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Command Wand  作者: 赤茄子
第1章 Spread Spirits
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第20話 お持ち帰り品

「2人とも大丈夫でしたか?」


「大丈夫大丈夫! 私は丈夫だから」


「僕も問題なかったよ」


 山本さんと別れた3人は広場で待つ2人、燐と陽斗と合流した。


 2人が魔対の田口さんと話した内容や、後で連絡するという話も聞いた。それと、トランプのような謎のカードの話も。


「それ、私見たかも」


「本当ですか?」


「なんかさ、炎放つ時に口元に持っていってたと思う」


「僕は見えてなかったけど、魔道具の一種なのかな」


 ジェスチャーしながらの百華の証言に、理巧が意見を述べる。


 魔道具といえば日本で主流の杖型の他に眼鏡型や腕時計型などもあるが、それぞれ顕現座標の入力形式が異なる。最近は脳波でコンピューターを操作するBCIの開発も進められている。


 確かに、あの忍びが使っていたのも明らかに魔法と同じような技術だった。


「魔術っていうより、忍術みたいな?」


「区別するために呼び分けるのはありかもな」


 明らかに忍術は魔法省への使用報告がない。もし瘴気を発生させるような忍術があれば……


「それらも含めて、今度田口さんに話しておいてくださいね」


 調査中の襲撃。何か調べられてはまずいことでもあるのかとも思ったが、警告だとしたらリスクが大きすぎるし、あのリュックを狙った動き。差し詰め、リュックの中のアルファキューブが狙いだろう。


 とはいえ襲撃と事件が無関係だとも言い切れないと、そんなことを理巧が考えているうちに、百華が話題を切り替える。


「それで、調査に関わる重要な共有事項があってね。燐ちゃんと境くんの仮説、かなり信憑性が高いかも」


「と、言いますと?」


 百華の話に燐が注目する。


「病院でたまたま、事件で入院した山本さんって人にあったんだけど、山本さん曰く、入院の原因は雷雨喘息なんだってさ」


「それって、重要な証言ですね!」


「やったな、燐」 「えぇ」


 仮説の証拠に燐と陽斗が笑い合う。


「ちなみに、花粉の採取はできたのか?」


 那由多がシャーレの話に触れる。


「1時間くらいは採取できたっすよ」


「あとは戻って分析してみます」


 日もだんだんと西に傾き始め、そろそろ帰ろうかというその時、


「うぅーダメだー!!」


「ファイちゃん!?」


 円になって話す5人の真ん中、そこに突然現れたファイにみんなが驚き、百華は思わず声を出す。


「ファイ、どうした?」


「Mas……いや、ちょっとここじゃ話せないな。家に帰ってからにしよう。」


 燐は表情を一瞬曇らせるが、


「今日はそろそろ帰りますか。私も課題とかやらないと」


 と、言ってメンバーはそれぞれ帰路につくのだった。


      —————————————————————————


「ねぇ知ってる? ホワイトファンクションズがまた日本企業をサイバーテロから守ったんだって!」


「えー日本のどこの会社?」


「それがねー」


 理巧が高校生のとき、教室で聞いたクラスメイトの会話だ。


 |White Functions《ホワイトファンクションズ》、日本では白函(しらはこ)とも呼ばれるネット組織。組織形態も規模も不明、数百から一千人ほどのハッカーが在籍するとされる国際ホワイトハッカー集団、と言われている。


 企業からのサイバーセキュリティに関する依頼も請け負ったりするが、ネットさえ繋がればありとあらゆる情報を手にする技術力を持った組織に、各国政府としては機密情報を漏洩させないか警戒している。

 その一方でこれと言って声明を出すこともないので、政府が依頼したことがないかは不明だ。


 これが世間から見た白函の情報。そして所属して3年、内側から見ても大して変わらない情報だ。


 白函には幹部と呼ばれる管理部門があり、単なるメンバーに過ぎない理巧には幹部を通じて依頼が降りる。その多くはデマ情報や違法アップロードの削除、詐欺サイトのハッキングを逆にハックするなどの”簡単”なものだ。

 そして当然、その作業には不正アクセスが伴う。とてもじゃないが、警察官を父に持つ陽斗と検察官と魔対の娘たる燐には言えない。身近で知っているのもファイぐらいだ。


「それでMasterKeyが効かなかったんだっけ?」


「そうなんだよ」


 帰宅した理巧とファイが話すMasterKeyとは電子暗号を解読するためのソフトウェアの名称だ。理巧と同じく白函に所属するK太郎から借りているもので、既存のシステムなら脆弱性をついて大体開けられる。ユーザー情報をインターネットから収集し、好きな食べ物や生年月日、別のサービスのパスワードなどを総合的に解析することによって暗号解読の効率化も行なっている優れ物だ。


 K太郎はチームで白函の依頼を受けた際に知り合った友人で、お互いに年齢も外見も職業も知らないが、今では一緒にネトゲを遊ぶ仲だ。ハッキングについて凄まじい知識と才能を持っているので理巧は30代ぐらいだと思っている。


「複合の鍵が分からないとかじゃない、暗号化と複号化の手法が一般的に知られてるものじゃないみたいだ。多分ゴーグルのハードに依存してるだろうな」


「うわ、まじか」


 ファイなどの電脳生命体はその身体を、記憶を通信規格に則って信号に変換し、端末間を移動する。それはアンテナに向けた電磁波であったり、はたまた端子に流す電流であったり。もっとも、アルファキューブから首や手を伸ばしていると言った方が正確かもしれないが。


 ファイは忍びのゴーグルの一部機能を乗っ取って妨害したのち、内部のデータを抱えて戻ってきたのだが、ファイルの暗号化は突破できずにいた。


「あとでK太郎に頼んでみる?」


「いや、無理だな。パスワードはともかく暗号化の方法すら分からないんじゃ」


「それもそうか……」


「それにしてもあの忍び、確実にボクのことを狙ってたよな」


「うん。後で忍びについても調べてみよっか。ただ……」


「ただ?」


「サークルのみんなには内緒でやろう。あまり巻き込みたくないからね」


 理巧は陽斗に荷物を預けたときのことを思い出す。陽斗が荷物を受け取った途端、忍びの矛先は陽斗に向いた。間一髪で防げたから無事だったが、危険なことには巻き込みたくない。


 時代が進んで医療も魔術も発達したが、蘇生魔法なんてもちろん存在しないし、技術と倫理の面から治癒魔法だって日本じゃ禁術扱いだ。取り返しのつかない負傷をすれば、人は簡単に死ぬ。


「理巧がいいならいいけどさ」

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