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Command Wand  作者: 赤茄子
第1章 Spread Spirits
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第21話 濾過と顕微鏡

 サークルも終わり、帰宅した理巧は自室のデスクトップに向かって座った。


 キーボードを素早く叩いてパソコンで検索を始める。理巧ほどパソコンに慣れていれば、わざわざマウスに右手を伸ばすより全部ショートカットで済ませた方が速いのだ。


 当たり前のようにサーバーの管理システムにアクセスし忍びの情報について調べるも、残っているのはデータの消された履歴だけ。


「サーバーには通信履歴しか残ってないか。これだけ情報が統制されてるって規格外のPOF、いや電脳生命体でも関わってるのか?」


 ネットの世界では一度出回ったものは拡散されそうそう消えることはない。無数にあるサイトから特定の文字列や画像を認識して削除など、とても人や並のコンピュータが行えることではないのである。


「ダークウェブも覗きにいくか」


 WWWーーワールド・ワイド・ウェブのうち、例えばサイトにログインした際のホーム画面のような検索エンジンに登録されていないウェブをディープウェブと呼ぶ。ダークウェブとはさらにこのディープウェブの中でも、特定のソフトウェアやメンバーからの招待の必要となるウェブコンテンツだ。


 他でもない白函の本部もダークウェブ上に存在する。そのため理巧からすればダークウェブを巡ることなど、近所を散歩するようなものなのだ。


 とはいえその道には個人情報や違法薬物、銃器に奴隷など、違法なものが転がっている。理巧はそれらを掃除する清掃ボランティア……一応報酬はもらっているので清掃業者だという方が適切だろうか。

 もちろん時には道ごと消し飛ばすこともある。


「ん、これは」


 ダークウェブ上の1つのサイトに目が留まる。オカルト界隈の掲示板だ。


『この画面を見た人は呪われています。祈祷費をこちらに振り込んでください』


 なんて表示が出たらサイトごと再起不能にしてやろう。

 だいたいこういうサイトに心霊スポットなんかが載ってて、余計な行方不明者を出すのだ。


 サイトの中にはメンバーが自由に書いた記事やスレッドが載っている。


「『世界をまたにかける裏組織』、『呪いの人形』、『神出鬼没の都市忍者』。都市忍者って!」


 すぐさまページにアクセスし、内容を確かめる。割と最近のスレッドだ。


      ―――――――――――――――――――――――――


1 名無しの会社員:彩球の薔薇線に乗ってたら電車の外に謎の人影を目撃。見た目は完全に忍者だった。それでSNSに書き込んだら、しばらくして勝手に投稿が消されてた。3回ぐらい試したんだがダメだった


2 一般通過:写真とかはないのか


3 名無しの会社員:一瞬だったから……でも確かに見たんだ。トンネル内のライトに照らされてた


4 売れない似顔絵師:俺、絵描けるから特徴を教えてくれよ


5 名前:売れないのに大丈夫なのか


6 実無しの無職:>>>1 働きすぎじゃないか? 自宅警備しようぜ


7 一般通過:インフォーマーかよ


6 売れない似顔絵師:>>>5 まあ見とけって


 その後最初の名無しの会社員の供述を元に、売れない似顔絵師が絵を描き進め、


100 売れない似顔絵師:こんなんでどうだ


 と一枚の画像を貼り付ける。

 理巧も思わず目を見開いた。まさしくあの日襲撃してきた忍びだ。


101 一般通過:おぉw


102 名無しの会社員:若干少女漫画チックなのは気になるが、特徴については完璧だ


103 通り馬:今ちょうどスレ追いついたとこだが、俺そいつ見たことあるぞ


104 名前:>>>100 お見それしました


105 名無しの会社員:>>>103 マジですか?


106 通り馬:なんなら写真もあるぞ


 そう言って通り馬が写真を載せる。

 駅の構内、一般通路から見える従業員エリア、その奥に忍びの姿が写っていた。


107 名無しの会社員:まさにそれだ!


108 実無しの無職:【悲報】絵の存在価値消滅


109 名前:絵のおかげで写真が見つかったんだろうが


110 一般通過:お巡りさんこいつです


            ・

            ・

            ・


      ―――――――――――――――――――――――――


 その後特に目撃情報もなく、忍びの正体は不明のままこのスレッドは終了していた。


 とはいえ大きな収穫があった。忍びの目撃された時期は今年2103年のそれぞれ3月と2月。いずれもスレッドの中で日付と時刻の話も出ている。そして、どちらも彩球都市高速鉄道内だ。

 ふと先日の運行トラブルを思い出すが、忍びと結びつけるには早計と理巧は思考を引っ込める。


 あとは場所を特定して付近の防犯カメラ映像の確保に取り掛かれる。記憶媒体の発達によって昔より映像を保存しておく期間が長いため、電車内でも駅構内でも数ヶ月前のデータは確実に残っているだろう。


 前者の目撃場所は薔薇線の南大宮から新都心西の地下鉄トンネル内部。薔薇線上りのダイヤグラムと見比べて車両を特定。

 駅からの通信履歴からデータの保存されるサーバーを確認し、流れるようにハッキングすると当該車両の映像から目撃時刻のものの抜き取りにかかる。


 流石に自動運行システムとなるともう少しセキュリティが厳しいだろうが、防犯カメラ映像を保存しているサーバーはデータセンターに借りているもののようで単調だ。理巧からすれば


「ちょろすぎるね」


 映像を理巧の保有するサーバーにアップロードしつつ、侵入中のサーバーを捜索すると、駅構内の防犯カメラ映像が保存されているディレクトリも見つけた。どうやら全部で21台あるらしい。


「流石に全部見るのは面倒だな」


 理巧は通り馬の撮影した画像から場所を絞り込む。

 駅の地図はダークじゃないサイトに普通に載っているので、それと画像とを照らし合わせて


「あ、でも各防犯カメラの位置と画角が分かんないや」


 このままでは結局全部の映像を見ることになってしまう。


 防犯カメラの配置図はどこが持っているのだろうか。彩球高速鉄道を運行するアマティアスラインズか、建設を請け負った天草建設(あまくさけんせつ)か、警備会社という可能性もある。


「んー、ファイ。ちょっとだけ手伝って貰える?」


 悩んだ末に賢い雀を呼び出した。


「なんだ なんだ」


「この21台の防犯カメラ映像、駅の地図からだいたいカメラがどこら辺に設置されてるかって分かる?」


「あぁ、それくらいならすぐできるぞ」


ファイはそう言って画面の中に入り込んでいった。

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