第2話 出勤と観察
霧都の朝
ナイトレクイエムの看板が静かに揺れている。
「おはようございます!」
キャロラインの初出勤。
制服に着替え、少し緊張した様子でホールに立つ。
店長ノスフェルが軽く頷く。
「無理はしなくていい。まずは雰囲気に慣れてください」
「はい!」
営業開始。
扉が開く。
カラン
「いらっしゃいませ」
そこに入ってきたのは
「よぉ」
オズワルド。
キャロライン、少し驚いて笑う。
「なんでまた、来てるのよ」
「応援に決まってるだろ」
適当なことを言いながら席に座る。
メニューを開く。
「へぇ……いいじゃん」
読み上げる。
「吸血鬼風の血のトマトジュース」
「狼男の牙風のボーンステーキー」
「影男風の焼焦げピザ」
「クセ強いなこの店」
キャロライン
「ちゃんと美味しいから!」
「じゃあ全部」
「頼みすぎ!」
軽いやり取り。
だが。
オズワルドの目は笑っていない。
店内を見ている。
観察している。
料理が運ばれる。
赤いトマトジュース。
骨付き肉。
焦げたピザ。
「……見た目はちゃんとしてるな」
一口飲む。
「うまい」
その間も。
視線は動く。
奥の席。
あの夫婦。
エドワードとマリア。
同じ席。
昨日と同じ位置。
(またあそこか)
さらに気づく。
・長時間動かない
・食事より会話が中心
・周囲の客を観察している
そして。
新しい客が入ってくる。
少し疲れた様子の青年。
夫婦の視線が向く。
数分後。
夫が立ち上がる。
自然な動きで近づく。
声をかける。
笑顔。
会話。
そして。
小さな紙を渡す
(名刺……?)
青年は少し戸惑いながらも受け取る。
席に戻る夫婦。
まるで何もなかったかのように。
オズワルド、ぼそりと呟く。
「営業してるな」
キャロライン
「え?」
「いや」
「気にすんな」
厨房の方を見る。
だが。
違和感。
ある客が注文する。
「特別メニュー、お願いします」
その瞬間。
空気がほんの少し変わる。
スタッフの一人が頷く。
しかし。
厨房には向かわない。
代わりに。
裏口の方へ消える
(……なんだ今の)
オズワルドの目が細くなる。
数分後。
その客の姿が――
見えない。
キャロライン
「……あれ?」
「さっきのお客さん……」
オズワルドは立ち上がる。
「トイレ」
適当に言って歩き出す。
裏へ。
薄暗い通路。
そして。
裏口のドアがわずかに開いている
外。
霧。
その中で。誰かが“連れ出されている”
肩を支えられながら。
抵抗はない。
だが。
“意思も感じない”
オズワルドの目が変わる。
「……なるほどな」
低く呟く。
「この店」
振り返る。
「表と裏がある」
霧が濃くなる。
ナイトレクイエム。
それはただのカフェではない。
“何かを流す場所”
仮面夫婦のなぞが
静かに、闇が姿を現し始める。




