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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
人形屋敷の呪い

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第1話 不安な依頼人

師匠である名探偵アレクシスは新婚旅行中。

しかも三ヶ月。


その間、探偵事務所は弟子のオズワルドが任されている。


……任されているのだが。


依頼は一件も来ない。

オズワルドは机に突っ伏した。


「事件来ねぇかなぁ……」


その時。


コンコン。


扉がノックされた。


オズワルドは跳ね起きる。


「依頼!?」


椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がる。


「どうぞ!」


ドアが開いた。


入ってきたのは長い金髪を結んだ女性。


メイド服。

落ち着いた雰囲気。


キャロライン。


夜葬ホテル事件以来の再会だった。


オズワルドは一瞬固まる。

そして次の瞬間。

顔が一気に明るくなる。


「キャロライン!?」


椅子を倒しそうな勢いで立ち上がる。


「久しぶりじゃん!!」


キャロラインは少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに優しく微笑んだ。


「……久しぶり、オズワルド」


オズワルドは嬉しそうに近づく。


「元気だった!?」


「ホテルどう?」


「仕事大変?」


矢継ぎ早に質問する。


キャロラインは少し困ったように笑う。


「ええ、まあ……」


しかし。


彼女は部屋の奥を見た。


誰かを探すように。


そして聞いた。


「……あの」


「アレクシスさんは?」


その瞬間。


オズワルドは少し気まずそうな顔をした。


「あー……」


頭をかく。


「師匠?」


「今いないんだよね」


キャロラインの表情が一瞬固まる。


「いない……?」


オズワルドは軽い調子で言った。


「新婚旅行」


「三ヶ月」


キャロライン


「……」


少し沈黙。


彼女の顔に浮かぶ


はっきりした落胆。


オズワルドは慌てる。


「で、でも!」


「大丈夫!」


「弟子がいるから!」


胸を叩く。


「俺!」


キャロラインはオズワルドを見る。


少しだけ。


とても不安そうに。


(大丈夫かしら……)


そんな表情だった。


オズワルドは気づいていない。


むしろテンションは絶好調。


「何か依頼?」


「事件?」


「任せてよ!」


キャロラインは少し迷う。

来るべきではなかったかもしれない。


名探偵アレクシスに頼るつもりだった。


でも。


目の前にいるのは昔の知り合い。

夜葬ホテルの事件で一緒に働いた青年。


オズワルド。


彼は嬉しそうに笑っている。

キャロラインは小さく息をついた。


(……来てしまったものは仕方ない)


そして言った。


「実は……」


「相談があります」


オズワルドの目が輝く。


「おっ!」


「事件!?」


キャロラインはうなずいた。


「はい」


そして不安そうに言う。


「……人形屋敷のことなんです」


オズワルドはニヤッと笑う。


「いいね」


「面白そうじゃん」


キャロラインは胸の奥で小さく思った。


(やっぱり……)


(アレクシスさんを待てばよかったかも……)


少しだけ後悔しながら。

彼女は話を続けた。


キャロラインは椅子に座った。


メイド服の裾をそっと整え、少し落ち着こうとしている。


オズワルドは机の向かいに座った。


だが落ち着きがない。


肘をついたり、椅子を回したり、チェスの駒を触ったりしている。

久しぶりに会ったキャロラインが目の前にいるからだ。


少しだけ照れくさい。少しだけ嬉しい。

夜葬ホテルで一緒に働いていた頃から、

キャロラインはオズワルドにとって特別な存在だった。


友達以上。

恋人未満。

そんな距離。


オズワルドは笑う。


「で?」


「人形屋敷って?」


キャロラインは小さく息を吸った。


「旧市街の丘にある屋敷です」


「昔、人形職人が住んでいた家で……」


「今は空き家なんですが」


オズワルドは頷く。


「へぇ」


「よくある怪談の舞台だな」


キャロラインは続けた。


「最近、その屋敷で変なことが起きてるんです」


オズワルドは身を乗り出す。


「変なこと?」


キャロラインの声が少し小さくなる。


「人形が……」


「動くんです」


オズワルドは目を丸くした。


「人形?」


キャロラインは頷く。


「屋敷の中にはたくさんの人形が残されていて……」


「夜になると」


「廊下を歩いているのを見た人がいるんです」


オズワルドは腕を組む。


「ふーん」


キャロラインは続ける。


「最初は噂だけだったんです」


「でも」


「最近、屋敷に入った人が怪我をしたり」


「窓から人形がこちらを見ていたり……」


彼女の手が少し震える。


「本当に……」


「動いてるんじゃないかって」


オズワルドは少し黙った。


そしてニヤッと笑う。


「面白いじゃん」


キャロラインは不安そうに言う。


「面白くないです……」


「みんな怖がってるんです」


オズワルドは椅子にもたれた。


「で?」


「キャロラインはどうしてその屋敷を調べたいの?」


キャロラインは少し迷った。


そして言った。


「……知り合いがいるんです」


「その屋敷の管理を任されてる人が」


「最近、すごく怯えていて……」


「このままだと危ない気がして」


オズワルドは静かに聞いていた。


キャロラインは顔を上げる。


「でも」


「アレクシスさんがいないなら……」


少し言いづらそうに言う。


「やっぱり」


「警察に頼んだほうがいいかもしれません」


オズワルドは一瞬固まった。


そして。


机を叩いた。


バン!


「待った!」


キャロラインが驚く。


オズワルドは胸を叩く。


「大丈夫だ弟子の俺がいる」


キャロライン


「でも……」


オズワルドは笑う。


自信満々の顔。


「師匠がいない?」


「問題ない」


チェスの駒をつまむ。


♘ナイトを掴む。


「むしろ」


「こういう怪異な事件」


「好きなんだよね」


キャロラインはまだ不安そうだ。


(本当に大丈夫かしら……)


オズワルドは立ち上がった。


「決まり!」


「人形屋敷を調査開始だ!」


そして笑う。


「久しぶりに」


「事件だ!」


キャロラインは小さくため息をついた。


やっぱり。


少しだけ。


頼む相手を間違えたかもしれない。


でも。


オズワルドは楽しそうだった。

まるで子供のように。


その姿を見て。


キャロラインは小さく微笑んだ。


「……よろしくお願いします」


オズワルドは親指を立てる。


「任せてくれぃ!」


霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿 外伝

『人形屋敷の呪い』事件の調査が始まった。

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