第8話 犯人はあなただ!チェックメイト
霧の夜。
人形屋敷の大広間。
古びた時計の針が、静かに時を刻む。
集められた六人。
・グレゴール(屋敷の主人)
・キャロライン(メイド)
・ブレイブ(警部補)
・ヴィクター(骨とう品屋)
・エミリー(掃除係)
・トーマス(修理職人)
その中央に
オズワルド・ハーゲンが立っていた。
ブレイブは壁にもたれ、腕を組んでいる。
鋭い視線。
「推理を……始めろ」
短く言う。
オズワルドは一歩前に出る。
静かに、しかしはっきりと。
「この屋敷で起きていた人形による呪いの怪奇現象」
一拍置く。
「全部、トリックです」
ざわめき。
キャロラインが息を呑む。
オズワルドは続ける。
「人形が歩く」
「窓に現れる」
「上から落ちてくる」
指を一つ立てる。
「その正体は」
「地下の仕掛け」
全員の視線が集まる。
「地下には古い工房がある」
「そこに残っていた」
「滑車とワイヤー」
「そして隠し通路」
ブレイブの目が細くなる。
「……」
オズワルドは床を指さす。
「この屋敷のあちこちに残ってた」
「ワイヤーの擦れ跡」
「つまり――」
声が強くなる。
「人形は自分で動いてたんじゃない」
「“動かされてた”んです」
さらに一歩踏み出す。
「そして決定的なのが――」
ポケットから小さな部品を取り出す。
「これ」
「磁石装置」
ヴィクターが眉をひそめる。
「ほう……」
オズワルド
「魔導人形の中に仕込まれていた」
「外からワイヤーで引けば」
「人形はまるで生きているように動く」
キャロライン
「じゃあ……全部……」
オズワルドは頷く。
「人間がやったことです」
沈黙。
重い空気。
ブレイブが口を開く。
「理屈はいい」
「で?」
鋭い一言。
「犯人は誰だ」
オズワルドはゆっくりと振り向く。
視線が一人に向かう。
小さな影。
震える少女。
「……」
静かに告げる。
「犯人は――」
一歩。
「あなたです」
「エミリー」
キャロライン
「えっ……!?」
グレゴール
「そんな……!」
エミリーはビクリと肩を震わせる。
「ち、違……」
オズワルドは遮る。
「地下に自由に出入りできる」
「体が小さくて隠し通路も使える」
「そして何より――」
優しく、しかし確信を持って言う。
「人形を“守りたい”理由がある」
エミリーの目から涙が溢れる。
「……知ってたんだ」
小さな声。
崩れ落ちる。
「この屋敷……」
「おじいちゃんの……」
オズワルドは静かに頷く。
「人形職人の孫、なんだろ」
エミリーは泣きながら叫ぶ。
「壊されたくなかったの!!」
「売られるのも……持っていかれるのも……!」
ヴィクターが目を細める。
エミリーは続ける。
「だから……怖いって思わせれば」
「誰も近づかないって……!」
床に手をつく。
「ごめんなさい……」
「でも……守りたかった……」
静寂。
誰も言葉を失う。
ブレイブは目を閉じ、ため息をつく。
「……動機は理解できる」
「だが怪我をさせてしまったのは事実だ」
グレゴール
「人形はもう売らないよ。だから怪我をさせてしまった人に謝りに行こう。見舞金はわしが出そう。」
エミリー
「ごめんなさい。怪我させてしまって」
グレゴール
「これで、人形も二度と動かなくなるだろう。ありがとう探偵さん。」
オズワルドはゆっくりと歩く。
机の上。
そこに置かれたチェス盤。
一つの駒を手に取る。
♚ キング。
そして――
コト……
♚キングを倒す。
静かな音が響く。
オズワルドは微笑む。
「謎は解けた」
一瞬の間。
「チェックメイトだ」
霧の街。
夜が明け始める。
人形屋敷の呪い事件は終わった。
ブレイブが横に立つ。
腕を組んだまま。
「……」
少しだけ視線を向ける。
「少しだけ」
間。
「探偵らしかったな」
オズワルド
「少しだけ!?」
キャロラインが笑う。
「すごかった」
優しい声。
オズワルドはそっぽを向く。
「まあね」
(よし)
(ちょっとカッコよかった俺)
霧が流れる街。
星霧探偵事務所。
机の上のチェス盤。
そして一冊のノート。
「弟子の探偵日記」
ページがめくられる。
第一事件 人形屋敷の呪い 解決。
霧都ヴァル・ロンドリア。
そのどこかでまた、新たな謎が生まれる。




