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Command Wand  作者: 赤茄子
第1章 Spread Spirits
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第49話 ビジョン

「それじゃあみんな、調査お疲れ様でした。かんぱーい」


「「かんぱーい」」


 百華の掛け声に合わせて一同がグラスを鳴らし合う。今のところ全員二十歳未満なので飲み物も全てソフトドリンクだ。


 調査を終えた6名はカフェOwletに夕食に来ていた。この感じだと定番になりそうだ。


「はーい、これサービスだからいっぱい食べてね」


「え、いいんですか? ありがとうございます!!」


 紗千の運んできた山盛りの唐揚げを百華が目を輝かせて受け取る。カフェと名乗りながらもレストランと定食屋を合わせたような豊富なメニューは客を選ばず喜ばせる。


「美味そうだな」


「熱いうちに食べちゃおー」


 噛んだ瞬間溢れ出る肉汁に那由多と百華が感動する。その様子を見て1年3人組が満足げな顔をした。


「そういや、3人ってどこで出会ったんだ?」


 揃って同じ表情の3人を見て那由多が疑問を投げかける。


「俺と燐は幼馴染で幼稚園からの付き合いっす」


「正確には幼稚園に入る前からよ」


 燐がそう言いながら陽斗を人差し指でつついた。


「僕と2人は高校からの仲ですね。2人が入ってた生徒会に無理やり引きずり込まれて……」


 昔を思い出しながら理巧が言葉を並べた。


「へー、3人とも生徒会やってたんだ! 燐ちゃんはとっても似合いそう。境くんは……まぁ中身はすごく真面目だもんね」


「俺これでも副会長やってたんですけどね!?」


 見た目のせいで不真面目に見られやすいが、陽斗は超が付くほどの優等生だ。


「ちなみに燐が会長です」


「やっぱりね。かっこかわいいな〜燐ちゃんは」


 百華に褒められて燐は少し照れくさそうだ。それを紛らわすように人差し指で陽斗をツンツン刺す。


「痛い、痛いって!」


「そしたら次元くんは? パソコンできるし会計とか?」


 微笑ましい様子を見ながら百華が理巧に質問する。


「いえ、僕は庶務長をやってました」


「庶務の仕事ってさ、ざつよ……」


「おい、全国の庶務に起こられるぞ」


 百華が仕事のイメージ言い切る前になんとか那由多が止めたが、


「理巧にやってもらってた仕事は、ある意味で雑用かもしれないっす。でも雑用と呼ぶには規模が大きすぎて」


 と陽斗が答える。


「会計も書記も全部理巧にやってもらっていたようなものですね」


 陽斗と燐の話が読めない百華は「それって?」と聞くと


「――僕は生徒会でDXを推進してました」


と陽斗と燐に視線を向けられて理巧が答えた。


「庶務と書いてデジタルトランスフォーメーションと読みます」


「読めないよ!?」


 珍しく冗談を言う燐に百華は思わずツッコむ。


 デジタルフォーメーションとはデジタル化の先の達成目標で、IoTやPOF、ビッグデータなどを用いて業務や組織の効率化を図るものである。DXの最たるものといえばAI――電脳生命体を用いた日本の国家運営だ。


「それで、次元は具体的にはどんなことをしたんだ?」


「まず、会計処理の自動化と会議は文字起こしで自動でアーカイブが作成されるようにしました」


「いきなり会計と書記の仕事なくなったね」


「アンケートや目安箱をネット上で作ったり参加したりできるシステムを作ったり」


「汎用性高いな」


「体育祭とか文化祭のスケジューリングソフト作ったり」


「実行委員は、まぁまだ仕事有るかな」


「あと生徒会選挙をオンラインでできるようにしたり」


「それっていいのか? 越権じゃないか」


 理巧が生徒会の約2年で成し遂げた成果に百華と那由多が順々に反応する。


「そういえば、個室トイレの空き情報をIoTデバイス使って高校のアプリで確認できるようにもしましたね」


「私それが一番嬉しいかも」


「卒業するころにはうちのサークルも全部デジタル化されそうだな」


 理巧は中学生の段階でプログラミングの基礎知識とセキュリティとOSの知識によるはハッキングの技術を持っていた。しかし、高校での経験で設計から実装、フロントエンドからバックエンドというプロダクトの作成を学び、インフラ整備やデータ解析まで扱ったことで、年齢に見合わないフルスタックエンジニアに成長したのだ。


 ちなみに、ちゃんとドキュメントを残して引き継いでから受験勉強を始めたので、今のところ高校に呼び戻されたりはしていない。


「まぁ全部ファイがいたからできたことですけどね」


 互いに昔の話をしながら楽しい食事の時間が続く。


 しかし、突如飛び出してきたファイが驚くべきニュースを持ってくる。


「おい、ちょっとこのニュース見ろ」


 ファイによって展開された【映面(モニター)】の画面にはテレビのニュース番組が流れている。


「――えーここからは彩球けやき病院の記者会見の様子を放送したいと思います」


「この度、当病院は外部から不正アクセスの被害を受けていたことをご報告いたします。また、現在既に脅威は排除されており、この不正アクセスによる患者様、お取引先様、当病院の従業員やそのご家族の個人情報の流出は確認されておりません。不正アクセスは今月1日の正午頃に行われ、同日午後3時に発覚いたしました。侵入の経路としましては――」


 病院の責任者が語るのは病院の経営システムへの不正アクセスについてだ。アクセスから発覚までの時間は昔と比べて大幅に短くなっているが、これはニューラルネットを利用した攻撃者検知の技術が発展したおかげだ。


 それと比べて公表に少し時間がかかったのは、内部の人間による犯行が疑われたからだそうだ。院内のパソコンにUSBメモリ型の遠隔操作用の機器が取り付けられていたが、その部屋の防犯カメラには何も映らず……。


「犯行時刻といい、防犯カメラといい、忍びの影がちらつきますね」


「もし、不正アクセスも忍びの仕業なんだとしたら、信頼できる情報源に原因の1つが公表されると困るからか」


 理巧と那由多は忍びが関与している可能性を考えるが、会見を聞いていると思いもよらぬ形で忍びの情報を得ることになる。


「――して、本日午後4時頃に不正アクセスのログと共に犯行声明が当院に送られて来ました。犯行グループは、えーBISHION(ビジョン)と名乗り『我々にとって有意義な社会実験になった』と書かれています。この――」


「BISHION……」


「Visionではないんっすね」


 燐と陽斗が見慣れない綴りに困惑するが、那由多は違った。


「忍び――SHINOBIのアナグラムか。まぁもしくは煮干しだな」


 一瞬で文字を並び替えた那由多に陽斗と燐が驚く。


「B・I・S・H・I・O・N、7文字か、7の階乗ってなんだっけ」


「えっと5040だったかしら」


「ってことは重複を2で割って2520通り」


 計算を終えた燐と陽斗が那由多の顔を一瞥してから再び顔を合わせる。


「よしっ、計算ミスだな」


「私の記憶違いでしょうね」


「おい待て、全探索したわけじゃないからな。可能性の高いとこから順番に……」


 その様子を理巧、ファイ、百華は笑って見ていた。


「煮干しの可能性も面白いけど、午後4時ってちょうど私たちが調査結果をネットに公開した時刻だよ」


「ほぼ忍びで確定ですね。正体を表したのは真相が公になったからか、十分データを取れたからか……」


 百華の指摘により忍びとBISHIONの関わりは限りなく確実になる。


「社会実験……今ボクらの考えうるのは事実の歪曲、情報操作ってとこかな」

      ―――――――――――――――――――――――――


「良かったんですか、ボス? 犯行声明なんて出しちゃって」


「問題ない。もはやいつでも無かったことにできる」


 中性的な声の問いかけに、無機質で感情の籠もらない声が画面の中から応じる。


「まぁでもそれはお稲荷様のおかげなわけで」


「いずれ喰らってワタシの一部にする」


「いいですね! 一体化、僕らの求める理想かもしれませんよ!! ……でも、残念ながら僕らに人喰いはできないので、せめて心だけでも1つに!」


 狂気の混じった言葉に、感情に呼応するように男の周囲が赤く燻る。


 しかし画面の中身はそんなことは気にしない。、そして自身の目的を阻みかねない存在の名を口にする。


「まだ邪魔をするのか、いいや、また邪魔をするのか――『言杖(ことづえ)の魔術師』」


 微かな恨みを交えた無機質な声は、もう、いいや、まだその相手には届かない。

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