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女神を手に入れる僕の話  作者: 天川ひつじ
みんなでお出かけ
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90.ソルトの嘆き

「ずるいー!! ずるい、ずるいー、ずるいずるい、ずるいー!!」

「えぇー・・・」

本日の研究所。

いつものように訪れてソルトに会って、ガーホイの家の件を話したら、ソルトは『ずるい』しか言わなくなった。


「ずるい、ずるいずるいずるいー!! うわぁーん!!!」

「えぇっ!? そんなに!?」

「あーあああぁん!!」

「えっ、待って、ソウまで泣かないで!」

『緊急事態ですか、保護者を呼び出しますか』

「ちょ、っと、待って待って!」

ソルトとソウに泣かれて部屋のAIにまで判断を求められてこの上なく焦る。

とにかく床にひっくりかえって泣きだしたソウを抱きかかえようとするけど、暴れて嫌がって抱く事もままならない。


「ソルト! 落ち着いて、お願い、ソウもつられて泣いてる!」

「だって、ずるいー!! 皆でピクニック行こうって約束したのにー!! 皆で海に行きたいって私、言ったのにー!! ユリちゃんとだけ行ってきたー!! わあぁああああん」

扉が開いたのに気づいて見れば、リクさんが硬い表情で立っていた、けど、一瞬で力が抜けたように呆れ顔になった。どうやら、AIは僕が回答不能だからリクさんに回答を求めるべく状況連絡したらしい。


「サクー。ソルトとソウをこんなに泣かせて・・・」

「えっ、だ、えっ、す、すみません!」


「リクさーん、わぁあああん」

ソルトが泣きながらリクさんに駆け寄って抱き付いた。

えぇえ・・・そこまで?

僕の困惑をよそに、リクさんがよしよし、と頭を撫でてソルトを慰めつつ、床で泣きわめいているソウも見やって、ソウにも近いて座り込んだ。


「ほら、ソウ。どうした。よしよし」

ソウは変わらずに暴れたけど、リクさんは慣れた様子で抱き起して抱っこした。

その背中に、グズグズ泣いているソルトが張り付いている。


なんだか僕の方が泣きたい。ショック。


「で、どうしたんだ。海にサクがユリちゃんと行ってきたのか? サクと海に約束をしてたのか、ソルト」

とリクさんが背中のソルトに尋ねる。

「皆で海にピクニックに行こうって約束してたの」

「そうか」

とリクさん。

「リクさんと私とソウとサクくんよ」

「そうか」


そんな様子に本当に僕は困り果ててしまう。

とはいえ、ソルトは落ち着き始めていて、ソウについても、「うー」と収まってしまった。

リクさんってすごい。

そして、なんだか自分が情けない。

リクさんが僕の様子を見やって、苦笑した。


「別にこれから先で行けるだろ。サクだって約束を破ったわけじゃないだろ?」

と僕に視線を向けて来るので、僕はリクさんに頷いて見せた。

ケンカの仲裁をしてもらってるなぁ、という実感がある。


こんなに泣かれるいわれはないと思うけど、実際泣いてしまっているので、言い訳のように僕は言った。

「その、ガーホイさんに相談されてユリと一緒に行ってきたんです。家のことで。せっかくだし家の完成もすぐだって分かったから、数泊して海で遊んだんです」

「良いじゃないか」

と言って貰えたので、僕も頷いた。うん。僕だってそう思う。


「はい。こんなにソルトが泣くなんて思わなかったです」

正直に言うと、ソルトがリクさんの背中から顔を上げて恨みがましく僕を見る。

ちょっと呆れてきた。


「ソルトにはさっき言ったんですけど、ガーホイさん、皆に来てもらうために大きな家を建てたんです。ガーホイさんもぜひ来てほしいって言ってくれてます」

「へー、良いね」

リクさんの態度に、ソルトが分が悪いのを察したのか、黙ってまたリクさんの背に持たれてしまった。

リクさんが少し身体を揺らすようにする。

「ソルト。サクが困ってるぞ。そんなに泣かれたらびっくりするよ。何事かと僕も驚いた」

「・・・ごめんなさい」

とソルトが少し顔を上げて呟いた。

それなのにまた悔しそうに口を結ぶ。


困ったなぁ。そんなに泣くぐらい、行きたかったんだ。


「リクさん、皆で海に行きましょう。いつなら行けますか?」

「そうだなぁ。海ってなったらさ、1日では無理だからなぁ」

僕たちの会話を、リクさんの背中のソルトが顔を伏せたまま、静かに聞いている。

リクさんがまた身体を少し揺すってソルトをあやすようにした。


「まぁでも、良いか。こんなにせがまれたらさ。きみたちこそが生きがいだからね」

とリクさんは言った。

「それから、ソルト。もうプログラム受けるより、海に行きたいんだろ? 無理せずプログラムをこなすのを休んだ方が良い。これ以上の延期は無理だからさ。全部は受けるのを諦めよう。そんなに頑張らなくて大丈夫だから」

「・・・はい」

リクさんの背中から降りるようにして立ったソルトは、コクリと頷いて、まだ溜まっていたらしい涙を手で拭った。


***


本当に、本当にソルトは皆でお出かけというものをしたかったらしい。


そして、帰宅してユリに起こったことを話したら、ユリはソルトに酷く同情した。

えー。僕が悪かったの? とまた困惑するけど、そういう理屈ではないらしい。

とにかく、ユリも海にまた行くことに同意してくれた。

・・・のだけど。


数日後、ユリは少し困ったようにこう尋ねてきた。

「あの、蒼くんと茜ちゃんも、誘っても良い・・・?」


ん?


「どうして?」

「その・・・方が、楽しいと思って」


んー・・・。


「リクさんとソルトとソウとガーホイさんと僕とユリだと、心細い?」

「・・・」

ユリが困ったように僕を見る。どうやら答え辛いけど、正しいようだ。


「うん。じゃあ誘ってみよう。ただ、先にガーホイさんに蒼と茜も行って良いか確認した方が良いかもしれない。人数も増えるから」

「えぇ。でも、あの家なら大丈夫だと思うの。ゲストルームが10部屋もあるのだもの。でも、もしその、無理そうだったとしても、蒼くんと茜ちゃんは、ガーホイさんともAIにリンクした状態で会っているから、その・・・行ければ良いなって」

「うん。分かった。聞いてみる。確認する時、一緒にいて」

「えぇ」

ユリがホッとしたように笑んだ。

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