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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
仮面夫婦

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第1話 面接の違和感

霧の都の夕暮れ。


通りにぼんやりと灯るランプの光。


その中に、ひときわ目立つ看板があった。


「怪人ふれあいカフェ ナイトレクイエム」


キャロラインは、少しだけ服の裾を整える。


「……よし」


ドアを開けた。


カラン、と小さなベル。


中は意外にも落ち着いた空間だった。


木目のテーブル。

柔らかな照明。

静かな音楽。


そして


吸血鬼風の紳士が紅茶を飲み、

狼男が笑いながら会話し、

人間の客が普通にくつろいでいる。


“怪人と人間のかけはし”


そのコンセプト通りの空間だった。


「いらっしゃいませ」


声をかけてきたのは、

柔らかな雰囲気の女性スタッフ。


「面接の方ですよね?」


「はい、キャロラインです」


「こちらへどうぞ」


案内されたのは、店の奥のテーブル席。


面接室ではない。


“現場でそのまま面接するタイプ”だ。


(ちゃんとしてるお店だな……)


少し安心する。


店長らしき人物が現れる。


黒いスーツ。落ち着いた物腰。


吸血鬼の怪人ノスフェル。


「本日はお越しいただきありがとうございます」


丁寧な口調。


「当店は接客が中心になりますが、

怪人のお客様も多いので、距離感が大切になります」


「はい」


「難しい仕事ではありません。

ただ“相手を尊重すること”ができるかどうか、それだけです」


穏やかな面接。


志望動機。

勤務時間。

簡単な接客の確認。


どこにでもある、普通の飲食店の面接だった。


「では最後に――」


「店内を少し見て回ってください」


「実際の雰囲気を感じてもらえれば」


「はい」


キャロラインは立ち上がる。


店内をゆっくり歩く。


注文を取るスタッフ。

料理を運ぶ影のようなシェフ。

笑い声。


(いいお店かも)


そう思った、そのとき。


ふと、視線を感じた。


振り向く。


一組の夫婦。


テーブル席。


整った服装。


穏やかな笑顔。


だが。どこか違う。


夫はカップを持ちながら、

ちらりと厨房の方を見ている。


妻はメニューを見ているが、

視線はページではなく“店内全体”に動いている。


(……あれ?)


さらに気づく。


・スタッフの動線を目で追っている

・裏口の位置を確認している

・客の出入りを数えている


“客の視線じゃない”


キャロラインの足が少し止まる。


その瞬間。


夫婦と目が合った。


にこり。


完璧な笑顔。


https://kakuyomu.jp/users/mushimatsu/news/2912051595920518510


だが。


(冷たい……)


一瞬で背筋がぞくりとする。


理由はわからない。


ただ。


“何かがズレている”


「どうかされましたか?」


店長の声で我に返る。


「いえ……大丈夫です」


無理に笑う。


面接は無事に終わる。


「採用のご連絡は後日いたします」


「ありがとうございました」


店を出る。


霧の空気が、少し冷たく感じた。


キャロラインは小さく呟く。


「……なんか、変だったな」


頭に残るのは


あの夫婦の笑顔。


優しそうで。

綺麗で。

完璧で。


そして。“どこか空っぽだった”


霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿 外伝

「仮面夫婦」事件が静かに、幕が上がる。

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