第5話 見えてしまう嘘
霧都の夜。
サーカステント。
舞台には誰もいない。
だが、あの“現象”だけが残っている。
キャロラインが小さく言う。
「まだ……信じられない」
「何もないのに、あんなにはっきり見えたなんて……」
オズワルドは照明を見上げる。
「見えたんじゃない」
一拍。
「“見せられた”んだ」
ブレイブ警部補が腕を組む。
「それは分かった」
「だが」
「なぜ全員が同じ証言をした?」
「ただの幻なら、もっとバラバラになるはずだ」
オズワルドはニヤリと笑う。
「いい質問だな」
舞台の中央に立つ。
「答えは」
「人間の脳だ」
オズワルドは指を立てる。
「人間の目は嘘をつく」
キャロライン
「え……?」
オズワルド
「正確に言うと見た情報を」
「脳が勝手に“補完する”」
ゆっくり歩きながら説明する。
「人は一瞬の映像を見たとき」
「全部を認識してるわけじゃない」
「断片だけ見て」
「足りない部分を“脳が勝手に作る”」
ブレイブ警部補
「……つまり?」
オズワルド
「“見えてないものを見たことにする”」
キャロライン
「そんな……」
オズワルド
「感覚記憶」
「アイコニックメモリってやつだ」
「ほんの一瞬の映像」
「残像」
「光」
「それを脳が繋げて」
「“脳が現実”だと記憶してしまう。」
オズワルドは舞台を指す。
「今回の事件」
「停電」
「一瞬の光」
「ピエロの映像」
「全部揃ってる」
キャロラインが気づく。
「じゃあ……」
「演者さんが見たピエロは……」
オズワルド
「本物じゃない」
「でも脳は“本物だと判断する”」
ブレイブ警部補
「……だとしても」
「カルロスだと断定した理由は?」
オズワルドは笑う。
「そこがミソだ」
「ピエロの衣装」
「シルエット」
「動き」
「それっぽければいい」
「人間の脳は勝手に言う」
「“あれはカルロスだ”ってな」
キャロライン
「じゃあ……」
「誰か別の人がいても……」
オズワルド
「そう」
「ピエロに“見える”」
ブレイブ警部補
「……なるほどな」
「つまり犯人は、大勢に」
「カルロスに“見せた”わけか」
オズワルド
「その通り」
オズワルドは振り返る。
「この事件は」
「視覚のトリックと」
「脳のバグを組み合わせたものだ」
ブレイブ警部補
「証拠は?」
オズワルド
「ない」
一拍。
「だから――」
ニヤリと笑う。
「これから舞台を作る」
キャロライン
「え……?」
オズワルドは舞台を見上げる。
照明。
霧。
構造。
「再現する」
「完全に同じ状況でな」
「“誰でもピエロに見える瞬間”を」
静かに言い放つ。
「演者は」
「感覚記憶によって」
「カルロスではない人物を」
「カルロスだと認識してしまった」
沈黙。
外。
霧が流れる。
その奥で。
また“笑うピエロ”が揺れた。




