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Command Wand  作者: 赤茄子
第1章 Spread Spirits
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第48話 ファイル『新都心UFO事件』

「新都心UFO事件」の調査に関する報告書


彩球魔法大学 超自然学サークル


2103年4月25日


 本報告書は2103年4月1日14:05頃に彩球新都心の広場で発生したUFOの目撃及び、集団での卒倒についての調査結果とそれに基づいた仮説を述べたものである。


・事件の概要


 当時新都心の広場で『連れて行ってよ、エイリアン!』 (以降『つれりあん』と略す。)のテレビアニメ第3期放送前のイベントが催されていた。会場には200人ほどが集まり、出演者のトークと共に3期の新情報解禁が行われていた。しかし、イベントの途中で参加者の1名が突如として倒れ、その直後猛烈な下降気流とともにゲリラ雷雨が発生する。頭痛やめまい、息苦しさを訴える人が続出する中、突如最初に倒れた少女を中心に人々が波紋のように倒れていったことが当時の動画や証言から分かっている。事件からしばらくしてSNSにUFOを見たという証言や写真、動画が投稿され始めた。


・動画と写真について


 サークルではSNSに投稿された51枚の写真と8本の動画について検証を行った。


 まず写真について、ライティングの整合性やメタデータなどの解析により、うち36枚が加工や生成POFによるフェイク画像であることが判明した。残り15枚は画像としては本物だが、7枚は過去に観測用気球、飛行機、船舶の誤認とされた過去の画像の転載であった。残る8枚は実際に現場で撮影されたものであると考えられる。


 次に動画について、運動ベクトル解析や音声解析などにより、うち4本がフェイク動画であることが判明した。残り4本の動画については実際に現場で撮影されたものであると考えられる。本物である可能性が高い動画の1本には赤いドレス姿の少女が倒れるところや、UFOらしき飛行体が一瞬現れる様子が明瞭に映っていた。しかし、投稿したアカウントはそれ以外の投稿をしておらず不審であったため、追加の解析を行った。


 その解析について説明する前に、『つれりあん』について少し説明する必要がある。本作の主人公は並木茜という11歳の小学生だ。劣悪な家庭環境で日々を過ごす彼女が、ひょんなことから封印されていた宇宙人のソラを解放しアブダクションするように懇願することから始まる。原作漫画1巻から6巻までがアニメ化されている。


 イベントでは3期に向けた描き下ろしイラストが公開される予定であったが、事件によって翌日に延期された。ここで公式のサイトより引用した描き下ろしイラストを図2として示す。また、原作7巻の表紙も図3として示す。これらはどちらも赤いドレス姿の主人公茜であり、動画に映る少女はこのコスプレをしているものと思われた。また図2と図3を見比べるとアニメのイラストでは衣装の一部が省略されて描かれている。これは作画コストを理由にドレスのデザインを単純化したものと見られる。


 話を戻して、追加の解析では現場に赴いて測定したポイントクラウド (※1)に4本の動画の画角 (※2)を推定し重ね合わせるということをした。カメラの画角同士が重なり合えば、当然別の角度から見た同じものが映る筈だ。しかしながら、赤いドレス姿の少女は片方のカメラに映っていたが、別のカメラには映っていなかった。ここで矛盾が生じた以上どちらがフェイク動画であるという結論に行き着く。


※1 3次元の点群データである。

※2 ここではカメラに映る領域という意味で用いる。


 ここで、赤い少女の映る該当箇所を図4に示す。図3と図4を見比べると同じデザインのドレスであることが分かる。しかしながら、このデザインのイラストの公開は事件翌日の4月2日であり、時系列的にこの少女がその服装をしていることはあり得ない。したがって、UFOの映ったこの動画は巧妙に作られたフェイク動画である。


 結論として、偽物でないと断定された写真や動画の中にUFOの映り込んだものは存在しなかった。一方で偽物の動画を投稿した人物の目的は不明である。

 

・集団での卒倒の原因


 まず、事件当日はヒノキの花粉のシーズンであった。現在は木造の高層建築物の普及による樹木の伐採や、花粉を飛ばさないよう品種改良されたものへの植え替えによって、花粉の飛散量は減少してはいるが完全に無くなっているわけではない。ここで、花粉の飛散量を計測している市内の観測所のデータを図5に示す。事件当日の花粉飛散量を見ると、前後数日と比べて顕著に多いことが分かる。これは、事件前数日は西からの風が強く、秩父などヒノキの植わった関東西の森林から花粉が飛来したためであると思われる。


 次に当日の天気について、関東地方は西から流れてきた低気圧に覆われ不安定な空模様であった。事件当日、現場周辺の天気、気温、湿度、気圧、風速と降水量のグラフを図6に示す。イベント開始前の午前10時頃と事件の発生した時間である午後2時頃に瞬間的に大量の降雨があったことが確認できる。一方でその間の約4時間は一時的に晴れ間が覗いていた。図3に示すSNSより引用した事件発生直前の写真を図7に示す。図7の写真を見ると地面はある程度乾いていたことが分かる。


 以上から、当日の事件では大規模な雷雨喘息が発生したのではないかと考えた。花粉は水を含むと膨張し、破裂することで微細化する。微細化した花粉は肺の奥まで入り込み、喘息持ちでない人までもが呼吸困難に陥る可能性も有る危険なものだ。これを雷雨喘息と呼ぶ。実際に2103年4月14日に現場に調査に行った際には破裂した花粉の断片を採取した。事件当日のものとは限らないが、現場に花粉が存在しうることは証明された。


 午前10時頃の雨で花粉が地面に溜まり微細化すると、その後水溜りが蒸発すると共に徐々に上空に運ばれる。しかし、再び発生した下降気流により上空の花粉が一気に地表に集まることで雷雨喘息を引き起こしたと考えられる。その際の急激な気圧の降下は図6からも読み取れるが、低気圧による自律神経の乱れも頭痛やめまいといった症状を引き起こしたと考えられる。実際、事件に遭って入院した人物の話では、自身は雷雨喘息になったのだと語っている。一方で当日多くの患者を受け入れた現場付近の病院からは原因についての発表が無い状態が続いている。


・UFOと赤い少女の目撃


 UFOと赤い少女の映った動画はフェイクであることが判明したが、SNSでは実際に見たという声が多数投稿されている。これらの真偽を確かめることは難しいが、動画を投稿したアカウントと異なり、普段から利用されているアカウントが大半であり嘘では無い可能性が高い。そこで当日の参加者向けのアンケートをインターネット上で実施した。質問における調査の対象は目撃したUFOの特徴、倒れたときの様子、赤いドレス姿の少女についての3点だ。実際に行った質問の文面は回答の確からしさを見極めるために冗長さを含むものとした。


 まずは42名に参加していただいたアンケートの結果をUFO、卒倒、少女それぞれについてワードクラウドにしたものを図8, 9, 10に示す。UFOの特徴としては『円盤』、『グレー』が頻出し、『ライト』といった単語が『6』という数字と共起 (※3)していた。次に卒倒時の様子としては『頭痛』、『悪寒』の他、『赤い』、『ドレス』、『少女』という単語もよく見られた。最後に少女については、最初に倒れたという内容が多くの回答に含まれていた。


※3 自然言語処理において単語が文章中で近接して出現すること。


 これらの回答について0から1の値を取るCollins(コリンズ)の整合性係数ι(イオタ)の値を表1に示す。各個人のιの平均は0.843であり、自然言語の曖昧性を加味するとかなり高い数値である。また分散は0.135であり、全体的に回答の信頼性は高い事が分かる。また、回答者全体でのιの値は0.828であった。非常に高い数値だが、これは極めて不可解な結果だ。普通、別の人間が同じ対象を見ても同じように見えるとは限らない。にも関わらず、同じような単語を使い同じような説明をしたのである。ましては、存在しなかった少女に対して同じ記憶を持っているのだ。


 この現象の説明として集団ヒステリーを考えた。集団ヒステリーとは心理的ストレスが引き金となり、身体の症状が連鎖的に広がる現象である。ゲリラ豪雨や雷雨喘息というストレスのかかる環境下、誰かが雷光やステージのライトをUFOと勘違いし声を上げれば、会場全体に瞬く間に広がる。エイリアンを題材とするコンテンツの視聴者ならばパニックでそのような思考になるのも無理はない。調べてみるとUFOの特徴についてはアニメで描かれるソラの宇宙船と類似しており、事件後、別の参加者のSNSでの投稿によって自分も同じ経験をしたに違いないと思い込むことによって、参加者の中で共通の記憶を形成したものと思われる。

 また、参加者が同心円状に倒れていったのは、まさに連鎖的な伝播が同じ速度で内から外に伝わったものだと考えられる。


・忍びの襲撃とスレプル症候群


 今回の調査において弊サークルは謎の組織によって調査の妨害を受けた。1度目は4月14日に現場となった広場で、2度目は4月23日にサークルのある彩球魔法大学で襲撃された。いずれも撃退には成功したが、姿は消えてしまい、防犯カメラにも映っていなかった。サークル長による人相書きを図11に示す。防犯カメラの映像も編集の痕跡は見つからなかったらしく、赤いドレス姿の少女の映る動画と同じレベルの技術のため、こちらのフェイク動画もこの組織によるものである可能性がある。


 さて、2度目の襲撃の際、忍びの魔法らしき情報波の発信によってサークルメンバーにめまいといった症状が見られた。また、直接会って聞き取りを行ったイベントの参加者からは倒れた直前に妖覚を感じたとの証言もあった。もしこれらが同一の魔術的なものであれば、忍びは事件に深く関わっている可能性が非常に高い。一方で魔法の原理や正確な効果についてはいくつか仮説が立ってはいるが以前として不明な点が多い。


 組織の目的は不明だが、今後もサークルの邪魔をするのであればサークル長は徹底的に闘うつもりだ。


・結論


 今回の『新都心UFO事件』は、ゲリラ豪雨、雷雨喘息と集団ヒステリーという偶然に謎の組織の必然が重なった結果起こった出来事であると結論づける。


 サークルでの集中的な調査は以上を持って終了するが、今後も新たな事実が判明し次第追記を行う予定である。

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