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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
笑うピエロ

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第3話 舞台裏で動機の解明

サーカスのテントは、外から見るとただの巨大な布の塊だった。


だが中に入ると

まるで別の世界。


鉄骨。

ロープ。

滑車。


張り巡らされたワイヤー。

無数の照明。


オズワルドは思わず見上げる。


「……すげぇな」


キャロライン


「サーカスのテントこんな構造になってるんだ……」


ブレイブ警部補は無言で歩く。


「感心してる場合か」

「現場検証だ」


舞台の上では、華やかなショー。


だがその裏では

何十人ものスタッフが動いている。


照明を操作する者。

ワイヤーを引く者。

装置を動かす者。

“見えない人間たち”


オズワルドは小さく呟く。


「……これ全部、人が動かしてんのか」


トーマス(機械担当)が言う。


「そうだ」

「演者が目立つが」

「支えてるのは俺たちだ」

その声には、わずかな棘があった。


副団長マルコが舌打ちする。


「団長は最悪だった」


キャロライン


「え……」


マルコ


「金のことしか考えてねぇ」

「団員は使い捨てだ」


トーマスも低く言う。


「怪我しても休ませない」

「代わりはいくらでもいる、ってな」


コウモリ男バルトロが天井から言う。


「俺は三回落ちた」

「そのたびに怒鳴られた」

「“見世物なんだから死ぬな”ってな」


キャロラインが顔を曇らせる。


「ひどい……」


リリスが鼻で笑う。


「ピエロも似たようなもんよ」


オズワルド


「ピエロ役のカルロスが?」


リリス


「裏じゃクズよ」

「イカサマ賭博で借金まみれ」

「団員からも金借りてたわ」


トーマスがぼそり。


「返ってきたことはない」


マルコ


「団長に泣きついてたな」

「“首にしないでくれ”って」


キャロライン


「じゃあ……」

「恨みは、両方にあったってこと……?」


ブレイブ警部補


「動機は十分だ」

「団長を殺した理由も」


オズワルドはゆっくり歩き出す。


舞台の中央。

団長が倒れていた場所。

血の跡。


その上を見上げる。

空中ブランコ。

さらにその上。


照明。

無数の機材。


「なあ」

誰にも向けず言う。

「これ全部」

「人が操作してるんだよな?」


トーマス


「そうだ」


オズワルド


「じゃあさ」

「人を“見せる”こともできるよな?」


沈黙。


シルヴィア(舞台監督)が口を開く。


「……どういう意味?」


オズワルドは笑う。


「いや」

「ただの感想だよ」


照明が一つ、チカッと揺れる。


キャロライン


「……今の見た?」


オズワルド


「見た」


ブレイブ警部補が周囲を見る。


「誰だ、照明をいじったのは」


返事はない。


オズワルドはゆっくり言う。


「面白いな、このサーカス」

「主役は演者じゃない」

「“見せてる側”だ」


キャロライン


「……裏方?」


オズワルド


「そう」

「光を当てるやつ」

「吊るすやつ」

「動かすやつ」

「そいつらがいなきゃ」

「何も成立しない」



ブレイブ警部補


「……で?」

「誰がやった」


オズワルドは首を振る。


「まだ分からない」

「でも――」


一歩踏み出す。


「犯人は」

「この“サーカスのテント内”にいる」


テントの外。

霧が流れる。

その向こうでまた一瞬。


巨大なピエロの笑顔が浮かぶ。

クスクス……


キャロライン


「また……!」


オズワルドは静かに笑う。


「いいね」

「どんどん“舞台”になってきた」

「ピエロに濡れ衣を着せる怪物が」

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