせた。
薄い汁の下で、豆の層がゆっくり動く。
崩れた根菜が火の近い側から離れ、燻製肉の端が二つ表に出た。
「そこまでだ」
「まだ沈んでいる」
「沈むものは沈む。張りつかせるな」
リュカは匙を止めた。
薬売りの女が、膝の上の布包みを少し持ち上げて笑った。
「ガロは鍋の番になると口うるさいんだよ」
「口うるさくしないと、豆が底へ張りつく」
「豆は逃げない」
「逃げないから焦げる」
老人が、杖の先で軽く床を叩いた。
「その豆を食うのは、たいてい最後に座った者だ」
子どもの匙が、リュカの前で止まった。
「最後に来た」
リュカは匙を戻した。
「なら、その豆をもらう」
「変な人だな」
「腹が減っている」
ガロはそこで椀を一つ取った。
まだ渡さない。
「入口の雪を払え」
リュカは立ち上がった。
天幕の入口には、踏み込まれた雪が固まりかけていた。毛布の下から入った風で、内側へ白い粒が吹き込んでいる。
リュカは木べらを取り、入口の雪を外へ押し出した。
踏み石の周りを削り、毛布の端を少し上げ、湿った敷物を内側へ折る。
外の風が一度、強く吹いた。
天幕の右端が、ばたんと鳴った。
支柱に結んだ紐が緩んでいる。布の端が浮き、そこから雪の粉が入ってきた。
薬売りの女が布包みを抱え直す。老人が杖を引いた。
子どもは火鉢の縁から手を引き、少し身を引いた。
リュカは、その端へ回った。
布は古い。
裂け目もある。
だが、裂け目はそのままにした。
リュカは支柱の根元へ手を伸ばし、緩んだ紐をほどいた。
濡れて硬くなった紐は扱いにくい。
指先で少し温め、結び目をほどき、布を一度折り返してから、支柱に巻き直す。
引く。
結ぶ。
余った端を、さらに一回くぐらせる。
布の浮きが収まった。
毛布の揺れが、小さくなった。
「手慣れてるな」
ガロが言った。
「旅をしていれば、布は緩む」
ガロは椀を持ったまま、揺れの小さくなった毛布の前で手を止めた。
親指が、椀の縁をほんの少し押した。
「ここは宿じゃないからな」
「さっき聞いた」
「聞いたならいい」
ガロは椀をリュカの方へ出した。
「そこへ座れ」
リュカは火鉢のそばへ座った。
濡れた外套の裾を手の幅ほど広げ、手袋を灰の熱だけが届く端へ置く。
火に近すぎれば、革は乾く前に硬くなる。
ガロは鍋から具をすくった。
根菜を二つ、豆を多めに、燻製肉の端を少し。汁をかけ、椀の縁を指で拭う。
その椀を、リュカへ渡した。
熱かった。
リュカは両手で椀を包んだ。
指先の赤みが、少しずつ戻ってくる。
最初の一口は汁だった。
豆のとろみがある。
根菜の甘さが溶けている。
燻製肉の塩気は強くないが、舌の端に残った。外で冷えた体が、その少しでゆるんだ。
次に、豆を食べる。
少し硬い。
けれど、歯に当たる硬さではなく、腹に残る硬さだった。
宿で出る豆のように、全部が柔らかくはない。火に戻されるたび少し崩れ、底の方だけ重く残った豆だった。
リュカは汁をもう一口すすった。
子どもが、火鉢の向こうから身を乗り出した。
「旅人さん、味はどうだ」
「かなり熱い」
「味を聞いたんだよ」
「豆が少し硬い」
子どもが自分の椀の縁を匙の先でつついた。
「まずいってこと?」
「まずくはない。腹は落ち着く」
「それは、うまいってこと?」
「近いと思う」
そこでガロが笑った。
「お前、それで褒めてるつもりか」
「けなしてはいない」
「なら、まあいい」
薬売りの女が、火鉢の縁に置いていた林檎を回した。半分に割った林檎だった。
皮に裂け目が入り、そこから湯気が立っている。
蜜のような汁が少しにじみ、鉄皿の上で焦げて甘い匂いを出していた。
薬売りの女は、その片方を子どもへ渡し、残りをさらに切った。
小さく切った一片を、リュカの椀の蓋代わりに使っていた木皿へ置く。
「門に嫌われた初日には、林檎がつく」
「毎回つくのか」
「林檎がある日だけ」
リュカは林檎を指でつまんだ。
熱い。
少し冷ましてから食べる。皮は薄く、実は柔らかい。甘さの奥に、焦げた皮の苦みが少しあった。
町の宿なら、焼き林檎はもっと形よく皿に乗る。
これは半分をさらに分けたものだ。端は焦げ、皮は裂け、木皿の上で少し傾いている。




