第9話 大演説で犯人の名を言う
ベルヴェット邸・大広間。
夜。
全員が集められている。
・エリザベス(長女)
・エルナ(双子の姉妹)
・セルス(双子の姉妹)
・キャロライン(遠縁の親戚)
・ヴァン・クロウ(吸血鬼の弁護士)
オズワルドとブレイブ警部補
重い空気。
誰もが疑心暗鬼。
中央。
オズワルドが静かに歩く。
足音だけが響く。
やがて立ち止まる。
「この事件は――」
ゆっくりと顔を上げる。
「吸血鬼が犯人ではない」
ざわめき。
「錯覚だ」
ブレイブが腕を組む。
「説明しろ」
オズワルド、頷く。
「まず“使い魔のコウモリ”」
手を軽く振る。
「視線誘導だ」
「恐怖を植え付けるための演出」
「人は恐怖を見ると、都合よく補完する」
キャロラインが小さく呟く。
「……噛まれたって」
オズワルド
「ああ」
「“噛まれたように見せられた”」
一拍。
「実際は――」
「遠距離からの毒針だ」
空気が張り詰める。
「針は」
壁を指す。
「額縁の裏に仕込まれた穴から発射された」
ブレイブ
「……そんな仕掛けが」
オズワルド
「ある」
「そして問題はその後だ」
静かに視線を動かす。
ソフィア(白猫)
「凶器が消える理由」
一歩、近づく。
「この白猫が現場から回収をしていた」
ざわめき。
キャロライン
「やっぱり……」
オズワルド
「猫ならば、誰にも怪しまれない」
一拍。
「では――」
「命令したのは誰か?」
静寂。
全員の視線が動く。
エリザベスへ
オズワルドも、ゆっくりと指を向ける。
「飼い主はあなたです」
空気が凍る。
エリザベスが目を見開く。
「……私が?」
その瞬間。
セルスとエルナ
双子の姉妹が一歩前に出る。
「そうよ!」
「エリザベス様が!」
「白猫を使って殺したのよ!」
声が重なる。
完全に一致した叫び。
ざわめきが一気に広がる。
ブレイブ警部補
「……やはりな」
キャロライン
「そんな……」
その時。
オズワルドが叫ぶ。
「違う!!飼い主はエリザベスの白猫だ」
空気が裂ける。
沈黙。
全員が固まる。
オズワルドの目が鋭く光る。
「それは――」
「双子が描いた嘘だ」
セルスとエルナの表情が、一瞬だけ止まる。
オズワルド、ゆっくり歩き出す。
「確かに条件は揃っている」
「屋敷構造」
「白猫の飼い主」
「殺人の動機とタイミング、そして凶器の毒針が
エリザベスの引き出しから見つかった。」
エリザベスを見る。
「だが――」
「決定的に“やりすぎている”」
一歩。
双子へ近づく。
「証言が完全に一致する」
「時間も、言葉も、間も」
「そんなものは存在しない」
静かに言う。
「人間ならな」
空気が張り詰める。
「だが二人なら可能だ」
セレナとエリナの間に立つ。
「役割を分担し」
「同時に動き」
「同時に撃つ」
一拍。
「毒針は“同時に”二つ発射されている」
ブレイブの目が細くなる。
「一人では不可能だ」
オズワルド、振り返る。
「そして」
エリザベスの方を見る。
「この部屋にあった針」
ゆっくりと言う。
「隠すには」
「雑すぎる」
キャロライン
「わざと……置かれた」
オズワルド、頷く。
「そう」
「“見つけさせるための証拠”だ」
沈黙。
オズワルドの視線が、再び双子に向く。
「真実はこうだ――」
霧の夜。
全ての嘘が、剥がれ落ちる。
静かに、しかし確信をもって語る。
「まず犯行は“単独では不可能”」
「毒針は同時に発射されている」
壁を指す。
「隣り合う部屋」
「壁の空洞構造」
「同時に撃たれた針が、同時に命を奪った」
ブレイブ
「つまり……」
オズワルド
「二人」
空気が張り詰める。
「一人が発射する」
「もう一人が“同時に”発射する」
「誤差ゼロの犯行」
キャロライン
「……だから傷が同じ……」
オズワルド、頷く。
「次に“回収”だ」
視線を落とす。
白猫ソフィア
「針は極細」
「そのまま残せば即発覚」
「だから回収する必要がある」
「だが人間では遅い」
「だから猫だ。わずか空いていた窓から逃げた。」
ソフィアが小さく鳴く。
「訓練された猫は」
「合図で動き、物を運ぶ」
キャロライン
「……じゃあ最初から」
オズワルド
「ああ」
「計画されていた」
一歩、前へ。
「そして最大のポイント」
静かに双子を見る。
「証言」
「完璧すぎる」
セレナとエリナが固まる。
「同時に喋る」
「同じ言葉」
「同じ記憶」
「それは“自然”じゃない」
一拍。
「役割分担だ」
ざわめき。
オズワルドの声が低くなる。
「一人が“観察する”」
「一人が“記憶する”」
「そしてそれを“同期させる”」
キャロライン
「……演技」
オズワルド
「いや」
「訓練だ」
静寂。
ブレイブが一歩前に出る。
「つまり――」
オズワルドが言い切る。
「二人で一つの犯人」
空気が凍る。
さらに続ける。
「そして最後」
「エリザベスの部屋の引き出しにあった毒針」
全員の視線が向く。
「あれは証拠じゃない」
一拍。
「“誘導”だ」
キャロライン
「犯人に見せるための……」
オズワルド
「そう」
「最も疑われやすい位置に」
「最も分かりやすい証拠を置く」
「それは“犯人のやり方”じゃない」
静かに言う。
「犯人に“見せかける者”のやり方だ」
沈黙。
オズワルドの目が鋭く光る。
「この事件は――」
ゆっくりと。
「セルスとエルナの双子姉妹二人で仕組まれた“完全犯罪”だ」
霧の中。
真実が、完全に姿を現そうとしていた。




