第6話 チェスにて推理 、王はどこで落ちたか
霧都の朝。
星霧探偵事務所。
机の上。
チェス盤。
コツ……
オズワルドの指が駒に触れる。
トン トン
ブレイブ警部補が事務所に入ってきた。
「団長の死因が判った、転落死」
「高所から落とされている」
一拍。
「また死体の口に詰め物」
「手首に拘束跡」
オズワルド
「……なるほどな」
駒を並べる。
■配置
♚ キング
団長 アルベルト
♕ クイーン
妻エレナ(観客席)/愛人リリス(観客席)
♞ ナイト
コウモリ男バルトロ(舞台上空)
天使アズリエル(舞台中央)
♖ ルーク
副団長マルコ(舞台袖)
✚ ビショップ
舞台監督シルヴィア(照明)
■ ポーン
機械トーマス(地下)
オズワルド
「これは“舞台”だ」
「全員が駒」
■第一手
♚キング(団長)を盤の中央から持ち上げる。
「団長は最初、ここにいた」
そのまま
盤の“外”へ置く。
キャロライン
「外……?」
オズワルド
「そう」
「舞台から消えた」
■第二手
■ボーン(トーマス)を動かす。
カチッ。
地下側へ。
「機械担当は“地下”にいる」
「つまり」
「上に行くルートを知っている」
ブレイブ
「……昇降装置か」
■第三手
✚ビショップ(シルヴィア)を斜めに動かす。
スッ……
「照明は“斜めから”視線を操る」
「ビショップは真っ直ぐ進まない」
「見えない角度から支配する」
シルヴィアの名が、空気に重く落ちる。
■第四手
♞ナイト(バルトロ)を大きく跳ねさせる。
「コウモリ男は“上空”を移動できる」
「証言:天井にいたピエロ」
別の♞(アズリエル)を中央へ。
「天使は中央にいたと言う」
オズワルド
「つまり――」
「ピエロは“どこにでもいた”」
■第五手
♖ルーク(マルコ)を一直線に進める。
ドン。
「副団長は“直線”で動く」
「現場を仕切る役」
「つまり――」
「全体の流れを知っている」
■第六手
♕(エレナ)と♕(リリス)を同時に動かす。
「女たちは“外から見る側”」
「上から」
「横から」
「だが――」
駒を止める。
「核心には触れていない」
オズワルド、すべての駒を見渡す。
「全員がピエロを見た」
一つずつ駒を倒す。
コトン。
コトン。
コトン。
「だが実際には――」
最後に♞ナイトを倒す。
「いない」
オズワルドはゆっくり盤を叩く。
「じゃあ――」
「誰が“見せた”?」
✚ビショップ(シルヴィア)を指で弾く。
カチッ。
「光」
「停電」
「一瞬の映像」
「感覚記憶」
オズワルドは♚キングを持ち上げる。
「その間に」
♚キングを盤の上空へ掲げる。
「団長は――」
「最上に運ばれる」
キャロライン
「……!」
「逆さに吊られ」
「声を塞がれ」
「誰にも見られない」
そして――
♚キングを一気に落とす。
ドン!!
「落とされる」
静寂。
ブレイブが低く言う。
「……見事だ」
オズワルドは笑う。
「まだ終わりじゃない」
オズワルドは盤を指でなぞる。
「一番重要なのは」
「“タイミング”だ」
「全員の証言」
「時間がズレてる」
「だが」
ニヤリと笑う。
「そのズレは“意図的”だ」
オズワルド、立ち上がる。
「全部、繋がった」
扉へ向かう。
ブレイブ警部補
「犯人は誰だ」
オズワルドは止まらない。
「まだ言わない」
振り返る。
「全部、繋がった」
そして扉へ向かう。
「行こう」
振り返る。
「決着つける」
キャロライン、息を呑む。
扉が開く。
霧都の朝。
オズワルドが踏み出す。
その背中はもう弟子ではない。
弟子は、師匠の領域へ踏み込む。




