第22話 狐狗狸
「にしても俺ら入ったばかりなのに、UFOなんてオカルト界の定番みたいなのがよく来たもんだよな」
大量の本のうちの1冊を読みながらそう話すのは、金色の髪にピアスをした普段はチャラそうな青年、陽斗だ。普段は、としたのは今はそう見えないからである。
「うん、やっぱりあんたはメガネかけてると途端に真面目そうに見えるわよね」
長い黒髪を耳にかけて横から覗き込むように陽斗に話しかける燐。
「普段は不真面目そうに見えてるのかよ……」
陽斗は少し残念そうに聞き返す。
「境くんって視力あまりよくないの?」
「あぁ、そんなことはないっすよ。これ度は入ってなくて、スマートグラスなんです。日本語でも英語でもない文章はさすがに翻訳機能ないと読めないんで、」
スマートグラスはメガネのレンズにHUDが内蔵されていて、例えば、搭載されたカメラを用いればリアルタイムに視覚内の文字が翻訳されるのだ。
「なるほどね。ちなみに、その文章はどんな内容なの?」
「内容はUFOと集団心理なんすけど、途中からウィジャ盤ってのに話が変わってて、説明見る限りこれって」
「ご想像のとおり、ウィジャ盤は西洋版コックリさんだね。まぁ多分コックリさんを日本版のウィジャ盤って言った方が正しいかもだけど」
陽斗の予想を肯定するように百華が回答する。
「あの、コックリさんってなんでしたっけ?」
燐が軽く手を挙げて質問する。
「——あぁそれですか。やったことはないですけど、確か中学校の校則にありましたね」
百華からの簡単な説明で燐が納得。流行ったのはもう100年以上も昔のことだが、今でもコックリさんの危険性が言い伝えられ、禁止している学校が多く残る。その影響か22世紀の現代人の多くにも、コックリさんという儀式の存在は知れ渡っているのだ。
その数分後、各々が読んでいた文献はひとまず端に片付けられ、空いた机に広げられたのは一枚の紙。日本語の50音と濁点半濁点に、0以上9以下の自然数、「はい」と「いいえ」という言葉が書かれていて、仕上げは鳥居のイラストだ。百華のお手製である。
「百聞は一見に如かず、だよ!」と、錫木先生の助言……らしきものと同じ言葉を宣言し、この降霊術の準備を始めたのはもちろん百華。財布から10円玉を取り出し、コックリさんの準備は完了だ。
やる気に溢れた百華に対し、あまり気の進まない者もいた。この話題の発端、陽斗である。
「そういえば陽斗って小さい頃から心霊系は苦手だったわよね」
燐が少しニマニマしながらスマートグラスを外した陽斗に話しかける。
「そんなことは……」
「小学生のときなんて、お化け屋敷怖すぎて私に抱きついてきたものね」
「色んな意味で恥ずいからやめてくれ……」
陽斗が赤くなった顔を両手で抑えて、悶えている。高校生のとき、ホラー映画を見に行った際のエピソードを話すのはオーバーキルだろうか。
「だ、大丈夫かな。あれだったら、観覧だけでもいいけど、」
「いや、燐がやるなら俺もやります。べ、別に今は、ゆ、幽霊とかそんな不確かなもの怖がってないし」
震えながら、時折裏声混じりの声で話す陽斗。その心情はバレバレだが、百華の言葉に顔を上げ、思い人と行動を共にすると表明した。いやまぁそこまでは言ってないが、
「じゃあやるのは境と黒鉄、それと八代でいいな」
「え、私もやるの?」
「お前なら進め方覚えてるだろ」
「別に雨宮でもいいのに。まぁいいや、じゃあ2人とファイちゃんはそこで見ててね」
そうしてコックリさんに挑むのは陽斗と燐と百華の3人に決まった。
「始める前にいくつか注意点があります。まず、これからその10円玉に人差し指を置いてもらうんだけど、始めたら終わるまで離さないこと。コックリさんに無礼を働かないこと。そして、コックリさんについての質問をしないこと、絶対ね」
百華が似合わず真面目なトーンで説明する。
「守らないとどうなるんでしたっけ」
「きっと悪いことが起きるんだろうな。何が起こるか誰も知らないってな」
理巧の質問に那由多がそう答えた。陽斗が嫌な顔をする。
嗅いだら死ぬテトラカルボニルニッケルの匂いと同じだ。知ったら無事では済まないのだろうか。
理巧がそんな”意味が分かると怖い話”的なことを考えている間に、3人の人差し指は10円玉の上に乗せられ準備は万端になっていた。
「それじゃあレッツ、コックリ!!」
そう明るく百華は振る舞うが、陽斗と燐は緊張して息を呑む。
「……コックリさん、コックリさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」
百華が決まりの文句を口にし、降霊を試みる。……しかし、十円玉は初期位置である鳥居のところから全く動かない。百華は反応がないことを確認すると、
「……コックリさん、コックリさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」
同じ台詞を繰り返した。しかしそれでも、微動だにしない十円玉に陽斗が
「も、もう動かないしやめにし」
ないっすか?と、言おうとしたところで、十円玉が突如として滑るように「はい」の文字へ向かう。緊張がスイングバイして一同に戻ってきた。
「およ、……鳥居の位置にお戻りください」
1人だけ間の抜けた反応をする百華の言葉を理解したかのように、十円玉は元の位置に戻る。降霊術成功の証だ。




