第6話 分析と分類
「写真や動画の解析が終わったみたいなので結果を言いますね」
理巧はこう言って立ち上がり、空中結像ディスプレイをソファーに座るみんなに見えるように配置する。
「まずこれらの画像ですが、この15枚を除いて生成系POFか加工による偽物ですね。メタデータに加工の痕跡があったり、光と影の整合性が取れてなかったりします」
「なるほどな、そういうのでも調べられるのか」
雨宮先輩が腕を組みながら感心する。
「で、次にこの8本の動画についてですが、運動ベクトル解析や音声解析などを行った結果、少なくともうち4本は偽物です。偽物の可能性の低い残りの4本のうち、1本は最初に雨宮先輩が見せてくださったやつですね。それで、次はファイからお願い」
理巧の声を聞き、宙に浮かぶ画面から呪いのビデオのごとく飛び出してきたファイは、くるりと一回転して陽斗の右肩に留まった。
「ボクはSNSを飛び回ってその写真や動画の情報収集をしていたんだ」
「だからさっきまでいなかったんですね」
「それで何か情報を得られたのか?」
燐と陽斗がそれぞれ言葉を口にするとファイが説明を始める。
「この偽物判定されたうちの31枚の画像とこの2本の動画はSF映画のスクショとキャプチャだ。なおさら本物なわけがなくなったな。次に本物の可能性があるとされた7枚の写真。観測用気球、飛行機、船舶なんかの誤認だな」
「そんなことまで分かるの?」
八代先輩が驚きの目をファイに向ける。
「時間をかければ分かるかもしれないが、ネットに同じ写真が見つかったから、そっちを調べた感じだ。要はこの7枚は転載ってことだな」
「映画といい個人の画像といい、無断転載は知財法の下に滅ぶべきです」
陽斗がまぁまぁと燐を慰める。まぁでも悪質だったらキックしておこう。
「そして最後に、偽物の可能性の低い4本の動画のうち、1本について、投稿者がどうも怪しい。動画そのものに転載や加工の形跡は見つけられなかったが、投稿したアカウントはいわゆる捨て垢だ。この動画は空前絶後の投稿ってことになる」
「意味は分かるけどさ、空前絶後の使い方違くね」
「ダブルミーニングだよ。投稿は最初で最後、内容は極めて珍しい」
陽斗のツッコミにファイがそう返す。
「どんな内容だっけ?」
八代先輩の質問にファイが映像を流して応える。
動画に映るのは人々が水面に広がる波紋のように倒れる瞬間。そして、
「ここっ」
ファイが止めた瞬間の映像。そう、偽物の可能性が低い4本の動画の中で、唯一ハッキリとUFOが映り込んでいたものなのだ。理巧とファイの話を聞いて八代先輩がまとめる。
「とりあえずここまでで確かなことは、
・イベント会場では多くの人が次々に倒れた。
・ 多くの人がUFOを見た。
ってことかな」
「多くの人がUFOと見紛うようなものを見たってのは確かでしょうが、UFOの映像については流石に投稿者が怪しすぎます。もう少し動画を解析してみるので、UFOそのものの存在を確かなものとして考えるのはそれからでお願いしたいです」
「うん、分かった。さて、みんなも資料読んで、過去のUFO事件について調べただろうけど何かか気付いたことはあるかな」
八代先輩は理巧の発言を受けて、他のメンバーに話を振る。
「じゃあ俺から。UFOのほとんどは誤認って話だ。しかし、今回の事件では本当に多くの人がUFOらしきものを目撃している。実際に目撃した人と会って話を聞くのは調査の上で外せないと思う」
目撃者が全員グルだったなんてことはまず有り得なそうなので、雨宮先輩の言う通り、目撃者がUFOについてどこまで認知しているのか確かめることは重要そうだ。
「そうだね。あとでSNSとかで連絡とれないか確認してみよう。他には、」
「そういえば先程読んだ資料の中にUAPというのがありました」
「日本語では未確認空中現象だね」
燐の話に八代先輩が補足する。未確認空中現象――Unidentified Aerial Phenomenaの頭文字をとってUAPだ。これには奇妙な雲のような気象現象も含まれる。
「それで、当日の天気は荒れていたとのことなので、雷なんかが関わっているのではないかと」
「なるほどね。確かに当日の天気の考慮は必要そうだよね」
「じゃあ、俺からも。ジョーゼフ・アレン・ハイネックっていうアメリカのUFO学者がUFOの体系化を行ったそうです。それで、今回の事件を観測の仕方によって分類すると、日中に目撃される白昼円盤体: DD、UFOが周囲に影響を残した第二種接近遭遇: CE2に当たると思います」
DDはDaylight Discs、CEはClose Encounterの略だそうだ。ちなみにCE1は物的証拠を伴わない目撃、CE3が宇宙人などの搭乗者の目撃、CE4はエイリアンアブダクション――宇宙人による誘拐がそれぞれ当たる。
「そうだね、分類は今後役に立ちそうだね」
何事も分類することは大切だ。恒星を色で分けるのも、生物を種で分けるのも、元素を核で分けるのも、数字を性質で分けるのも。「分ける」の自動詞こそが「分かる」なのだから。
それにしても、こう場を仕切る八代先輩を見ていると、たまに感じる天然オーラを全く感じないどころかとても頼もしく感じる。
「それじゃあこれを踏まえて、明日は仮設討論会を行います!」
それでも相変わらずの突飛さはやはり天然か。




