第7話 チェスにて推理 、 観測者の位置
星霧探偵事務所。
夜。
窓の外は濃い霧。
部屋の中は静まり返り、
ただ一つの音だけが響く。
コツ……コツ……
チェス駒。
オズワルドが、ゆっくりと盤を整えていく。
並べられた駒。
♚ エドワード(夫)
♕ マリア(妻)
♞ ダンカン(常連)
♖ ノスフェル(店長)
✚ ルクス(天使・ホール)
■ キャロライン(観測者)
■ グリム(厨房)
■ リュカ(被害者)
キャロラインが覗き込む。
「……全員、いる」
オズワルドは小さく頷く。
「役割ごとに置いてる」
最初に。
♚と♕を前へ押す。
「夫婦は“狩る側”」
「客を選び」
「近づき」
「関係を築く」
✚ルクスを斜めに動かす。
「天使は“繋ぐ存在”だ」
「客と店を」
「安心させる役」
キャロライン
「……ルクス先輩は関係ないよ」
オズワルド
「わかってる」
「だからここに置いてる」
「“疑われない位置”にな」
一瞬、空気が変わる。
■グリムを横へ。
「厨房は無関係」
「毒はここじゃない」
♖ノスフェルを後方に。
「店長は見ている」
「だが動かない」
♞ダンカンを動かす。
「常連は観察者」
「気づいてるが止めない」
そして。
オズワルドは最後の駒に触れる。
■リュカ。
ゆっくりと中央へ。
「この駒だけが違う」
「壊されている」
キャロラインが小さく息を呑む。
「記憶が曖昧」
「恐怖だけが残っている」
リュカの駒を♚の前に置く。
「狩られる側」
一拍。
コツ。
リュカの駒が♚を倒す。
さらに♕も倒れる。
キャロライン
「……!」
オズワルド
「だが殺されたのは“狩る側”だ」
「つまり」
静かに言う。
「狩られる側が反撃した」
沈黙。
さらに駒が動く。
■キャロラインを中央へ。
「そしてお前」
「唯一、“違和感”に気づいた」
「だからこの盤が成立する」
キャロライン、言葉を失う。
オズワルドは盤を見つめる。
「毒は食事に混入された」
「だが厨房は関与してない」
「つまり」
指で盤を叩く。
「客席だ」
♚と♕の位置。
「信頼されていた相手だけが」
「近づける場所」
ブレイブ(背後で腕を組む)
「……誰だ」
一拍。
オズワルド
「“被害者側”だ」
視線がリュカに落ちる。
重い沈黙。
オズワルドの目が細くなる。
「全部、繋がった」
駒を一つ、強く倒す。
コトン。
立ち上がる。
コートを手に取る。
「行こう」
扉へ向かう。
キャロライン、息を呑む。
振り返るオズワルド。
「決着つける」
ドアが開く。
霧が流れ込む。
ブレイブが低く笑う。
「……やっとだな」
オズワルドは振り向かない。
ただ一言。
「終わらせる」
霧の夜。
弟子は、師匠の領域へ踏み込む。




