第7話 大演説 チェックメイト
霧都の夜。
霧に包まれたサーカス会場。
舞台の中央。
ランプの灯りが揺れる中
関係者全員が集められていた。
■容疑者一覧
・バルトロ(コウモリ男/空中演者)
・アズリエル(天使役/演者)
・マルコ(副団長)
・シルヴィア(舞台監督)
・トーマス(機械担当)
・エレナ(団長の妻)
・リリス(愛人)
・カルロス(ピエロ)
重い沈黙。
コウモリ男のバルトロが低く言う。
「犯人はカルロスだ。こいつは団長が賭博のイカサマをバラそうとして団長を殺したんだ。」
カルロスが叫ぶ。
「違う!!」
その瞬間。
コツ……
足音。
オズワルドがゆっくりと歩き出す。
静かに。
まるで舞台の主役のように。
「違います。カルロスが犯人では、
ありません。」
一言。
空気が止まる。
「この事件は」
「“幻と脳の錯覚”だ」
ざわめき。
ブレイブは腕を組んだまま動かない。
オズワルドは観客席を見渡す。
「あなたたちは“見た”と言った」
「ピエロを」
一歩進む。
「だが――」
「本当は見ていない」
キャロライン
「……え?」
オズワルド
「人間の目は不完全だ」
「一瞬の光」
「一瞬の像」
「それを脳が勝手に補完する」
「感覚記憶――アイコニックメモリ」
「存在しないものを」
「“見たことにする”」
ざわめきが広がる。
オズワルド
「停電の瞬間」
「巨大な笑うピエロが投影された」
「観客はそれを見た」
「いや」
「“ピエロを見たと思い込んだ”」
キャロラインが小さく言う。
「だから……証言がバラバラ……」
オズワルド
「そう」
「全員“違うピエロ”を見ている」
「だが脳は言う」
「“あれはカルロスだ”と」
カルロスが息を呑む。
オズワルドはゆっくり続ける。
「さらに――」
「時間」
「あなたたちのピエロを見た証言は
ズレていた」
「それは偶然ではない」
「テント内の時計に細工があった」
ブレイブの目が鋭くなる。
「わずかなズレ」
「だがそれで十分だ」
「“同時に見たはずの出来事”が」
「別々の時間に変わる」
ざわめき。
オズワルドの声が低くなる。
「では本題だ」
「団長はどこで殺された?」
沈黙。
「サーカスのテントではない」
「観客の目の前でもない」
「その時」
指を上に向ける。
「団長はすでに」
「テントの外にいた」
キャロライン
「え……!?」
「事前に誘い出され」
「拘束され」
「裏方の人間たちに預けられた」
トーマスの表情が揺れる。
「その間に犯人は戻る」
「何食わぬ顔でテント内の舞台へ」
「そして」
腕を広げる。
「“ショー”を始めた」
クライマックスの演出
「停電」
「光」
「巨大なピエロの顔を投影」
天井を指す。
「あの瞬間」
「全員の視線は奪われた」
「誰も“上”を見ない」
殺害の瞬間
「その裏で」
「団長は運ばれていた」
「逆さに吊られ」
「滑車でテントの頂点へ」
ブレイブ警部補
「……上から落としたか」
オズワルド
「そう」
「縄を外す」
「落下」
「転落死」
沈黙。
オズワルドはゆっくり振り向く。
「この一連の演出」
「誰ができる?」
「照明を操り」
「停電を起こし」
「視線を誘導し」
「全体の流れを把握している者」
一歩。
また一歩。
「舞台のすべてを知る者」
指を上げる。
そして
「シルヴィア。あなたが首謀者だ」
静寂。
シルヴィアは動かない。
だが。
その目だけが、わずかに揺れた。
オズワルドは静かに言う。
「トリックは完璧だった」
「だが」
「人間の認識には“ズレ”がある」
「そしてそのズレが」
「あなたを裏切った」
一言。
「あなたが計画をして指示をして
団長を殺害した。」
霧が流れる。
笑うピエロの幻は
もう、どこにもなかった。




