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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
笑うピエロ

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第1話 霧とサーカスと笑うピエロ

霧都ヴァル・ロンドリア。


夜。

白い霧が街灯を飲み込み、光をぼやかす。

その中に、ひときわ賑やかな場所があった。


サーカスの大きいテント。

色とりどりの灯り。


笑い声。

音楽。

そして人の熱気。


「すごい人だね……」


キャロラインが少し驚いたように言う。

長い金髪を結び、少し背伸びした服装。

どこか落ち着かない様子。


挿絵(By みてみん)


その隣で、オズワルドはニヤニヤしている。


「そりゃそうだろ」

「霧都一のサーカスだぜ?」


「……デートに選ぶには、ちょっと騒がしくない?」


「いや、最高だろ」


オズワルドは軽く笑う。


「退屈しない」


キャロラインは小さくため息をついた。


「……ほんと、昔から変わらないね」


二人はテントの中へ入る。


暗転。

スポットライト。

歓声。



ショーの開幕。


まず現れたのは

ピエロ。


派手な衣装。

白い仮面。

誇張された笑顔。


「レディース!アンド!ジェントルメェェン!!」


妙に間延びした声。


観客が笑う。

ピエロは大げさに転ぶ。


ズドン!


顔面から床に激突。

一瞬の沈黙。


そして。

ピクリ。


ゆっくり顔を上げる。


仮面の笑顔はそのまま。


「……痛くないですよぉ?」


観客、爆笑。


キャロラインも思わず吹き出す。


「ふふ……」


オズワルドは腕を組む。


「な?面白いだろ」


ピエロは次々とドジを踏む。


ジャグリング。

玉を投げる。


ポン、ポン、ポン……


一つ落とす。


さらにもう一つ。


全部落とす。


最後はバケツが頭に直撃。


ゴン!


そのままフリーズ。


観客、大笑い。


ピエロはゆっくりバケツを外し、


「……計算通りです」


また笑い。


だが。

その時。


ピエロの動きが、ほんの一瞬だけ“止まった”。


オズワルドの目が細くなる。


「……?」


ピエロは再び動き出す。


何事もなかったように。


次の演目。

舞台の端。


突然、ピエロが“消える”。


観客がざわめく。

「お?」

「どこいった?」


次の瞬間。


反対側の高台に“現れる”。


拍手。


さらに。


また消える。


今度は客席の後ろ。


観客のすぐ背後。


「うわっ!?」


悲鳴と笑いが混ざる。


キャロラインが振り向く。


「びっくりした……!」


ピエロはおどけて帽子を取る。


だが。


その動きがどこか“機械的”に見えた。


オズワルドは黙って見ている。


そして。

音楽が止まる。


真っ暗。

音が消える。


完全な静寂。


一瞬。


それ”は現れた。


空中。


何もないはずの空間に。


浮かぶ。


巨大な

笑うピエロの仮面。


さっきまでの仮面とは違う。


歪んでいる。


目が、深い。


笑っているのに

“笑っていない”。


こちらを見ている。


観客全員を。


いや

“覗いている”。


挿絵(By みてみん)


キャロライン


「……っ」


息を呑む。


一瞬。


光が戻る。


何もない。


ざわめき。


「今の……何だ?」

「演出か……?」

「気味悪いな……」


キャロライン


「今の……何?ピエロ怖いよ」


オズワルドは答えない。


ただ、舞台を見つめている。


「……おかしいな


しかし。


ショーは続行された。


何事もなかったかのように。



クライマックス。


空中ブランコ。


高く張られたロープ。


軽やかに舞う演者たち。


歓声。

拍手。


キャロラインも思わず見入る。


「すごい……」


その瞬間。



ドォォン!!



何かが落ちた。


中央。


重い音。


沈黙。


そして。


キャアアアアー


悲鳴。


地面に横たわる男。


血が広がる。


動かない。


団長アルベルト。



そして。

そのすぐ側に。

立っていた。


笑うピエロ。


ニコニコと。

何もなかったかのように。


観客の一人が叫ぶ。


「人殺しだ!!」


テント内は混乱。


逃げ出す人々。


泣き声。



数分後。

警察到着。


人狼の警部補。

ブレイブ・ロケット。


彼は一瞬で状況を見抜く。


そして。

ピエロを押さえつける。


「殺人の現行犯だ」


ピエロのカルロスが叫ぶ。


「違う!!」

「俺じゃない!!」

「俺は……舞台に……!」


ブレイブ警部補


「言い訳は署で聞く」


連行。



静まり返ったテント。


キャロラインが小さく言う。


「……本当に、あの人なの?」


オズワルドは答えない。


ただ。

ゆっくりと呟く。


「……違和感がある」


キャロライン


「え?」


オズワルド


「この殺人事件は――」


一拍。


「見えすぎてる」


テントの外。

霧が揺れる。

灯りがぼやける。


その奥で。

誰かが

笑った気がした。


霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿

『笑うピエロ』事件が始まった。

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